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UXをどう「評価」するべきか? | UXリサーチ・デザインの評価不能性に向き合う

企業やクライアントワークでUXリサーチ・デザインをする上で「品質」は非常に重要な観点ですが、この「評価」や「レビュー」に迷ったことはないでしょうか?UXを評価する、と言えば簡単ですが、果たしてそれはいうほど簡単なことでしょうか。

例えば料理であればおいしさで評価できますし、ビジネスであれば売上、エンジニアであれば実装力やコードの綺麗さ、エラーのなさ、ドキュメントの網羅性などで評価できるでしょう。

UXデザインの評価基準って…なんだ?「良さ」ってどう測るんだ…?

では、UXの「評価」とは?
「良さ」とはどう測るのでしょうか?

多くの場合は何らかの指標を使ったり、項目の網羅性やプロセスの適切さ、任意のドキュメントを作ったか、何人にインタビューをしたか、あるいは経験者の「肌感」によるレビューなどを品質としているのではないでしょうか。

しかしここで問いたいのですが、人間ってそんなに簡単に指標で測れるのでしょうか。あるいは作業やドキュメントの体裁としての品質が高くても、、「UXデザイン」の本質ってそこじゃないんじゃないか、かといって肌感は客観的ではないですよね。

UXの評価とは○×で判断できるものではありません。
私たちは標準化された指標を機械的に当てるのではなく、このことを認めた上でもっと丁寧に考えていかなければいけないのではないでしょうか?

というわけで、今回はそもそも「UXを評価する」とはどういうこと?を考えていきましょう。方法論ではなく、どう捉えるべきか?です。

本記事では9つの包括的な評価観点や具体的なチェックリストも提示しますが、それだけを読んでも「良いレビュー」はできないと私は考えています。
この記事は「チェックすべき観点」を提示するためではなく、「私たちはどういう態度でUXのレビューに向き合うか」を考えるための文章です。

この記事に書かれていること
・そもそもUXの品質とは本当に評価可能なのか?
・UXの評価アプローチ3つのパターン
・UXリサーチの設問表(インタビューやアンケート)に対するレビュー観点
・UXリサーチ・デザインの成果物に対するレビュー観点
・汎用的な9つの観点
・レビュー担当者のレビューが妥当であると、どう判断できるか
・具体的なレビュー方法

事前知識として

この記事を読むにあたり、下記を読んでおいてください。

本記事はこの延長線-つまりUXデザインとは主観性と客観性の双方が要求されるという話を前提として進めます。

そして本記事はUXをレビューするという性質上、UXリサーチ・デザイン中・上級者向けであり、初心者には必ずしも理解しきれない側面があるかもしれません。またここで述べていることを常にすべて完璧に実践するのは非常に難しいでしょう

しかしたとえ重要なのは、「UXの品質にはこうした視点が必要だ」という意識を持つことだと思っています。
理想や本質を知ることで日々の実践の質は自然と向上し、具体的な行動にも変化が生まれてくるものです。

記事の構成

本記事では前半で理論的なところを掘り下げ、後半では具体のレビュー観点に入ります。直接的に実務で役に立つところを見たい方は後半まで飛ばされると良いかと思います。

なお本記事の真価はこの記事をそのままAIに突っ込むときに発揮されるでしょう。つまりAIのアウトプットやレビューの質をまるまる向上させることができるはずです。


1.UXのレビューとは正解の判定ではなく、蓋然性を高める営みである

UXリサーチ・デザインを評価しようとしたとき、最初に立ち返るべき前提があります。

それは、「これさえチェックすれば良いUXになる」というような、唯一の正解を与えてくれる評価指標やチェックリストを作ることは不可能であるという点です。

品質を評価するための簡単なチェックリストは原理的に不可能

UXのレビューとはこのような意識で○か×かの判定を行うのではありません。
むしろ、「この判断は妥当そうだ」「この可能性は高そうだ」といった、確実ではないが、もっともらしい“蓋然性”を高めていくことが求められます。

UXにおいてレビューとは正しさを確定させる行為ではなく、より良い可能性に近づく営みとして捉えることで、その過程においてこそUXの本質的な価値が見えてきます。

一方で、ビジネスや作業において再現可能な評価方法が欲しくなるのは当然のことですし、特に組織の中では、属人性を排除し、誰が行っても同じ結果になるプロセスが重宝されます。
今一度完全に形式化されたチェックリストにはできない理由を確認していきましょう。

UXの良し悪しは文脈に依存する

UXの良し悪しは、常に「使われる文脈」に依存しています。
同じデザインでも、ユーザーの目的・心理状態・利用環境が変われば体験の意味はまったく変わります。

UXの良し悪しは、そのプロダクトが使われる文脈に強く依存する

例えば「ボタンは十分な大きさか?」という問いは合理的に聞こえますが、実際には「このユーザーが、この状況で、この目的を持ってこのボタンを押す際に適切か?」というように、具体的な文脈の中でしか妥当性は語れません

つまり、レビューとは「項目を埋める」ことではなく、「この状況ではどうか?」と問い続けることなのです。

UXの体験価値は定量化しきれない

体験の質は数字で表しづらい

UXの中核には「体験の質」という、数値化や客観化が難しい側面があります。「使いやすさ」の先にある「喜び」「驚き」「共感」といった感情的側面は、チェックリストの項目として落とし込むことが本質的に難しいのです。

例えば「このデザインは感情的な満足感を与えるか?」という項目をチェックリストに入れても、その評価は評価者の主観に委ねられます。

この主観性自体が価値あるものなのに、客観化しようとすることで失われてしまう洞察があります。

プロセスの機械化がレビューの目的を見失わせる

良いUXは機械的にチェックリストを埋めてできるものじゃない

「正しいUXプロセスを踏めば、正しい結果が出る」
そう信じたい気持ちはよくわかります。チェックリストは安心感を与えてくれるし、組織的にも再現性のあるプロセスが好まれます。

けれど、UXの良さは機械的なプロセスから生まれるものではありません
プロセスが形骸化し、項目を埋めること自体が目的になってしまえば、「ユーザーにとって意味ある体験か?」という問いは簡単に後回しになります。

本当に大切なのは、形式に従うことではなく、そのプロセスが何を支え、どんな可能性を立ち上げているかを見極めることです。

ベストプラクティス信仰が思考停止を招く

UXの世界では、しばしば「リサーチのベストプラクティス」や「成功指標」が語られます。しかし本質的に、UXリサーチ・デザインに絶対的なベストプラクティスなど存在しません

なぜなら、UXはあくまで「人間の主観的な世界」を扱う営みであり、その意味は状況や関係性によって常に揺れ動くからです。

当然ながら本記事にもそのようなものは一切書かれていません。

UXリサーチ・デザインにベストプラクティスなど存在しない。
ここを誤解していると思考停止に陥る。

UXに関わる全てに(手法やプロセス、アウトプット、UIの作り方、コンポーネントなどありとあらゆるもの)において銀の弾丸など存在せず、普遍的なベストプラクティスがあるという考え方は全くの誤解。
あまつさえ思考停止に繋がるので百害あって一利なしです。

たとえば、「UIのユーザビリティテスト」や「インタビュー技法」は有用ですが、それらはせいぜい表層のスムーズさを整えるものであり、こういったものは「これは本当に良い体験か?」という議論に資するものではなく、せいぜい触る時の引っ掛かりをなくす程度のものです。
(それもまた重要ではありますが)。

そもそもUXデザインの限界は引っかかりをなくす程度に置くのではなく、「これがあってよかった」だったり「これがなければできない」という可能性を提示することを目指すべきです

このような指標を見て機械的にうまくデザインが作れるほどUXデザインが簡単なら専門職はいらないでしょうし、世界はもっと良くなっています。
簡単なチェックリストに落とし込めないから、UXリサーチ・デザインは難しいのです

評価の目的は“正しさ”ではなく“可能性”である

このような苦々しい事実に向き合うと、私は「UXにおけるレビューとは、ユーザー、ビジネス、技術のあいだにある複雑な関係性の中で、より良い解釈と、妥当性の高い提案を探る営み」であるべきだと考えています。

