【公共講義録】経済編#4 市場の寡占と市場の失敗
みなさん、こんにちは!
前回は、需要と供給のバランスで価格がピタッと決まる、市場の「見えざる手」の美しさについてお話ししました。グラフが交わるところで、世の中のモノが一番効率よく行き渡る。完璧なシステムに見えましたよね。
しかし、今日のテーマは、その「見えざる手」が完全にぶっ壊れてしまう、市場の裏の顔です。
単元は「市場の寡占」と「市場の失敗」。 今日の授業を受けると、「なぜスマホの基本料金やポテトチップスの値段は、どの会社も似たような設定なのか」「なぜ、大気汚染や地球温暖化といった環境問題は、市場に任せておくだけでは絶対に解決しないのか」という、現代社会の矛盾の理由がすっきりと見えてきます。
キレイごとだけでは終わらない、経済の「現実」を覗いてみましょう。
1. 巨大企業のゲーム勝ち抜け戦略(市場の寡占化)
前回の授業でやった「需要と供給の法則」は、実は「市場に、数え切れないほどの小さなお店とお客さんがいて、みんなが自由に競争している」という前提(完全競争市場)がないと成り立ちません。 しかし、現実の社会を見渡してみてください。
みなさんが使っているスマホの「通信キャリア(回線会社)」や「スマホのOS」、日本に何社ありますか?
思い浮かぶのは、3社か4社、せいぜい片手で数えられるくらいですよね。
ビジネスの戦いを続けていくと、たくさんモノを作るほど1個あたりのコストが安くなる(これを規模の利益、またはスケールメリットと言います)ため、体力の大きなお店がどんどん有利になります。
その結果、少数の巨大企業が市場の占有(シェアを奪うこと)を進め、市場を支配してしまう状態が生まれます。これが寡占(かせん)です。(※1社だけなら独占と呼びます)。
こうなると、前回の「見えざる手」は動かなくなります。
数社しかライバルがいないので、お互いに顔色をうかがい合うようになるのです。
① 禁じ手「カルテル」と、空気の読み合い
一番やってはいけないのが、裏で手を組むことです。
「来月からお互い、商品の値段を2倍に値上げしようぜ。せーので同時にやれば、お客さんは逃げられないから大儲けだ」という秘密の協定。これをカルテル(企業連合)と言います。もちろん、消費者が大損するので法律で厳しく禁止されています。
ただ、裏でコソコソ相談(カルテル)しなくても、業界トップのリーダー企業が値段を上げると、他の企業も「あ、じゃあうちも追随してこれくらいにしよう」と、空気を読んで自動的に価格が決まることがあります。この先導する企業のことをプライスリーダー(価格先導者)と呼びます。
② 値下がりしないナゾ(価格の下方硬直性)
不思議な現象が起きます。技術が進んでモノが安く作れるようになっても、大企業たちはなかなか値下げをしません。なぜなら、1社が値下げをすると「価格破壊の泥沼戦争」になり、全員が損をすることを知っているからです。 このように、寡占市場では価格が下がりにくくなる性質(価格の下方硬直性)が生まれます。
価格で勝負(値下げ)ができないなら、大企業はどうやってライバルと戦えばいいでしょうか?
