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映画『ぼくが生きてる、ふたつの世界』感想・レビュー(ネタバレあり)

※この記事には広告リンクを含みますが、内容は一視聴者としてのリアルな感想です◎気軽に読んでもらえたらうれしいです。

※この記事は、過去に別ブログで公開していたものを加筆・修正して再掲しています◎

今日は、映画『ぼくが生きてる、ふたつの世界』。

上映している映画館が少なくなってきたけれど……すごく価値のある映画だったと思います。 早く配信もされるといいな。

※この記事にはネタバレが含まれますのでご注意ください。



『ぼくが生きてる、ふたつの世界』の紹介とあらすじ

概要

  • タイトル:『ぼくが生きてる、ふたつの世界』

  • 監督:呉美保

  • 脚本:港岳彦

  • 制作年:2024年

  • 原作:五十嵐大『ろうの両親から生まれたぼくが聴こえる世界と聴こえない世界を行き来して考えた30のこと』

※原作は『ぼくが生きてる、ふたつの世界』に改題し、幻冬舎文庫より発売中。

(監督については後述するとして、)脚本を担当している港岳彦さん。各所で信頼と安心の脚本家なのね。この方が脚本を担当している映画タイトルを見て納得。『宮本から君へ』、『MOTHER マザー』、『とんび』、『正欲』等。わたしは『MOTHER マザー』しか観たことがないのだけど、この世の中の、まだ光の当たってない部分を描き出す力がすごいのかなあと思ったり。  

あらすじ

宮城県の小さな港町、五十嵐家に男の子が生まれた。祖父母、両親は、“大”と名付けて誕生を喜ぶ。ほかの家庭と少しだけ違っていたのは、両親の耳がきこえないこと。幼い大にとっては、大好きな母の“通訳”をすることも“ふつう”の楽しい日常だった。しかし次第に、周りから特別視されることに戸惑い、苛立ち、母の明るささえ疎ましくなる。心を持て余したまま20歳になり、逃げるように東京へ旅立つ大だったが……。

映画『ぼくが生きてる、ふたつの世界』公式サイト

 耳のきこえない、あるいはきこえにくい親をもつ聴者の子どものことを「コーダ/CODA(Children of Deaf Adults)」といいます。2023年の専門家による調査では、日本国内にいる約2万2000人の子どもたちがコーダだと推計されています。 (参考:CODA 知っていますか? “耳が聞こえない”親がいる子どもたち | NHK | WEB特集 )  


『ぼくが生きてる、ふたつの世界』感想・レビュー

 “無音”――から始まるこの映画。 耳のきこえない人たちの“普通”が、わたしの“普通”とは違うことを気づかせてくれます。

「コーダ」/マイノリティに寄り添った作品

 この映画では、コーダやろう者といった、普段なかなか出会う機会のない(あるいは出会っていてもそうとはわからない)人たち、つまりマイノリティに属する人たちが登場人物として多く描かれているのだけど、その人たちのありのままの描き方と、その人たちへの寄り添い方と、そしてそうしたマイノリティの人々のことをマジョリティ側にうまく届ける工夫と……様々な点で繊細な映画だなと感じました。

 「コーダ」というマイノリティを描いた海外の作品としては、2014年のフランス映画『エール!』、そしてそのリメイク版である2021年『コーダ あいのうた』が。『コーダ あいのうた』はわたしも観たけど、“ろう者はろう者が演じる”ということも含めかなり本格的にろう者やコーダに向き合った作品の一つだと思う。

 今回の『ぼくが生きてる、ふたつの世界』でも、ろう者はろう者が演じているのはもちろん、ろう者やコーダ当事者の方が演出や監修、通訳等のスタッフとして映画製作に携わっているという、日本ではたぶん初の映画。なんというか、物語のための一アイテムとしての手話ではなく、わたしたち日本語話者が日本語をしゃべるように、手話を日常的に使っている人たちが手話で当たり前にしゃべっている感じが伝わってきます。
(参考:ろうの役をろう者が演じ、手話演出、コーダ監修を実現「ぼくが生きてる、ふたつの世界」が写すリアリティ|ハフポスト

