【公共講義録】経済編#23 公害と環境問題〜公害・ゴミ問題・循環型社会〜
今日のテーマは、社会科の教科書の中でも一番「身につまされる」分野、公害防止と環境保全、そして循環型社会についてです。
最初に、皆さんにひとつ問いを投げかけます。
【問い】
「便利で豊かな生活」「経済の成長」と「自分や家族の健康・安全な環境」。
もしこの2つがバッティングしたとき、政治や法律はどちらを優先すべきでしょうか?
「そんなの健康に決まってるじゃん」と思いますよね。でも、日本の歴史を振り返ると、私たちは長らく「経済成長」のアクセルを全力で踏み込み、その陰で大きな代償を払ってきました。
今日は、日本が直面してきた環境問題の歴史を追いながら、それが現代の私たちの「暮らし(ゴミ問題やプラスチック)」にどうつながっているのか、その「現在地」を一緒に確認していきましょう!
1.公害の原点と「負の遺産」
日本の環境問題の原点は、明治時代にまで遡ります。教科書にも必ず出てくる足尾銅山鉱毒事件です。
日本の近代化を支えるために銅を採掘した結果、銅山から出た有毒な物質が渡良瀬川に流れ込み、農作物や魚が全滅、住民の健康が害されました。このとき、命がけで明治政府に惨状を訴え、天皇に直訴までしようとした政治家が田中正造でしたね。
「事業を優先し、人間の命や生活を後回しにする」という構図は、残念ながら戦後の高度経済成長期に、より大規模な形で再現されてしまいます。
ところで、皆さんは法律上の「公害」の定義を知っていますか?
単に「街が汚い」ということではありません。事業活動などによって、人の健康や生活環境に被害が出ることです。
特に法律では、大気汚染・水質汚濁・土壌汚染・騒音・振動・悪臭・地盤沈下の7つが典型七公害と呼ばれ、公害対策基本法(現在は環境基本法に引き継がれる考え方)で明確に整理された分類となっています。
この公害の中でも、1950年代から60年代にかけて全国で深刻化したのが四大公害病です。共通テストでも超頻出ですから、原因物質と場所をセットでしっかり整理しておきましょう。

これらは単なる病気ではありません。「魚を食べたら手足が痺れる」「息が吸えなくて横にもなれない」といった凄まじい症状をもたらし、地域のコミュニティや家族の絆まで破壊してしまったのです。
2.ルールが変わった!公害対策の進展と法整備の流れ
住民たちは黙っていませんでした。被害者たちが立ち上がり、裁判を起こします。これが四大公害訴訟です。4つの裁判すべてで原告(被害者側)が勝利しました。
これを受けて、国もようやく本格的に動き出します。この「法律と行政組織の歴史的変化」は共通テストで非常によく狙われますから、セットで覚えておきましょう!
【日本の環境法・行政の歩み】
1967年 公害対策基本法 制定(公害の防止に特化)
↓
1970年 「公害国会」(経済優先ととれる「調和条項」を削除)
↓
1971年 環境庁 設置(公害行政の一元化)
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1993年 環境基本法 制定(地球環境や自然保護へ視野を拡大)
↓
2001年 環境省 へ昇格(省庁再編に伴い中央省庁へ)
※1967年の公害対策基本法は、あくまで「公害への対応」を主な目的とした法律でした。しかし、時代とともに地球温暖化や自然保護など新しい課題が増えたため、1993年には環境基本法が制定され、日本の環境政策の新たな基本法となりました。
ここで、共通テストで差がつく重要概念を3つ伝授します。ノートの準備はいいですか?
① 無過失責任の原則
通常の法律(民法)では、「故意(わざと)または過失(うっかりミス)」がなければ損害賠償を払わなくてよいのが原則です。
しかし、公害病の場合、企業側が「安全だと思って出していた」「過失はなかった」と言い逃れできてしまうと、被害者は救われません。
そこで、「たとえ企業に故意や過失(うっかりミス)がなかったとしても、害を出して人に損害を与えたなら賠償義務を負う」という無過失責任のルールが公害防止の法律に導入されました。
② 汚染者負担の原則(PPP:Polluter Pays Principle)
「公害をきれいにする費用や、被害者の救済資金は、原因を作った企業(汚染者)が全額負担しなさい」という国際的なルールです。
例えば、工場が川を汚したなら、税金で後始末をするのではなく、汚した工場が全額その費用を負担するという考え方ですね。
③ 濃度規制から総量規制へ、そして環境アセスメント
昔は「薄めれば排気ガスを出してもいいよ」という濃度規制でした。でも考えてみてください。薄めても、工場が100軒に増えたら全体の排出量は増えますよね?
そこで、地域全体で出せる有害物質の『上限合計』を決める総量規制へと変化しました。
さらに、「壊れた環境を直す」から「壊す前に防ぐ」へ意識がシフトします。大きな開発工事をする前に、あらかじめ自然や住民への影響を調査・予測・評価する仕組み、それが環境アセスメント(環境影響評価)です。
3.1980年代以降の変容:煙突の煙から「暮らしのゴミ」へ
さて、ここから時代の流れが変わります。
工場からの煙や毒水といった「目に見える公害(産業公害)」は、企業の技術開発や法律の規制でかなり抑えられました。
しかし、80年代以降、私たちが直面したのは別の新たな課題です。
それが社会の構造変化が生み出した「都市型・生活型公害」と「ゴミ問題」でした。
大量生産
↓
大量消費
↓
大量廃棄
↓
処分場不足(ゴミの埋立地がなくなる!)
