【公共講義録】経済編#10 銀行の信用創造と金融政策
みなさん、こんにちは。
前回は、お金が余っているところから足りないところへ流れる「金融」の基本や、直接金融・間接金融の違いを学びました。今回は、そのお金の流れの「主役」である銀行が持つ、まるで手品のような驚くべきパワーを暴きます。
今日のテーマは「銀行と信用創造・中央銀行の働き」。
授業の始まりに、銀行の裏側に隠された「最大の秘密」に迫る、こんな問いから考えてみましょう。
みなさんが銀行に10万円を預けたとします。通帳にはしっかりと「10万円」と記録されますよね。
銀行はその10万円を、そのまま金庫に鍵をかけて保管しているでしょうか?……いいえ、前回学んだ通り、銀行はそれを別の人や企業に「貸し出し」に回しています。
では、ここで不思議に思いませんか? みなさんの10万円は「企業に貸し出されて、もうそこにはない」はずなのに、なぜみなさんはスマホアプリやATMで、いつでも自分の10万円を「引き出す」ことができるのでしょうか?お金が2倍に増えていないと、辻褄が合わない気がしませんか?
「確かに言われてみればおかしいな」と思ったあなた、鋭いです。実は、銀行という組織は、法律に認められたルールの中で「世の中のお金を何倍にも増やすパワー」を持っています。
今日の授業を受けると、「銀行がお金を生み出す魔法の仕組み」や、「ニュースで毎日報道される『日銀の利上げ』が私たちの生活にどう影響するのか」という、現代経済のコントロールセンターの仕組み(現在地)が見えてきますよ。
1. 銀行の魔法:信用創造の仕組み
銀行が、貸し出しを繰り返すことで、最初のお金の何倍もの預金(お金)を世の中に生み出していく仕組みのことを信用創造(または預金創造)と呼びます。
「お金を生み出すなんて、お札を偽造しているの?」と思うかもしれませんが、そうではありません。
現代のお金の大部分が、お財布の中の現金ではなく「口座のデータ(預金通貨)」だからこそ成り立つ仕組みです。
分かりやすく、具体的な数字でステップを見てみましょう。
①
ステップ1:最初の預金とルール
Aさんが100万円を預ける1.ステップ1:最初の預金とルール:Aさんが100万円を預ける。
AさんがX銀行に100万円を現金で預けました。 ここで銀行にはルールがあります。預金者が「お金を返して」と言ってきた時のために、預かったお金の何%かは必ず手元(中央銀行の口座)に残しておかなければなりません。これを「準備金」と言います。仮にこのルール(預金準備率)を「10%」としましょう。
②
ステップ2:最初の貸し出し
残りの90万円を貸し出す2.ステップ2:最初の貸し出し:残りの90万円を貸し出す。
X銀行は、100万円のうち10%の10万円を準備金としてキープし、残りの90万円を「お金を借りたい」というB企業に貸し出します。
このとき、銀行はB企業に現金を渡すのではなく、B企業の口座に「90万円」と数字を書き込みます。
③
ステップ3:支払いのループ
90万円が次の銀行へ3.ステップ3:支払いのループ:90万円が次の銀行へ。
B企業は、取引先への支払いのために、その90万円をCさんの口座(Y銀行)に振り込みました。
すると、今度はY銀行に90万円の預金が生まれたことになります。
④
ステップ4:次の貸し出し
さらにその9割を貸し出す4.ステップ4:次の貸し出し:さらにその9割を貸し出す。
Y銀行も、預かった90万円のうち10%(9万円)をキープし、残りの90%である81万円を、別の企業に貸し出します。
このループが社会全体で何度も繰り返されると、どうなるでしょうか。 最初のお金はAさんの100万円だけだったはずなのに、世の中にはAさんの100万円の預金、B企業の90万円の預金、次の企業の81万円の預金……と、データ上のお金がどんどん増えていますよね。
これが信用創造の正体です。銀行は、預金と貸し出しの連鎖によって、世の中のマネーストック(お金の総量)を大きく膨らませる役割を担っているのです。
2. お金の神様:日本銀行の3つの顔
では、そんな銀行たちを上から見守り、コントロールしているリーダーは誰でしょうか。それが、日本で唯一の中央銀行である日本銀行(日銀)です。
日銀は、みなさんが普段使っている一般の銀行とは違い、私たちが直接口座を作ったりお金を借りたりすることはできません。日銀には、教科書にも必ず太字で載っている3つの顔(機能)があります。