決して「正解を当てる」ものではなく、「ここに可能性がある」と言えるための構えと対話が求められます。

、「正解にたどり着くための道」ではなく、「この選択肢には根拠がある」と納得できる状態を目指すための、翻訳であり、問いかけであり、共同的な解釈のプロセスなのです。

チェックリストは出発点に過ぎない

正解を判断するためのレビューではなく、一緒に考えるレビューをしよう

しかしながらこれは決して「評価基準が不要」「何でもあり」ということではありません。むしろ、より深い理解と対話に基づく丁寧な評価が必要だということです。

したがって、レビューにおけるチェックリストや観点は、思考停止のための道具ではなく、「考えるための入口」として使うべきです。

効果的なUXのレビュー
・観点を出発点とし、自分たちの文脈に合わせて問い直す
・主観的判断の根拠を言語化し、チームで共有する
・数値と感覚、両方を行き来しながら「より良さそうな可能性」を探る
・固定化された評価ではなく、関係性の中で変わり続ける“よさ”を捉えようとする

UXレビューとは、「確実性」を担保するためのものではなく、より良い「蓋然性」を高めるための行為です。
その営みには、論理では測れない判断、空気、経験、そして何よりも態度が必要なのです。

というわけで本記事では、UXリサーチ・デザインのレビューを通してどのように新たな可能性に辿り着くか、それを考えていきましょう。

2.UXを評価する際の難しさ

もう一点前提として、UXの評価が難しい理由を考えておく必要があります。これは以前書いたUXデザインの難しさと同じです。

ビジネスにおけるUXデザインは、二つの世界を橋渡しするから難しい

つまり、UXデザインの質とは客観的に図り切れるものではなく、「主観の世界」と「客観の世界」の両方にまたがっているからです。

主観の世界は、感情や体験、意味のようなものです。
「使っていて心地よい」「この機能があって助かった」「なんだかワクワクする」といった感覚的な領域ですね。この領域は数値化しづらいですが、プロダクトの魂や本質的な価値を形作る部分です。

客観の世界は、数値やデータ、測定可能な成果などです。
「コンバージョン率が15%上昇した」「タスク完了時間が30秒短縮された」「エラー率が5%に下がった」といった具体的な指標の領域です。
この領域は可視化しやすく、組織内での説得や正当化がしやすい部分です。

評価の難しさはギャップによるもの

多くの場合、UXデザイナーやリサーチャーは「主観の世界」に強い関心を持ちますが、組織やステークホルダーは「客観の世界」での成果を求めます。このギャップがUXの評価を難しくしています。

そして問題なのは、このギャップを埋める共通言語がないことでしょう。
数字だけで語るとユーザー体験の豊かさを捉えきれないし、感覚だけで語ると説得力や全体性を欠きます。

UXの評価は「どちらか一方」ではなく、「両方の視点をバランスよく持つこと」が重要です。
主観と客観の間を行き来することで、より総合的な評価ができるようになります。

一般的な評価指標

さて、指標を作るのは何も私が初めてではなく、既存にもいくつもあります。世の中で使われている具体的なUX評価指標にも触れておきましょう。
これらの指標は、前述の「客観の世界」と「主観の世界」をつなぐツールとして活用できます。

既存の手法の一覧としてはこの記事がまとまっていました。

1.ユーザビリティ計測指標

これらは「ユーザーが操作を迷わず完了できるか?」という、操作性の最低限の保証として非常に有効な指標です。

システム・ユーザビリティ・スケール (SUS):
10の質問項目でシステム全体の使いやすさを0-100点で数値化
タスク完了率・完了時間:
特定の操作がどれだけスムーズに行えるかを測定
エラー率:
ユーザーが遭遇する問題点の頻度を定量化

特にSUSは導入も容易で、チームの共通言語として使いやすい反面、「なぜそう感じたのか」という背景理解までは提供してくれない点に注意が必要です。
完了率やエラー率といったデータは、「課題の存在」は示してくれるが、「課題の本質」は語らないため、必ず定性調査とセットで扱うべきです。あくまで「入り口」であって「結論」ではありません。

2.ユーザー感情・態度指標

NPSやCESなどは、ユーザーの感情的な反応を可視化する貴重な指標です。

ネット・プロモーター・スコア (NPS):
推奨意向を測定し、ユーザーロイヤルティを-100〜+100で評価
カスタマー・エフォート・スコア (CES):
タスク完了の容易さを評価し、操作の摩擦を測定
ユーザーエクスペリエンス・クエスチョネア (UEQ):
魅力、効率性、明快さなど多次元的なUXを評価
(僕も名前しか知りませんが…)

ただし、感情のスコアはコンテクストに大きく依存するため、「点数が高い=良いUX」とは言い切れません。たとえばNPSが高くても、それが「安いから勧めたい」だけで、深い意味体験が伴っていないこともあります。
総じて、「なぜこの感情が生まれたのか?」という文脈と語りの掘り下げが不可欠です。
感情指標を扱う際は、「この数字の背景には、どんな物語があるか?」と問い続ける姿勢が求められます。

3. 行動データ指標

行動ログやヒートマップは、ユーザーの“意図しない発話”を拾うレイヤーとして非常に有効です。言語化されない違和感や、矛盾した行動なども可視化されやすいため、定性で見逃されたヒントがここに現れることもあります。

クリック/ヒートマップ:
ユーザーの注目箇所や操作パターンを視覚化
コンバージョン率:
目標行動(購入、登録など)の達成率
リテンション率:
継続的なサービス利用の割合

一方で、コンバージョン率やリテンション率などは、あくまでビジネス成果の代理指標であり、UXそのものの良し悪しを直接的に語ってくれるわけではありません。行動データは「何が起きているか」を示してくれますが、「なぜ起きているか」には黙しています。

つまり、「どう行動したか」だけを見て、「どう感じたか」「なぜそうしたか」まで想像しないと、UXの本質にはたどり着けません。行動の「数字」と「意味」の橋渡しこそがUXの仕事なのです。

指標の使い方

こういったの指標は有用ですが、総じて私が述べてきたような「UXの本質的な評価」という視点の入り口に過ぎません。

言い換えれば「これらの指標を満たしたら、人にとって最高のUXである」という万能な指標は存在しません。
指標が示す数値の背後にある「なぜ」や「どのような文脈で」といった深い理解が伴わなければ、効果は限定的です。

例えば、SUSスコアが良くても、ユーザーの生活文脈での真の価値を提供できているとは限りません。
NPSが高くても、それが表面的な「使いやすさ」なのか、深い「意味のある体験」なのかはわかりません。

それを踏まえ、指標は以下のように捉えることが重要です。

1.指標は「答え」ではなく「問い」を生み出すためのもの
・数値の背後にある「なぜ」を探索する出発点として活用する
・「満足」してる人は「なぜ」満足なのか
2.複数の指標を組み合わせる
・行動データと感情指標など、異なる種類の指標を掛け合わせることで、より立体的な理解が可能になる
3.定量と定性を往復する
・数値から見えてきた傾向を、定性調査で深掘りするサイクルを回す
4.指標の文脈化
・数値データをユーザーの物語や生活文脈に位置づけて解釈する

既存指標は、「UXの品質」を完全に捉えられるものではありませんが、適切に活用すればより本質的な評価への第一歩となります。
大切なのは、指標に振り回されるのではなく、指標を「より良い問いを立てるための道具」として活用する姿勢です。

次節からは、UXリサーチ・デザインの評価における3つの論点について深掘りしていきます。

3.UXリサーチ・デザインのレビューには3つの論点がある

ではこのUXの評価不能性を正面から向き合った上で、より本質的にUXデザインを評価するとしたら、どう評価可能でしょうか?
大前提としてUXのレビューには3つの論点が存在します。

UXリサーチ・デザインのプロセスをレビューするか、あるいは成果物(設計されたUX、ないしデザイン、プロダクト、サービス)の品質をレビューするか、成果物がもたらした結果をレビューするかの違いです。

