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【こはる日和にとける】#25 せやくんのスクーター


せやくんはわたしのことを
ちゃーるー
と、よぶ

おかあさんのおとうとだから
わたしにとって
おじさん、だというせやくんは

けれど

わたしにはちっとも
”おじさん”にはみえない


おかあさんの兄妹は
ぜんぶで5人いて
みんなおしゃべりで
すっごくにぎやか

あつまるといつも
おおきな笑い声がとびかうのだけれど

いちばん下のせやくんだけは
いつもすみっこで
しずかに
ほほえんでいるだけ

「せいや」で
「せやくん」

みんながよぶから
わたしもそうよんでいた

*


ばあちゃんちにあそびにいくと

ミシ、ミシ

と、階段をならしながら
二階からせやくんがおりてきた

「ちゃーるー、いくかー?」

と、いつもの声をかけてくる

せやくんの目は
ばあちゃんとおんなじ
すいこまれるような、くろいろ

まつげがみっちりはえていて
すこしくぼんだ目で
しっとりとみつめてくる

にっこりほほえまれると
ことわる
なんてできるはずもなく

「いく!」

わたしは
ばあちゃんの膝からおりて
たべかけのおやつもそのままに
赤いつっかけをはいてかけだした

「ひとまわりだけにしてよ!」

お母さんの声が
おいかけてくる


そとにでると
そらはすでにたいようでみちていた

あさは
ハトとねこしかいなかったのに
ひるになって
セミがせんりょうしてしまったみたいだ

おえー

あついし、うるさいし
わたしは
くびをちぢめて
わざとへんな声をだしてみせた

わらいながらせやくんがちかづいてくる

「のらんね」

ポンポン
とかわいた音をたて
スクーターの座席をたたく

わたしのばしょは
せやくんの前

そこに立つと
せやくんのうでとあしが
ぎゅっとわたしをはさんで
ガードしてくれるのだ

スクーターは
よごれたしろいろで
あんまりきれいじゃないけれど

どんなにあつい日も
風をきってすすむそれにのれば
すっかり
むてきのきぶんだった

とはいえ
せやくんのスクーターは
いつも
のろのろのあんぜん運転

車があまりとおらない道を
きょうも
海にむかって
ぶっぶっぶーと
すすんでいる



ひがたの海は
海水浴でいく海とちがって
みずが少なくて
こわくないところがいいと
わたしはずっとおもっている

海岸沿いに
スクーターをとめ
そのまま石のだんだんをおりて
貝だらけの浜についた

海のにおいがもわと濃い

「あつかねー」

言いながら
せやくんは
わたしの顔の汗を
タオルでぐいんとふいてくれる

そして
石だんに腰かけ
とちゅうで買った
つぶつぶのみかんジュースを振り
かぽとあけてくれた

おきにいりのこのジュース

つめたくてあまくて
ととと、と口にはいってくる
みかんのつぶが
なんともいえずおいしいのだ

ジュースをのみほすと
わたしは両手でもった缶を
口につけたまま
ぐっと逆さにして
おしりをたたき
さいごのひとつぶまですいとろうと
ひっしになる

とんとん
ととと、とん!

