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映画『国宝』感想・レビュー(ネタバレあり)

今日は、『国宝』。

『国宝』公式Instagramより

7月5日に大災難が来るって言われてるけど、もし本当にそれが来て、もし本当に死ぬことになるとしたら、死ぬ前に『国宝』を観られて本当に良かったです……。


※この記事にはネタバレが含まれますのでご注意ください。



『国宝』の紹介とあらすじ

概要

  • タイトル:『国宝』

  • 監督:李相日

  • 制作年:2025

  • 原作:吉田修一『国宝』

上映時間、2時間55分。ずっと画面に釘付けでした。

原作は吉田修一の小説なのだけど、なんと作者自身が3年間、歌舞伎の楽屋に密着した経験をもとに執筆したというもの。しかも、普通に取材ではなくて、実際に黒衣を着て。本気すぎる。作家生活20周年の最高傑作とのこと。有名で、映画化もされている『悪人』や『怒り』もまだ読んでいないので、あわせて読みたい作品です。

あらすじ

後に国の宝となる男は、任侠の一門に生まれた。

この世ならざる美しい顔をもつ喜久雄は、
抗争によって父を亡くした後、
上方歌舞伎の名門の当主・花井半二郎に引き取られ、
歌舞伎の世界へ飛び込む。
そこで、半二郎の実の息子として、
生まれながらに将来を約束された
御曹司・俊介と出会う。

正反対の血筋を受け継ぎ、
生い立ちも才能も異なる二人。
ライバルとして互いに高め合い、
芸に青春をささげていくのだが、
多くの出会いと別れが、
運命の歯車を大きく狂わせてゆく...。

誰も見たことのない禁断の「歌舞伎」の世界。
血筋と才能、歓喜と絶望、信頼と裏切り。
もがき苦しむ壮絶な人生の先にある“感涙”と“熱狂”。
何のために芸の世界にしがみつき、
激動の時代を生きながら、
世界でただ一人の存在“国宝”へと駆けあがるのか?

圧巻のクライマックスが、
観る者全ての魂を震わせる―― 。

映画『国宝』公式サイト


『国宝』感想・レビュー

「歌舞伎」という世界で、「役者」として生きるということ

この映画を観たから何かわかったかと言うと、きっと何もわかっていないと思う。でも、そのうえで、任侠の世界から歌舞伎の世界で生きることになった喜久雄の数奇な人生を通して、日本文化・芸能の中に位置づけられる「歌舞伎」という世界で、「本物の役者」を目指して生きるということの怖さを見せられた気がする。

「血筋」と「芸」という、どちらか一方だけでは生き残れない世界。「血筋」があっても「芸」がなければ生き残ることはできず、一方で、どれだけ素晴らしい「芸」があっても「血筋」がなければほとんど生き残ることのできない世界。劇中、「どうせ世襲だろ」というセリフがあるけど、持って生まれた「血筋」を生かして飄々と生きる俊介と、二代目花井半次郎の後ろ盾はあるものの「芸」で這い上がろうとする喜久雄との対比。

曾根崎心中の代役を得た喜久雄から、そして歌舞伎からほとんど逃げるようにして姿を消した俊介。それでも彼には「血筋」がある。戻ってきてやり直せる。ある意味、成功できる。一方で、三代目花井半次郎を襲名した直後から始まる喜久雄の受難は凄まじく……。吐血し倒れ込む二代目花井半次郎の口から繰り返される「俊坊……」といううわごと。凍り付いたように動けなくなる喜久雄。それをじっと見つめる、人間国宝・小野川万菊の目。そこから始まるつらい日々。最後、喜久雄は人間国宝となるに至るのだけれど……。

全ての業を背負い、それでもなお上を目指して「役者」として生きる彼らの恐ろしさの描き方。春江へのプロポーズを断られたくらいからだんだん人間ではなくなっていく感じというか。「悪魔と取引してたんや」と笑う喜久雄、襲名披露の車に乗っているとき、「お父ちゃん」と娘に名前を呼ばれたときの冷たい表情、彰子を抱いているときの恐ろしい表情。人間国宝となってももはや一瞬も緩まない表情と、「忘れてないよ、綾乃」という時のすべてを受け入れた表情。そして、劇中最後に見せられる『鷺娘』。探していた景色との邂逅。「頂点」にたどり着いた喜久雄の人生。

