ざっくり学ぶ、Cargo Sous Terrain(スイス地下物流)のきほん | #220
スイスで、荷物が地下を自動で走り抜ける未来が、着実に近づいています。「Cargo Sous Terrain(CST)」と呼ばれる地下自動物流システムは、2031年の最初の区間開業を目指し、民間主導で準備が進んでいます。一方、日本でも「自動物流道路(オートフロー・ロード)」のコンソーシアムが2026年7月に新たな分科会を開催するなど、物流インフラの「再発明」は世界規模で加速しています。今回は、スイスの先進事例であるCSTを取り上げ、地下物流システムの仕組みと可能性をざっくり学んでいきます。
Cargo Sous Terrainとは何か
Cargo Sous Terrain(カーゴ・スー・テラン、略称CST)は、スイスの民間コンソーシアムが推進する地下自動物流システムです。フランス語で「地下の貨物」を意味するこの名前の通り、荷物を地下トンネルの中で自動輸送するというコンセプトです。計画では、チューリッヒやバーゼル、ベルンといったスイスの主要都市間を地下トンネルで結び、総延長500kmにおよぶネットワークを整備します。2031年には最初の区間であるチューリッヒ〜ヘルキンゲン間(約70km)の運用が始まる予定で、プロジェクトには250社以上のスイス企業と投資家が参加し、民間主導で資金を調達しています。

どんな仕組みで動くのか
CSTの中心となるのは、地下トンネル内を自律走行するカートです。標準化されたパレットに積んだ荷物をカートに載せ、時速30kmで自動輸送します。カートは電力を動力源とするためCO2を排出せず、走行中にワイヤレス給電を受ける仕組みも導入されます。システムは24時間365日稼働し、降雪や渋滞などの地上条件に左右されることなく、安定した輸送が可能です。各都市の物流拠点はトンネルに直結しており、到着した荷物はそのまま地上のラストマイル配送に引き継がれます。荷物の位置情報はデジタルで一元管理され、荷主はリアルタイムでステータスを把握することができます。
なぜスイスで生まれたのか
スイスは人口900万人程度の小国ですが、国土に対して物流需要が高く、道路と鉄道の輸送容量はすでに限界に近づいています。加えて、環境規制が厳格でCO2排出削減への社会的合意が強い国です。さらに、アルプス山脈が国土を分断するため、古くからトンネル掘削が盛んで、地下インフラへの信頼と実績があります。こうした地理的・社会的条件が重なり、「地上ではなく地下を使う」という発想が現実的なアプローチとして受け入れられました。スイスならではの環境と合意形成の土壌があってこそ生まれたプロジェクトといえます。
日本の自動物流道路との共通点と違い
日本でも同様の課題に対し、国土交通省が「自動物流道路(オートフロー・ロード)」の整備を推進しています。2026年7月には実装コンソーシアムの新たな分科会が開催され、事業者向けのヒアリング調査が始まるなど、議論はより具体的な段階に入っています。CSTと日本の自動物流道路の共通点は、専用インフラを使い、無人・自動で荷物を運ぶという基本発想です。ただし、大きな違いがあります。日本は高速道路の中央分離帯など既存の道路空間を活用する「地上型」であるのに対し、CSTは完全な「地下型」です。また、CSTが民間主導であるのに対し、日本は官民連携モデルとなっています。どちらのモデルが優れているかではなく、それぞれの国の地理・社会条件に合った最適解を選んでいるといえます。
地下物流が示す物流の未来
CSTが示すのは、物流インフラそのものをゼロから設計し直す時代の到来です。道路渋滞、ドライバー不足、CO2削減という課題は日本もスイスも共通しており、解決策の方向性も同じです。手段は地下か地上かという違いはあれど、専用の自動物流インフラが主要都市間を結ぶという未来は、思ったよりも早く訪れるかもしれません。物流は「トラックで運ぶもの」という常識は今まさに書き換えられようとしています。この大きな変化を早期に把握しておくことが、物流業界で長期的に活躍するための重要な視点となるでしょう。
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