【第6回】起業家プロジェクト#06|「本物の値段」が、そこにあった
> セブ島の土曜日の朝、4人はSMシティに向かった。
> 業者を見つけるために。交渉をするために。
> そして——「本物の原価」を初めて、自分たちの目で確かめるために。
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前回のあらすじ
第5回(6月3日)のプレゼンが終わった。60点という評価、ロイヤリティの抜け漏れ、借入額の大きすぎという指摘。計画書に穴があることを突きつけられた夜だった。
でも同時に、大きな転機もあった。
「一括で₱37,510を借りる必要はない。まず₱1万ペソから始めろ」——たくさんのその一言で、スタートラインの怖さが消えた。少量から始めて、売れたら追加する。在庫リスクを最小限に抑えながら動く、この方針が決まった。
そしてその₱1万ペソを現実に変えるための次のステップが、業者の選定と交渉だ。
第6回の舞台は、教室ではなく街だった。
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SMシティへ。まず足で動く
2026年6月7日。Y.くん、I.くん、M.くんの3人とたくさんは、セブ島最大のショッピングモール「SMシティ」を歩いた。
オリジナルグッズを作れる店を探して、複数の店舗を巡回する。Tシャツのプリント、タンブラー、キーホルダー、エコバッグ——事前にリストアップしていた候補アイテムを、実際に目で見て、触れて、価格と品質を確認していく。
最初の店舗では、Tシャツへのプリントやキーホルダーの加工が可能であることを確認した。
M.くんは真っ先に商品サンプルを手に取りながら「逆にこれTシャツに刺繍できたらめっちゃ良くない?」と目を輝かせた。行動力と発想力は、今日も健在だ。
I.くんはその横で、冷静に店員に質問している。品質はどうか。どの加工が可能か。値段はいくらか。兄らしい、落ち着いたやりとりだった。
Y.くんは、少し引いた位置から全体を見ていた。「ここはいいけど、もう少し見てから決めよう」——そういう空気が、立ち居振る舞いに滲んでいた。
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「余裕でオーバー」の衝撃
探索を続けるうちに、問題が浮上した。
無地のTシャツの価格が、想定をはるかに超えていた。
店頭に並ぶドライフィットTシャツは550ペソ前後。持ち込みをしないで店側に調達させると、795ペソにまで上がる可能性があると判明した。
M.くんが叫んだ。「やばいやばいやばい!」
たくさんも静かに計算した。10枚で7,950ペソ。₱1万ペソの予算が、Tシャツだけでほぼ消えてしまう。「これじゃ、Tシャツしか作れない」という空気が、4人の間に広がった。
Y.くんが一言、ぼそりと言った。「やっぱ業者直じゃないと高いよな。」
そうだ。小売店で無地Tシャツを買うのは、根本的に間違っている。業者から直接仕入れるか、あるいは別の手を打つか——
このとき、たくさんの頭の中に、一つのアイデアが浮かんだ。
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AIが指した方向へ
詰まったとき、I.くんがスマートフォンを取り出した。
「ChatGPTで調べよう。セブ島のSMシティで、安い無地のドライTシャツが買えるお店はどこか」と入力して検索する。フリーWi-Fiを活用した、現代的な問題解決だ。
AIが示したある店舗へ移動した。ところが、着いてみると目的の商品が見つからない。店員に尋ねると「一つ下の階だ」と教えられた。移動して、また探す。
たどり着いたフロアには、たしかにTシャツが並んでいた。だが無地のものは少なく、価格も550ペソ前後——期待を下回る結果だった。
I.くんが静かに言った。「やっぱりここも高いな。」
AIが教えてくれた情報は嘘ではなかった。でも「最安値」と「求めているもの」は、必ずしも一致しない。**情報と現実の間には、必ず自分の足で確かめる作業がある。3人は、それを体で学んだ。
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方針転換。「持ち込み50ペソ」戦略
店舗を探し歩く中で、一つの重要な知見が得られていた。
「持ち込みTシャツにプリントだけするなら、1枚50ペソ」
それまでの想定では「店でTシャツも買ってプリントもしてもらう」前提だった。だがもし、無地Tシャツを別の安い場所で調達して持ち込めば——プリント代だけの50ペソで、はるかに低い原価でオリジナルグッズが作れる。
「これだ」とたくさんは思った。
そしてSMシティの一角にあるプリント店に4人は入った。ここが、この日の運命を決める場所になった。
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交渉が始まった
店員を前に、交渉が始まった。
I.くんが英語で話しかけた。「How can we tell you the design?」——「デザインはどうやって伝えますか?」
「Come email(メールで送ってください)」という答えが返ってきた。
たくさんがリードしながら、価格の確認を進める。Tシャツを店で調達する場合は「本体200ペソ+プリント100ペソ=合計300ペソ」。持ち込みの場合はプリントのみで50ペソ。大量発注なら——「50枚以上なら合計250ペソになる」と店員は言った。
