肩に力入ってるよ
399.桃と包丁
あなたは料理が上手。
包丁の扱い方もピカイチ。
それに比べて私は。
「桃の皮剥いて、上手く剥けないの」
あなたは食べられないのにも関わらず、私のために包丁を手に取ってくれる。
私の名前が入った包丁を手に、皮は切れることなく、細い帯になって伸びていく。
柔らかい桃を、傷つけないように優しい手つきで。
ぐるぐると。
「上手だね」
あなたは得意げにしていた。
次は私の番。包丁が手渡された。
「上手くできないんだよね。すぐ皮が切れちゃうし、身が削れちゃう。」
そんなあなたを横目に、手を動かす。
あなたは微笑んでいた。
「右手は動かさなくて、桃を回すんだよ」
上手くできるようになったと思ったら。
「肩に力入ってるよ」
一気に力が抜けた。
頬までずっと。
「仕事みたいに言わないでよ」
一瞬だけあなたと、先輩と後輩になった気がした。
あなたは手元だけではなく、私まで見ていてくれた。
その日の桃は、どこか特別なものになるのかもしれない。
私の桃には芯が残っていた。
桃の皮だけじゃない。
私の力まで、
そっと抜いてくれた。