UXリサーチ・デザインのレビューには3つの論点がある

つまり「やり方は妥当か」と「品質は良好か」、「KPIへの影響はどうか」です。

しかしながらUXデザインは方法論ではないので、妥当なやり方をすればいつも良好な品質に辿り着けるわけではありません。

そしてKPIへの影響を図りたい……ところですが、そんなにすぐにKPIに影響が出ることは稀ですし、今回とらなかった選択肢の評価も難しいでしょう。、なおかつKPIは複合的でUXデザインの品質が直結しているわけでもありません。ここの影響は判断しかねます

妥当なやり方が品質に繋がり、それがKPIに繋がるはず…と信じるしかない

結局のところ妥当なやり方が良好な品質に繋がり、それがKPIに繋がるはずだ…と信じてやるしかありません。

UXの評価の3つのアプローチとその限界

そしてUXの評価には大きく分けて3つのアプローチがあります。
先ほどのものと連動して、KPIなどのメトリクス駆動評価、プロセスに対する評価、そして主観的妥当性を用いた評価です。

UXの評価は3つのアプローチで行うことができる

1. メトリクス駆動型評価 【客観寄り】

メトリクス駆動評価は具体的な指標に基づいて評価する

これは最も組織に受け入れられやすいアプローチです。
具体的な数値指標を設定し、それに基づいて評価します。

例えば
・タスク完了率の向上
・エラー率の減少
・ページ滞在時間の延長
・NPS/CSATなどの満足度スコア
・コンバージョン率の改善

メリット
メリットは、説得力と測定のしやすさです。「デザイン改善後にコンバージョン率が20%向上した」と言えば、多くの組織はその価値を理解します。

デメリット
デメリットは、数値化できない価値を捉えきれないことです。例えば「ブランドへの信頼感が醸成された」「長期的な関係が構築された」といった側面は見落とされがちです。

しかしながらプロジェクトにおいてすべてをコンバージョン率の改善だけで評価すると数字は上がるものの、その過程でブランドのトーンや独自性が薄れ、長期的には他社と差別化できなくなってしまうということはあるでしょう。そもそも数字は短期的になりやすいですし、数字だけを追うと、こういうリスクを見逃してしまいます。

また「測定できること」と「価値があること」は必ずしも一致しないという点にも注意です。最も測定しやすいものが最も重要とは限りません。
それどころか、真に革新的なアイデアや深い人間理解は、最初は数値化できないことが多いです。

2. プロセス重視型評価 【中立~客観寄り】

プロセス評価はワークフローの適切さを評価する

これは「適切なプロセスを踏めば良い結果が出る」という前提に基づくアプローチです。妥当なUXプロセスを踏んでいるかどうかで評価します。

例えば:
・十分なユーザーリサーチが行われたか
・適切なペルソナとジャーニーマップが作成されたか
・プロトタイプによる検証が行われたか
・イテレーティブなプロセスが実施されたか
・デザイン原則やガイドラインに準拠しているか

メリット
このアプローチのメリットは、チームや組織で共通の基準を持てることです。また、UXの実践が体系的に行われることを保証します。

デメリット
デメリットは、形式主義に陥りがちなことです。「チェックリストを埋めることが目的化」してしまうと、創造性やイノベーションが損なわれるリスクがあります。プロセスを完璧に踏んでも、革新的なデザインや真にユーザー価値を届けるものが生まれるとは限りません。
そもそも"適切な"自体をどう評価するかという問題にも向き合えていません

現代のUXデザイン業界では、多くの人は「正しいUXプロセスを踏むこと」が重要だと捉えている節があります。
しかしながら私はこうした形式主義に疑問を感じます。
偉大なサービス/プロダクトは必ずしも「正しい/画一的なプロセス」から生まれるわけではありません。プロセスは目的ではなく手段であり、状況に応じて柔軟に変えることが重要です。

3. 直観・体験重視型評価 【主観寄り】

主観的評価はUXの「良さ」を感覚に基づいて評価する

これは「良いデザインは使ってみないとわからない」という前提に基づくアプローチです。デザイナーやユーザーの直感的な評価や体験の質を重視します。

例えば:
使っていて心地よいか
・違和感なく目的が達成できるか
・感情的な満足感があるか
・デザインの美しさや一貫性
・ブランドとの調和

メリット
このアプローチのメリットは、数値化しづらい質的な側面をきちんと評価できることです。革新的なデザインやブレークスルーは、しばしばこの領域から生まれます。

デメリット
デメリットは、評価の主観性が高く、組織内での説得や合意形成が難しいことです。「私はこれが良いと思う」という言葉だけでは、多くの場合説得力を持ちません。そもそもその個人の主観的評価が妥当である、という信頼があって初めて組織内でのレビューが成立します。

例えば数字的には悪くないが、直感的になんとなく魅力に欠ける、でも、その感覚を言葉にするのが難しかったというようなことはあるでしょう。
その肌感を用いる評価です。これは数字では示しにくいですが、かといって雑に扱われていいものでもありません。

このデザイナーの「直観」や「感覚」は単なる主観的な気まぐれではなく、むしろ当人の長年の経験と深い人間理解から生まれる洞察だと考えています。(それゆえ経験の浅い人がやると外れてしまうのです)

なお、これは主観性に根ざしているため、必ず属人化します
属人化は組織の柔軟性や持続性を失わせることは確かですが、属人化するほど一人の人間にナレッジが溜まることは非常に大きな意味があります。
客観的に言語化しようとすると意思決定に資する多くのニュアンスを損なってしまうからです。

統合的アプローチの必要性と人文的視点の価値

理想的には、この3つのアプローチをバランスよく組み合わせて評価することが重要です。

こんな感じです
・主要なメトリクスを特定し、客観的な改善を測定する
・適切なプロセスを踏むことで、品質の基盤を確保する
・直感と体験の質を大事にし、数値だけでは見えない価値を評価する

このバランスは必ずしも「均等」である必要はありません。

プロジェクトの性質や段階、そしてチームの強みによって、どの視点を重視するかは変わってくるべきです。
特に、革新的なプロダクトや新しい体験を創造する場面では、主観的な領域—物語性、文化的文脈、意味の創造—要は、「確信」や「(飛躍的な)ひらめき」がより重要になることが多いのです。


さて、ここからはUXリサーチ・デザインの品質評価において重要な観点を2つの階層で提示していきます。

ここから9つの包括的な観点を示し、その後にUXデザインプロセスの中で特に重要なUXリサーチの評価観点について深く掘り下げます。

4.UXリサーチ・デザインの品質に対する包括的な9つの観点

さて、主観と客観の両方が大事、プロセスもメトリクスも体験も大事、とした上で、これらを踏まえた包括的な9つの観点を示したいと思いまが、これらの観点は互いに部分的に重複・接続し合っています。

なぜならUXの「良さ」とは、単一の軸で割り切れるものではなく、問い・文脈・価値・制約・ビジョンなど、複数の視点の重なりの中で初めて立ち上がるものだからです。

一見似たような観点に見えても、それぞれ異なる焦点やレイヤーを持っています。「問いのレイヤー」「文脈のリアリティ」「価値の構造」「制約との関係性」など、微妙に異なる角度からUXの良さを捉えています。

1. その問いは真に説くべき問いか? 【主観寄り】

問いを立てる前提自体がズレてるかもしれない。

思うに、UXリサーチやデザインの品質で一番大事なのは、正しい問いを立てているかどうかです。画面が綺麗かどうかなどではありません。
ここでいう「正しい」とは客観的に正しいということではなく、人間理解の深さに根ざした問いかけができているか?という意味です。

そして、気をつけなければいけないのは、問いというものはそもそも、「自分が何を知らないかを知らない」状態から生まれているということです。

つまり最初に建てた問い自体が、私たちの認識の限界やバイアスを内包している可能性があるため、問いを立てる以前に、自分たちが“どんな前提を無自覚に置いているのか”に気づくことが重要です。

例えば「検索機能が使いにくい」という表面的な課題の背後には、「新入社員はどのキーワードで検索すればいいか分からない」といった根本的な問題があるかもしれません。
「検索機能を改善しよう」という問いと、「新入社員が必要な情報にアクセスできるようにしよう」という問いは全く異なります。