 ろう者の役はろう者の俳優が演じる、というのも、当たり前のようでまだまだ当たり前ではない現実。アメリカ映画なんかで中国系の俳優が日本語を話していると違和感を感じるように、ろう者の人にとっては聴者がろう者の役を演じているのにとても違和感を感じるそう。そりゃそうだ、となるけれど、言われるまでは、やはり気づかないものよね~。関東出身の俳優が無理やり関西弁をしゃべっているような感じとでも言ったらいいのかな。マイノリティの関連で言うと、LGBTQも当事者が演じるような流れになってもいいのかなと思ったり……。

 話は変わるけれど、そもそもなぜこの映画を観に行ったかというと、たまたま見ていたNHK朝の情報番組「あさイチ」に出演されていた呉美保監督のお話しを聞いたから。

 監督自身も在日韓国人というマイノリティな存在で、名前の読み方はオ・ミポなのね。映画監督に詳しくないので全く知らなかったのだけど、自身もマイノリティでありながら、コーダというマイノリティの人たちに対して全くの「無知だった」とことからのスタート。しかも、出産後初の本格的な長編映画の撮影で、「子育てをしながらの監督業」というのも、業界ではほとんどいないマイノリティな存在だったそう。

 わたしは大学時代に、手話やコーダについて少しだけ勉強していたので、その存在はなんとなく知っていたのだけれど、だからこそ、こんな監督が撮った映画なら大丈夫だろうと(謎の上から目線)、絶対観に行く!と決めたのよね。 主題であるコーダと、コーダだけではないさまざまなマイノリティの立場にある人々に寄り添った、素晴らしい作品だったなと思います。  

親子の普遍的な愛

 そして、この映画で描かれるのは「親子の普遍的な愛」でもあるのよね。「ろう者だから」とか「コーダだから」という理由で起こる様々な問題は、なんというか人間の心の機微の表面にあるもので、というか、人間の心の機微の一歩手前にあるもの、人間の心を動かす要因なだけで、“心”そのものではなくて。だからこそ、様々な理由で起こる様々な問題に向き合った時に動く親子の心模様がなんとも胸に迫ってきました。

 ちなみに、わたしは両親と観に行ったのだけど、特に母親はもう、大大大号泣でした。母親というのは、やっぱり子どもと一緒にいる時間が長い分、色々な思いがあるんだなと思わされました。

 この映画を観たほとんどの人の印象に残るだろうシーンとして、主人公が母親に感情をぶつけるシーンが挙げられると思う。高校受験に失敗した主人公・大が、「こんな家に生まれてきたくなかった」、と手話をしながら叫びがあふれ出てくるシーン。どんな家庭に生まれても、きっと誰もが一度は思ったことのあるセリフだと思うし、だからこそ、主人公の立場に立っても母親の立場に立っても、ものすごく胸に迫るシーンだった。

 だけど数年後、お母さんはそんなこと忘れてるんだよね。万感の気持ちを込めた、母親への「ごめん」に、母は「ん?なにが?」って笑顔なの。忘れてる……のかな。もしかしたら忘れていないのかもしれなけれど、それでも「こんな家に生まれてきたくなかった」って言われるようなそんな辛い記憶が霞んじゃうくらい、大のことを愛しているというか。そんなの、大を愛する気持ちに比べたらたいしたことないよ、というか。今これを書きながら泣きそうです。

 それから、母親が大に対して「ありがとう」っていうシーン。「人がたくさんいたのに、手話で話してくれて嬉しかった」って、ものすごく嬉しそうな笑顔で。もう、本当に泣く。言われた方は、いろんな思いが頭の中を駆け巡るよね。恥ずかしいからと授業参観に呼ばなかったこと、親につらく当たったこと、耳の聞こえない両親から離れて東京へ行ったこと、あまり帰ってこなかったこと……。ほんと、泣いちゃうね。

