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【公共講義録】経済編#25 消費者問題

みなさん、こんにちは。
今回のテーマは消費者問題です。
最初に、みなさんに問いかけたいと思います。
【今日の問い】
「スマホを指1本でタップして服を買い、サブスクを契約し、電子マネーで決済する。そんな日常を送る私たちは、本当に『自分の意志』で自由に買い物を選んでいるのでしょうか? そして、買った商品でトラブルが起きたとき、なぜ『買った自分が悪い』だけで終わらせてはいけないのでしょうか?」
2022年の成年年齢引下げによって、みなさんは高校在学中や卒業直後に「親の同意なしで一人で契約できる大人」になります。今日の授業は単なるテスト対策ではありません。みなさんの財布と未来の生活を守るための「実生活に直結した知識」です。

1. 広がる消費者問題 —— 私たちは本当に「自由」に選んでいるか?
まずは消費者市場の基本からいきましょう。
経済学の理想では、「消費者が買いたいものを自由に選び、その選択によって企業が何を作るかを決定する」とされています。これを消費者主権と呼びます。市場の王様は買い手である消費者だ、という考え方ですね。
ポイントとキーワードをおさえながら見ていきましょう。

ちょっと胸に手を当てて考えてみてください。
「インスタの広告で見かけて、つい欲しくなって買っちゃった」
「TikTokでバズってたから、よく分からないけど注文してみた」
これって、本当にみなさんの「主権」で選んでいますか?
ここで登場するのが、アメリカの有名な経済学者J.K.ガルブレイスです。彼は著書『ゆたかな社会』の中で、鋭い指摘をしました。
企業はCMや広告、SNS施策を大量に打ち出すことで、消費者の「欲しい!」という欲望そのものを人工的に作り出しているのではないか? これを依存効果と言います。消費者の欲しい気持ちは、自分の内側から湧き出たものではなく、企業の広告戦略に依存して作り出されたものだというわけです。
さらに、友達やインフルエンサーが持っているのを見ると、「自分も欲しい!」となっちゃいますよね。周りの消費行動につられて買ってしまう現象をデモンストレーション効果と言います。
そして何より、現代の売り手と買い手には決定的な格差があります。それが情報の非対称性です。
スマホを買うとき、内部のチップがどう組み立てられているか、パーツの原価がいくらか、みなさんは完璧に把握していますか? 出来ませんよね。作っている企業(売り手)は商品の裏も表もすべて知っているのに、買う側(消費者)はパッケージと広告の情報くらいしか知らない。この「情報の格差」があるからこそ、消費者は騙されたり、欠陥商品を買わされたりするリスクを抱えているのです。
だからこそ、国は食品表示法などで正しい情報を開示させたり、消費者教育を行って消費者が賢く判断できるようにサポートしたりすることが不可欠になってくるわけです。

2. 消費者運動と消費者行政 —— 「守られる権利」への歩み
昔は「契約は自己責任」が原則で、「よく確かめずに買った方にも責任がある」という考え方が強くありました。しかし、巨大な企業に対して知識も力もない個人が太刀打ちできるはずがありません。
これに立ち上がったのが市民たちの消費者運動です。
「みんなで商品をテストして、嘘の広告を暴こう!」という商品テスト運動や、生活に必要なものを自分たちで安く安全に共同購入する生活協同組合(生協)の設立などが広がっていきました。
この流れを決定づけた歴史的瞬間があります。
1962年、アメリカのケネディ大統領が議会で行った演説です。彼は「消費者は市場の主役なのに、一番声が届いていない」として、四つの権利を提唱しました。
ケネディの四つの権利

  1. 安全である権利(危険な商品から守られる)

  2. 知らされる権利(正しい情報を知らされる)

  3. 選択する権利(多様な商品から自由にお店を選べる)

  4. 意見を反映させる権利(行政や企業に声を届ける)

