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「トラス・ショック」をご存じですか。イギリス政府が発表した財源の裏付けの不十分な大規模減税策が、金融・為替市場の信認を失い、トリプル安の審判を受け、政権そのものが崩壊した事例です。

(出所)財務省 ファイナンス2023年6月
「トラス・ショックを踏まえた 経常収支・国債の海外保有・安全資産の関係」

「トラス・ショック」をご存じですか。イギリス政府が発表した財源の裏付けの不十分な大規模減税策が、金融・為替市場からの信認を失い、市場が混乱し、ポンド、英国債、株価のトリプル安の審判を受けたことで、トラス政権そのものが崩壊した事例です。

イギリスの保守党の党首で、2019年に首相に就任したボリス・ジョンソン氏は、「ブレグジット(EU離脱)」の実現を掲げ、2020年1月に正式にEUを離脱させました。2022年7月に、そのジョンソン氏がスキャンダルにより辞任を表明しました。その後に行われた9月5日の与党保守党の党首選でリズ・トラス氏が勝利し、党首に選出されました。翌6日、イギリス第78代首相に就任しました。

トラス首相は、9月23日に大規模な減税策を柱とする「ミニ・バジェット(小規模予算案)」を発表しました。その内容は、所得税の基本税率の引き下げ、高額所得者向けの最高税率(45%)の撤廃、予定されていた法人税率の引き上げの凍結などです。減税の規模は、年間約450億ポンド規模の減税で、「過去50年で最大」 と報じられました。

しかしながら、その財源の裏付けが不十分で、「大規模な減税策は財源の大半を国債発行による財源なき減税」「財政規律の欠如」と批判されました。金融・為替市場関係者には、中長期的な財政悪化、イギリスの財政破綻を連想させました。

上の図表をみてください。このため、ポンドが1.09$/£まで急落、英国債利回りが3%から4.5%まで急騰、株価FTSE100も2%急落して、市場はトリプル安の様相を呈しました。

こうした状況を受けて、年金基金の危機が発生しました。多くの企業年金基金は将来の給付に備えて、LDI(負債主導型投資)戦略と呼ばれる手法で国債を活用し、金利変動に対するヘッジのために、デリバティブ取引を行っています。

このため、長期金利が急騰すると、これらLDI取引では担保(証拠金)不足が生じます。年金基金は追加の証拠金を差し入れるよう緊急要求(マージンコール)を受けます。年金基金や運用ファンドは、資金繰りのために、保有していた大量の国債の売却を余儀なくされました。その結果、国債市場にはさらなる売り圧力がかかり、長期金利が一段と上昇するという悪循環に陥りました。

このままでは年金基金自体が破綻しかねない危機的状況となったことから、イギリスの中央銀行であるイングランド銀行が、金融システム安定化のために、異例の緊急介入として、長期国債の買い入れに踏み切りました。その結果、なんとか市場の連鎖的不安は沈静化しました。

この間、トラス政権内では、財務相が更迭され、10月17日、新財務相が減税策の大部分を撤回しましたが、保守党内の混乱を受け、10月20日、トラス首相が辞任を表明、25日に正式に辞任し、トラス政権が崩壊しました。トラス首相の在任期間はわずか49日間で、イギリス史上最短の首相となりました。

この一連の騒動は、「トラス・ショック」と呼ばれています。金融・為替市場参加者は「大規模な減税策」よりも、「財政規律を無視した国債の増発によって将来懸念される財政破綻」に強い危機感を示しました。

背景には、イギリス政府への信頼度の低下があります。市場との対話不足により、財政政策に対する市場の反応を軽視したことで、政府の経済運営に対する市場の信認が揺らぎました。また、一方で、減税策を打ち出すも、批判を受けてすぐに撤回したことで、政策の一貫性が欠如し、保守党内からも「信頼できない」との声が噴出し、保守党内の支持を喪失したことが致命傷となりました。

「トラス・ショック」は、政府の財政政策が金融・為替市場の信認を失った場合、市場の混乱という形で、市場からの反撃を受ける教訓的な事例です。上の図表をみてください。トラス・ショック後にも、IMF国際通貨基金は、イギリスの成長率予測を大幅に下方修正しました。

 日本でも財政規律を欠いた減税政策が導入されれば、類似のリスクが発生する可能性があると指摘されています。特に、国債市場における海外投資家の存在感が高まっており、信認の低下が金利上昇や為替変動を引き起こす可能性があります。この教訓を活かして、日本でも財政運営において慎重な姿勢が求められています。

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