短編「宇宙の森」
たぶんこれは森の中だ。その中心をゆったりと流れる大きな川は薄く濁っている。川面を見つめる少女が一人、わたしとは肌の色も着ている服も何もかも違うけれど、同じ人間の女の子だ。背景に生い茂る緑が生き生きとして、少女が口ずさむ音楽に葉が揺れる。聞いたことのない曲だ。時折、息づかいのような音が漏れ、その後腹の底から出たような深い音が、むっとした空気の中涼やかに流れる。
ああ、ずっとここに来たかったんだと思う。この場所に、この瞬間に、今、この場面に。何もわからないけれど、目を閉じて深呼吸をすると、宇宙からの愛が体に流れ込んでくるのがわかる。太陽の光、むせ返るような緑の香り、立ち込める生き物の気配と、大地をどこまでも流れる水音。
少女の歌声はどんどん大きくなっていって、森の茂みから鮮やかな羽を持つ鳥がさっと飛び立つ。
こんなにも大地を踏みしめて立ったのはいつぶりだろう。これが地球だ。わたしの足の下で、幾つもの命が生まれ消えていった。命なんていう概念もない時代から繰り返し繋がってきた輪っかみたいなものの一部にいることを感じる。
大きな、大きな、大きな、大きな何かの中で与えられた大きく小さな命がわたしに宿っている。それだけのことだ。
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