小説『未完の美学ー長編小説への道ー』

創作は質より量が重要、そんなふうに考えていた時期が俺にもありました。いや、正確には、今もそう思っている。

俺は、小説投稿サイトに毎日最低3編のショートショートを公開することを自分に課している。だが、小説のアイデアというものは、そう都合よく湧いてくるものではない。朝起きて、「今日のショートショート、何を書こうかな」と考えると、すでに心が折れそうになる。

そんな俺の苦境を救ってくれたのは、とある漫画のラストシーンだった。

「俺たちの戦いはこれからだ!」

この一言が、俺の創作のすべてを変えた。物語の結末を考えるのが面倒になったら、その一言で終わらせればいい。そうすれば、物語は永遠に未完のまま、読者の想像力にゆだねられる。これこそ、日本文学史上屈指の発明ではないか。

俺はさっそく、この発明を自分の作品に導入した。

一本目のショートショート。異世界に転生した主人公が、魔王軍を前にして途方に暮れる話。 「…どうやら、俺たちの戦いはこれからだ!」

二本目のショートショート。タイムスリップした高校生が、織田信長に愛された女性、生駒吉乃の物語を史料から読み解く話。 「…どうやら、俺たちの戦いはこれからだ!」

三本目のショートショート。お金のないニートが、江戸時代の旧東海道を歩く話。 「…どうやら、俺たちの戦いはこれからだ!」

公開するたびに、読者からのコメントは増えていった。「続きが気になります!」「この作者、絶対続編書く気ないだろ」など、賛否両論、様々な声が寄せられた。しかし、そのすべてが、俺にとっては最高のご褒美だった。

俺は、無数の未完の物語を紡ぎながら、いつか長編小説を書き、きちんと完結させるという秘めたる野心を胸に抱いていた。ショートショートの量産は、そのための練習であり、そしてプロの編集者の目に留まるための売名行為でもあった。

そして、その戦略は功を奏した。ある日、一本の電話が鳴った。

「先生の作品、すべて拝見しました。ぜひ、長編小説を書いてみませんか?」

電話の主は、かつて俺が憧れた出版社の編集者だった。彼は、俺のショートショートに隠された、長編小説への渇望を見抜いていた。

俺は、これまで書き溜めてきた無数の「未完のショートショート」を、一つの長大な物語へと再構成する作業を始めた。それは、俺の人生の断片を、一つの物語として紡ぎ直す、私小説的な試みでもあった。過去の挫折、喜び、そして希望。それらすべてを、活字という形に刻み込む、終わりのない旅のように思えた。

当然、苦しい戦いだった。長編という広大な海を前に、俺は何度も筆を折ろうとした。そんな時、友人は俺を案じて言った。「お前は、このままだと、燃えかすになってしまうぞ」

俺は、友人の言葉に、静かに首を振った。

「ほんの瞬間にせよ、まぶしいほど真っ赤に燃えあがるんだ。そして、あとには真っ白な灰だけが残る。燃えかすなんか残りやしない。真っ白な灰だけだ」

そして、長い戦いの末、ついに俺の初めての長編小説は完成した。原稿を編集者に手渡した時、俺は、全身から力が抜けていくのを感じた。

「……燃え尽きたぜ……真っ白にな……」

全身のエネルギーを使い果たし、真っ白に燃え尽きた俺は、静かにPCの電源を落とし、ベッドに倒れ込んだ。そして、翌朝。

朝日が差し込む部屋で、俺は立ち上がり、新しい物語の構想を練り始めた。

「…どうやら、俺たちの戦いは、これからだ!」


あとがき

ご愛読ありがとうございました。『未完の美学ー俺たちの戦いはこれからだ!ー』の続きを考えてみましたが、面倒臭くなってしまったので早めに完結させました。

大好きな有名ボクシング漫画のオマージュ(パロディ?)ができたのでもう思い残すことはありません。

作者の次回作にご期待ください。

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