Inclusion ― 不純物のある美しさ
はじめに
はじめましての方へ簡単に説明をしますと、
私は緊縛師ですが現在、御茶ノ水駅から徒歩5分の所に
1階カフェ「Inclusion」、2階トレーニングジム「Secure Base」を経営しています。
私が「Secure Base & Café Inclusion」をつくったのは、
セックスワーカーやSMといった仕事を生業にしていた方が、
セックスワーカーを卒業して次のキャリアに進むための“基地”を作りたかったからです。
社会の中には、特定の職業や生き方に偏見が向けられる現実があります。
その中で磨かれる洞察力、他者を感じ取る力、命を扱う繊細さは、
どんな職業にも置き換えられない「人間力」だということを。
だからこそ、人生のステージを変える人たちが、
安心して集い、休み、学び、また歩き出せる場所を――。
そんな思いを込めてつけた名前が “Inclusion” です。
Inclusionという言葉に込められたもの
社会の中で「インクルージョン(Inclusion)」という言葉は、
“多様な人々を排除せず、すべてを包み込む”という意味を持っています。
ダイバーシティ(多様性)が“違いを認める”ことだとすれば、
インクルージョンは“その違いが尊重され、生かされる環境を作ること”。
つまり、「誰もがありのままで存在できること」を目指す考え方です。
教育・福祉・ビジネスの現場でも、
「インクルーシブな社会」への意識は少しずつ広がっています。
それは、ただ共にいることではなく――
「ここに居ていい」と心から思える場をつくるということ。
ある日のランチタイムの会話
ある日、ランチタイムに来られたお客様が尋ねました。
「どうしてお店の名前をInclusionにしたんですか?」
私は、社会的な意味としての“包摂”をお話ししました。
誰も排除されず、いろんな過去を持つ人が安心して存在できる場所でありたい、と。
するとその方は微笑んで、
「ジュエリーの世界でも“Inclusion”という言葉があるんですよ」と教えてくれました。
宝石の中のInclusion
その方はジュエリーデザイナーの方でした。
ジュエリーの世界で“Inclusion”とは、
石が形成される過程で内部に取り込まれた 不純物や微細な鉱物、気泡、ヒビ のことを指します。
それは“欠点”ではなく、“天然の証拠”。
完璧に透明な石は人工的にも作れます。
けれど、ほんの小さな不純物――Inclusion――がある石こそが、
本物の天然石の証とされます。
その方は言いました。
「少しの不純物があるからこそ、その石は本物なんです。」
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥がふっと温かくなりました。


社会と宝石、二つのInclusion
このふたつのInclusionは、とてもよく似ています。

不純物を抱えた石が美しいように、
人もまた、完璧でないからこそ心を動かす。
不完全の中の真実
この社会では、“清らか” “正しい” “若い” “完璧”といった言葉が
人の価値を測る基準のように扱われることがあります。
けれど、私たちは皆、少しずつ不純物を抱えながら生きています。
それを隠そうとすればするほど、心は孤独になっていく。
宝石の中のInclusionが光を屈折させるように、
人の心の傷も光を別の角度に反射させる。
悲しみも、後悔も、失敗も――
それらを抱えた人の中には、深く柔らかな光が宿っているのだと思います。
Inclusionという生き方
「完璧じゃなくていい」
「不純物があっても、あなたは本物だ」
この場所は、そう言える場でありたい。
誰かの過去を裁かない。
誰かの違いを異物としない。
むしろ、それぞれのInclusionが重なり合うことで、
ここにしかない輝きが生まれると信じています。
ジュエリーの中のInclusionも、
社会の中のInclusionも、
そして、人の中のInclusionも――
すべては、「ありのままの存在が輝く証」。
おわりに
“Inclusion”という名前をつけた当時、
その言葉が宝石の世界でも「不純物のある美しさ」を意味するとは知りませんでした。
けれど今は、その偶然の重なりをとても大切に感じています。
傷があるからこそ人は人らしく、
そのままの姿で光ることができる。
互いの違いや痛みを受け入れ合いながら、
ここが誰にとっても安心して存在できる“居場所”であり続けるように。