あるいは、「こういうサービスを作ろう」という手前に、真のニーズを見据えられているか?という問いを持つべきかもしれません。

具体的なチェックポイント
・表面的な課題ではなく、根本原因に迫る問いになっているか
・ソリューションありきではなく、真のニーズから出発しているか
・その問いを解くことの重要性が明確か
・製品を使う時に閉じた問いでなく、その人の生活(や業務)の文脈まで広く視野に入れて考えているか

このテーマは以前も書きましたので、気になる人はこちらもお読みください。

よくあるロジカルシンキングなどの「問いから答えを出す技術」ではなく、僕たちは本当に妥当な問いを立てているか?という「答えから問いを逆算し、問い自体を精査する技術」について考えています。

2. ユーザーの文脈をリアルに捉えているか 【主観寄り】

会議室の中での“リアル”は、ほんとの現場とは違うかもしれない。

どれだけ立派なデザインでも、ユーザーのリアルな文脈を無視していたら意味がありません。ここでいう「リアル」とは単に客観的な事実ではなく、ユーザーが生きている意味の世界を含むものです。

プロダクトの使われ方を、実際の使用シーンや環境、ユーザーの感情や動機も含めてきちんと考慮できているかが品質の大きな分かれ目です。
例えばニュースアプリの場合、「満員電車での利用が多いから片手で操作できるようにした方がいいで」という利用環境の制約や、「毎日ニュースを追えることで、ビジネスマンとしての自負が生まれる」という意味づけまで理解することで、より価値あるデザインが生まれます。

よく「ユーザーは嘘をつく」などと定性調査でのユーザーの不確かさについて言及されることがありますが、これは基本的に表面的な問いと回答で満足し、深掘りができなかった時に生じていると考えています。

今見えてるものは本当に核心なのか?
てっとり早く「答え」がほしくて決めつけてないか?

具体的なチェックポイント:
・そもそも人々は課題に対して人々はどう対処したいか(何かのサービス/プロダクトを前提にしないでフラットに問う)
・ユーザーの生活の流れの中で、自分たちのサービスはどういう立ち位置か
・ユーザーのスキルレベルや心理的な障壁が考慮されているか
・ソーシャルな側面(周囲の人との関係性など)が考慮されているか
・異なるタイプのユーザーやエッジケースへの考慮があるか
・感情やモチベーションの側面が描かれているか
・文化的背景や社会的文脈が理解されているか

このテーマも以前も書きました。

ニーズや潜在ニーズではなく、その人の根底にある哲学/Philosophyを探らなければいけないのでは?という提案です。

3. データと直感をバランスよく活用しているか 【中立~客観】

「測れること」に捕らわれて、何を置き去りにしてるかもしてない。

UXでは、定量的なデータと定性的な洞察の両方が重要で、どちらかに偏っていないかチェックする必要があります。主観を信じすぎるのもいけませんが、データもまた「客観的真実」として無批判に受け入れるのではなく、常に解釈と文脈の中で理解する姿勢が重要です。

例えば、チェックアウトプロセスでの離脱率が高いという定量データがあっても、その理由が「フォームが複雑」ではなく「このサイトに個人情報を入力して大丈夫か不安」という信頼性の問題だと可能性があるかもしれません。これは定性的なリサーチからしか分からないでしょう。

なお、定量と定性のどちらをどう優先するかですが、「どのような課題の傾向があるか」は定量から見え、「なぜそれが起きるか/真因は何か」が定性で見えるので、ビジネスインパクトのありそうな箇所を定量で判断して定性で深掘りするというのも良いですし、定性で見えてきた課題の優先度を定量でつける、のでも良いと思います。

具体的なチェックポイント
・定量データが適切に収集・分析されているか
・数字の背後にある「なぜ」が探求されているか
・データの限界を認識し、質的な洞察で補完しているか
・「測定できること」だけでなく、「重要なこと」にも注目しているか
・データと直感が矛盾する場合、その原因を深掘りしているか

4.ユーザーにとって真に価値ある解決策か 【主観~中立】

デザインは自分たちの想像より大きな意味を持っているかもしれない

「効率が良い」「オシャレ」「トレンディ」など、デザイナー視点での最適解と、実際にユーザーにとっての最適解は違うことが多いです。
「最適」の定義自体が価値観や文化によって異なるという認識が重要です。

例えば子育て支援アプリでは、機能的には申し分ないインターフェースでも、子供を抱えながら片手で操作する親にとっては複雑すぎると感じられることがあります。
また、例えば子育て関連のアプリは単なる「機能的ツール」を超えて、「ちゃんと親をやれてる」という自己認識を支えるもの…というような意味を持つ場合もあります。こういうツールを超えた意味/価値は偏在しています。

本観点と観点2「ユーザーの文脈をリアルに捉えているか」とは、一見すると同じことのように見えるかもしれません。
しかしながら、観点2では「プロダクトが使われる状況や生活の流れの中にあるリアルさを理解しよう」とリサーチ時点に焦点を当てているのに対し、本観点では「そのリアルな文脈の中で、真に意味ある価値を届けられているか」というデザイン時点に軸足を置いています。

「ユーザーにとって最適」とは、単に機能が充実されているかだけに限らず、本当に実際に使うシチュエーションをありありとイメージできるか?そして彼らの生活に根ざしているか?という点に着きます。だからこその丁寧なユーザー理解が必要なのです。

具体的なチェックポイント:
・ユーザーの理想的なあり方を実現する/近づけるためのものか
既存の行動パターンや習慣と親和性があるか
・学習コストと得られる価値のバランスは適切か
・不安やストレスを軽減する配慮があるか
・短期的な使いやすさだけでなく、長期的な関係構築につながるか
・ユーザーの価値観や文化的背景と調和しているか

5. 現実的な制約の中で最適解を見出しているか 【中立】

理想も大事だけれど、制約に収めることも大事。

さて、理想的な環境では素晴らしいデザインも、現実の制約(技術的、予算的、時間的、組織的)の中では実現できないことが多いです。
これらの制約をどう扱うかも品質を左右します。制約を単なる「限界」ではなく、焦点を絞る枠組みとして捉え直すことが重要です。

例えば、リアルタイムに口座情報を更新できない技術的制約がある場合、バッチ処理の間隔を短くしつつ、「更新リクエストが受け付けられました」という明確なフィードバックと「次の更新予定時間」の表示でユーザーの期待値をコントロールするなど、制約の中で最適な解決策を見出すことができます。UXデザインは画面の話をしてればいいわけではなく、実装のことも考える必要はあります。

ただし、最初から制約を気にしてデザインするというより、理想的なUXを描き、それをどうプロダクトのUIや技術的制約の中で実現するか?を考えることが望ましいです。

具体的なチェックポイント:
・制約にバイアスされて、理想的なUXの模索が疎かになってないか
・そのUXをさまざまな制約に合わせて現実的な提案に落とし込めているか
・ユーザーにとっての優先順位が理解できているか
・短期的に実装可能なものと将来的なビジョンのバランスが取れているか
・ロードマップや段階的アプローチが考慮されているか

6. 実装と運用の現実が考慮されているか 【客観寄り】

スムーズなUXの裏に、誰かの“見えない手”があるかもしれない。

さて、先ほどの話にも近いですが、UXはスマホの上だけで完結するものではありません。

UXが理想的に見えても、現場や運用が回らなくなっていたら、それは持続不可能なUXです。体験の良さを実現するために、誰かが無理をしていたり、過剰な対応を強いられていたりするなら、それは長期的には破綻します。

観点5「現実的な制約の中で最適解を見出しているか」と本観点の違いは、作るときと運用するときのどちらを考えているかという点です。
観点5では、UXの理想と現実の狭間にある制約(技術的・予算的・時間的)をどう創造的に扱うかが焦点で、本観点は「実装や運用のフェーズで、それが持続可能なUXとして機能しているか」というプロダクト実務における現実性に主眼を置いています。

その点において、「ユーザーにとって気持ちいい体験」は、「サービス提供者にとっても無理なく届けられる体験」になっているでしょうか?

