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【公共講義録】経済編#8 経済成長と景気循環

みなさん、こんにちは。
前回は「国全体の稼ぎ」を表すGDPの仕組みと、そこからは見えてこない家事労働や環境破壊といった「GDPの限界」について学びました。最後にお話しした通り、今回はそのGDPの数字に隠された「ある最大のギミック」を暴くところからスタートします。
今日のテーマは「経済成長と景気変動」。ニュースで毎日のように耳にするインフレデフレ、そして「景気がいい・悪い」という波の正体に迫ります。
授業の始まりに、みなさんのお財布に直結するこんな問いを考えてみましょう。
『みなさんのお小遣いが、今年から「月5000円」から「月1万円」に2倍に増えたとします。これだけ見たらめちゃくちゃ嬉しいですよね。
でも、もし世の中のすべてのモノの値段(マクドナルドのハンバーガーも、コンビニのジュースも、スマホの通信費も)が、同時に「3倍」に値上がりしていたとしたら……みなさんの生活は、お小遣いが増える前よりも豊かになったと言えますか?それとも貧しくなりましたか?』
金額が2倍になっても、モノの値段が3倍になっていたら、買えるモノの量はむしろ減ってしまいますよね。
つまり、生活は前より「貧しくなった」が正解です。
今日の授業を受けると、「なぜ給料が上がっても生活が楽にならないことがあるのか」「なぜ景気は良くなったり悪くなったりを繰り返すのか」という、私たちの生活を翻弄する経済のバイオリズム(現在地)が完璧に見えてきます。
ここが分かると、ニュースの経済ニュースがバラエティ番組くらい身近に感じられるようになりますよ。

1. 「名目」と「実質」:物価のギミックを見破れ!
経済を正しく測るためには、モノの価格の平均値である物価の動きを無視することはできません。
ここで、前回の予告にもあった名目経済成長率実質経済成長率の違いを、シンプルに整理しましょう。
ある国が、1年間に「100円のハンバーガー」を10個作って売ったとします。
この年のGDPは「100円×10個=1000円」ですね。
次の年、ハンバーガーが値上がりして「200円」になりました。でも、売れた個数は同じ「10個」でした。この年のGDPは「200円×10個=2000円」になります。

  • 名目経済成長率: 金額をそのまま比べる成長率。1000円から2000円に「2倍(100%アップ)」になったので、名目で見ると大成長しているように見えます。

  • 実質経済成長率:物価の変動による影響を取り除いて、純粋に「生み出されたモノの量」で比べる成長率。どちらの年も作ったのは「10個」ですから、実は経済は1ミリも成長していません(成長率0%)。

  • 共通テスト対策のコツ:

共通テストでは、この2つの違いがデータ読み取り問題で頻出です。
「名目GDPが増えているからといって、国民が豊かになったとは限らない(物価が上がっただけかもしれない)」という視点を持てるかどうかが、得点を分ける大きなポイントになります!

2. インフレとデフレ:私たちの生活への影響
このように、物価が上がり続ける現象をインフレ(インフレーション)、逆に下がり続ける現象をデフレ(デフレーション)と呼びます。
「モノが安くなるデフレの方が、買い物しやすくてハッピーじゃない?」と思う人がいるかもしれません。実はここに、現代日本が長年苦しんできた罠があります。インフレ・デフレの生活への影響を、表でスッキリ整理してみましょう。

※注:景気が拡大する中で起こる緩やかなインフレでは、企業の業績やみんなの給料は上がりやすくなります。ただし、景気が良くないのに原材料の価格だけが跳ね上がって起こるインフレ(コストプッシュインフレ)の時は、企業も家計も逆に苦しくなるので注意が必要です。
デフレになると、一見買い物は楽になりますが、企業の売上が減るため、巡り巡ってみなさんの保護者の給料やボーナスがカットされたり、将来の雇用の枠が削られたりします。
これが「物価が下がる→企業の利益が減る→給料が下がる→みんなが買い物を我慢する→さらに物価が下がる」という恐ろしい悪循環(デフレスパイラル)を引き起こすのです。

3. なぜ経済は成長するのか?イノベーションの力
では、物価のギミックを取り除いた上で、国が本当に豊かになる(実質経済成長率がプラスになる)ためには、何が必要なのでしょうか。
単に、今までと同じモノを同じように作っているだけでは、いずれ市場の拡大(買ってくれる人や地域が増えること)が止まり、経済成長は頭打ちになります。
ここで登場するのが、オーストリア出身の天才経済学者シュンペーターです。
彼は、経済が大きく成長する原動力は、新しい技術やアイデアを組み合わせる技術革新(イノベーション)、別名新結合であると唱えました。
みなさんが毎日使っている「スマートフォン」。これが生まれる前と後で、私たちの生活や周りのビジネスはどう変わったでしょうか?
スマホという1つの技術革新(イノベーション)が起きたことで、従来のガラケー(携帯電話)が姿を消しただけでなく、デジタルカメラや地図の本、時計が売れなくなる代わりに、新しいアプリ開発、動画配信、SNSマーケティングといった全く新しい市場の拡大が一気に進みました。
シュンペーターは、このように古いものが新しいものへとダイナミックに壊され、塗り替えられていくことで経済がガラリと進化することを「創造的破壊」と呼びました。
これこそが、本物の経済成長のエンジンなのです。

