鴨のローストが教えてくれた、「効率の良い勉強法」の正体。
仕事納めを迎え、ホッと一息ついている方も多いのではないでしょうか。
江戸川区で「東都ゼミナール」という学習塾を経営しています。
世間は年末のお休みモードに入りつつありますが、塾業界にとってはこの数日間こそが「冬期講習」のピーク。
受験生と共に、朝から晩まで教室に詰める日々が続いています。
そんな戦場のような日々の合間に。
どんなに忙しくても、クリスマスのディナーは外食ではなく自分で作るのが我が家のルールです。
今年も冬期講習の準備の合間でフルコースを仕込みました。
これは、その時の「料理の記録」であり、そこで改めて感じた「プロと素人の違い」についての話です。

「再現」はできても、「正解」が出せない
出来上がった鴨のローストを、妻は「美味しい!お店みたい!」と喜んでくれました。 私も、それなりに上手くできたとは思います。
でも、一口食べた瞬間に、自分の中では少し複雑な気持ちになりました。
「……何かが、違う」
外苑前にあった『オルグイユ』や、茅場町の『アサヒナガストロノーム』でたべた鴨料理。
もちろん、今日作ったものとはソースも盛り付けも違います。 ですが、目指したのは、あの時味わった「圧倒的な完成度」です。
舌の記憶を頼りに、丁寧に下処理をし、ソースを濾す手間も惜しまず、あの味に近づこうとしました。
しかし、あのレベルにはまったく届いていないことを痛感します。
楽譜通りに弾くことはできても、人を感動させる演奏はできない。 やっぱり自分は素人だと思い知らされます。
なぜ、プロには敵わないのか。 もちろん才能やセンスの差はありますが、理由はもっと単純なことです。
「扱ってきた肉の量が違う」
プロのシェフは、これまでに何千、何万という鴨肉を焼いてきたはずです。
その日の気温、肉の個体差、フライパンの温度。 膨大な「数」をこなす中で、無数の失敗をし、微調整を繰り返してきた。
その積み重ねてきた経験値が、指先に宿っているのだと思います。
鴨を焼くのが人生で数回目の自分が「質」だけを真似しようとしても、土台となる「量」が足りないのだから、勝負になるわけがありません。
「生成AI」を使いこなせる生徒、使われる生徒
これは料理だけの話ではありません。
勉強の世界、特に最近話題の「生成AI」との付き合い方でも同じことが言えます。
よく生徒にする話があります。
ChatGPTなどの生成AIは便利ですが、使う人によって「毒」にも「薬」にもなります。
基礎知識がない子は、AIがもっともらしい嘘(ハルシネーション)をついても、それに気づけません。
「AIが出した答えだから」と鵜呑みにしてしまいます。
一方で、自分の頭に知識のストックがある子は、「あれ? この解説、ちょっと論理がおかしいぞ」と直感的に気づき、自分で調べ直すことができます。
つまり、「基礎(自分の中のデータ量)」がない状態では、便利な道具(AIやレシピ)を使いこなすことは難しいのです。
「集中力が切れたら休む」は、上級者の特権
集中力が切れた状態で勉強しても、効率が悪いという方がいます。
確かに、すでに基礎が固まっていて、自分の勉強スタイルを確立しているなら、集中力が切れたらスパッと休むのも戦略でしょう。
しかし、まだ練習量が足りていない段階の子が、それを理由に勉強をやめてしまうのは少し違うと思うのです。
スポーツ選手に例えると分かりやすいかもしれません。
彼らは「疲れて集中力が切れたから」といって練習をやめるでしょうか?
むしろ、そこからが本当の練習ではないでしょうか。
苦しい時間帯にどれだけ体を動かしたか。その「負荷」が筋肉を作り、スタミナを作ります。
勉強も同じです。
集中力が切れた、頭が働かない。 そこから逃げずに、さらに食らいついて問題を解く。
その泥臭い時間の積み重ねだけが、「受験を戦い抜く基礎体力」を作ります。
最初からスマートに「質」だけ手に入れようとするのは、少し虫が良い話かもしれません。
まずは泥臭い「量」をこなすこと。
「質」について考えるのは、その後でも遅くありません。
今日の鴨肉は、そんな当たり前のことを、改めて教えてくれた気がします。
受験生に必要な「量」を支えるもの
私たちがパートナーとして選んだ米農家、谷田部さんもそうです。

彼は今年、お米のコンテストで日本一(最高金賞)を獲りました。 それは彼が天才だからではありません。
就農当初、年収50万円という苦しい時期から、誰よりも田んぼに足を運び、泥臭い試行錯誤(量)を繰り返してきたからです。
「量は質に転化する」
彼と組もうと決めた理由はここにもあります。
作るものは「お米」と「成績」で違いますが、共通点があります。
それは、「圧倒的な量をこなした先にしか、本物の質は生まれない」と知っていることです。
今、冬期講習で、生徒の成績を上げるために泥臭い授業(量)を積み重ねています。
谷田部さんもまた、春から秋の農繁期には毎朝4時から夜の9時まで田んぼに立ち続け、そして今も、来年の秋に向けて黙々と土作り(量)を積み重ねています。
「大人もそれぞれの場所で、泥臭い『量』と戦っている」
この新しいお米ブランドが形になるのは、来年の秋です。
今の受験生には、残念ながら現物を渡すことはできません。
ですが、自分たち大人が妥協せずに仕事に向き合う姿を見せることはできます。
それぞれの場所で、プロとして言い訳せずに戦う大人の姿。
その背中を見せることこそが、これから机に向かう受験生たちにとって、一番のエールになると信じています。
料理人としては素人の私ですが、生徒を支える応援団としてはプロでありたい。
この冬、受験生たちが悔いなく「量」を積み重ねられるよう、全力で背中を押していこうと思います。
皆様も、良いお年をお迎えください。
【おまけ:2025年のレシピ】
もし、年末年始にお時間のある方がいれば、挑戦してみてください(笑)。
■アミューズ:苺のカプレーゼ

■前菜:帆立・柑橘・パプリカのタルタル

■パスタ:蕪・カラスミ・ゆずのアーリオオーリオ

■鴨のロティ・ソースヴァンルージュ・人参とオレンジのピュレ

■Hugh Morganのクリスマスケーキ