提供者の業務設計、オペレーション、人的リソースとの接続性。これらもUXの一部として捉えなければ、本質的な“良さ”とは言えません。

具体的なチェックポイント:
・現場の人が無理をしていないか?
・顧客体験を支えるオペレーションは、持続可能な形か?
・フロントの体験設計が、バックのリソース・スキルと乖離していないか?
・“目に見えない仕事”がどこかに発生していないか?
・運用現場の声が体験設計に反映されているか?

7. ステークホルダーを納得させる説得力があるか 【客観寄り】

「いいと思う」だけじゃ届かないかもしれない。

いくら良いデザインでも、組織内で採用されなければ意味がありませんので、意思決定者やチームメンバーを納得させる説得力も品質の一部です。
「客観的データ」だけに頼るのではなく、物語や感情、価値観に訴える多元的なコミュニケーションを重視します。

例えば、高齢ユーザーが複雑な健康データを理解するのに苦労しているという課題を伝える場合、実際のユーザーテストの録画、数値化されたリスク分析、そして「患者の尊厳と自己決定権」という価値の問題としても提示すると説得力が増します。
「感情的な説得」「論理的な説得」「倫理的な説得」、そして「具体的な解決策の提示」を組み合わせたアプローチが効果的です。

まぁと言いつつ、今まで自分はクライアントワークよりなのであまりこういうシチュエーションに陥ったことがありません。
組織の上申のノウハウはもう少しありそうです。

具体的なチェックポイント:
・ビジネス目標との関連性が明確に示されているか
・複雑な洞察が理解しやすく表現されているか
・提案の背景や根拠が適切に示されているか
・反対意見や懸念に対する検討がなされているか
・コミュニケーション手段(ビジュアル、ストーリー、データなど)が適切か

8. 長期的な価値と新たな可能性を示しているか 【主観寄り】

目の前の課題をこなすだけでは、目指す世界に辿り着かないかもしれない。

これは新規サービスの開発やフルリニューアルなど、大きな転換期じゃないと考えづらい観点ですが、目の前の問題解決だけでなく、より大きな視点での価値や可能性を示せているかも重要なポイントです。
単なる機能改善を超えた、より深い意味や長期的な価値の創造をできているか?という問いです

例えば、家事支援アプリのプロジェクトでは、最初は「家事の効率化」という従来の価値提案で進めていたのに対し、深いユーザーリサーチから「家族との協力関係の構築」「家事の公平な分担」という社会的・感情的側面にニーズがあることが分かり、単なる「タスク管理ツール」から「家族のコミュニケーションと協力を促進するプラットフォーム」という新しい価値提案ができる…ということもあるかもしれません。

観点1「その問いは真に解くべき問いか?」と本観点は、根本的な出発点という意味で似たものを扱っていますが、観点1が「目の前のプロジェクトの前提や枠組みを問い直す」という問いの起点に着目しているのに対し、本観点は「その問いが導く世界は、どんな新しい可能性を含んでいるか?」という問いの“射程”や“ビジョン”に着目しています。

UXの品質とは、今ある課題に答えることだけでなく、問いそのもののスコープを広げ、「何を可能にするのか」を描き直す力にも宿るのです。

具体的なチェックポイント:
・ユーザーの理想的なあり方を実現する/近づけるためのものか
・既存の枠組みや前提を問い直す視点があるか
・ユーザーの生活や価値観に新たな可能性を提示しているか
・「ユーザーの理想的なあり方」は小さな世界観になってないか
・複数のサービスやプロダクトの連携も踏まえて、大きく理想的な世界観を描けているか
・長期的なビジョンや展望を提示できているか
・文化的・社会的に意味のある貢献の可能性を考慮しているか

9. 継続的な改善の仕組みが組み込まれているか 【客観寄り】

UXに終わりはなく、対話し続ける営みかもしれない。

これはUXデザインというより、組織やアジャイルプロセス、Research Opsを取り入れられているかという視点なので、少し他とは違ってメタ的なものとなります。

どんなに優れたデザインでも、実際のユーザーに触れてみないと分からない部分があります。デザインを固定的なものとしてではなく、継続的に学び改善していくプロセスとして捉えているかが重要です。

例えば、新しいダッシュボードをリリースした後、「改善のための情報収集の仕組み」として簡単なアンケート、使用状況の詳細なログ分析、そして定期的なユーザーインタビューを用意しておくことで、問題点を素早く特定し、改善することができます。これは「完璧なデザインの一発完成」ではなく「ユーザーとの対話を通じた継続的改善」というアプローチです。

具体的なチェックポイント
・リリース後のユーザー反応を収集する計画があるか
・定量的・定性的な評価指標が設定されているか
・想定と異なる結果が出た場合の対応策が準備されているか
・学びを組織内で共有する仕組みがあるか
・ユーザーとの対話を通じた継続的な改善プロセスが設計されているか

この観点は、「一回完璧なものを作ろう」という考えより、「作りながら学び、改善していく」という姿勢を重視します。特に不確実性の高い領域や革新的なプロジェクトでは重要になります。

9つの観点のまとめ

9つをまとめるとこのようになります。

1.「その問いは真に解くべき問いか?」
表面的な課題に惑わされず、ユーザーやビジネスにとって本質的かつ価値のある問いを設定する。

2.「ユーザーの文脈をリアルに捉えているか?」
ユーザーが置かれている状況や感情・動機など、「実際の使われ方」を深く理解し、プロダクトを生活や仕事の文脈に適合させる。

3.「データと直感をバランスよく活用しているか?」
定量的なデータと定性的な洞察を適切に組み合わせ、数値の背後にある意味を深掘りし、本当に価値ある課題や改善策を見出す。

4.「ユーザーにとって真に価値ある解決策か?」
デザイナー目線での理想だけでなく、ユーザーが実際に体験するシチュエーションや価値観に沿った現実的で意味ある解決策を示す。

5.「現実的な制約の中で最適解を見出しているか?」
技術的・組織的・予算的な制約を「単なる限界」ではなく、新たな可能性として再解釈し、その中で実現可能で創造的な答えを導き出す。

6.「実装と運用の現実が考慮されているか?」
デザインツールの上だけのデザインではなく、実際の開発や運用の環境を理解し、実務レベルで実現可能であること、運用後も維持可能であることを考慮する。

7.「ステークホルダーを納得させる説得力があるか?」
ビジネスや技術チームなど異なるステークホルダーが納得できるよう、データ・ストーリー・感情的説得などを適切に組み合わせ、コミュニケーションに配慮する。

8.「長期的な価値と新たな可能性を示しているか?」
目先の問題解決に留まらず、ユーザーの生活やビジネスにおいて新たな可能性や価値を生み出すような視座やビジョンを持つ。

9.「継続的な改善の仕組みが組み込まれているか?」
一度で完璧を目指すのではなく、継続的にユーザーからのフィードバックを収集し、改善を重ねることができるプロセスや仕組みを設計する。


ここまでである程度レビューの大枠を示すことができたと思います。

ここからはそれを発展させ、UXデザインにおいて非常に重要なポイントであるUXリサーチについて、つまりインタビューやアンケートを通して行うユーザー理解に関して、3ステップに分けて観点を考えていきます。

UXリサーチは3ステップあるから、
それぞれにレビュー観点を考えられる。
  • 計画段階(目的設定・問いの立て方・サンプル設計など)

  • 実施段階(設問の質・インタビューの対話性など)

  • 分析段階(洞察の深さ・ナラティブの質など)

5-1.UXリサーチ計画段階のレビュー観点

UXリサーチの設計は問いと目的の精度で決まる

さてUXデザインにおいて一番重要なのはUXリサーチのプロセスだと私は思っています。
強気で言えば初手のユーザー理解がずれていれば何をやってもダメとすら私は考えています。

真に解くべき問いを模索するのがUXリサーチですが、ここをうまく設計できなければ、解くべき問いを間違えてしまうことも容易に想像できます。

1. リサーチの目的と問いの適切さ(何を知りたいのか)