4. 景気はめぐる:4つのステージと景気循環
最後に、私たちの生活をリアルタイムで一喜一憂させる「景気の波」について学びましょう。
経済全体の活動の勢いの変化を景気変動(または景気循環)と呼び、景気はまるで四季のように好況後退不況回復 という4つの局面をぐるぐると繰り返しています。


  • 好況(ブーム): モノがよく売れ、企業の利益が増え、みんなの給料も上がって世のない全体が明るい状態。

  • 後退: 売れ行きに陰りが見え始め、経済の勢いがスピードダウンしていく状態。

  • 不況(スランプ): モノが売れず、売れ残った在庫が山積みになり、企業の倒産や失業者が増える苦しい状態。

  • 回復: 企業の在庫整理が終わり、新しい設備投資などが始まって、少しずつ景気が上向きになる状態。

不況が極端に深刻化し、株価が大暴落して銀行や大企業が次々と連鎖倒産するようなパニック状態のことを恐慌と呼びます。
歴史の授業で習う1929年の「世界恐慌」などがその代表例ですね。この世界恐慌では日本にもきわめて大きな影響が及び、のちに「歴史総合」の授業で詳しく学ぶ昭和初期の緊迫した政治や社会の動きへとダイレクトにつながっていきます。

  • 現代のトレンド(現在地):

「じゃあ、今は4つのうち、どこのステージにいるの?」と思いますよね。現代の経済学では、景気が悪くなりすぎたり、逆に良くなりすぎてインフレが止まらなくなったりしないよう、国や中央銀行(日本銀行)が裏でブレーキを踏んだりアクセルを踏んだりして、この波の振幅をできるだけ小さくコントロールしようとしています(これについては後の「財政・金融政策」の単元でじっくりやります!)。

現代の経済学では、この景気の波(景気循環)には「周期(長さ)の異なる4つの波」があると考えられています。共通テストでも「誰が発見した、何の波か」が非常によく狙われるポイントですので、ここでスッキリ整理しておきましょう!

景気をうごかす「4つの波」
景気の波は、その原因によって数年の短いものから、数十年におよぶ超ロングスパンのものまであります。周期が短い順に紹介しますね。
① キチンの波(周期:約3〜4年)

  • 原因:企業の「在庫」の調整

  • 覚え方: 一番短い波です。企業が「モノを作りすぎちゃったから生産を抑えよう」「在庫が減ってきたからまた作ろう」と調整することで生まれる、身近なミニサイクルです。

② ジュグラーの波(周期:約7〜10年)

  • 原因:企業の「設備投資」

  • 覚え方: これが経済学でいう「主たる景気循環」の正体です。企業が工場を建てたり、新しい大型機械を一斉に導入したりするタイミング(約10年ごとの買い替え時期)に合わせて起こる波です。

③ クズネッツの波(周期:約20年)

  • 原因:建て替えなどの「建設投資」

  • 覚え方: 家やビル、工場などの建物は、だいたい20年くらいで大規模な改修や建て替えの時期を迎えます。この「建設ラッシュ」の周期によって生まれる、やや長めの波です。

④ コンドラチェフの波(周期:約50〜60年)

  • 原因:社会をガラリと変える「技術革新(イノベーション)」

  • 覚え方: さきほど登場したシュンペーターの理論と一番深く結びついているのが、この約半世紀に一度の超巨大な波です。蒸気機関の発明、鉄道の開通、電気や化学の発展、そしてインターネットの普及など、歴史の教科書に太字で載るレベルの巨大な技術革新が起きるたびに、世界経済全体が50年規模で大きくうねるように成長していきます。

共通テスト対策・暗記のゴロ合わせ 周期の短い順に、人名の頭文字をとって「キ・ジュ・ク・コ」と呪文のように覚えてしまいましょう!

  • (キチン=3年・在庫)

  • ジュ(ジュグラー=10年・設備)

  • (クズネッツ=20年・建築)

  • (コンドラチェフ=50年・革新)

テストでは「キチンの波の原因は設備投資である」といった、名前と原因をシャッフルしたひっかけ問題が定番なので、この組み合わせさえ押さえておけば完璧です!

今日の「現在地」とまとめ
今日の授業の現在地を整理しましょう。
私たちはつい「金額(名目)」の増減だけで一喜一憂してしまいがちですが、本当に大切なのは物価の動きを見極めた「実質」の豊かさです。そして、その豊かさを引き上げるのは、いつの時代もシュンペーターの言う技術革新(イノベーション)です。景気の波(景気循環)に振り回されず、今がどの局面にあるのかを冷静に見極める目が、これからの社会を生きる私たちには求められています。
共通テスト対策の重要ポイント!

  1. 物価の変動をそのまま含んだものを「名目」、物価の影響を取り除いたものを「実質」という(共通テストのデータ問題の基本!)。

  2. 物価が上がり続けるのがインフレ、下がり続けるのがデフレ。デフレは給料低下の悪循環を招くリスクがある。

  3. 経済成長の本質的な原動力は、シュンペーターが唱えた、新しい組み合わせである新結合、すなわち技術革新(イノベーション)である。

  4. 景気は好況後退不況回復の4つの局面をループ(景気循環)しており、深刻な不況のパニックを恐慌という。

ニュースで「実質経済成長率がプラス」という報道を見たとき、「あ、物価の手品に騙されずに、ちゃんと日本のモノ作りの量が増えたんだな」と気づけたら、今日の授業の知識は完全にみなさんのものです!
それでは、今日の授業はここまで。お疲れ様でした!

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