【短編小説】「あり得ないとは言い切れない未来について」
始まりはいつだったのか、と聞かれるとよくわからない。
ずっと前から始まっていたような気もするし、さっき始まったばかりのような気もする。
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夏休み最後の日曜日、ショッピングモールは多くの人で賑わっていた。この辺りで大きなモールといえばここくらいしかなく、近隣住民だけでなく遠方からの客も多い。子連れに優しいと評判のモールだ。4歳になったばかりの息子の和希と手をつないで歩く夫の横で、彩(あや)はなんとなくため息をついた。本当は、夏休みの間にどこか旅行にでも行きたかったのだけれど、この物価高だ。原油価格の高騰でガソリン代を捻出するのも難しいと夫に言われ、夏の間中、家と、このモールの往復しかしていない。「エアコンが効いてるだけでありがたいね」と言う夫の呑気な笑顔と、「マックを10回食べるほうがいい」と喜ぶ息子に、なんとなくいじけた気持ちになる。フードコートに入り、空いた席はないかと探しながら彩は、もう一度ため息をつく。
すると突然、フードコート中にアラームが鳴り響いた。辺りを見回すと大勢の客が慌てたようにスマートフォンを確認している。どうやら、スマートフォンの通知らしい。それにしても一斉にだ。雨でもないのに、土砂災害でも起こったのだろうか。それとも地震?わたしのスマホは鳴ってないと思うけど、と思いながらふと夫を見ると、スマートフォンの画面を見つめて固まっている。
「徴兵された、かも」
夫の言葉の意味がよくわからなかった。ちょうへいってなんだっけ、ちょうへいって、ちょうへい、ちょうへい、徴兵。彩はあらためて辺りを見回す。20代くらいに見えるカップルの彼氏が、小さな子を連れた夫婦の夫が、マクドナルドの店員の男の子が、スーツを着てうどんをすすっていた40代くらいの男性が。あちこちで男の人がスマートフォンの画面を凝視していた。異様な光景に背筋が寒くなる。夫の画面をのぞき込むとそこには、「徴収令状」と書かれた通知が来ている。タップすると、当たり前のように夫の名前と、集合日時と集合場所が書かれている。
「赤紙っていうんだっけ?まあこの通知は赤くないけど……」
困惑した夫の口から出る言葉が、同じように困惑した彩の耳を通り過ぎていく。どうしたのかと、夫と彩の服の裾を引っ張る息子に微笑む余裕もなく、ただただその場に立ち尽くした。
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それからはすべてがあっという間だった。夫は沖縄に配属されるらしかった。台湾が中国に攻められたら沖縄も危ないから、とのことで、沖縄に住む人々はもうずいぶん前から退去命令を出されていたらしい。後で聞くと、ダンボール一箱分の荷物のみ許可されており、ペットや家畜はただ置いて行くしかなったという。夫は沖縄へ行くことが決まってから、「なんか、教科書で習ったあれみたい、ほらあれ、防人(さきもり)!」と言って笑った。蚊も殺せないのに、人を殺せるわけがなかった。
夫には、というかほとんどの国民に選択権はなかった。健康状態は把握されているから嘘はつけず、徴収拒否すれば雀の涙ほどの資産でも凍結されることは明らかだった。マイナンバーカードに銀行口座や健康保険証を紐づけろと、去年くらいから政府がうるさかったわけにやっと合点がいった。
最初のうちはいろいろな人が抗議の声を上げていたけれど、そのうちそれもなくなった。みんな「スパイだ」と言われて捕まったからだ。「今の日本が直面している危機のために戦えないだなんて、お前はスパイだ」という理論らしかった。ニュースでは、熊が出て大変だとかいうのと並んで、中国が戦争を始める準備をしているだとか、東京大学の教授がスパイとみなされ捕まったとかいうのが流れ始め、あっという間に戦時中になった。1, 2か月前はずっと台風とワールドカップのことしか報道していなかったのに、なぜ今夫が徴収されたのか、彩にはまるきりわからなかった。テレビからは、バラエティー番組が消え、音楽番組が消え、アニメが消えていった。代わりに、君が代をBGMに、日本国旗が大げさにはためいていた。
息子が通うはずだった小学校も、中学校も、近所の高校も、軒並み学校閉鎖になった。公務員である先生たちがみんな、自衛隊員として徴収されたらしい。幼稚園も、理由はわからないけれどそのうち閉鎖になった。社会システムがすべて崩れるのに、そう時間はかからなかった。
沖縄に行った夫からは、最初のうち、一日に1回ほどLINEが届いた。「今日は、射撃をしたよ。肩が痛いです」「今日は、死体をいかに腐らせずに保管するかを習いました」「彩と和希に早く会いたいな」
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夫の願いは叶わなかった。死んだのだと思う。もう3年間音沙汰がない。