誰もが認める「本物の役者」になることができた彼は、果たして成功したと言えるのかもわからない。周りの人を傷つけるたびに自分も傷つきながら……。ある意味、傷つかないように鬼になりながら……。

歌舞伎という世界の頂点で舞台に立ち、ここではないどこかを見つめる彼の澄んだ瞳の、美しくも恐ろしい底知れなさにすべてが詰まっていたと思います。


胸に刺さったシーン5つ

①曽根崎心中の代役を務めるための練習シーン
 
交通事故に遭った二代目花井半次郎の代わりとして、曾根崎心中の代役に抜擢された喜久雄。実の息子である俊介ではなく、ただの部屋子である喜久雄が抜擢さるという心苦しさと、(寺島しのぶ扮する大垣幸子に言わせると「汚い」役者魂でもって)それでもやるんだという強い意志。そして、唯一無二の「芸」。それらを持ってしても、病室での過酷な練習シーン。

 花井半次郎に激怒され、失望され、怒鳴られ、食器を投げ捨てられ……黙り込む喜久雄。一瞬の後、思いっきり自身の頬を叩き、別人のようにして練習を再開する喜久雄の、あの瞬間がもう、網膜に焼き付いて離れません。胸がカーっと熱くなって、涙が出ました。

②曾根崎心中で代役を務める本番直前のシーン
 
鏡の前で、一人震えの止まらない喜久雄。そこにふらっと(のように見せかけて)俊介が来てくれるんだよね。「おいおい、どうした」と。大役へのプレッシャーから震えの止まらない喜久雄の握りしめた指の間から筆を取り、喜久雄の目元に赤を入れる俊介。お互いに思うことがたくさんある中での、二人だけで作り出される濃い空気感にドキッとしない人はいないんじゃないかというくらい。

 そしてなんと言っても、喜久雄のセリフ。

「怒らないで聞いてくれるか。今一番、お前の血が欲しい。守ってくれる血が。」

 コップに入れてごくごく飲みたいという彼の切実さ、必死さ、そして切なさ……。これまでの喜久雄の境遇を考えても、そしてこの後の展開を振り返っても、なんとも切ないセリフに心を鷲掴みにされます。

③地方を回る中、屋上で一人踊るシーン
 
彰子と関係を持ったことで、歌舞伎の世界からほとんど追放された喜久雄。俊介の稽古を覗く喜久雄を一瞥する万菊さん。俊介に向かってという体で、

「あなた、歌舞伎が憎いでしょ。それでもやるの。それでもやるのが役者なの」

というようなことを言うのよね。まあこの、この万菊さんのセリフ。ここでこんな言葉出てくるか、人間国宝。

 そして喜久雄は、彰子と巡業の旅に出る。ほとんど頂点の世界を知った上での、下積み生活。客のほとんどいない、小さなステージ。盛り上がった会場で、だれも観ていない中妖艶に踊る喜久雄と、その姿に釘付けになる酔った男性客。

突然ですが、
・酔った頭で女形の役者に見惚れる→わかる。
・酔って暴力的になる→わからない。オブラートに包んで言うと、天に召されてほしい。

 「女形」を演じているのは「男性」で、ある意味その独特な世界を理解できない人間というのは一定数いるわけで、俗世に放り出された歌舞伎役者の地に落ちた姿、落ちずにはいられない姿の描き方が上手だなと思いました。

 酔っぱらった複数人の男たちに蹴られ殴られ、服を脱がされ、「偽物」呼ばわりされ……。ボロボロの姿で、それでも舞う。屋上で。酒瓶を片手に。真っ白な顔の目元に残る、赤い涙の痕……。どうすることもできない苦しみの中に、おさえきれないほどの美しさが渦巻いていて、ほとんど恐ろしいようなシーン。一番好きなシーンかもしれない。

