【公共講義録】経済編#5 株式会社のしくみ
みなさん、こんにちは!
今日の授業の始まりに、みなさんにちょっとしたクイズです。
みなさんがよく知っている有名企業、「任天堂」「ソニー」「トヨタ」。これらの会社は一体「誰のもの」でしょうか? 社長さんのもの? それとも働いている社員のもの?
「え、社長じゃないの?」と思った人、実は大間違いです! 今日のテーマは「現代の企業」です。私たちが毎日買い物をしたり、将来働いたりする舞台である会社のウラ側の仕組みを解剖します。
今日の授業を受けると、「なぜニュースで『株価』が一喜一憂されているのか」「大企業の社長がどれだけ偉くても、実はクビにできる黒幕が別にいる」という、大人の社会のリアルなパワーバランスが見えてきます。
第3回の「需要と供給」、第4回の「市場の失敗」という流れを踏まえて、今回は「市場の主役(企業)」の正体に迫ります。
1. そもそも「企業」ってどんな種類があるの?
私たちが普段「会社」と呼んでいるものは、経済学では企業という大きなグループで整理されます。
世の中で経済活動を行う企業は、誰がお金を出して、何のために経営しているかによって、大きく2つに分かれます。
① 公企業
利益を上げることよりも、世の中みんなの利益(公共の福祉)のために、国や地方自治体がお金を出して経営する企業です。 身近な例でいうと、地方自治体が運営する水道局や交通局(地方公営企業)、あるいは国が深く関わる日本銀行や地方公営企業(水道・交通など)などがこれに当たります。
② 私企業
これがいわゆる一般的なビジネスの世界です。個人や民間人がお金を出して、利潤(もうけ)を目指して経営する企業です。
さらに、この私企業の中で一番メジャーであり、法律(会社法)に基づいて設立され、現代経済の圧倒的な主役となっているのが、みなさんも毎日のように耳にする株式会社です。今日の本番は、この株式会社の仕組みです。
2. 株式会社の魔法の仕組み:リスクは「出したお金まで」
もしあなたが「世界中をあっと驚かせる新型スマホ」のアイデアを思いついたとします。でも、工場を建てるには10億円必要です。あなたならどうやってお金を集めますか?
銀行から10億円借りる? もしビジネスが失敗したら、あなたに10億円の借金が残り、人生が破滅してしまいますよね。怖くて誰も新しいビジネスに挑戦できなくなります。
そこで編み出された天才的なシステムが株式会社です。 会社は、細かく小分けにした金額のチケットを発行して、多くの投資家から少しずつお金を集めます。このチケットを株式と言い、このチケットを買って会社にお金を出してくれた応援者のことを株主と呼びます。
もちろん、株主はボランティアではありません。
みんな「この会社が成長して、将来利益(リターン)を分けてくれるはずだ」という期待をもってお金を出しています。
この仕組みの何がすごいかというと、株主の責任は有限責任(ゆうげんせきにん)というルールになっている点です。
例えば、あなたがある企業の株式を10万円分買ったとします。その後、その会社がビジネスに大失敗して、100億円の借金を抱えて倒産してしまいました。でも、あなたのもとに「100億円の借金を代わりに払ってください」という督促状は絶対に届きません。あなたの損は、最初に出した「10万円が紙クズになるだけ」で済むのです。
この「リスクは出したお金の分だけ(有限責任)」という魔法のルールがあるからこそ、世界中の人々が安心して新しい企業にお金を出すことができ、企業は「巨額の資金を調達できる」という大きなメリットを手に入れました。
3. 会社に入るお金と、出ていくお金の解剖図
企業が活動するためには、お金の出入りをきっちり管理する必要があります。ここからは会社のお財布の中身を覗いてみましょう。
会社が集めるお金の2つのルート
自己資本:株主に出してもらったお金(資本金)など、返す必要のない会社自身のお金です。
他人資本: 銀行からの借入金や、企業が発行する借用証書である社債(しゃさい)など、後で利子をつけて返さなければいけない「借金」です。
会社が支払う「コスト」の正体
モノを作って売るためには、当然お金がかかります。 働いてくれた人への人件費や、商品の材料を買う原材料費が必要ですね。そして共通テストでよく引っ掛けとして出されるのが減価償却費です。
例えば、1台1億円の大きな工場機械を買ったとします。買ったその年だけ「コスト1億円!」と記録すると、その年は大赤字になってしまいますよね。でもその機械は10年間使えるとします。だったら、「毎年1,000万円ずつ、10年に分けてコストとして計算しよう」と考えます。この、長く使う設備の費用を何年かに分けて少しずつコストにしていく仕組みを減価償却費と言います。
儲かったお金(利益)の使い道
すべてのコストを引いて、手元に残った純粋な利益。これはどう分け合われるでしょうか?
