絵と物語|百人一首8番|百人一首で百人百色
小倉百人一首の句をモチーフに
物語と絵を募集する企画
『百人一首で百人百色』
物語に カンナ|をかし探究隊隊長 さまが
イラストを描いてくださいました
絵と物語のコラボレーション、ぜひお楽しみください
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小倉百人一首 八番
わが庵(いほ)は 都のたつみ しかぞすむ
世をうぢ山と 人はいふなり
私の住居は都の東南にあって
ゆったり気楽に暮らしています
それなのに世間では私が
世を憂いて宇治山に住んでいると
言っているようです
喜撰法師
『辰巳輝千 殿
◯年◯月◯日付をもって、S島支社企画営業部に勤務を命じる』
辰巳くんかわいそう、と言われて最初何のことかわからなかったけど、後で気がついた。あれは僕の転勤のことを指しているんだと。春から僕は本社からS島支社に転勤になった。そもそもS島の県庁所在地ですら地方都市とはいえそう規模は大きくないし、その上、島だ。多くの人の頭の中では本社勤務=勝ち、みたいな図式があるのだと思う。僕が出世コースから外れた、とも。まさか自分で希望したとは誰も思ってないところが可笑しい。島で暮らすなんて面白そうなのに。
S島に住みはじめて分かったことがある。自分がいかに都会に疲弊していたかということだ。最初は夜の暗さに驚いた。けど直ぐに、真っ暗い夜空にくっきり見える無数の星に驚いた。深夜でも空が明るい都会とは大違い。満員電車もなく、というか電車自体この島にはなく、窓を開けたらすぐ隣の家の窓、なんてこともない。何より水が美味しい、食べ物が美味しい。大型書店併設のコーヒーショップがあったのはちょっと嬉しい驚きだった。思ったより、街だ。
確かに地元の人々との関係づくりはなかなか手強い。「都会の人は」「この若造が」という目で見られて一線引かれてるなと思う。でも顔を突き合わせている分、通じるものもある。それにこの小さな支社では何でも自分でやらなきゃないところがいい。本社では分業化が基本だったから。大変は大変だけど、自分の思うように自分のペースでやれる気楽さ。本社でいつも感じてた急かされている感じ、それがない。ここにいると、自分の呼吸を感じることができるんだ。

そんな訳で、僕はここでの生活をかなり堪能している。だから僕より後に本社から異動してきた上司の鳥羽さんの話は心外だった。歓迎会と称して二人で飲みに行った居酒屋、烏賊の刺身がめちゃくちゃ美味い。ビールから日本酒、いい感じに酔いが回った頃、赤い顔の鳥羽さんがこんなことを言い出した。
「辰巳は本社での人間関係に疲れ果てて、こっちの勤務を希望したって噂だけど」
え? 何それ? 一体どこでそんな話になったのか。僕が何か返す間もなく、鳥羽さんは言う。
「お前何か無理してないか?」
「いえ全然。むしろ楽しく仕事してますよ」
「俺は一日も早く本社に帰れるよう頑張るから」
「あー……」
噛み合ってない会話をしつつ、そうか、この人は僕と違ってこの転勤が不本意だったんだな、と気がついた。本社勤務に最大の価値を置く人からしたら、今僕がここでの暮らしで感じている『呼吸できてる感じ』なんかは、理解できないのかもしれない。
ふと、泳ぎ続けないと死んじゃう魚って何だったっけ? と考える。自分は絶対そっちのタイプじゃないなと思う、でもきっと鳥羽さんはそっちのタイプなのかもしれない。
「これもう一本」もう目が半分閉じかかっている鳥羽さんがマスターにお銚子を頼んだ。
「いやもう止めときましょ。そろそろ帰りますよ」
んー、と答えてよろっとしながら鳥羽さんは席を立つ。まだ自力でタクシーに乗れそうだ。
泳ぎ続けないと死んじゃう魚は、眠ってる時も泳ぎ続ける。でも人間は休まないと。ちゃんと休んで、ちゃんと働いて。
僕とは違う鳥羽さん。早く本社に戻れるといいな。来たばっかりの人に、こういうこと思うのも変だけど。
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自分の作品に挿絵を描いていただくという、なんとも贅沢な体験をさせていただきました。うっとり
また、現代語訳も引用させていただきました
私が最初に引用したものより、飄々とした雰囲気が伝わるかと思います
カンナ|をかし探究隊隊長 さんのポップなイラストは物語の切り取り方が絶妙! レイアウトの面白さやカラフルさも相まって、作品に楽しい彩りを与えてくれました
本当にありがとうございます
他にも力作をたくさん発表されていますので、ぜひ鑑賞してみてください
そしてこちらの企画に、多大なるお世話になりました
機会をいただき、ありがとうございました!
