絵と物語|百人一首71番|百人一首で百人百色
小倉百人一首の句をモチーフに
物語と絵をつくる『百人一首で百人百色』
絵 :カンナ|をかし探究隊隊長 さま
物語:アンカシモリ
コラボレーション、ぜひお楽しみください
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小倉百人一首 七十一番
夕(ゆふ)されば 門田(かどた)の稲葉 おとづれて
芦のまろやに 秋風ぞ吹く
夕方になると
家の門先にある田の稲葉に
そよそよと音をさせて
芦葺きのこの小屋へも
秋風が吹いてくるよ
大納言経信
『加納あき 殿
この度は、当社の採用選考試験を受験いただき、誠にありがとうございます
厳正なる選考の結果、加納様を契約社員として採用することが決まりましたので、ここに通知いたします』
契約社員とはいえ地元にいながらそこそこの会社に勤めることができたのはラッキーだった。都会暮らしに憧れて島を出た学生時代。そのまま社会人になったはいいけど会社の方針に馴染めず、空の面積が少ない都会で息ができなくなったあの時。地元に戻るか悩んだけど、冗談に紛れさせた「帰ろうかな」の言葉に単純に喜ぶ両親のおかげで踏ん切りがついた。
今年になってこのS島支社には本社から異動が続いている。最初に二十代の辰巳さんが来て、次に来た鳥羽さんはまだ三十代で支社長、きっと優秀な人なんだろう。
「加納さん、頼んだデータ入力って今日中にできる?」
「はい、大丈夫です」
じゃお願いします、と、支社長は席を立ってホワイトボードに予定を書き込む。スーツは細身で小さめな襟の青いシャツ、そこに合わせたあずきバーみたいなくすんだ色のネクタイが絶妙。スーツのサイズ感といい生地といい垢抜けている。準備して出かけようとする支社長に、辰巳さんが声をかけた。
「鳥羽さん、今日って……」
「さんじゃなくて、支社長だろ。役職で呼べって習わなかったか」
「あ、すみません、で今日の予定なんですけど支社長」
注意された辰巳さんは特に意に介する様子もなく、大物なのか鈍感なのか分からない。グレーのスーツに明るいグレーのシャツ、遠目で見ると無地だけど近くで見るとギンガムチェックのシャツ。お洒落すぎる。背が高いけど自分を僕と呼ぶ威圧感のない辰巳さん。『大型犬』という言葉が浮かぶ。絶対本人には、言わないけど。
「その本社から来た人たちって、独身?」
「うん、二人ともそうだね」
休日、幼なじみのみっちと、いつもの喫茶店でいつものパフェを頼む。昔から変わらないフルーツたっぷりのパフェ。もう何度一緒に食べただろう?
「あきはどうなの? どっちがタイプ?」
「みっちに言ったら絶対そういうこと言うと思ってた」
そりゃ気になるでしょ、と言いながらみっちはウサギりんごを手で取って食べる。身近に異性がいたらすぐ恋愛と結びつけるみっち。アラサーで相手のいない私を心配する既婚のみっち。彼女の率直さは好きだけど、正解を決められてる感じが時々辛い。でももう、胸を痛めることもなく流せるようにはなった。
「いや私とどうこう、じゃなくてさ」こっちを見てるみっちに、思いついたことを言う。「なんならあの二人がカップルだったらって思うよ」
ぐふっ、と変な音を出してみっちは咳き込んだ。以前たまたま見てはまった深夜のBLドラマ。みっちにも教えたら彼女も面白がってドラマを見てくれたけど、私は原作となった漫画も読破し、さらに他のBL作品にもじわじわ手を伸ばしていた。
「あき、漫画の見過ぎ」と言ってみっちは笑う。私も笑う。支社長、辰巳さん、ネタにしてごめんなさい。

そんな休み明け早々に支社長と辰巳さん、私の三人で取引先に行くことになった。普段は内勤なのだが、打合せに女性の意見も取り入れたいという先方の意向らしい。
夕方、時間になって辰巳さんが運転する車で会社を出る。取引先に向かってしばらく走ると、建物がどんどん減って田んぼに変わり、視界全部が田んぼになった。「この景色は、圧巻ですよね」辰巳さんが言うと、支社長も感心したようにそうだなぁ、と言う。地元の私にとっては見慣れていて何も思わない景色。でも都会の人には新鮮な景色。
収穫が近い田んぼは黄金色に色づき、重く実った稲穂は弧を描いておじぎをしている。取引先の駐車場に車を停めて降りたら、ちょうど風が吹いてサヤサヤと稲穂が揺れた。秋風が心地いい。ふと田んぼに目をやると、さらに強い風が出て稲穂がうねり、広大な田んぼ全体に大波が起こった。
ザワザワザワザワ、ザワザワザワザワ。
「うわー、すげー、ジブリっぽい」辰巳さんが感嘆の声を上げた。
「ジブリって。でも確かにすごいな」支社長も目を見張る。
なぜか私が誇らしい気持ちになる。
いつかきっとこの二人は都会に戻る。遮るもののないどこまでも広がる空と、視界いっぱいに広がる田んぼと、この秋の風のこと、憶えてて欲しい。そして私には合わなかった都会の面積の少ない空に疲れた時、今日のことを思い出してくれたらいいな。
そっちにも、風は吹くから。
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『文章からイメージを膨らませて、イラストに落とし込む』
この難しさを乗り越えて、カンナ|をかし探究隊隊長 さんが物語に新しい風を与えてくれました
あきが〜! パフェが〜〜! みっちの手が〜〜〜! (興奮)
現代語訳もカンナさんのものより、引用させていただいております
イラストと併せて、軽やかさがあって、いいんですよね
物語からインスピレーションを得たイラストに、アルファベットを組み合わせたデザインが特徴的な、カンナさんのカラフルでポップな世界。ギャラリーにまとめられていますので、他の作品たちもぜひ鑑賞してみてください
ご縁を繋いでくださいました企画はこちら
楽しい企画をありがとうございます
