偽物の制服
東京は、
偽物の制服を着た私でも、追い返さなかった街。
私は高校中退者。
だから制服を着ていても、それはちゃんとした高校の制服じゃない。
本物じゃない、見せかけの制服。
でも私は、制服が着たかった。
かわいいスカートに、ユニクロのカーディガン。
そこに気に入ったリボンを合わせる。
バイトしてためたお金で、少しずつ揃えた、私だけの制服。
その格好で私は、東京へ通う。
高卒認定試験のための塾に行くために。
地元でその姿を見られるのは、怖かった。
地元の駅では早歩き。
何を言われるかわからないから。
ちゃんとした高校生じゃないのに、制服なんか着て。
そう思われる気がして、苦しかった。
でも東京は違う。
誰も私の事情を聞かない。
誰も立ち止まって、私を値踏みしない。
だから、気に入った制服を着て前を向いて歩けた。
放っておいてくれることが、あんなにやさしい事、
私は東京で知った。
塾が終わると、私は上野駅へ。
そしてかばんからMDを取り出して、スピッツの「チェリー」を聴く。
乗るのは常磐線のいちばん後ろ、15号車のボックス席。
出発までのあの時間が、私は好きだった。
春の少しやわらかい空気の中であの曲を聴くと、張りつめていた気持ちが、少しだけゆるむ。
今の上野駅は、すっかりきれいに。
でもあの頃は、常磐線から山手線へ抜ける細い通路があって、私はあの道が好きだった。
少し古くて、少し雑多で、でもちゃんと次の場所へつながっている。
あの通路は、どこにもきちんと属せなかった当時の私に、少し似ていたのかも。
20年前の上野駅。
あの場所で私は、偽りの制服を着て、まだ何者にもなれていない自分を抱えたまま、東京へ通った。
それでも東京は、そんな私に何も言わなかった。
追い返しもしなかった。
東京の良さって、華やかさだけじゃない。
途中の人間にも、ちゃんと居場所を残してくれることなんだと。
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