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息吹

 先週のオークス(3歳牝馬のクラシックレース第2戦)では、ジュウリョクピエロに騎乗した今村聖奈騎手が、見事に日本人女性騎手として初めてのG1制覇を成し遂げた。もう馬券を買うことから遠ざかって随分経つが、偶々ネットで観たジョッキーカメラの映像がとても新鮮だった。通常見慣れたテレビ放送では、G1のファンファーレから観衆の大歓声、ゲートが開くと俯瞰したカメラ映像にアナウンサーの実況が重なるのだが、ジョッキーカメラの映像は驚くほど静かなのだった。聞こえてくるのは馬たちがターフを駆ける重たい足音、視界に入るのは前を行く馬たちの後ろ姿だけで、時々飛んでくる泥にカメラが曇る。騎手たちがレース中に身を置いているのはこういう世界だったのかと、今まで想像することもなかった当たり前の事実に驚く。ゴールを駆け抜けた瞬間、騎手の悲鳴のような歓喜の声が響いて、そこから世界に音が戻ってくる。ハァハァという息遣い、ヤバい勝ってもうた、ピエちゃん、あんたいっちゃんカッコいいわ…、ライブというものを観た気がした。
 昨晩はソニー・ロリンズの追悼で、久しぶりにターンテーブルにレコードを載せたのだが(直ぐにかみさんから近所迷惑とのお達しが…)、眼鏡を外して照明を落とすと、乱視の目にアンプのインジケーターの明かりがぼやけて、光が線香花火のように広がるのだった。サックスの音は人間の声に近いと言われるけれど、確かに人の息がリードを震わせて奏でる音は、それ故のやさしいを持っているのかもしれない。連休中にテレビで玉置浩二さんのスタジオライブを観たのだが、飛鳥さんとの迫力あるデュエットと共に、その後に流れた手嶌葵さんとのデュエットが対照的で印象に残った。声がかすれる位繊細な歌声を聴いていたら、歌と言うものが息・呼吸であり、それは人が起こしている風で、畢竟歌は風だったのか!というシンプルな発見に思い至った。ギターを抱えながら、歌を作って歌うことが一日の意味だった頃もあったけれど、いつの間にかギターケースも随分埃を被ってしまった。古い友人に会いに行く前に、久しぶりに風を起こしてみるか…。
 そう言えば、字は違うけれど一歩己(イブキ)という日本酒がある。震災の後に、若い蔵人が自分の新たな一歩を刻みたいという思いで造り始めたお酒だ。素直でやわらかなのに奥行きも感じさせるいいお酒なので、機会があったら是非。年明けに出る「うすにごり」がまた一味違って◎

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