M.くんが「プラスでプリントできるじゃん、めっちゃいいじゃん!」と食いついた。
タンブラーは300ペソ。エコバッグも300ペソ。缶バッジは50ペソ——次々と価格が明らかになっていく。Y.くんが手元のメモに、数字を書き込んでいった。
そしてI.くんが、仕上がりのことを確認した。「How many days?」
「2 weeks(2週間)」と店員は答えた。
「翌週(6月8〜9日)に発注すれば、6月23日に仕上がる」——そのスケジュールも示された。
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折りたたみ傘と手ぬぐい、消える
この交渉の中で、当初の候補アイテムの一部が静かに消えた。
折りたたみ傘は「外注になる、対応できない」と断られた。ビーチサンダルも同様。手ぬぐいについては、4人の間で「100%ないでしょ」という結論になった。
代わりに浮上したのが、I.くんが提案した缶バッジだ。「カンバッチはどうですか?」と店員に確認すると、50ペソで作れると言う。
「高いの?」とM.くんが反応したが、原価的には問題なく、リストに加えることになった。
こうして最終的に決まったのは、Tシャツ・タンブラー・エコバッグ・キーホルダー・缶バッジの5品目。最初に10点以上あった候補が、現実と向き合う中で研ぎ澄まされた結果だ。
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キッズサイズの壁
一つ、想定外の課題が出てきた。
この店のTシャツの最小サイズは「Small」。キッズサイズはない。
LAKANGのターゲット顧客は、クロスロードに来る生徒さんの保護者と、その子どもたちだ。子ども向けの商品を作るなら、キッズサイズのTシャツが必要になる。
「You can buy shirt outside. Let’s bring.」——外で買ったものを持ち込んでプリントするだけなら対応できる、と店員は言った。
では外部調達先はどこか。Choppy、ガイサノ、Jモール——候補が挙がった。これは持ち帰り課題になった。
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「Lakang」と書いた紙
発注の段取りを確認する中で、会社名を記入する場面があった。
たくさんが口にした。「My company is Lakan——Lakang。Lakangって書いておこう。」
表記に少し迷いながらも、「LAKANG」という文字が紙に書かれた。ビサヤ語で「大きな一歩」を意味するその名前が、初めてフィリピンの店舗の記録に刺まれた瞬間だった。
Y.くんはその紙を、静かに写真に撮っていた。
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この日に決まったこと
SMシティから帰る頃には、いくつかの重要なことが確定していた。
- 製作業者:SMシティ内のこの1店舗に確定
- 製作品目:Tシャツ・タンブラー・エコバッグ・キーホルダー・缶バッジの5品目
- 基本戦略:持ち込みTシャツ+プリント50ペソで原価を最小化
- 発注タイミング:翌週月〜火曜日(6月8〜9日)にメールでデザイン送付
- 仕上がり目標:6月23日
そして持ち帰り課題もできた。キッズサイズTシャツの外部調達先の確認、入稿用メールアドレスの準備、全アイテムの原価・売価の試算——やることはまだ山積みだ。
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「知ってる」と「できる」は違う
帰り道、M.くんが言った。「店員さんと英語で話すって、むずいな。」
I.くんが答えた。「でも伝わった。」
たしかにそうだ。完璧な英語じゃなかった。翻訳ツールが途中で使えなくなる場面もあった。それでも、交渉は成立した。
「知っている言語」と「使える言語」は違う。「知っているビジネス」と「動かせるビジネス」も違う。今日4人がやったのは、後者への一歩だった。
事前に計画していたアイテムのいくつかが消えた。想定より高い価格に直面した。AIが示した店舗では希望の商品が見つからなかった。それでも、最終的に業者は決まった。発注のルートが開いた。
**現実に揉まれながら、計画は形になっていく。** それが今回の一番の学びだったかもしれない。
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まだ終わっていない
6月23日、グッズが仕上がる予定だ。
でもそこに至るまでに、デザインを確定させて、メールを送って、受領確認をして、キッズ用Tシャツを別途調達して——まだ動き続けなければならないことが山ほどある。
でも、あの紙に書かれた「Lakang」という文字を見た瞬間の、あの感触は本物だった。
教室で学ぶビジネスには、あの感触はない。
LAKANG(ラカン)——大きな一歩は、また一段、前に進んだ。
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次回:デザインを確定し、発注へ。本物のグッズが、初めて動き出す。
📍 SMシティ・クロスロード語学学校(フィリピン・セブ島)にて*
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