見出し画像

エロティシズムについて考える『怪奇小説傑作集3』

エロティシズム考ーーというほどのものでもないですが。

小説の中でエロティックな文章を書くようになってから、自分が書きたいのはどういうシチュエーション、内容なのだろうかと考えるようになりました。

 読みたいものと書きたいものは一緒なのか?
 どれくらい直接的に表現するのか?
 背景はどれくらい描くのか?

考えるときりはなく、色々と迷うことも多いのですが、そういう描写についても意識するようになりました。
エロティックとはどういうことなのか、日常的にも使う「色気」ってなんなのかとか、読んだ本、映画などから考えます。



最近「怪奇小説傑作集 3」(創元推理文庫)という本を読みました。
そもそもクトゥルフ神話、ラブクラフトの小説を読んでみたくて、たまたまブックオフで見つけたので買った本なのですが、最初の「ラパチーニの娘」という話がエロティックかつゴシックホラーで、美しくもあり哀しく、とても良かったです。
作者は「緋文字」で有名なホーソーン。


あらすじを書くのがあまり得意ではないので内容を詳しくは書きませんが……。この本とは違って翻訳が古いですが青空文庫にもなっているようなので時間と興味があれば読んでみてください。

いいなあと思ったところを少し引用してみます。

「わたしは自分の眼で見たものをすべて信じなければならないのですか」と、ジョヴァンニは以前の光景を思い出して逡巡しながら、声をとがらして訊いた。
「いいえ、あなたはわたくしに求めなさ過ぎます。どうぞ、あなたの口唇からもれること以外は信じるなと言って下さい」
ベアトリーチェは彼の言うことを理解したように見えた。彼女の頬は真紅になった。しかも彼女はジョヴァンニの顔をじっと眺めて、彼が不安らしい疑惑の眼をもって見ているのに対して、さながら女王のような傲慢をもって見返した。
「では、そう申しましょう。あなたがわたくしのことをどうお考えになっていたとしても、それは忘れて下さい。たとい外部の感覚は本当であっても、その本質において相違しているところがあるかもしれません。けれども、ベアトリーチェ・ラッパチーニのくちびるから出る言葉は、心の奥底から出る真実の言葉ですから、あなたはそれを信じて下すってもよろしいのです」
 彼女の容貌には熱誠が輝いていた。その熱誠は真実そのものの光りのようにジョヴァンニの意識の上にも輝いた。

引用 ホーソーン Nathaniel Hawthorne
岡本綺堂訳
 https://www.aozora.gr.jp/cards/000905/files/4105_13937.html


「いいえ、あなたはわたくしに求めなさ過ぎます。どうぞ、あなたの口唇からもれること以外は信じるなと言って下さい」

いいですね、このわがままな感じ。マゾヒズムを感じる文章。
こんなことが言えて、そして応えてくれる人がいるなんて。


ただこれ以上、特段性的な描写は出てきません。むしろ避けられています。それは登場人物の体質によるもので、物語の核になっている部分なのですが、要するにそこが問題ではないということです。

触れられないからこそ余計に強く募る思いがあり、直接的に描かないからこそあやしい雰囲気を出すことが出来るのです。


ホラーとエロというのはけっこう併せて描かれることも多い気がします。
どっちつかずなものも多いし、どういう気持ちになっていいのかわからなくなるので個人的にはあまり好きではなかったのですが、この小説は面白かったです。

密室、秘密、夜、とかがホラーとエロが重複する範囲でしょうか?
加えてこの小説では花、毒が絡んであやしい雰囲気を作っていました。
 

SMとかもどんどん進むとホラーチックになってきますよね。
肉体的にも精神的にも、あまり猟奇的なのは好みではないですが、エロと死という真逆のような概念が近づいていくのがおもしろいと思います。

官能小説と言うとなんだかそっちの、じとじとした湿った感じに寄っている物が多い気がしています。あまり多くを読んでいませんが。
なので個人的にはこざっぱりとした、さわやか(?)なエロを描きたいなあ、と思っているところです。しかしそんなものは実現可能なのでしょうか? それについても考えたいところです。


この「怪奇小説傑作集3」最後の解説に、
「基本的には怪異、恐怖の正体は読者に提示されているが、最後まで正体は一切描かれず何かが起こりつつあるという恐怖が続き、そのまま解決が示されない小説がある」ということが書かれていました。

幽霊、怪物等をどこまで描くのかという問題です。
細かく描写すればリアルで、より怖くなるというわけではありません。
隠すことでよりそれが怖く感じさせるという手法もあるわけです。

その解説の小説、「シートンのおばさん」は見事でした。
なにかやばい、なにかやばいことが起こりそう、そして起きている、しかし何が起こっているかわからない。そして気が付いたらもう済んでいる。
……そういう怖さでした。
恐怖や不安を持続させるというのはなかなか難しそうなのにじっと一定の感覚が続きます。


エロティシズムとの共通点も感じつつ、この本はそんなこととは全く関係なくただただ面白くもありました。

そもそもの私の目的、ラブクラフトの「ダンウィッチの怪」は最もおそろしく深い感じがしました。
描くスケールがとにかく大きく、宇宙的な、SF的要素もちりばめられています。
しかし他の小説と共に調べていると、「ラブクラフトの中で例外的にバッドエンドではない小説」と出てきて震えました。
これで軽いんかい。確かに最後はなんとかなった感がありましたが、他の小説はどれだけ嫌な感じで終わるのでしょう?



いいなと思ったら応援しよう!