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【短編小説】プリンパフェチョコレートパフェ

 借りた本を返そうと森ちゃんに連絡したら『最近パフェ食べてないから食べに行きたい』と言う。私たちの間でパフェといえば大学の最寄駅近くの純喫茶、年配の常連客も多いけど私たちみたいな学生も珍しくない。でもこの、昭和感漂う店内に誰よりも馴染んでるのは森ちゃんだと思う。彼女のファッションはまさに昭和という感じでデザインも色柄もレトロ、大きめの黒縁眼鏡やちょっと古臭い髪型がさらに彼女を独特な雰囲気に見せていた。だから「人から『普通にしてたらモテるのに』とか言われてさ」と森ちゃんが切り出した時にはちょっとドキッとした。実は私もそう思っていたから。
「そもそも不特定多数にモテることがいいこと、みたいな考え方も古いというか」細長い銀のスプーンをパフェグラスに差し入れ、底に溜ってるソースを掬いあげながら森ちゃんは言う。私はそのソースの鮮やかな緑を見ながら『なんでプリンパフェにメロンソースなんだろう』といつも思うことを今日も思う。プリンにはチョコとかキャラメルの方が味も色も馴染むのに。森ちゃんは掬った緑のソースをパフェの上から垂らして言った。
「普通って何? って聞いたら雑誌に載ってるファッションがどうとか一般受けがどうとか言ってくるし。思わず『つまんねー』って言っちゃったよ」
「あはは……」
 一応笑ってはみたものの、頬が強張るのを感じる。普通であることをつまんねーと言える森ちゃん。毒々しい色の服を着て毒々しい色のパフェを好む森ちゃん。私はいつもチョコレートパフェ、王道のチョコとアイスと生クリーム、安定の組み合わせ、外れがない一番人気。パフェの選び方すら、森ちゃんと私を象徴してるみたいだ。

 思えば、森ちゃんは高校の時から独特だった。今の大学で唯一、同じ高校出身の森ちゃんとは高校時代から仲が良かったわけじゃない。同じクラスになったこともなく部活で絡むこともなく。でもなんとなくその存在を知っていたのは、私の認識の中で『ちょっと変わったグループの中の人』だったから。アニメとか漫画とか、そういうものの愛好家が集まってて、部活は文系、音楽やったり、詩とか文章とかも書いてるとか。クラスの垣根を超えて数人で集まってる、ちょっと癖のある人たち。その中に森ちゃんはいた。だから担任から「◯組の森志津香さん、同じ大学受験するよ」と言われて言葉を交わすようになった時、けっこう気安く話せるのが意外だった。私の中で森ちゃんは『あっち側の人』だったから。
 物心ついた時には、世界には『こっち』と『あっち』があって、幼いながら『あっち側の人間になってはいけない』と、強く思っていた。何があっちで何がこっちかは母親や祖母をはじめとした『大人たちの話』を聞いていたら自ずと知ることができた。あそこの子はちょっと変わってる。あの家の子は高校も行かないで。あんな派手な格好で出歩いて。そんな誰かの噂話を大人がする時、私にはその風景がそこだけ濁った暗い青のフィルタがかかったように見えた。そんなところに自分も混ざるわけにはいかない。こっち側にいるように、陽の当たる場所から離れないように、そんな風に生きてきた。間違ってもあっち側の人にならないように。服を選ぶ時、髪型を決める時、進路を選ぶ時、部活を決める時……選択も発言も、何にせよいつも「外れていないかな」という意識があった。「外れていない、大丈夫」という思いは何より私を安堵させた。
 でもその安堵だったことが、安堵ではなくなっていることに私は気づきはじめている。

「……その『普通にしてたらモテるのに』って言った子の気持ち、私わかる気がする」
急に話し出した私に、森ちゃんは『ん?』という目線を向けて次を促した。
「だって割と世の中ってそうじゃん。一般受け、って存在するよ。結局無難なのがみんなに好まれるというか。森ちゃんにとってはつまんないことかもしれないけど、世の中には、頑張って普通であろうと努力してる人だっていると思う」言ってるうちに、何を言いたいのか自分でもわかんなくなってきた。森ちゃんは黙って私が続けるのを待っている。わかんない、わかんないけど。
「でも森ちゃんには森ちゃんを貫いて欲しいと思う」
なんだそれ、と森ちゃんは笑った。恥ずかしくなった私は「ちょっと味見」と森ちゃんのパフェグラスを手元に引き寄せ、プリンと緑のソースがかかったクリームをたっぷり掬って口にした。想像では、甘いプリンと酸味のあるメロンソースは合わないはずだった。
「なんだこれ美味しいじゃん」
どうした咲ちゃん、と笑いながら森ちゃんは私のチョコレートパフェにスプーンを伸ばす。昔はこればっかだったから飽きたと思ってたけどやっぱ美味しい、と森ちゃんは笑う。
「どっちも美味しいね」
そう、どっちも美味しい。こっちもあっちもなく、ただ単純に美味しい、それでいい。
 次はプリンパフェにしよう。小さく心に決めた。








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