フランス ユニテ・ダビタシオン
フランス南部のマルセイユに建つユニテ・ダビタシオンは、世界的巨匠のル・コルビジェが設計したコンクリート打放しの中高層アパートメントです。1952年に完成し、当時はその奇抜さ(粗野なコンクリの巨大な箱形デザイン)から「狂人の家」と言われ、市民から酷評されていました。しかし、その後、意匠的な目新しさや知性ある空間設計により、2016年には世界遺産に登録されました。今日はそんなユニテ・ダビタシオンの環境デザインの魅力について解説していきます。

まずは外観です。テトリスゲームのように、箱がボコボコ積層したブロック積みを想起させるデザインです。この箱形状により、外装窓ガラスが外壁面よりすこし引っ込んだ部分に設置されるため、バルコニー空間が形成され、直射日光の影響も軽減できる(日陰空間になる)設計になっています。これにより、各住戸では夏場の強い日差しを遮りながら、比較的涼しい空間を確保することが出来るのです。そんな凹状の箱が全面的に外装に展開されて、個性のあるユニークな見た目になっています。

近くで見るとさらに興味深いデザインになっています。まずは各住戸のバルコニーの手すりがドット状の小さい穴がポツポツ空いた形状になっていますが、これは穴あきコンクリートブロックを積み上げたものです。これにより、適度に光と風を室内に取り入れながら、プライバシー確保に成功しています(中高層だと地上から足元を覗き込まれるリスクがあるため)。また、その上に水平状のコンクリの羽板がありますが、これはライトシェルフと言い、太陽光がこの水平板に反射して、室内の天井部分に入光し、室内を明るく開放的に感じさせることのできる知的なデザイン手法です。

さて、今度は地上部を見てみましょう。荒々しいコンクリートの巨大柱と天井が見えます。建築家ル・コルビジェはピロティ空間を近代建築の重要な要素として普及させました(ピロティはフランス語で杭の意味)。これにより、建物を持ち上げて地上部分を開放的にすることで、屋根のある公共空間を創り出し、庭とも空間的に連続させることで、回遊性のある外構デザインを実現しました。また、駐車場としても使えるため、実用的でもありました。当然に上層部分の建築を持ち上げる必要があるため、柱も太く設計されました。上の写真から頑強なコンクリ柱が見て取れます。ちなみに、柱のテクスチャーをよく見てみると、細長い板状の線が連続した表現になっていますが、これはコンクリートの型枠(木板)がそのまま転写されたもので、素材感を感じさせる荒々しい独特な仕上がりになっています。

さて、建物に入って中廊下を見てみましょう。赤・青・緑などのカラフルでポップな内装になっています。無機的なコンクリートの表現を打ち消すかのような活気あるデザインです。外装でもところどころにカラフルな表現がありましたが、ル・コルビジェは知人の画家アンリ・マティスに色彩計画のアドバイスを受けて、このような表現を取り入れたと言われています。コンクリートの灰色の味気無さや単調さを少しでも軽減し、明るく鮮やかな要素を取り入れ、空間に活力を与えることに成功しています。

さて、断面図を見てみましょう。上の写真で見た中廊下は原則3階ごとに配置されており(断面図で青色でハイライトされた部分)、その間はメゾネット空間(住戸内が2階建ての造り)になっています(断面図にてL字型で赤色とオレンジ色の2種類の空間があることが分かります)。またバルコニー部分は緑色の2層使いの部分が先程の穴あきブロックテラスとその上の羽板のあるライトシェルフの空間です。このデザインから何が言えるかというと、すべての住戸に左右両側にバルコニーがあるため、自然通風・自然換気が促進されて、涼しく新鮮な空気を常に享受できるということなのです。いわゆるクロス・ベンチレーションと呼ばれる環境デザイン手法です。

さて、そのバルコニーの様子を見てみましょう。穴あきブロックバルコニーから自然風を室内に取り入れ、反対側のバルコニーまで風を通風させることができるのです。また、バルコニーの上にはめ殺しの格子状の窓があることが分かりますが、これがライトシェルフと呼ばれる省エネ照明手法で、外にある水平状の羽板に反射された太陽光がこの窓を通じて、室内に入光し、天井部分を明るく照らす設計になっています。そして、その明るさを室内前提に拡散させるために、反射効果の高い白色の内装塗装にしているのも知的です。建物周辺に高い建物が少ないため、海風や山からの吹き下ろし風が入りやすく、とても涼しく快適な空間になります。

さて、さらに上の住戸パースを見てみましょう。左側のバルコニーから風が入って、階段を通って右側のバルコニーに風が抜けていく構図が確認できます。ここでは温度差換気(室内で温められた空気は密度が低くなり軽くなり上昇する)により、外気が温められ、空気が室内の階段を自然に上っていき、反対側の部屋より外部へ抜けていくという物理の法則を使っているのもとても知的です。さらに、左側バルコニーの2人の人間の頭上に水平の羽板がありますが、これに直射日光が反射して、室内に入光していく工夫も見て取れます。バルコニーを上手に使って省エネ空調・照明を実現しているのです。

こちらは、バルコニーからみた住戸内の様子です。階段により2階に空間が続いていき、空気の誘導空間(クロス・ベンチレーションの促進)になっていることが分かります。また、上層階の窓も開閉可能なため、ここからも直接通風をとることが可能です。さらに、室内は極力白色にすることで、ライトシェルフからの自然光を反射・拡散させて、明るい空間を実現しています。また、手前は吹き抜けになっていて、リビングがより開放的になる工夫もされています。

さて、最後に屋上の写真です。マルセイユは南仏の地中海に面した街であり、海風がとても気持ちよく吹き込んできます。屋上ではそんな清涼な海風に当たりながら、涼しく快適に過ごすことが出来るのです。また、ユニテ・ダビタシオンは地上18階建てで周辺の建物より高いことから、抜群の眺望を楽しむことができます。他にも屋上階にはプールがあったり、講堂があったりして、住民同士が共同空間として交流し楽しめる施設も併設されています。建物内には他にもホテルや商店街や保育園などもあり、あたかも建物がひとつの街を形成しているような構成になっています。ル・コルビジェはユニテ・ダビタシオンを通じて、従来の水平的な街を垂直的な街(中高層ビル内で完結する街)に翻訳し、機能性や利便性を追求しました。当時にしてはとても革新的なデザイン手法だったと思われます。

ユニテ・ダビタシオンは巨大なコンクリートの箱でありながら、自然エネルギー(光・風)を巧みに室内に取り入れ、極力電気を使わなくても空調・照明できるように工夫した省エネ建築です。また、それが凹型バルコニーによって実現されることで、意匠的にもユニークな形状となりました。マルセイユの中心地から電車・バスで1時間ほどでアクセスできるので、是非機会があったら訪れてみてください。
カバー写真出典:SEMMAG
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