④二人での『曾根崎心中』
 二人、というのはもちろん喜久雄と俊介。喜久雄に対するバッシングなんてなかったかのように「半半コンビ」として注目するマスメディア。喜久雄と俊介の関係性だけは変わらずにいたことが救い。そして、糖尿病に侵された俊介の願いを叶えるべく、すべての因縁である『曾根崎心中』を演じ切る二人……。もう、胸が痛いのなんの……。俊介の壊死しつつある足に取りすがる喜久雄。限界を超え、花道で倒れ込みながら演技を全うしようとする俊介。『曾根崎心中』最後の場面、「早く、早く(殺して)」と縋る俊介と、涙をこらえきれないまま、それでも刀を俊介の首元にやる喜久雄と、幕が下りた後の二人。こんなにも実感のこもった『曾根崎心中』を見せられたらもう……。

⑤『鷺娘』
 この映画の最後。人間国宝となった喜久雄の『鷺娘』。万菊さんの『鷺娘』もそれはそれは美しくて鳥肌が立ったけれど、喜久雄の『鷺娘』はもはや、「美しい」というのを越えていた気がする。研ぎ澄まされきった美しさ、鋭利な美しさ、それでいてすべてを飲み込むような底なしの空洞というか……。映画だからこそ観ることのできる、視線や手先といった細部のクローズアップの部分がもはやあまりにも贅沢……と思えるほど。

 紙吹雪が舞い落ちる中、倒れ込んで幕が下り、盛大な拍手に包まれた後の静寂で、「求めていた景色」の只中にいることに気がつく喜久雄の、途方に暮れたような表情が、彼の人生のすべてを物語っていたような気がします。


以上、好きなシーンを5つに絞って紹介してみました。

 

豪華俳優陣による圧巻の演技に魅せられる

 キャストがとにかく豪華なんだけど、その華やかさだけじゃない、というのがこの映画の肝だよね。演技が圧倒的。歌舞伎役者を、俳優が演じるということ。その途方もなさと、それに打ち勝った人だけが見られる世界を垣間見ることができた気がします。

 あとは純粋に、吉沢亮がもはや恐ろしい。歌舞伎について大した知識のないわたしでも、一つの役のために(限定的とはいえ、)歌舞伎をここまで体得できる人っていないのでは……?俳優仲間からしたら、俳優たるもの……!という感じなのかな。上映前の宣伝で、『ババンババンバンバンパイア』の予告が流れてたけど、もうなんか、全然違いすぎて怖いわ!となった。

 それから、渡辺謙と吉沢亮の化学反応というか、二人の演技の真剣さが重なり合うようにして相乗効果を生んでいる感じ……。本当は演技を見るべきで、役者を見るべきではないのかもしれないけれど、渡辺謙の熱のこもりように、吉沢亮も本気を超えた演技が引き出されていたんじゃないかなと思う。(上述したけど、)曽根崎心中の代役を務めることになった時の病室での練習風景とか。まさに。喜久雄に対してだけでなく、吉沢亮に対しても涙出ました。

 それから、横浜流星の軽薄さが妙に似合ってた。吉沢亮との掛け合いもよかった。吉沢亮が94年生まれ、横浜流星が96年生まれ。喜久雄と俊介のように、この二人もきっと支え合うようにしてこの映画の撮影中、がんばったんじゃないかなと思える、二人の雰囲気がすごくいい映画でもあった気がします。

 あとは脇役がいちいちよかった。寺島しのぶ最高大好き。万菊さんは、映画鑑賞中は全然だれかわかっていなかったのだけど、その存在感には圧倒されました。あと、見上愛が個人的に大好きです。


『国宝』感想・レビューのまとめ

美しさに秘められた苦しみがみっちり詰まった3時間。
それなのにずっと、本当にずっと美しい3時間。

ぜひ、劇場で。

『国宝』公式サイト公式Instagramに豆知識も載ってるので、映画鑑賞後に見てもおもしろいと思います。

原作も読みたいです。映像を先に見ちゃったので、どう言語化されているのかものすごく気になります……。


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王の男





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