子どものころ、8月になると第二次世界大戦の特別ドラマがよく流れていて、軍服を着た人が夫や息子の骨の一部や軍服の切れ端なんかを持って訪ねてきて、「彼は日本のために立派に戦いました」などと言う場面をよく見たけれど、今の日本政府にはそんな優しさとも言えない優しさのかけらもないらしい。
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息子の和希が死んだ。栄養失調だろう。もうすぐ8歳だったのに。彩の父も、元自衛隊員だからと早々に徴収された後音沙汰はなく、母もそのあとすぐに肺炎にかかり死んだ。病院は機能しておらず、国民が手に入れられる薬はなかった。夫の母は、女手一つで育てた息子が死んだかもしれないと知って精神を病み、近所を徘徊していたところを警察に拘束され亡くなった。何があったのかはわからない。
周りで、人が、どんどん、どんどん、亡くなっていく。行方不明になっていく。
中学の時の同級生が、高校の時の担任が、大学の友達の彼氏が、夫の友達が、姉の夫の兄弟が、親戚が、近所の人が、みんな。
街は臭かった。戦地ではないから、ボロボロにはなっていない。そんなに汚れていない建物の中で、なにもかもがゴミと汚物と遺体にまみれていた。
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生きる気力はとうに底をついていたけれど、それでも彩は、空腹に耐えられなかった。沖縄で女性の働き手が募集されていた。簡単な肉体労働、三食付き。脳裏をよぎったいろいろなことを無視したけれど、はやりそれらは「案の定」という形で目の前に現れた。簡単な肉体労働というのは性処理で、三食はたしかにあったけれどまともなものではなかった。彩はときにサンドバッグで、ときにただの女体だった。もっと言うと、ただの穴だった。時々、申し訳なさそうな青年もいたけれど、彩のほうはもうなんとも思わなかった。娘がいなくてよかったと思った。早く死にたかったし、夫が死んだとたしかにわかるまではずっと生きていたかった。
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戦争はなかなか終わらず、彩は性病にかかって死んだ。
これはフィクションです。
ですが今、こんな未来を想像してしまうほどに日本は戦争に近づいてきているのではないかと思います。
日本の政府が今、改憲に必死なのを知っていますか?
憲法9条をなくしたら、日本は「いつでも戦争できる状態」になると知っていますか?
ミサイルが、熊本や静岡に配置されたのを知っていますか?
公務員が予備自衛官等を兼業しやすくなる特例法ができたのを知っていますか?
徴兵されたら、拒否権がないことは知っていますか?
国会前では大きなデモがあっていますが、報道されていません。
すごいスピードで国民に不利な法案がたくさん通っていますが、報道されていません。
今、止めるしかありません。
今、政府に、NOを突きつけるしかありません。
わたしもまだまだ知らないことばかりです。
本当はデモにも参加したいけど、できていません。
書こう書こうと思いながら、今更この短編小説を書きました。
まだ間に合うと信じたいです。
一人でも多くの人に気がついてほしいです。
陰謀論とか、意識高いとか、あなたが議員になれば?とか言う人もいるかもしれません。
でも、そんな人たちにも戦争で殺したり殺されたりしてほしくありません。
もしよかったら、#noteでオンライン反戦デモ のハッシュタグを使って投稿しませんか?
反戦、平和に関することが少しでも書いてあればOKです!
noteで自由に投稿できるのも、平和があってこそ。
未来の平和を軽々しく奪われないための、せめてものアクションです。
そして、毎日楽しく生きていこうね!
今の楽しみまで奪われちゃだめだと思っています。
描写について至らないところばかりだと思います。ご容赦ください。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
#なんのはなしですか の力を借りさせていただきます!
▽奇しくも昨年、「世界が平和でありますように」というタイトルの短編小説を出版しています
全30編。日ごとに増していく夫への「大好き」が創作ににじむ、フィクションだけれど、どこかリアルな物語たち。
Kindle Unlimitedに登録している方は無料で読めるのでぜひ。ペーパーバック版もあります。
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読んでくださりありがとうございます!
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