動かなかった時間の代償――「廃用症候群」
第9章
パパの再々出発
パパは、A病院で左人工股関節の手術を終えましたが、脱臼のリスクが高く
リハビリ開始までに、1か月近くが経過していました。
第2話 動かなかった時間の代償――「廃用症候群」
ようやく歩行訓練が開始となり、希望していた光栄病院への転院が
7月10日に決まりました。
私はまた、パパを乗せて330キロの道のりを車で走らせました。
約半年ぶりの光栄病院。
戻ってきてしまった、という思いはありましたが、
前回のような命の危機に直面している緊張感はありませんでした。
むしろ――
早くここに着きたい、という気持ちの方が強かったと思います。
懐かしさと、温かさと、安心感。
スタッフの皆さんはパパのことを覚えていてくれて、
次々に声をかけてくれました。
けれど半年前に見送った時とは、やはり違って見えたのでしょう。
「あれ?前より元気ないみたいだね」
その一言が、胸に残りました。
山口先生との再会。
これまでの経過を聞かれましたが、A病院でのことは
私にも分からないことばかりでした。
「こちらで評価して、お伝えしますね」
その言葉に、また少し肩の力が抜けました。
リハビリの方針についても、
「脱臼のリスクはありますが、
それを気にしすぎて動けなくなっては意味がない。
まずは体力を戻して、どんどん動きましょう。それでいいですか?」
私がお願いしたいと思っていたことを、先生の方から言ってくれました。
本当に嬉しく思いました。
看護師さんには、装具を外してしまうために繋ぎのパジャマを着せていたことを伝えました。
でも、
「まずは観察して、いろいろ試してから決めましょう。
繋ぎのパジャマは着せませんよ」
そう言ってくれました。
結局私は、すべてをお任せして、光栄病院の評価を待つことになりました。
転院の手続きを終えたあと、ワーカーの南原さんも顔を出してくれました。
今度は障害年金の申請のことまで心配してくれて、
診断書の手配も引き受けてくれました。
「もう大丈夫ですよ」
そう言われた気がして、
やっぱり、ここに戻ってきて良かったと思いました。
――でも、
光栄病院での評価は、正直に言えばとても厳しいものでした。
まず、反応が鈍い。
声をかけても、すぐには返ってこない。
みんなで刺激を与えながら、少しずつ表情が出てきている。
そんな状態とのことでした。
発語はない。
トイレの訴えもない。
体力を戻そうとしているのに、思うように食べられない。
嚥下機能も落ちている。
頭は後ろに反り、咀嚼しているというより、
喉に流れ落ちてきたものを飲み込んでいるような状態。
これまでのお粥と刻み食から、
ゼリー粥とペースト食へ変更が必要だと説明を受けました。
「まずは安全に食べられることが最優先です」
食べられなければ体力は戻らない。
体力がなければ、リハビリも進まない。
当たり前のことなのに、改めて突きつけられ心に重くのしかかりました。
そして、手術した左足は約5センチほど短くなっているとのことでした。
動画で見せてもらった歩行練習の様子は、
左足のつま先はバレリーナのように外を向いているのに、歩こうとすると足は吸い寄せられるように内側へ寄っていく。
身体の向きと足の動きが、まったく噛み合っていません。
そこに、脚長差が加わり、体は、思うように動いていませんでした。
それから、脱臼のリスクについては、
一時的にヒッププロテクターを使用しましたが、
脱臼につながる危険な動作は見られない。
「必要ないでしょう」と。
繋ぎのパジャマも、いりません。
管理よりも、観察と評価。
本当にありがたいと思いました。
そして、最後に告げられた言葉。
「廃用症候群ですね」
🧠 廃用症候群とは
病気や怪我で長期間安静を強いられることで、身体や心の機能が衰えていく状態のことです。
筋力低下、関節の拘縮、認知機能の低下、誤嚥性肺炎など、さまざまな影響が現れます。
「生活不活発病」とも呼ばれています。
その言葉を聞いた瞬間、胸が締めつけられました。
食べることも、歩くことも、体を動かすことも、そして精神面も――
あそこまで回復させてくれた光栄病院に、申し訳ない気持ちが込み上げました。
ショックでした。
でも、今回も信じてお願いするしかありませんでした。
今回は、命の危機は脱しています。
でも、動かなかった時間は、確実に体を弱らせていました。
戻ってきた安心感の裏側で、私は現実を受け止め直すことになったのです。
「同じように悩む誰かの力になりたい」
「家族だけでは抱えきれない不安に寄り添える存在でありたい」
という気持ちで新しい活動をはじめています。
家族の介護や暮らしの悩みを、一人で抱え込まなくてもいいように——
必要な人に、そっと手を差し伸べられる場所です。
活動名は、
「縁(yukari)ライフケアコンシェルジュ」
✉ en.yukari.concierge@outlook.jp
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