《魔女のハーブは、あんまり甘くない》 リサの願いごと Episode1−1
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<1>
「ああ、今夜は、星が、とってもキレイ⋯」
私は、星空にむかって、つぶやいた。
夜の大海原をおよぐヒカワノ丸は、私をふくめ、乗客みんなを、ロマンティックな気分にしていた。
だれもいなくなった船の甲板には、私だけが、夜の風にふかれ、好きな歌をハミングしている。
エドワウとノアちゃんは、いまごろ、ぐっすりだろうか⋯。
私は、胸のペンダントを、そっと、さわった。
「リサさんは、本物の魔女なんです」
アカリちゃんの言葉が、さらっと心にひびいた。
「まさかね⋯⋯」
まだ、信じられなかった。
私が、魔女なんて、そんな話。
すると、胸のペンダントが、光りだした。
「え、ペンダントが?」
やがて、ペンダントは、虹色に光り、私をつつんだ。
「ど、どうして⋯?」
私は、おどろいていると、ペンダントの光が、すーっときえた。
ゆっくりと、海の風の音が、私のまわりにながれた。
私は、はっときづいた。
「あれ、虹⋯⋯?」
南の方角に、虹が、かかっていた。
ーなぜ?
夜なのに、虹が出るって、どういうことと思いながら、私は、甲板の柵にもたれた。
やがて、虹も、すっと、夜空から姿をけした。
ー?
まあいいや。
なんだか、アカリちゃんと会ってから、不思議なことが、よく起こる。
そう、とっても、楽しい。
ワクワクの、連続だ。
こんな気分になれたのは、母の腕にだかれていた幼いころだけと記憶している。
まだ、私が、闇の世界に入るまえの、ほんとに小さいころだ。
私は、左腕のそでを、まくった。
黒いとぐろの模様が、ひろがっていた。
私は、一瞬、心にトゲがささるのを感じた。
3年前の朝、目をさましたら、とつぜん、ついていて信じられなかった。
いちおう、医者にみてもらったが、こんな病気は見たことがなく、治せないといわれた。
同居のおばとは、仲が悪かったし、よく外出していたから言う必要はないと思い、私は軽くあいさつだけして病院をでた。
その日は、すごい雨のふる日で、私は傘もささず、ぬれながら、スラムの街を、とぼとぼと歩いていた。
悪友たちに、なにしてんだ、と声をかけられたが、私は相手にせず家にむかって歩いた。
そして、ぴたっと、足をとめた。
ー黒猫が、いた。
路地の真ん中で、じっと、私を見ていた。
小さな2つの目を、私にむけていた。
「⋯ここで、なにしてるの?」
私は、黒猫に、そっと、つぶやいた。
だけど、黒猫は、雨にぬれるのも気にせず、だまって私を見ていた。
そのとき、私は、きづいた。
よく見ると、黒猫のからだが、まったくぬれていない。
ーなんで?
私は、すこし前にでて、黒猫を見ると、あっと声をだした。
ぼんやりと、小さな光が、黒猫をつつんでいた。
ーこれなに?