値段が同じなら、別のところで差をつけるしかありませんよね。 デザイン、機能、ブランドのイメージ、アイドルのCM、おまけの豪華さなどで「うちの商品は他とは違うんですよ!」とアピールします。
これを製品の差別化と呼び、価格以外の部分での激しいバトルのことを非価格競争と言います。
例えば、コーラやポテトチップスを思い浮かべてください。値段はどこも大体同じですが、季節限定の味を出したり、人気のアニメとコラボしたりして必死にアピールしていますよね。これが非価格競争の典型です。
こうした大企業の行き過ぎた暴走を止め、もう一度健全な競争をさせるために作られた法律が独占禁止法です。そして、「裏でカルテルをしていないか?」「不当な独占をしていないか?」を毎日ギロリと監視している、経済の警察官のような独立した国の機関を公正取引委員会と呼びます。
2. 「見えざる手」の限界(市場の失敗)
さて、ここまでは「大企業が強すぎて市場がおかしくなる」という話でしたが、ここからは、たとえみんなが真面目に競争していても、市場という仕組みそのものが、構造上どうしても上手にお金を回せないジャンルがある、というお話です。 この、市場に任せておくだけでは社会がうまくいかなくなる現象を、まとめて市場の失敗と呼びます。大きく3つのパターンがあります。
パターン①:大迷惑の「外部不経済」
経済学では、市場(お店でお金を払って売り買いする関係)の「外側」で、誰かに迷惑をかけてしまうことを外部不経済(がいぶふけいざい)と呼びます。
事例・背景: ある工場が、安くて便利なプラスチック製品を大量に作って市場で安く売りました。売り手も買い手も大満足です。しかし、その工場が有害な煙や排水をタダで垂れ流していたとしたら、周辺の住民は病気になり、川の魚は全滅してしまいます。
工場側は、環境を汚しても自分の財布からお金が減るわけではない(コストにならない)ので、市場のルール(需要と供給)だけに任せていると、汚染物質を出し続けてしまいます。 だからこそ、政府が法律で規制したり、罰金をかけたりして介入しなければならないのです。
パターン②:誰も作らない「公共財」
前回の授業で、政府が提供する公共財(教育・社会保障・警察・国防など)の話をしました。これらは、市場のビジネスには全く向きません。
民間企業が「1回10万円の有料の警察サービス」を始めたら、社会はどうなるでしょうか?
お金持ちしか守ってもらえない、治安最悪の社会になりますよね。
公共財には、「お金を払っていない人を排除できない(非排除性)」、「みんなで同時に使っても減らない(非競合性)」という特徴があります。
夜の街を照らす「街灯」を想像してください。「俺はお金を払ってないから、この街灯の光は見ません!」なんて器用なことはできませんよね。タダで使えるなら、誰も自分のお金を出して街灯なんて作りません。市場に任せると、社会に必要なものが一向に作られないため、これも市場の失敗となります。だから政府が税金で作るのです。
パターン③:だまされる消費者「情報の非対称性」
情報の非対称性とは、商品の「売り手」と「買い手」の間で、持っている情報の量や質に、圧倒的な差(アンバランス)がある状態のことです。
実生活に直結する例: みなさんが中古車を買いに行ったとします。売っているお店の人は「この車、事故歴もないし最高ですよ!」と言っていますが、実は過去に水没したことがある隠れた欠陥車かもしれません。プロである売り手はすべて知っていますが、素人であるみなさんには見抜けませんよね。
情報が不平等なまま市場に任せると、買い手は怖くて買い物ができなくなり、市場が縮んでしまいます。そのため、現代では「クーリング・オフ制度」や「消費者契約法」など、政府がルールを作って弱い消費者を守る必要があるのです。
今日の「現在地」とまとめ
アダム=スミスの時代は「自由放任が最高!」と叫ばれていましたが、現代の私たちの社会は、「市場は便利だし基本だけど、放っておくと寡占化するし、環境は破壊するし、公共財は足りなくなる。だから、政府による適切なルールと監視が絶対に必要なんだ」という、苦い教訓の上に成り立っています。
今日のポイントを整理します。
寡占市場では、価格の下方硬直性が生まれ、価格ではなく非価格競争(製品の差別化)が激しくなる。それを監視するのが独占禁止法と公正取引委員会。
市場の失敗の3大原因は、公害などの外部不経済、警察や公園などの公共財、売り手と買い手の知識の差である情報の非対称性。
グラフの綺麗さに騙されず、社会のリアルな歪みに目を向けること。それこそが、公共の経済を学ぶ本当の面白さです。
それでは、今日の授業はここまで!お疲れ様でした。