リサーチの質を決める最大の要因は、「何を知りたいのか」という問いの立て方です。
私個人としては、世間でよく話されるインタビュー時のテクニックなど正直どうでもよく、問いを上手に立てられないことの方が遥かに深刻です。
「聞きたいことを上手に質問できなかったこと」より、「聞かなければいけないことが質問にあがってないこと」の方がよっぽど問題なのです。

問いが上手に立てられてないで挑むインタビュー/アンケートは、開始時点で土俵にすら立てておらず、すでに失敗しています。

表面的な問いにとどまっていないか、本質的な課題に迫る問いになっているか、それを気にするべきです。

持つべき問い:
・「リサーチで明らかにしたいこと」が明確になっているか
・リサーチの設問は、「明らかにしたいこと」を明らかにできそうか
(なぜその設問で「明らかにしたいこと」が明らかになるのか?/思考停止で設問設計していないか?)
・「リサーチで明らかにしたいこと」は表面的な問いになってないか?
 (本当にそれを明らかにすれば全てが理解できそうか?)
・特定の解決策に偏らない中立的な問いになっているか
・文化的・社会的文脈を考慮した問いが含まれているか
・行動の背後にある意味や価値観を探る視点があるか

リサーチ設計はそれだけでシリーズが書けるので、またどこかでノウハウ書きます。

2. サンプル設計の妥当性(誰に聞くのか)

リサーチ参加者の選定は結果の質を大きく左右します。

サンプル数になると3~5人というような数字がよく出ますが、あれはユーザビリティー課題を発見する際の人数の話なので、実を言えばUXのインタビュー人数の検討に参考になるものではありません。
「どうあって欲しいか」「どうあるべきか」はもっと多様で、単に人数を増やすだけでなく、適切なセグメンテーションが重要です。

さて、この「どうあるべきか?」を自分たちが考えるためのインタビューは何人でもいいです。少なすぎると意見が偏ります。

たまたまですが自分は1セグメント3~5人を目安にしてます。

(このロジックを説明するとこれで記事が2本ぐらい書けるので割愛します)
これ以上聞くとシンプルに疲れる&意思決定が遅くなるという点もありますし、聞くことに時間をかけるよりある程度で区切りつつPDCAを回す方に注力した方が良い即面もあります。
もとより彼らの中に答えがあるわけではありませんので。

そしてこのセグメントは役職や属性でも、利用傾向でもなく、「利用目的ごと」に切ることが重要、と私は思っています。

「誰に聞くか」は、属性でも利用傾向でもなく“目的”で切りたい

例えば社内DXツールを作る際例えば担当者だけでなく、営業、財務、人事など様々なステークホルダー部門の人々を含める…というように考えられるこ方は多いでしょうが、これは「彼らがどのような目的でサービスに触れるか/使うかのシチュエーション」が違うからセグメントとして成立するのです。

利用目的が役職や属性と連動してることは多くありますが、最終的に役職や属性に落ちることはあっても、最初からそれで切ってはいけません。

そしてそもそもユーザーの利用目的に肌感がなく、利用目的でセグメントが切れない…という状態はユーザー理解度が低いと言わざるを得ず、自分たちの強みをあまり理解していない可能性があります。
そのままにしておくと、自分たちの強みを損なう意思決定をしかねませんので、とりあえずはわかりやすいところから解像度を高めていきましょう。

持つべき問い:
・主要なユーザーグループをカバーしているか
 (主要なグループの"主要さ"をどう考えているか)
・経験レベルや利用頻度などの多様性が考慮されているか
・エッジケースや特殊な利用状況も検討されているか
・組織文化や集団内の権力関係も考慮されているか
・異なる文化的背景を持つユーザーの視点が含まれているか

3. 手法選択の適切さ(どう聞くのか)

目的から逆算して、手法を選ぶべき

リサーチ手法が目的に適しているか、単一の手法に頼りすぎていないかも重要な評価ポイントです。アンケートとインタビューを思考停止で選ぶのではなく、目的に最適な手法やそれらの組み合わせを検討すべきです。

例えば、ユーザーの自己報告(「簡単に使えた」)と実際の行動(混乱している様子)には乖離があることが多く、複数の視点からデータを収集することで真実に近づけます。

持つべき問い:
・リサーチ目的に最適な手法が選ばれているか
 (なぜそれが最適なのか/思考停止してないか)
・定量・定性データのバランスが取れているか
・自己報告と行動観察の両方が含まれているか
・手法同士が互いの弱点を補完し合っているか
・ユーザーの「物語」や「生活文脈」を捉える手法が含まれているか
・数値化できない感情や意味の側面を探る手法があるか

5-2.UXリサーチ実施段階のレビュー観点

インタビューは“情報収集”ではなく“意味創出”の場

設問表(インタビューガイド、アンケート、ユーザビリティテストのタスクなど)の品質は、得られるデータの質に直結します。
実施されたインタビューを振り返るのはあまり頻繁には行わないかと思いますが、下記のような観点が可能と思います。

1. フラットな問いかけと探索的な問い

質問のしかたひとつで、語られる内容が変わる

質問の仕方によって回答が大きく左右されます。「この新機能は使いやすいと思いましたか?」という誘導質問ではなく、「この新機能を使ったときの体験について教えてください」という中立的で開かれた問いかけの方が豊かな回答を引き出せます。

また、従来のUXリサーチではどうもインタビュー相手を情報提供者のように扱い「効率的にインサイトを取ってくる」風潮があるのですが、単に「情報を引き出す」のであれば、ネットで調べてわかることも多くあるでしょう。
むしろその逆で、彼らとの対話を通じて新たな気づきにたどり着けるような、共に創造するプロセスとして捉えられるかは大きく違います。

インタビューしてる時に、「こういうことかな?」と気づく瞬間があれば、それは成功したと言えるかもしれません。

持つべき問い:
・「はい/いいえ」で答えられる閉じた質問に頼りすぎていないか
・特定の回答に誘導するような言葉遣いを避けているか
・参加者自身の言葉で体験を語れる余地があるか
・想定外の発見を許容する柔軟さがあるか
・意味や価値観を探る深い問いが含まれているか
・対話を通じた共同的な理解構築を促す質問設計になっているか

2. 文脈を問う深さ

抽象的な質問は抽象的な回答しか得られません。「商品検索の体験はどうでしたか?」より「最近購入した商品を探すとき、どのように検索しましたか?何か困難はありましたか?」のような具体的なシナリオベースの質問の方が豊かな回答を引き出せます。この、文脈を問う深さ

行動の背後にある価値観や動機を明らかにするための質問も重要です。「なぜそれを探していたのか」「あなたにとってどのような意味があったのか」といった問いかけが、表面的な行動だけでなく深い理解につながります。

持つべき問い:
実際の使用シナリオや具体的な状況に基づいた質問になっているか
・「一般的に」ではなく「最後に〜したとき」のような具体的な記憶を引き出す質問があるか
・参加者の実際の生活や仕事の文脈に関連付けられているか
・抽象的な満足度より具体的な行動や問題点を引き出す質問になっているか
・行動の背後にある価値観や意図を探る質問が含まれているか
・ユーザーの「物語」を引き出す設問構成になっているか

余談ですが、最近自分は勉強会に来てくださった方にインタビューをしたのですが、自分の設問を始める前に「あなたって誰なんでしたっけ」という話から始め、相手と雑談するように相手の人となりを理解した上で聞きたいことに入りました。そういう相手の生活や文脈を

3. 対話の流れと内省の促進

インタビューは、気づきを共につくる“対話”の場

質問の並べ方も重要です。1とも被りますが、「この製品の最大の問題点は何ですか?」という否定的側面に焦点を当てる質問より、「この製品を使っている体験全般について教えてください」という中立的な質問から始める方が良いでしょう。

そして「この体験を通して気づいたことは何ですか?」といった内省を促す質問は、参加者自身も意識していなかった洞察を生み出すことがあります。

この構成により、参加者はより深く自分の体験を振り返り、インタビューの過程で新たな気づきを得ることができました。例えば、「話しながら気づいたんですが、私がこの製品に求めているのは効率よりも安心感なんですね」といった、参加者自身も意識していなかった洞察が生まれることがありました。

