「自分がやらなければ」が、一番危ない。介護と仕事の両立を考える
「親の介護が始まったら、仕事を辞めるべきだろうか」
そう悩んでいるご家族は、少なくありません。職場に迷惑をかけたくない、でも親のそばにいてあげたい。その狭間で、答えが出ないまま時間だけが過ぎていく。現場でもよく聞く悩みのひとつです。
この記事では、介護離職のリスクと、仕事を続けながら介護をするための考え方を整理します。「辞めるべきか、続けるべきか」の正解をお伝えするものではありません。ただ、判断する前に知っておいてほしいことがあります。
介護離職は「美談」ではない
「仕事を辞めて親の介護に専念する」という選択は、一見すると献身的に見えます。でも現場で見てきた限り、それが本人にとって良い結果につながるとは限りません。
仕事を辞めることで生じるリスクは、大きく3つあります。
経済的なリスク 介護がいつまで続くか、誰にも分かりません。数か月で終わることもあれば、10年以上になることもあります。収入がない状態で介護が長期化すると、ご自身の生活そのものが立ち行かなくなることがあります。
社会的なリスク 仕事を辞めると、職場という「外の世界」とのつながりが一気に薄くなります。介護に集中するほど孤立しやすくなり、精神的に追い詰められやすくなります。
再就職の難しさ 介護が一段落した後、すぐに仕事に戻れるとは限りません。ブランクがあると、思うように職が見つからないケースも多いです。
離職して後悔した、息子さんのケース
以前、担当した方でお母様の介護のために、仕事を辞めた息子さんがいました。
離職後しばらくして、お母様が脳梗塞で入院されました。その後そのまま施設への入所が決まり、在宅介護は思っていたより短い期間で終わることになりました。
仕事を辞めた理由がなくなった形になりましたが、息子さんは再就職しようとしても、なかなか職が見つからないとのことでした。「辞めなければよかった」という言葉が、今でも印象に残っています。
先のことは誰にも分かりません。ただ、介護離職は「一時的な選択」ではなく、その後の人生にも影響する決断だということは、知っておいてほしいと思います。
一人で背負いすぎた娘さんが、限界を迎えたケース
ご兄妹がいるにもかかわらず、お一人でお母様の介護を続けていた娘さんがいました。ほかのご兄妹は「任せる」という姿勢で、実際の介護はほぼ娘さん一人でした。
ある日、散歩中にお母様が転倒、骨折してしまいました。すると普段介護をしていないご兄妹から、「しっかり見ていなかったからだ」と責められたそうです。
それまでも限界に近い状態で頑張ってきた娘さんは、この出来事をきっかけに精神的に追い詰められてしまいました。最終的に在宅介護を続けることが難しいという判断になりました。
介護を一人で背負うことのリスクは、身体的な疲労だけではありません。「自分がやらなければ」という気持ちが強すぎると、助けを求めることができなくなり、ある日突然限界を超えてしまうことがあります。
介護はチームで行うものです。ご兄妹がいるなら、役割を分担することを早めに話し合っておくことが大切です。
両立を難しくしている「思い込み」
仕事と介護の両立を難しくしているのは、状況だけではありません。ご家族が無意識に持っている「思い込み」が、選択肢を狭めていることがあります。
「自分がやらなければ誰もやらない」 介護保険のサービスやケアマネの存在を知らず、すべてを自分でやろうとしているケースです。使えるサービスを使うことは、手を抜くことではありません。
「施設に頼むのは逃げだ」 サービスや施設を使うことへの罪悪感です。でも、ご本人が安全に安心して過ごせる環境を整えることが、介護の本質だと思っています。
「職場に迷惑をかけられない」 言い出せずに一人で抱え込み、結果として突然離職せざるを得なくなるケースがあります。早めに伝える方が、職場も対応しやすくなります。
知っておきたい、仕事と介護を両立するための制度
介護をしながら働き続けるために、いくつかの制度があります。詳細は勤め先や自治体によって異なりますが、「こういうものがある」という知識だけでも持っておいてください。
介護休業 通算93日まで、介護のために休業できる制度です。一度にまとめて取る必要はなく、3回まで分けて取得できます。
介護休暇 年に5日(対象家族が2人以上なら10日)まで、1日単位または半日単位で取得できます。通院の付き添いや、急な対応の時に使いやすい制度です。
短時間勤務・時差出勤 介護のために勤務時間を短縮したり、出退勤時間をずらしたりできる制度です。会社によって内容が異なるため、まず職場の制度を確認してみてください。
これらの制度は「知らないと使えない」ものです。まずは職場の人事担当や上司に、どんな制度があるかを確認することから始めてみてください。
長く続けるための、一番大切なこと
仕事と介護を両立しているご家族を長く見てきて、うまくいっているケースに共通していることがあります。それは、介護を一人で抱え込んでいないということです。
ご兄妹と役割を分担している、ケアマネと密に連携してサービスをうまく使っている、職場に状況を伝えて理解を得ている。形はそれぞれ違いますが、「誰かと一緒にやっている」という状態が、長続きの秘訣だと感じています。
逆に、休まる暇がない状態が続いているご家族は、ある日突然限界を迎えることが多いです。疲弊しきってから助けを求めても、立て直すのに時間がかかります。余裕があるうちに、少しずつ「頼れる環境」を整えておくことが大切です。
【最後に】
「仕事を辞めて介護に専念する」という選択が間違いだと言いたいわけではありません。状況によっては、それが最善の判断になることもあります。
ただ、焦って決断する必要はありません。まずご兄妹やケアマネに現状を相談してみてください。役割分担や使えるサービス、制度を整理するだけで、選択肢が広がりあなたを助けてくれることがあります。
仕事を続けながら介護をしているご家族へ。その選択は決して間違いではありません。
ただ、無理をせずに倒れないでいてくれることが、ご本人にとっても一番の安心になります。
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