【優秀賞受賞作🏆体験談#03】薬剤師の私が“患者”になって気づいたこと
【まえがき】
先日、コンテストを開催した「おひとり様ライフエピソード」より、優秀賞を受賞した作品をご紹介させて頂きます。
体験談#03は、コロナ禍を含む5年間、病院で薬剤師として現場の最前線に立ち続けた20代女性の体験です。使命感とやりがいを胸に日々を駆け抜ける中、ある日突然、心と身体が限界を迎えました。
【体験談】
私は病院で働く薬剤師として、この5年間、真面目に、熱意を持って働いてきました。
2020年に新型コロナウイルスが流行したときも、現場に立ち、感染リスクのある患者さんに薬の説明をしていました。リモートワークが広がる中、薬剤師は身体を動かして現場に行くしかありません。残業も多く、辛い日々もありました。 それでも患者さんから「ありがとう」と言われること、末期患者さんのそばで過ごす時間に携われることに、やりがいを感じていました。
けれど、ある朝、心と身体が突然動かなくなりました。 過呼吸になり、足が動かず、職場に行けなくなったのです。 いつもの日常が、ぷつりと途切れました。 数日後、私はメンタルクリニックで「患者」になっていました。 最初に訪れた病院では、こう言われました。 「薬剤師なんだからわかるでしょ。ほしい薬があれば出しますよ。」 その瞬間、自分が無力な患者としてそこに座っているのに、まるで透明人間のような気がしました。 私は今まで風邪などで受診することはあっても、長期通院や入院経験はありませんでした。 “病院にすがるような思いで来たのに、こんなふうに扱われたらどれほど辛いだろう”──そのとき初めて、患者さんの気持ちが心に刺さるように伝わってきました。 自分はこれまで、知らず知らずに誰かを傷つけてはいなかったか。そんなことを考えながら帰路についたのを覚えています。
2つ目の病院では医師や看護師が丁寧に対応してくださり、「適応障害とうつ状態」と診断されました。 まずは3ヶ月、休みましょうと告げられました。 最初の2週間は毎日泣いてばかりいました。 “私のこれまでの努力は意味がなかったのか?” “何のために働いていたのか?” そして、休み始めて間もないうちから「早く復帰しなきゃ」と焦って転職サイトを開いている自分がいました。 社会から取り残されたような感覚に押しつぶされそうでした。
そんなある日、実家に帰省することになりました。 母には「休職する」と電話でだけ伝えていましたが、詳細は話していませんでした。 帰省して事情を話したとき、母は静かに泣きました。 「あなたがこんなふうになるなんて、悔しいし悲しい」と。 私はその時、はじめて本当の意味で気づいたのです。 “私は、休むことを「負け」だと思っていた。” やりがいと呼んでいたものの裏には、肩書きや他人の評価への執着があったこと。 無理をしていた自分が、大切な人の涙を引き起こしてしまったこと。
その瞬間から、私はようやく“休むこと”を許せるようになりました。 心の声に耳を澄ますこと。 自分を大切にすること。 それが、ようやくできるようになったのです。 今では思います。 自分を大切にできる人だけが、本当に誰かに寄り添えるのだと。 立ち止まった時間は決して無駄ではありませんでした。
また薬剤師として、精神的に不安を抱える患者さんと向き合う場面があれば、きっと以前とは違う目線で寄り添える気がします。 私はこの7月、また薬剤師として復帰します。
これからは、まず自分の声を大切にしながら── その延長線にある誰かの願いや幸せを、心から支えていけたらと思っています。 おひとりさまライフ、私のなかでは自分の声と一緒にいきることです。