再三いいますが、インタビューは単に「既にある情報を収集する」場にしてはもったいなく、対話を通じて新たな気づきが生まれる創造的な場として活用できると、より新しい世界が見えてきます。

持つべき問い:
・一般的な質問から具体的な質問へと自然に流れているか
・中立的な質問から始まり、徐々に焦点を絞っていくか
・前の質問が後の質問への回答にバイアスを与えないよう配慮されているか
・参加者が疲れる前に最も重要な質問がカバーされるよう構成されているか
・対話の過程での気づきや内省を促す質問が含まれているか
・インタビューを通して、「ただの情報収集」を超えた、新たな可能性に辿り着けているか

5-3.UXリサーチ分析段階のレビュー観点

分析とは、「事実」から「意味」を立ち上げる行為

さて、UXリサーチは「終わった時」ではなく、「読み解かれる時」に初めて力を持ちます。

観察結果や収集したデータをどう解釈し、どんな物語を紡ぎ、いかなる現実的・倫理的提案へ昇華できるか。分析の質とは、発見そのものではなく、そこから何を意味として立ち上げるかにかかっています。

このセクションでは、リサーチ成果物を評価する上で重要となる3つの観点を提示します。

1. 洞察の深さと批判的視点

良い分析とは、単なる観察結果の羅列ではなく、「なぜそれが起きたのか」という構造への洞察を導き出していることです。
しかしそれだけでは不十分で、「この構造を疑うべきではないか?」という問いすら内包しているかが、リサーチの思想的な深度を左右します。

「なぜ」が分かれば洞察になりますが、「その"なぜ"の枠組みは妥当か?」まで問えた時、洞察は創造的な批評へと変わります。

たとえば「通知設定が使われていない」ことの裏には「ユーザーの意識の問題」ではなく「通知という機能設計そのものが誰かの生活リズムを前提にしすぎている」という問い直しがあり得るかもしれません。

持つべき問い:
・「何が起きているか」だけでなく「なぜそれが起きているのか」まで掘り下げているか
・既存の前提や枠組みを問い直す批判的視点があるか
・自分たちの直感にバイアスされ掘り下げることを停止してないか
・自分たちが前提だと思っていることは本当に前提か
・チーム内で既に知られていることを超えた新しい視点が提供されているか
・パターンやトレンドが単に記述されるだけでなく、その意味が解釈されているか
・表面的な症状より根本原因を特定しているか

2. ナラティブの力と多声性

リサーチは統計の世界だけでなく、物語の世界でもあります。
数値によって概括される「傾向」と、当事者の語りが持つ「意味の厚み」の両方を統合的に扱えるかが、分析の完成度を決めます。

特にUXリサーチでは、多様な声に耳を澄ませ、それらを単なる「ばらつき」としてではなく、異なる視点が共存する風景=多声的な構造として描き出すことが重要です。

「営業職のユーザーがダッシュボードを使いやすいと感じている」というデータも、「この営業担当者がプレゼン5分前、狭いエレベーター内でスマホを片手に何を頼りにしていたか」という具体的な物語が見えてくることで、その設計の本質的な価値が可視化されてくるのです。

持つべき問い:
・洞察や主張が、適切な証拠(定量/定性データ)で裏付けられているか
・データの解釈において「誰の声が反映されているか」「誰の声が抜け落ちているか」が意識されているか
・多様なユーザー像(目的、文化、感情、立場)を織り込んだナラティブが提示されているか
・物語的記述(ストーリーテリング)によって、数字だけでは見えない感情や意味が可視化されているか
・使い手の生活や状況が立ち上がるようなエピソードが含まれているか

3. 実行可能性と倫理的配慮

リサーチから得た示唆を、単なる「気づき」に留めず、具体的な行動と意思決定へと翻訳できているか。
そしてその提案が、技術的・予算的に実行可能であると同時に、ユーザーと社会への倫理的配慮を伴っているか。これはUXの提案に深みを与える重要な視点です。

良い提案とは、「やろうと思えばできる」だけではなく、「これをやることが、どんな世界を正当化するのか」をも見据えています。

「操作が早くなる」だけでなく、「この操作の快適さが、誰にとっての良さにつながるか」を考え抜くことが重要です。

持つべき問い:
・「気づき」で終わらず、現実的なアクションへ落とし込まれているか
・短期/中長期に分けた優先順位づけや、制約への現実的な対応が設計されているか
・技術・予算・組織文化などの前提が考慮され、妥協でなく創造的制約として扱われているか
・提案がユーザーの尊厳や社会的包摂性を損なっていないか
・その意思決定が「どのような価値観を前提としているのか」が明示されているか

6.その主観的判断が妥当であると、どう判断できるか

さて、UXに主観性を導入する上で最大の障壁は「主観的判断の妥当性をどう評価するか」という問題です。
つまり、そのレビュー者のレビューは適切なのでしょうか?
この問題にどう向き合うか組織内で合意が得られなければ、そもそも主観的なレビューを容認されることは難しいでしょう。
主観性の重要性を説いても実践に至りません。

デザイナーの主観性を「妥当だ」と信じてもらえないと始まらない

組織に主観的判断を評価する仕組みがない限り、組織は常に客観的指標に逃げ込みます。なぜなら、客観的指標には「正しさ」を証明する枠組みがあるからです。
ここに根本的なパラドックスがあります—主観的判断の妥当性を評価できるのは、結局のところ別の主観的判断しかないからです。

さて、では主観的判断の妥当性はどう主観的に感じ取れるのでしょうか?

優れた主観的判断には「確信」があり、聞いた瞬間に「そうだ、まさにそれだ」と腹に落ちる感覚があります。
また「真実性」も重要で、合理的に説明できなくても現実に即した発言の方が「確かに…」となることもよくあります。
さらに「余白」も十分残されており、全てを断定せず対話の余地を残す判断の方が、多くの場合妥当性が高いと感じられます。

主観的判断の妥当性を高めるには、「経験」を可視化することが重要です。単に「これが良い」と述べるのではなく、「過去の類似プロジェクトでこのようなパターンがあった」と経験に基づく根拠を示すことで、単なる個人的好みではなく専門的判断であることを示せます。

しかしながら、最終的に誰かの主観的判断が妥当かどうかは、同じ専門性を持つ人の主観的評価でしか評価できません。
例えるならデザイナーの実力をエンジニアが論じてもしょうがなく、同様にエンジニアの実力を経営者が論じてもしょうがないのです。
デザイナーの実力はデザイナーが見定めるしかないのです。
だから、単なる多数決ではなく、ある程度専門知識を持つ人同士の議論に身を委ねるが必要あります。

現実的な運用を考えるとすれば、現場担当者からレビュー者を推薦し、組織がその人を任用する、という流れが妥当でしょうか。
まぁ多くの組織は結果的にそうやってると思います。

このあたりが組織と齟齬がある場合、UXデザイナーは「私の感覚は正しいのに、なぜ組織は聞いてくれないのか」と悩むことになります。
この本質的な問題は「なぜあなたの感覚が信頼に値するのか」という問いに答えられないことにあります。

私を信じてくださいというには、信じてもらえれるだけの信頼を獲得するか、あるいは主観的な判断が尊重される組織に行く必要があります。
(私もたまに「私を信じてください」と押し通すときはあります笑)

主観的判断が曖昧で不確かなものである事実を受け止め、それを乗り越える文化を構築できた組織だけが、真の意味でUXに主観性の力を活かすことができるのです。

7.実践的なレビュー方法

このパートではレビュー方法について考えます。

建設的な対話としてのレビュー

実際にUXリサーチ・デザインをレビューする際は、「これは良い」「これは悪い」とジャッジするだけでは本質的な改善につながりません。
建設的なフィードバックを心がけ、「何が問題か」を指摘するだけでなく、「どう改善できるか」の具体的な示唆と「なぜそれが重要か」の理由も添えることが重要です。