しつこくおしりをたたく

「もうよかろ?」

さいごは
せやくんがあきれたようにそう言って
缶をわたすよう手をだした

それから
わたしたちは
浜をあるきながら
いつものさくら貝をさがしはじめた

いろんないろの
じゃりじゃりした貝だらけの浜で
ときおりみつかる
さくら色をした
いっとうきれいな貝だ

せやくんが
ちいさなガラスびんにためている

めったにみつからないから
ほんのすこしずつだけれど
ちいさなびんは
そろそろいっぱいになろうとしていた

「あった!」

とびつくように
拾って手にとると

「ちがったー」

たいていそれは
ふつうの貝が
ひかりのかげんで
それっぽくみえただけで

がくしゅうしないわたしは

あった!
ちがったー

を、あくことなく
くりかえすのだけれど

せやくんは
もはや
わたしのそのくだりには
なれっこで
はんのうすらしてくれない

つまらないから
あいまで
ぐるぐる巻きのおおきな貝をみつけては
耳にあて

うそかほんとか
貝にしみついているという
とおい国の波のおとを
そばだててさがしたりもした

「ちゃーるー、あったぞー」

さくら貝をみつけたせやくんが
てまねきしてわたしをよぶ

つっかけがぬげぬよう
貝をなるたけつぶさぬよう
きをつけながら
やじろべえのように
手をひろげて歩みよる

ほらと差し出された
せやくんのてのひらをみると

いちまい
わたしの爪ほどに
ちいさくてうすい
さくら貝が
砂つぶをつけてのっていた

「きれいかねぇ」

手にとり
くうきにあてる

しめった砂が
いっしゅんでかわいて
ちょんとはらうと
ぽろぽろとおちた

ひかりを透かすさくらいろ

貝、というより
花びらだ

せやくんは
ポケットからびんをだし
コルクのせんをぬくと
そのなかに
そっと
さくら貝をおさめた




それから何年かして
東京にでたせやくんは
そのままあっけなく
逝ってしまった

ようちえんのおゆうぎかいで
にんぎょひめの役をもらった冬だった

幼すぎるわたしには
ちかしい人が亡くなるということが
どういうことなのか
はじめてで
ぼんやりしていて
よく分からなかったけれど

もう会えない、という
事実だけは分かり易く
鋭く刺さってきて

その現実が
時折、ぶわっと
波のように寄せてきては
海の底にひきずりこまれるように
哀しかった

そしてなにより
だいすきなばあちゃんが
会うたび
どんどん小さく弱くなっていくのを
なんとなく感じてつらかった


時がたち
大人の会話が分かるようになった頃
せやくんが最期に
海のそばにいたと耳にした


たちまち
あの干潟の海が
よみがえる




「もうよかろ?」

しぶしぶ
みかんジュースの缶をわたすと
せやくんは
ながいゆびで
じぶんの缶とあわせて
柔くはさむ

白いシャツがきらりと光り
うみかぜにふかれて
まぶしそうに
目をほそめるよこがおがみえた

せやくんのまわりだけ
じかんがじょじょに止まりそうで
獏としたふあんが
わたしのむねを
ぎゅっとつねってくる

「せやくん」

シャツのそでをひっぱり
わたしは

おえー

と、くびをちぢめてみせた

せやくんはわらい

「さくら貝ばさがすか」
と貝だらけの浜へおりていった




text by haru photo by sakura





こんにちは
haruです


3年前の夏の終わりに
ふたつ
浮かんだ話がありました

そのうちのひとつ
『まぶしい日傘』
というエッセイの方を書き上げ
当時投稿したのですが

書きかけて
手が止まり
宙ぶらりんにしてしまった
もうひとつの話が
今回の
『せやくんのスクーター』です

じつは
こちらが先に浮かんだ話でした

書きたいけれど
どう書けばいいか
どんな色に染めればいいか
当時のわたしには
書き上げる自信がなく
宙ぶらりんに残してしまいました

それが昨夏
サクラさんが
こはる用に、と送って下さった
何枚かの写真の中の
ヒメジョオンの一枚を見て

せやくんの話をちゃんと最後まで書こう

と、ふと思いました

その夏の帰省で
懐かしい
干潟の海にも
何度も通いました
(海の写真はその時撮ったものです)

そうして
二年越しで
ようやく書き上げたエッセイです

あなたにも
季節に心が振れて
思い出すだれかはいますか

時間が濾してくれた思い出が
どうか
眩しく
やさしいものでありますように

さて
来週日曜日の投稿で
昨秋から続いた
『こはる日和にとける』は
最終話となります

よければ
またここで
お会いできたらうれしいです

haru



《御礼》

マガジンへ加えて下さり
ありがとうございました!

『微睡むカーテン』を
chibi3さんの
〝また読みたい花の記事〟へ

サクラさんの写真を認めて頂けて
ほんとうにうれしいです

chibi3さん
ありがとうございました


『氷菓さくり』を

だんけひつじさんの
〝ひだまりマガジン〟

chibi3さんの
〝何度も読みたいnoterさんの記事〟

ひいろさんの
〝日色のさんぽみち〟

それぞれ
あたたかで
すてきなマガジンに
加えて下さいました

皆さん
いつもほんとうに
ありがとうございます

最終話も読みに来て頂けたら
しあわせです




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