日向坂は独立すべきか①|法人ではなく事業として残った日向坂
日向坂46は、少し不思議な成り立ちを持つアイドルグループである。
前身となる「けやき坂46」は、欅坂46の中から生まれた。やがて独自のメンバー、楽曲、ライブ、番組、ファンを持つようになり、2019年に日向坂46へ改名。単独のグループとしてデビューした。
名前が変わっただけではない。
日向坂46への改名は、それまで欅坂46の内部に存在していたグループが、一つの独立したブランドになった瞬間だった。
一方で、経営の器は分かれなかった。
現在、櫻坂46と日向坂46は、いずれもSeed & Flower合同会社を運営主体としている。ブランドとしては完全に別のグループでありながら、法人としては一つの会社の中に存在している。
つまり日向坂46は、欅坂46から独立した「法人」になったのではなく、同じ法人の中に存在する、独立した「事業」として残った。
この状態は、どのようにして生まれたのだろうか。
乃木坂46と欅坂46には、別の法人が用意された
坂道グループの法人構造を見ると、乃木坂46には「乃木坂46合同会社」という専用の運営法人がある。
その後に結成された欅坂46は、乃木坂46合同会社ではなく、Seed & Flower合同会社によって運営されることになった。乃木坂46と欅坂46は、同じ坂道シリーズに属しながら、異なる法人の中で育てられたことになる。
この事実だけで、坂道グループに「1法人1グループ」という明確な経営思想があったと断定することはできない。
運営側が、なぜ法人を分けたのかを詳しく説明しているわけではないからだ。
それでも、乃木坂46と欅坂46に別々の法人が用意されたことから、少なくとも当時、グループ単位で経営の器を分けることには一定の合理性があると考えられていたのではないか、と推察することはできる。
乃木坂46と欅坂46は、同じ坂道グループでありながら、楽曲、衣装、メンバーの見せ方、番組、ファン文化まで異なるブランドとして育てられた。
それぞれが別の顧客基盤と事業価値を持つのであれば、ブランドの単位と経営責任の単位を一致させることには意味がある。
一つのグループを、一つの事業として経営する。
乃木坂46と欅坂46の法人構造は、結果としてそのような形になっていた。
日向坂46だけ、ブランドと経営単位が一致しなかった
けやき坂46は、最初から独立したグループとして設立されたわけではない。
欅坂46の内部に生まれ、同じ法人、同じ運営基盤の中で活動を始めた。その後、独自のメンバー、楽曲、番組、ライブ、ファンを獲得し、実態として別のグループへ成長した。
そして2019年、日向坂46へ改名した。
ここでブランドとしての独立は実現した。しかし、法人としての独立は行われなかった。
日向坂46には、独自のグループ名とロゴがあり、欅坂46や櫻坂46とは異なる世界観がある。楽曲、ライブ、番組、映像といったコンテンツも、日向坂46というブランドの下で展開されている。
公式サイトやファンクラブなどの情報発信も独立し、日向坂46を応援するファンによる独自の顧客基盤も形成された。
その一方で、経営主体については、櫻坂46と同じSeed & Flower合同会社のままである。
外側から見れば、日向坂46は完全に独立したグループである。しかし経営上は、櫻坂46と同じ会社の中に存在している。
ブランドと顧客は分かれているのに、最終的な経営責任と資源配分の器は共通している。
日向坂46の現在の法人構造には、こうした不一致が残っている。
本当は分けたかったが、分けられなかったのか
日向坂46への改名時に、法人分離が実際に検討されたのかは分からない。
運営側の真意を、外部から断定することはできない。
ただ、経営実務として考えると、欅坂46という新しいグループを立ち上げる際に別法人を用意することと、すでに一つの法人内で動いている日向坂46を後から切り出すことでは、難易度が大きく異なる。
新しい事業を新しい法人で始めるのであれば、これから発生する契約、予算、人員、権利を、その法人へ載せていけばよい。
一方、既存事業を分離する場合には、人材、契約、権利、取引先、システム、予算、業務プロセスを整理し、どちらの法人に帰属させるかを決めなければならない。
特にアイドル運営では、価値の源泉が設備や在庫よりも、人材と暗黙知に集中している。
誰がメンバーを理解しているのか。誰がメディアや制作会社との関係を持っているのか。誰がライブや楽曲制作を動かしているのか。
櫻坂46と日向坂46を兼務するスタッフがいるなら、その人材を単純に二つへ割ることもできない。
その意味では、ブランドだけを独立させ、既存の法人と運営基盤を残した判断には、現実的な合理性があった可能性がある。
