『京都烏夜伽話』#20〜古代編〜霧華の章(始まりの桜と、引き裂かれた契り)

​※本作品には、物語の性質上、一部官能的な表現が含まれます。あらかじめご了承ください。
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まだ、神と人間が近かった古の時代……

大和国の大君(おおきみ)は、近江国の水を統べ邪を払う武勲名高き一族との結びつきを強固にしたいと切望していた。そこで、近江国の後継者である「崇臣(たかおみ)」との政略結婚を思いつくが、ふさわしい身分の年頃の娘がいなかった。そこで有力豪族の娘である「水鏡(みか)」を養女とし、婚姻させることを思いつく。

しかし、水鏡はすでに「霊鳥の巫女」である。「霊鳥」とはこの国を守る神である。「霊鳥の巫女」とは霊鳥の社に一人で入り、霊鳥の身の回りの世話をする巫女のことだ。
巫女は前の巫女が亡くなると、皇女または豪族の娘から選ばれ社に入る。だいたいは十歳になるまでの子どもから選ばれるため、独り身のまま生涯を終える。
そして、この霊鳥に捧げられた巫女は、霊鳥の妻という位置づけのため、その天寿を全うするまで交代することは許されないという、厳格なしきたりがあった。
今回、大君はその絶対的な禁忌を、自らの権力でねじ曲げる決定を下したのだ。

「霊鳥の妻か…ハハハ……、十八歳とはいえ、男を通わせたことのない娘なら、ちょうどいいではないか」

周囲の臣下たちは「霊鳥の怒りを買うのでは」と顔を青くして恐れたが、大君は自らの意志を強行した。

​婚礼の日。境内の桜は狂ったように咲き誇っていた。

身支度を整え、石段を降りてくる水鏡の姿は、集まった人々が息を呑み、言葉を失うほどの神々しい美しさだった。純白の婚礼衣装を身にまとい、艶やかな髪飾りを揺らしながら、一歩一歩、静かに降りてくる。

鳥居の先には、彼女が乗り込むための美しい輿(こし)が待っており、その横には、夫となる崇臣が凛々しく佇んでいた。

崇臣は石段の下から、初めて自らの妻となる水鏡を見上げた。

「美しい……」

その透き通るような横顔に、一目で心を奪われた。二人の間に、新しき穏やかな未来が始まる――誰もがそう信じた、その刹那だった。

水鏡が鳥居をくぐる、まさにその瞬間。

にわかに激しいつむじ風が吹き荒れ、満開の桜の花びらが視界を埋め尽くすように舞い上がった。その嵐の真ん中を、不吉な漆黒の羽根が鋭くかすめていく。

人々は何が起こったのか分からず、ただ呆然と立ち尽くした。風が止んだとき、水鏡は石段の上に静かに倒れていた。


人形のように美しく、婚礼の装いのまま。しかし、その身体はすでに氷のように冷たく、息絶えていた。

​邪を封印する絶大な霊力を持つはずの崇臣も、目の前であまりにも一瞬に起こった悲劇には、なすすべもなかった。愛しい人の冷え切った手を握りしめ、ただ立ち尽くすしかなかった。


「霊鳥の怒りだ!」
「大君がしきたりを破ったから、神の祟りが下りたのだ!」
人々は口々に怯え、叫んだ。
大君は己の身に迫る霊鳥の神罰を激しく恐れた。恐怖に駆られた大君は、すぐに新たなる命令を下す。

「水鏡には、双子の妹がいたはずだ! 霊鳥の怒りを鎮めるため、ただちにその妹を身代わりにし、新たな巫女として社へ捧げよ!」

その理不尽な命により、大和の宮廷で幸せに暮らしていた妹・氷鏡(ひか)の運命が、激しく狂い始める――。


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