例えば「問いを立てる」観点での要改善パターンとしては「このボタンの配置を変えるべきか」といった解決策前提の問いがあります。
これに対しては「このボタンの最適な位置はどこか」ではなく「ユーザーがこのアクションを自然に起こせるためには何が必要か」という問いに変えるよう提案し、さらに「なぜユーザーはこのアクションを行うのか」「このアクションは彼らの生活や仕事の中でどのような意味を持つか」といった深い問いかけも検討するよう助言するといった具体的なアドバイスが効果的です。

「文脈理解」の観点では、ユーザーがアプリを使う具体的な状況(「電車の中で片手でスマホを操作している」「複数の取引先との会議の合間に慌ただしく確認している」など)を描くことの重要性を伝え、実際のユーザーの1日のジャーニーを時間軸で描くことを提案するといった助言が考えられます。

レビューは関係性のなかで

ここまで、UXリサーチ・デザインの評価における観点を精緻に取り上げてきましたが、忘れてはならないのは、レビューとは構造ではなく関係性のなかで起きる営みだということです。

どれだけ正しい評価観点を持っていても、誰が誰をどんな立場でレビューするのか、そこに信頼と尊重があるのかによって、レビューが機能するかは大きく変わります。

特にクライアントワークや大規模な組織内のレビューでは、立場の非対称性が評価の質を歪めてしまうことがあります。レビューが「チェック」や「マネジメント」になってしまうと、対話や解釈の余地は失われてしまい、UX本来の価値である“意味の創造”が疎外されてしまいます。

レビューとは本来、「批判」ではなく「理解と共創の営み」です。

これはつまり、レビューが成功するかどうかは、レビュー観点の精緻さよりも、人間関係の豊かさに依存しているという逆説でもあります。

「この人のフィードバックなら聞ける」と思ってもらえる関係性を築けるか。
それこそが、UXのレビュー文化の出発点かもしれません。

UXレビューの成熟度とは、ツールや観点の整備ではなく、対話が成立する空気の有無で決まるのです。

8.評価できないものをどう扱うか

ここまで、UXリサーチ・デザインにおける評価の観点を多角的に示してきましたが、改めてUXの評価不能性について再考します。

UXの評価不能性は何から生まれているか、それは結局UXとは本質的に「評価しきれないもの」を含んでいるということです。

言語化できない「安心感」、数値化できない「親しみ」、誰の指標にも載らない「文化的意味」。
これらはレビューで可視化されないがゆえに、しばしば軽視され、組織の判断から滑り落ちていきます。

UXのレビューを「観点」の積み上げによって形式化しようとすればするほど、逆に失われていくものがある。
レビューとは本来、レビューしきれないものに出会ってしまう営みでもあるります。

「これはいい体験だった。でも、なぜかはわからない。」
この曖昧な感触を、即座に論理で消去しないこと。
それもまた、誠実なUX評価のひとつの態度かもしれません

UXレビューとは、評価を通じて「答え」を出す営みではありません。
それよりも、「これはまだ評価できていないのではないか?」と問い続けること。
評価の限界を自覚することこそが、最も意味を持つレビュー行為なのかもしれません。

「評価不能性に向き合うレビュー態度」

最後に、評価不能性に向き合うレビュー態度を示して終わります。

1. 正しさではなく、蓋然性を探る
レビューは○×を付ける行為ではなく、「この可能性は妥当か?」と問い続ける思考のプロセスである。

2. 項目ではなく、文脈を問う
リストを埋めるのではなく、「この状況で、この人にとって妥当か?」という具体的なリアリティを捉え直す。

3. 指標は問いの入口である
スコアは評価の終点ではない。「なぜこの数字が生まれたのか?」を考えることが、本当の評価である。

4. 形式よりも意味を問う
手法や成果物の“正しさ”に満足せず、「このUXは何を可能にしようとしているのか?」という意味を問い直す。

5. レビューは翻訳である
主観と客観、感覚と数値、ユーザーとビジネス。その間を往復し、言葉を架ける営みとしてレビューを位置づける。

6. 妥当性とは関係性の中で育まれる
レビューの価値は「誰が誰に向けて行うか」によって変わる。信頼なき評価は、対話を成立させない。

7. 評価できないものの気配を捉える
言語化できない「安心感」、測定できない「親しみ」、語りえぬ「意味」──それらの余白を見過ごさない感性を持つ。

8. 主観は、軽んじられるべきでない
経験に裏打ちされた感覚は、重要な判断材料である。「なんとなく良い」という感覚にも耳を傾ける余地を持つ。

9. 批判ではなく、共創としてのレビューを
レビューとは“欠点を指摘する場”ではなく、“よりよい可能性を共に探る場”である。対話と提案の姿勢を忘れない。

10. レビューとは、問いを手渡す営みである
評価は「答えを示すこと」ではなく、「新たな問いを一緒に見つけること」であり、その問いこそが次の実践を導く。

おわり: UXの品質評価は「翻訳」と「対話」である

結局のところ、UXリサーチやデザインの品質評価は「翻訳」の一種です。
ユーザーの体験や感情という主観的世界と、ビジネスの数値や成果という客観的世界の間を行き来し、両者をつなぐ作業なのです。

良い評価とは、一方に偏ることなく、両方の世界を理解し、その間を橋渡しできているかを見極めること。数字だけでもダメだし、感覚だけでもダメなのです。

ただし、「客観」と「主観」という二項対立自体が再考の余地があります。
人間の理解は常に解釈を伴い、完全に「客観的」なデータというものは存在しない可能性があり、同様に、「主観的」と思われる直感や感覚も、長年の経験と深い理解に基づいた洞察である場合が多いのです。

重要なのは、異なる視点や理解の仕方の間の「対話」です。数値データと質的洞察、効率と意味、機能と感情—これらを対立させるのではなく、互いに補完し合う視点として捉え直すことで、より豊かな理解と、真に価値あるUXデザインが生まれるのです。

メンバーシップに関する告知

ここまで読んでくださった皆さんに告知です。
大変ありがとうございます。

この度Alternative UXというメンバーシップを始めようと思い、案内させていただきます。

最近デザインやAIの思想や考えなどの記事を書いており、時折投げ銭をいただいたり、「言語化ありがたい」「無料のクオリティではない」という意見をいただきました。大変嬉しく思います。

実際のところ自分の普段の記事は1~2万字ほど書き、伝わるように文章や構成を丁寧に考察したり、画像も作ったりでお察しの通りめちゃくちゃコスパが悪いです。(このnoteには画像が34枚あります-ヤバ)
正直この労力がお金に還元されて欲しい…のですが。
実はあまり記事を有料化したいとは思っていません

というのも、もとより私が思想や考えについてnoteで発信するのは多くの人に考えてほしい/多くの人と議論したいと思っているためであり、お金を稼ぎたくとも有料化することで広く届かなくなっては本末転倒だと思い断念しています。

本記事も途中から有料化するかとても悩んだ…のですが、世の中のUXの評価論の現状を見てやはり広く届くことが重要だと判断しました。

メンバーシップのプランについて

とはいいつつ、実は最近いろいろ生活に余裕がない中で記事を書いており、厚かましくも活動をご支援いただけると大変ありがたいなぁと思う限りです。

現状二つのプランを検討中です

・活動支援プラン-公開中
活動に賛同いただけるようでしたらぜひ暖かくご支援いただけますと幸いです。
あまりお返しできるものが多くはないのですが、掲示板を使ったりなどで何かしらは検討しています。

・UX実践者向けプラン-近日開始予定
私が普段書くような広い思想や考え方の記事ではなく、もっと実践的なUXに関する記事です。
例えば「良いペルソナとは何か?」「UXリサーチャーの専門性」「UX起点のKPI設計」などなど、他ではみられないようなUXリサーチ・デザインの中・上級者向けのコンテンツを読むことができます。(中・上級者向けを目指します)
が、ちょっと準備中です。近いうちに公開予定ですので今しばらくお待ちいただけますと幸いです。

そのほか、時折チップをいただくこともあり、これも大変嬉しく思っています。

引き続きどうぞよろしくお願いします。
ご理解いただけますと幸いです。

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なつ (生活者/デザイナー/リサーチャー) いただいたお気持ちは、お茶代や、本題、美術館代など、今後の記事の糧にします!

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