湖に落ちた光の名前を探して(フィナエル)
水温が変わった瞬間、胸の奥で小さなひらめきが弾けた。
ここは海じゃない。潮の匂いも、うねる流れもない。
でも――水は青くて、光はやさしく揺れていた。
「……どこだろ、ここ。」
フィナエルはゆっくりと羽のような腕を動かし、
湖面から差しこむ光を見上げた。
海とは違う“静けさ”が、頭のてっぺんから足の先まで響いてくる。
少し心細くなりながら進んでいると、
すぐ前で金色の尾びれがふわっと揺れた。
「やぁ。迷子さんかな?」
振り向いたのは、やわらかな虹色をまとった
チョウチョウウオのヴァルメイだった。
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■ 湖のガイド、ヴァルメイ
「ここは海じゃないよ。でもね、面白い場所なんだ。」
そう言って、ヴァルメイは水を軽く蹴った。
水中に細やかな気泡が舞い、向こうの水草に光が反射する。
「この光……海と違う……。」
「うん。湖は“静かな揺れ”が得意なの。
海みたいに大きくは動かないけど、小さく優しく、心の中がすっと整うような動き方をするんだよ。」
その言葉が、胸の奥にぽたりと落ちた。
「……きれい。」
「気に入ったなら、こっちも案内してあげる。」
フィナエルは少しだけ不安を忘れて、ヴァルメイのあとを追った。
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■ 湖草を口にしてみたら
途中でフィナエルは、ゆらゆら揺れる細い葉っぱを見つけた。
「これ、海藻みたい……!」
口にぱくっと入れて、もぐもぐ。
「ん? これ違う……味が……うーん……?」
その瞬間。
後ろから、やさしいけど少し焦った声がした。
「フィナエル、それは湖草だよ。海藻じゃないから、食べすぎるとお腹びっくりしちゃうよ。」
ジュゴンのマルヴォンが心配そうに近づいてきた。
「えっ、そうなん……? なんか変な味すると思った……。」
「ふふ、でも挑戦したのはえらいよ。
湖にも“海とは違うルール”があるんだってこと、少しずつ覚えていけばいい。」
マルヴォンの声は、大きな波がゆっくり引いていくような安心感を運んでくる。
フィナエルは照れくさく笑って、
「うん……がんばる……!」
と小さく返した。
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■ 湖に落ちていた“名前のない光”
3匹で泳いでいると、湖底のほうに淡い光がぽつんと落ちていた。
「……あれ、何?」
「ここでは時々、“名前のない光”が生まれるの。」
ヴァルメイが囁くように言う。
「名前のない光?」
「そう。その光を見る生き物によって、意味が変わるんだよ。
癒しにも、希望にも、勇気にもなる。
フィナエルには……どんな光に見える?」
フィナエルはしばらく見つめた。
胸の奥で、何かあったかいものがじんわり広がる。
「……海の光より、優しい。
でも、消えない。
なんか……ここにいていいって言ってくれてる気がする。」
ヴァルメイとマルヴォンは目を細め、
その言葉を肯定するように小さく頷いた。
「それなら、それがきみへの“意味”なんだろうね。」
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