まずは、お金を出してくれたオーナーである株主に対して、利益の分け前を配ります。これを配当と言います。 しかし、利益をすべて株主に配ってしまうと、会社の手元にお金がなくなってしまいますよね。
そこで、将来のために会社の中に貯金として残しておく分を内部留保と呼びます。
この貯金(内部留保)を使って、新しい工場を建てる設備投資を行ったり、まだ誰も見たことがない新技術を生み出すための研究開発投資(R&D)に回したりして、企業はさらに大きく成長していくのです。
4. 誰がボス?「所有と経営の分離」
さあ、最初の問いの答え合わせです。株式会社は一体「誰のもの」なのか。 もうお分かりですね。答えは、お金を出した株主のものです。
しかし、世界中に何万人、何十万人といる株主が、毎日会社のオフィスに集まって「あーだこーだ」と現場の指示を出すなんて、物理的に不可能ですよね。しかも、株主はただの投資家であって、ビジネスのプロとは限りません。
そこで現代の大企業では、「会社を所有しているオーナー(株主)」と、「実際に現場で会社を動かすプロの役員(経営者)」を完全に別の人に分けようという仕組みをとっています。
これを所有<資本>と経営の分離と呼びます。
プロの経営陣がサボったり、自分勝手な経営をして会社をボロボロにしたら、オーナーである株主はどうやって対抗するでしょうか?
ここで登場するのが、株式会社の最高意思決定機関、株主総会です。
株主たちは、自分が持っている株の数(投票権)に応じて、株主総会で会社の重要な方針に一票を投じます。もし今の社長や役員がダメな経営をしていたら、株主たちは多数決によって「あなたたち経営陣、全員クビ(交代)です!」と、経営陣を交代させられる強力な権限を持っているのです。
だからこそ、大企業の社長や経営陣は、実質の所有者である株主の方を向いて、しっかり利益を出して配当を払うために必死に努力をすることになります。
ただ、ここに現代の株式会社のデメリット(課題)も潜んでいます。
企業が「株主の利益(目先の配当や株価の上昇)を優先しすぎる」あまり、そこで働く従業員のお給料を削ったり、以前学んだ環境破壊(外部不経済)に目を瞑ったりすることがあるのです。「会社は誰のためにあるべきか」は、今も世界中で議論が続いています。
経済のコラム:現代のトレンド「ESG投資」
最近の投資家たちは、ただ「めちゃくちゃ儲かっている会社」だけを応援するわけではありません。 今、世界中の株主が注目しているのがESG投資です。これは、Environment(環境)、Social(社会)、Governance(企業統治・健全な組織体制)の3つの視点をちゃんと大事にしている企業を選んで投資しよう、という動きです。 「利益さえ出せば、環境を汚しても、社員をこき使ってもいい」という企業は、これからの時代、株主からも市場からも見放されていく、というのが現代経済の新しい常識(現在地)なんですね。
今日のまとめ
以前学んだ「需要と供給の法則」。実は、株式会社のチケットである「株価」も、全く同じように市場の需要と供給で決まっています。 「あの会社は成長しそうだぞ(買いたい=需要アップ)」となれば株価は上がり、「あの会社は経営陣がダメだな(売りたい=供給アップ)」となれば株価は下がります。ニュースで株価が毎日動いているのは、世界中の投資家がその企業の価値をリアルタイムで品定めしているからなのです。
共通テストのポイントを整理します!
公企業には地方公営企業や日銀・地方公営企業(水道・交通など)などがあり、私企業の代表が株式会社。
株主の責任は、出資金を限度とする有限責任である。
社債や借入金は他人資本、株式発行による資金などは自己資本。
コストには、固定資産を耐用年数に分けて計上する減価償却費などがある。
所有<資本>と経営の分離により、株主総会が経営陣(取締役)の選任・解任権を持つ。
これで、市場の3大プレイヤー(家計・政府・企業)の仕組みがすべて出揃いました!次回からは、このプレイヤーたちが織りなす「日本経済全体の景気やお金の動き(マクロ経済)」へと、さらにスケールアップしていきますよ。
それでは、今日の授業はここまで。お疲れ様でした!
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