【詩】 オセロの陰影
(詩と思想 2026年8月号 佳作)
病床に伏す母は
白い壁や白いカーテンに
だんだんと馴染んでいく
顔色も蒼白くなり身体も痩せ細り
白を纏うことに違和感が無くなった
窓際に飾られた虚栄の花に
跳ね返る光が輝けば輝くほど
母の生気は陰っていくように思えた
子どもの頃を思い出す
たくさん遊んでもらった記憶
オセロが一番楽しかったな
僕を気遣う看護婦の言葉は白かった
平べったく薄っぺらく無重力だった
意味のない音が羅列する
白が黒へとひっくり返される
看護婦が死神にしか見えなくなった頃
「また後でね」って母は言い遺した
僕は話の続きを待ったが
そんなものはやって来なかった
看護婦と共有した沈黙が
黒く重くのし掛かる
天国って白くないんだな
僕は白いペンを手にとる
白い紙に言葉を埋めていく
黒い最期に花を添えるように
母へ返事を書く
看護婦には見えないだろう
別に暗号ではないが
僕と母にしか読めない文字がある
まるでオセロをやっているみたいだ
もうお互いの手の内は知っている
裏返す手つきと駆け引き
無言で繰り返される寸劇