 親子の普遍的な愛というテーマで考えると、もちろん父親とのやりとりも含まれていて。男同士だからこそ(?)の大への信頼とか、東京へ行けと後押しする姿とか。母さんとは駆け落ちだったんだぞっていう話とか。同性の親だからこその視点で紡がれるたくさんの言葉は、きっと大の優しさやおおらかさの、そして強さの根幹を作ったんだろうなと思わされた。

 あと、全然関係ないけど、お父さんがかっこいい俳優(三浦友和)に似てる似てないみたいなやり取りがかわいかった。他のさまざまなシーン(特におしゃべりのシーンなんか)でも、そういう些細なやり取りが、ろう者と聴者、関係なく「普通」なんだよと伝える効果もあるのかなと考えたり。

 親子で言うと、主人公・大の母親とその両親にも少し触れようと思います。世代的なものや、田舎という立地もあってか、「ろう」に対して無知、かつそれを隠そうともしない両親の存在。しかもきっと、全く悪気なくね……。「治ると思って普通の高校に行かせたら治らんかったわ!」と笑いながら言う大のおじいちゃんと、それに呆れている大のおばあちゃん。大がもっと幼いときは、暴れるおじいちゃんと宗教に頼るおばあちゃん。心の奥底で感じている、発散できないやりきれなさがなんともつらい。うまく表現されていたと思います。それでももちろん、二人の愛情は至る所で感じたよ。大の両親が理想の親だとしたら、大の母の両親は等身大の親、というか。それがまたよかったです。  

自分で道を切り開く勇気をもらえる映画

 なんというかな~。「コーダ」が生きる、ろうと聴の世界がどんななのか、という映画でももちろんあるけど、物語全体を通して、主人公の成長譚、なのよねきっと。 幼少期から始まり、田舎で、コーダとして育ってきたつらいこと、東京のパチンコ店で、あるいは小さな出版社で、独立して、様々なことを潜り抜けてきた主人公。その彼がふるさとの宮城から東京へ“帰る”ために乗った電車が、トンネルを抜け、美し景色の中へ飛び出していく。そして始まる、「ぼくが生きてる、ふたつの世界」。

 も~~~~完璧かよ。

 真っ暗なトンネルから、はるか向こうに見える美しい世界。それがどんどん迫っていて、気がついた時にはもう、新緑の鮮やかな緑があふれる明るい世界の中にいる。 自分の背負ってきた様々な感情に気づき、何かのきっかけでふと整理されて、だからこそ新たな世界への道が切り開かれるというか。なんかこう、うわ~っと、今書きながら改めて思います。  

演技派が勢ぞろいのキャスト陣

 主演の吉沢亮、ろう者俳優の忍足亜希子(苗字は「おしだり」と読むのね)、今井彰人を筆頭に、ユースケ・サンタマリア、烏丸節子、でんでんと……超大物脇役が勢ぞろい。烏丸節子、でんでんは、わたしは全然知らなかったのだけど、わたしの両親によるととても有名だそう。でんでんなんかは、本当はすごく優しいおじいちゃんだそうで、だからこそできるあの演技……となりました。

 そして、この記事を書くにあたって調べて知った衝撃の事実なんですが……、 忍足亜希子さん、まさかの54歳……。え??54歳で20代くらいの役を……?? ちなみに今井彰人さんは33歳で、驚異の21歳差でのご夫婦役。

 まあ吉沢亮も、中学生から本人が演じていてたからそれもすごかったんだけど。 いうて俳優ってみんなそんな感じか……いやあでも、ほんとすごい。びっくり。 とまあそんな感じで、なんだけど、これ絶対、吉沢亮が主演だからという理由で観た人もかなり多いんじゃないかなと。吉沢亮をきっかけに見に来た人たちも、こういう世界があることをこんなに本格的な映画で知ることだできて……社会的にも、すごく価値のある映画なんじゃないかなと思いました。  


『ぼくが生きてる、ふたつの世界』感想・レビューのまとめ

ということで。

  • 手話やコーダに興味がある人

  • 恋愛ではない「愛」を感じたい人

  • つらい境遇にいながら、がんばろうともがいている人

良かったら、ぜひ見てみてください:)



『ぼくが生きてる、ふたつの世界』が“はまった”あなたにおすすめの映画

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エール!

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