↓
【循環型社会】への転換が不可欠に!
【問い】
工場の煙を止めても、私たちが毎日出しているゴミが地球環境に大きな負荷を与えているとしたら……?
1980〜90年代にかけて、次のような新たな問題が次々と噴出しました。
産業廃棄物と最終処分場の不足:ゴミを埋める場所(埋立地)が日本中からなくなってきた!
ダイオキシン類:ごみ焼却炉などから発生する猛毒物質。焼却炉の高温化などで対策が進められました。
アスベスト(石綿):建材などに使われていたが、吸い込むと数十年後に肺がんなどを引き起こすことが判明し、使用禁止に。
原子力発電所とエネルギー問題:高度経済成長を支えるエネルギーとして急速に増えた原発ですが、安全管理や放射性廃棄物の処分という巨大な課題を抱え続けています。
4.1990年代以降:ゴミを資源へ!「循環型社会」への転換
「もう捨て続ける限界だ!」と気づいた日本は、1990年代から2000年代にかけて、社会の仕組みを根本から変える法律のセットを整備しました。
その頂点にあるのが、2000年に制定された循環型社会形成推進基本法です。
ここで登場するのが、皆さんおなじみの3Rの原則です。実はこれ、共通テストでもよく狙われる「優先順位」がガチッと決まっているのを知っていましたか?
リデュース(Reduce:発生抑制):【最優先!】そもそもゴミを出さない。無駄な包装を断る、マイバッグを使う。
リユース(Reuse:再使用):出たゴミをそのまま使う。メルカリやフリマアプリで売る、洗って瓶を再利用する。
リサイクル(Recycle:再生利用):【最終手段】一度原料に戻して作り直す。ペットボトルから服を作るなど。
「リサイクルすればいいんでしょ?」と思いがちですが、リサイクルにもエネルギーやコストがかかります。だから一番大事なのは「リデュース(買わない・作らない・捨てない)」なんです!
この思想に基づき、個別物品のリサイクル法が次々と作られました。特に共通テストでよく問われる家電リサイクル法は押さえておきましょう!
エアコン・テレビ・冷蔵庫・洗濯機の4品目などは、家電リサイクル法に基づき、排出者(消費者)が料金を負担し、メーカー(製造者)が回収して再資源化する仕組みが整えられています。このほかに容器包装リサイクル法や食品リサイクル法なども制定されました。
現代の最前線:マイクロプラスチックと新法
そして今、私たちが最も注視しているのがマイクロプラスチック問題です。
海に流出したプラスチックゴミが波や紫外線で砕け、5mm以下の微細な粒子になります。これを魚などの海洋生物が取り込み、それが食物連鎖を通じて人間にも影響を及ぼす可能性が懸念されているのです。
これを受けて、2022年にはプラスチック資源循環促進法が施行されました。コンビニのプラスチックスプーンの有料化や辞退の確認など、使い捨てプラスチックの削減に向けた新たなルール作りが進んでいます。
5.【公共の視点】現代の環境ビジネスと持続可能な社会
最後に、今日学んだ内容を「現代の経済・社会の最前線」とつなげてみましょう。3つの最新キーワードを紹介します。
① SDGs(持続可能な開発目標)
国連が掲げるSDGsの目標12「つくる責任 つかう責任」は、まさに私たちが今日学んだ循環型社会の考え方そのものです。単に生産して売るだけでなく、捨てられた後のことまで考えて製品を作る責任が企業に求められています。
② ESG投資
「公共」の経済分野で重要になるのが、企業の資金調達の変化です。投資家が企業にお金を出す際、売上や利益などの財務情報だけでなく、
E(Environment:環境)
S(Social:社会)
G(Governance:企業統治)
を重視して投資先を選ぶESG投資が世界的なトレンドになっています。環境に配慮しない企業は、市場から淘汰される時代になりつつあるのです。
③ サーキュラーエコノミー(循環経済)
従来の「作って、使って、捨てる」という一方向の経済(リニアエコノミー)から脱却し、設計段階から「捨てる前提」をなくし、資源を社会の中で何度も循環させ続ける経済の仕組みをサーキュラーエコノミー(循環経済)と呼びます。単なるボランティアではなく、環境保全をビジネスモデルそのものに組み込む動きです。
6.まとめと次回へのステップ
今日のポイントをギュッとまとめます。
かつて(高度経済成長期):経済優先の中で四大公害病が発生。→ 住民訴訟を機に公害対策基本法や無過失責任、汚染者負担(PPP)が確立。のちに環境基本法(1993)へ発展し、環境省(2001)が設置された。
現代(1990年代〜):大量廃棄から脱却するため循環型社会形成推進基本法をつくり、3R(リデュース最優先)へシフト。現代ではESG投資やサーキュラーエコノミーへと進展。
環境問題は、「誰か悪い企業がいて、そいつを罰すれば解決する」という時代から、「私たちが選ぶ商品、捨てる行動、そして社会全体の経済システム」をどう変えていくかという課題へと進化したのです。
次回予告:地球規模の環境問題へ!
日本国内では法律や技術によって改善が進んだ環境問題も、地球温暖化のように一国だけでは解決できない課題が増えています。
そこで次回は、日本から世界へ視野を広げ、酸性雨、オゾン層破壊、そして地球温暖化といった「国境を持たない地球規模の環境問題」に対して、国際社会がどのように協力して取り組んでいるのか(京都議定書やパリ協定など)を見ていきましょう。予習してきてくださいね!