発券銀行: 日本で唯一、お札(日本銀行券)を発行できる権限を持っています。
銀行の銀行: 一般の銀行(三菱UFJや三井住友など)から預金を預かったり、お金を貸し出したりする、「銀行にとっての銀行」です。
政府の銀行: 国の税金を集めたり、国からのお金を支払ったりする、国家のサイフの管理役です。
知っておきたい経済の裏話:お金の信用の歴史
大昔のお札は、いつでも本物の「金(ゴールド)」と交換できることが法律で約束されていました。
これを金本位制と呼びます。 しかし、これだと国が持っている金の量までしかお札を発行できないため、経済の規模が大きくなるとお金が足りなくなってしまいます。
そこで現代の日本を含む世界各国は、金との交換を約束せず、政府や中央銀行の「信用」だけでお札を流通させる管理通貨制度をとっています。だからこそ、日銀がお金の価値をコントロールする責任は重大なのです。
3. 世の中の温度を調節する「金融政策」
日銀の最も重要な仕事は、世の中に出回るお金の量を調整して、物価を安定させ、景気をコントロールすることです。この舵取りを金融政策と呼びます。
景気が悪すぎる時(不景気)は、世の中にお金をドバドバ流して経済を温めます。逆に、景気が良すぎてインフレが止まらない時(バブル気味)は、世の中からお金を回収して経済を冷まします。
この調節のために使われる、共通テスト超頻出のメインウェポンが公開市場操作(オープンマーケットオペレーション)です。
『いま、世の中がひどい不景気だとします。日銀は一般の銀行に対して、持っている「国債(国が発行した債券)」を「買い取る」べきでしょうか?それとも「売りつける」べきでしょうか? 銀行の金庫にお金が増えるのはどちらか、イメージして考えてみてください。』
正解は「買い取る(買いオペレーション)」です。 日銀が銀行から国債を買い、その代金として銀行にお金を支払うと、銀行の金庫にはお金がたっぷり残ります。金庫にお金が余った銀行は、企業や個人に安い金利でどんどんお金を貸し出すようになるため、世の中にお金が回り、景気が回復へと向かいます。
この仕組みを、日銀のアクションごとに整理してみましょう。

日銀が一般の銀行に国債を「買う」か「売る」か。テストではここが逆になってひっかけ問題が作られます。「日銀が買う=日銀から世の中にお金が流れる」と、お金の動きを矢印でイメージするのが攻略のコツです!
その他のコントロール方法
日銀は、銀行同士がお金を貸し借りする短期金融市場の金利(無担保コールレート)を目標値に誘導することで、世の中全体の金利をコントロールしています。この日銀が誘導目標とする金利のことを政策金利と呼びます。 また、最初に説明した「銀行が必ずキープしなければならない準備金」の割合を上下させる預金準備金操作という手法もありますが、現在の日本では公開市場操作が中心となっています。
今日のまとめ
私たちが何気なく銀行に預けているお金は、信用創造という仕組みによって何倍にも膨らみ、社会の血液となっています。そして、その血液の量や流れるスピード(金利)を、公開市場操作などの金融政策を使って絶妙にコントロールしているのが、中央銀行である日本銀行です。
ニュースで「日銀が利上げを発表(政策金利の引き上げ)」と流れたら、「あ、世の中のお金のめぐりを少しタイトにして、インフレを抑え込もうとしているんだな」と、その意図が手に取るように分かるはずです。
共通テスト対策としての重要ポイント!
銀行が貸し出しを繰り返してお金を増やす仕組みを信用創造という。
日本銀行には発券銀行・銀行の銀行・政府の銀行の3つの機能がある。
現代は、金の保有量に関係なく中央銀行が通貨量を調整する管理通貨制度である。
不景気には買いオペ(金利低下)、インフレ時には売りオペ(金利上昇)を行う。
次回は、政府が主役となるもう一つの経済コントロール術、「財政(国の予算と税金)」について学びます。日銀の「金融政策」と、政府の「財政政策」という、国を動かす2大エンジンの両方がこれで揃うことになります。楽しみにしていてくださいね!
それでは、今日の授業はここまで。お疲れ様でした!
いいなと思ったら応援しよう!
この記事は noteマネー にピックアップされました