日向坂46は、法人として独立しなかったというより、当時の状況では独立させにくかったのかもしれない。
組織再編は、正しさだけでは実行できない
ここで、運営側を単純に批判することは避けたい。
組織再編は、理想的な姿が見えているだけでは実行できない。
契約や権利を整理し、日々の活動を止めずに移行し、必要な人材を確保する必要がある。さらに、分離後の日向坂46を誰が経営するのかまで決めなければならない。
日向坂46が改名した2019年当時、既存の運営体制を維持することは、グループの勢いを止めず、活動を安定させるための合理的な選択だったとも考えられる。
そして日向坂46は、改名後に大きく成長した。
ブランドが順調に成長している間、法人構造の不一致は問題として表面化しにくい。
同じ会社の中でも十分な経営資源を得られ、メディア露出が増え、ライブ規模が拡大しているのであれば、大きな再編コストを負担してまで法人を分ける理由は乏しい。
問題は、外部環境やグループの成長局面が変わった後である。
過去に合理的だった構造が、今も合理的とは限らない
アイドルを取り巻く環境は変化している。
テレビ、CD、冠番組、ライブといった従来の成功モデルだけでなく、SNS上での高頻度な発信、個人単位での認知獲得、市場の反応に応じた素早い投資、グループ固有のブランド戦略が重要になっている。
こうした環境では、複数のグループを一つの運営モデルの中で管理するだけでは、それぞれに必要な変化へ十分に対応できない可能性がある。
櫻坂46と日向坂46は、同じ坂道グループであり、同じ法人に属している。
しかし、現在抱えている課題や、必要とする戦略まで同じとは限らない。
一方のグループに必要な施策が、もう一方にも適しているとは限らない。経営資源が有限である以上、予算、人材、経営陣の時間、メディアへの営業機会などを、どのように配分するかという判断も避けられない。
そのとき、日向坂46単体にとっての最適解より、Seed & Flower全体としての最適解が優先される可能性が生まれる。
もちろん、実際の社内体制や意思決定過程は公開されていない。
櫻坂46と日向坂46の間で、どの程度人員や予算が共有されているのかも分からない。グループごとに独立した予算や、専任のチームが置かれている可能性もある。
だから、日向坂46が同じ法人に存在していることだけを理由に、現在の課題をすべて法人構造へ帰結させることはできない。
ただし、一つの法人の中に二つのグループが存在する以上、最終的には両方を含む会社全体としての判断が存在する。
日向坂46が再び大きく成長するために、この構造が現在も適しているのかは、改めて考える価値がある。
問題は、法人を分けなかったことではない
日向坂46の現在を、「2019年に別法人を作らなかったから」とだけ説明するのは単純すぎる。
当時には当時の合理性があっただろうし、法人を分けていれば必ず成功したとも言えない。
問題があるとすれば、ブランドと経営単位が一致しない状態を、その後も再検討しなかった可能性にある。
法人分離が難しいのであれば、別の方法も考えられる。
日向坂46専任の事業責任者を置く。独立した予算や損益管理の単位を設ける。営業、制作、メンバーマネジメントを専任化する。社内カンパニーのような形で、意思決定と責任の範囲を分ける。
実際にどのような内部体制が取られているのかは分からない。
それでも、日向坂46を一つのブランドとして再成長させるのであれば、楽曲やメンバーだけではなく、日向坂46を一つの事業として誰が経営し、どこまで責任を負うのかという問いは避けられない。
日向坂46は、欅坂46から独立した。
しかし、その独立は、ブランドの独立で止まっていたのかもしれない。
日向坂46の問題は、法人を分けなかったこと自体ではない。
ブランドと経営単位の不一致を、経営課題として扱ってきたのかということではないか。
ただし、複数のアイドルグループを一つの法人で運営すること自体が、悪いわけではない。
実際、KAWAII LAB.、いわゆるカワラボは、複数のグループを同じ事業基盤の上で運営しながら、グループを横断した企画や相互送客を生み出しているように見える。
同じ複数グループ運営でも、なぜカワラボでは相乗効果が見えやすく、坂道グループでは比較や資源競合が起きやすいのか。
次回は、坂道グループとカワラボの運営モデルを比較しながら、1法人で複数のアイドルグループを運営する意味について考えてみたい。
#日向坂46
#櫻坂46
#欅坂46
#坂道グループ
#アイドル
#エンタメビジネス
#ブランド戦略
#組織論
#経営
#note
#毎日note
#毎日投稿
【その他関連コンテンツは以下からご覧ください】
【よく読まれている記事はこちらからご覧ください】
【はじめての方はこちらもぜひご覧ください】