(※後に「消費者教育を受ける権利」などが追加され、国際的には「8つの権利」へ発展します)
このアメリカの流れを受けて、日本でも法律が動き出します。

日本の消費者行政の歴史と主な制度
1968年、日本で初めて消費者保護基本法が作られました。これに基づき、各地に相談窓口である消費生活センターが設置されました。
ここで、テストや共通テストで超頻出の法律や制度を一気におさらいしましょう!
① クーリング・オフ制度(特定商取引法など)
訪問販売や電話勧誘など、不意打ちで契約させられてしまった場合、一定期間内(訪問販売なら原則8日以内)であれば、無条件で契約を解除(頭を冷やしてキャンセル)できる制度です。
※店舗でじっくり選んで買った買い物や、ネット通販には原則適用されないので注意!
② PL法(製造物責任法)
1995年に施行された法律です。それまでの民法では、商品でケガをした場合、消費者が「企業のどの工場ラインでどんな過失(落ち度)があったか」を証明しなければ損害賠償してもらえませんでした。素人に企業の内部事故の証明なんて無理ですよね。
そこでPL法では無過失責任制(企業側に故意や過失がなくても、商品に「欠陥」があれば責任を負う)を導入しました。
③ 消費者契約法
2001年に施行された法律です。「嘘の事実に騙された(不実告知)」「都合の悪いことを隠された(不利益事実の不告知)」「『帰ってほしい』と言ったのに居座られた(退去妨害)」など、事業者の不適切なやり方で契約させられた場合、契約を取り消すことができるようにした法律です。
④ 消費者基本法と消費者庁の設置
2004年、従来の法律が消費者基本法へと改正されました。「保護してあげる対象」から、自立した「権利の主体」へと消費者の位置づけが変わったのです。さらに2009年には、行政の司令塔として消費者庁が発足しました。
※このほかにも、誇大広告を規制する景品表示法や、危険な製品を回収するリコール制度、トラブル時に全国共通で相談窓口につながる消費者ホットライン「188(いやや)」など、消費者を守るルールが多角的に整備されています。

3. 消費者の自覚と責任 —— キャッシュレス時代と多重債務
さて、ここからがみなさんの「現在の生活」に一番関係してくる話です。
高校生の皆さんも、PayPayや交通系ICカード、クレジットカードを日常的に使っていますよね。まさにキャッシュレス時代キャッシュレス社会の進展です。
現金を使わない支払いは大変便利ですが、お金を使っている感覚が薄れやすいという特徴があります。
ここで注意が必要なのがお金の借り方や支払方法です。
クレジットカードのキャッシング(現金の借り入れ)やリボ払い(毎月一定額を支払う方法)、そして個人向けに融資を行う消費者金融からの借入などを安易に利用すると、利息が膨らんで大変なことになります。
複数の業者から借金を重ね、返済のために別の業者から借りる……という泥沼にハマることを多重債務と言います。
最終的に返済不能になると、裁判所に認めてもらって借金を免除してもらう法的手続き、自己破産を選ぶことになります。自己破産をすると、一定の財産は処分の対象となり、破産手続中は一部の職業に就けないなどの制限を受けることになります。
また、成年年齢引下げに伴い、18歳になったばかりの若者を狙った悪質商法が急増しています。代表的なのが「簡単に稼げるSNS副業」「高額な情報商材」「マルチ商法」などです。
「大人になる」ということは、未成年者取消権が使えなくなり、自分の契約に自己責任が伴うということです。契約ボタンを押す前に、「本当にこの内容は正しいか?」「返済能力はあるか?」を立ち止まって確認する自覚と責任が求められます。

4. 買い物は「社会への投票」—— エシカル消費と消費者市民社会へ
最後にもうひとつ、これからの時代を生きるみなさんに知っておいてほしい重要な考え方があります。
それがエシカル消費(倫理的消費)です。
安くて良いものを買うのは消費者の基本ですが、もしその商品が「途上国の労働者を不当に安く働かせて作った服」だったり、「環境を破壊して作られた商品」だったらどうでしょう?
「安ければ何でもいい」という買い物は、間接的にその企業の不当な行為や環境破壊を応援することになってしまいます。

  • 環境に配慮した商品(オーガニック、エコマーク)を選ぶ

  • 生産者に適正な価格を支払うフェアトレード(公正取引)の商品を選ぶ

  • 地産地消で輸送エネルギーを減らす

このようなエシカル消費は、持続可能な社会を目指すSDGs(持続可能な開発目標)の実現にも直接つながっています。
自分が快適ならそれでいいという個人にとどまらず、消費行動が地球環境や地域社会に影響を与えることを自覚し、より良い社会の形成に積極的に貢献する消費者の姿を消費者市民社会と言います。買い物とは、単にモノを手に入れる行為ではなく、「自分がどんな社会を支持するかという一票を投じる行為(投票)」なのです。

まとめと次回予告
今日のポイントをもう一度整理しましょう。

  • 情報の非対称性依存効果があるからこそ、消費者を守るルール(クーリング・オフPL法消費者契約法など)が必要である。

  • キャッシュレス社会の今、18歳成人として多重債務に陥らない自覚と、SDGsにつながるエシカル消費を行う責任が求められている。

しっかり頭に整理できましたか?

さて、次回は「労働問題」に入ります。
【次回の問い】
「アルバイトで『売れ残った商品を自腹で買い取れ』と言われたら、あなたはどうしますか? 会社やバイト先は、本当に労働者を自由に使っていいのでしょうか?」
働いてお金を得る権利、そして自分たちの身を守る労働法の世界へ踏み込んでいきます。お疲れ様でした!


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