光につつまれた黒猫は、不思議な目をしていた。
私は、小さい私をだいていた、母の目の記憶を思い出した。
ふかくすんだ目は、私をつつみこみ、冷えた心に鼓動をあたえた。
「ミャオ」
黒猫は、小さくないた。
すると、雨はあがり、雲間からのびた光のすじが、スラムの屋根を黄金色にカラーリングした。
南の空には、虹が、かかっていた。
とても大きな、虹。
「わあ⋯」
私は、声をあげた。
ーいつか、私も、あんな虹を。
そんな夢みたいな希望を、そのときの私は、いだいた。
黒猫は、私に背中をむけると、せまい路地を、とことこと、すすんでいった。
私も、いそいであとをおったが、黒猫は、すぐに見えなくなった。
「あれ、どこに?」
私が、きょろきょろしていると、路地のむこうから声が聞こえてきた。
「ココったら、また、どこいってたの?」
ー女の子の声だ。
私は、路地のおくをじっと見ると、人の影が見えた。
ホウキを持った女の子。
顔は、とおくて、見えない。
そして、あの黒猫が、女の子の肩にのっている。
女の子は、すたすたと街のほうへと歩いていき、やがて、姿が見えなくなった。
ーでも、私はなぜか、あの女の子と、どこかで 会う気がした。
「ああ、髪が、びしょびしょ⋯⋯」
私は、髪にさわり、手をポケットにいれると、盗んだ小さい宝石があるのにきづいた。
私は、虹と宝石を見ると、大きくうなずいた。
ーこれを、お金にかえて、この街をでよう。
私は、おばが帰ってくるまえに、走って家にもどり、ベッドに眠っているエドワウに、そっとキスをした。
「エドワウ、またいつかね」
私は、そういうと、その日に、育った街をでた。
馬車のおじいさんに頼み込んで、荷台にのせてもらったのだ。
それから、いくつもの街をてんてんとして、あの、みなとの街に、たどりついた。
赤いレンガの倉庫が、たたずんでいる海の街。
「おじいさん、どうも、ありがとう」
私は、そういって宝石をわたそうとしたが、おじいさんは、わらって首をふった。
「またいつか、会うときに、いただくよ」
そういって、おじいさんは、かるく手をあげて、さよならした。
おじいさんの姿が見えなくなると、私は、みなとのそばの大きな公園の芝生のうえで寝転がり、あー、と大声をだした。
ー街は、とても居心地が、よかった。
はじめての街のはずなのに、なんだか、ずっと前からいるような気持ちだった。
もちろん、また、小さな盗みをしてしまったが、それはまあ、気にしない、気にしない・・。
左腕の、とぐろの模様は消えなかったが、私は、心が、ぽかぽかになっていくのを感じた。
みなとの街の人たちは、こころがひろく、魔女となのる私を、笑顔で受け入れてくれた。
本当は、ちがうのに、と心のすみにしまいながら⋯⋯。
「ああ、ハーブティーが、飲みたい⋯」
みなとの街になれた私は、自然と、その言葉を口にしていた。
そして、いつの間にか、あのアカリちゃんのハーブのお店のまえに、立っていた。
ほのかにながれてくる、やわらかなハーブの香り⋯。
「なんて、いい香り⋯」
私は、そうつぶやいて、心のままにお店にはいると、アカリちゃんがいた。
ーこれが、アカリちゃんとの出会いだ。
あのときの、アカリちゃんの顔を思い出すと⋯。
私は、おもわず口をおさえて、わらいそうになった。
だって、あんなカチコチになって、ハーブティーをそそぐ手が、かたかたふるえちゃって⋯。
あのときは、おかしいのを顔に出さないようにするのが、大変だった。
となりに座ってたユイちゃんは、見ちゃいられん、って顔してたけど⋯。
私は、ふうっと、息をはいた。
まさか、あの出会いから、こんなことになるなんて⋯。
「さあ、次の街では、なにが、あるのかな⋯」
私は、星空にいうと、両腕をのばして、はあっといきをはいた。
ーさ、新しい街は、もうすぐだ。
私も、休もう。
私は、そう思って、船のなかにもどろうとした。
そのとき、私は、足をとめた。
「⋯⋯?」
むかいに、白いコートを着た人がいた。
ーだれだろう。
いつから、いたのか?
コートの人は、じっと、夜の星を見ている。
えりをたてているので、顔が、よく見えない。
でも、まったく気配を感じなかった。
ーなぜ?
よく見ると、コートの人は、柵から、身をのりだそうとしている。
ずっと、夜の海を、のぞきこんでいる。
ーまさか?
私は、いそいで、むかいにすすんだ。
「あの、なにを、してるんですか?」
私がいうと、コートの人は、ハッとした顔で、私をみた。
そして、そのとき、私は一瞬、心がかたまった。
「え⋯?」
コートの人は、柵からはなれると、風のように船のなかへと、消えていった。
そう、まるで、人ではない生き物のような機敏なうごきで。
そして私は、いま、ちらっとだが、見えた。
口もとに、きばのように、光るものが⋯。
「まさかね⋯⋯」
私が、つぶやくと、夜空の星が、またたいた。
私の胸のペンダントが、虹色に光った。
<Episode1−2に、つづく>
