マダムと私の、100年の足音
昨年から、タップダンス教室でインストラクターをしている。
生徒さんのつまずいているところや、やる気の源を探りながら、スムーズな体の動かし方や、振りを覚えるコツ、本番での気持ちのつくり方などを伝えている。とても楽しい。
だが不安もある。私は元々運動が苦手だし、30歳から7年、趣味で踊っていただけで、大会入賞経験も商業的なショーに出たこともない。そんな私に「タップダンスを教える」資格や意味があるのかと、ふと自信がなくなるのだ。
そんな私を勇気づけてくれるのが教室に通う60~80代の3人のマダムだ。
彼女たちは毎週ほぼ休まず練習に来て、楽しそうに踊り、おしゃべりに花を咲かせて帰っていく。発表会では真っ赤なリップにキラキラな衣装を着て、数百人の前に立つ。明るくパワフルな仲良し3人組として、教室のみんなに愛されている。
私はある日、マダムの1人、Nさんにタップを始めたきっかけを尋ねた。
80歳のNさんがタップを知ったのは小学生の頃。モダンな人だったお母様に「習わせてあげたい」とたびたび言われたのだそうだ。しかし敗戦直後の日本には、女の子がタップを習える機会も余裕もなかった。
Nさんは結婚し、子や孫が生まれた。家族を支えている間に時は過ぎ、ようやく自分の時間ができたと思ったときには70歳になっていた。
そのとき、少女の頃に聞いた亡き母の言葉を思い出したそうだ。
それから10年、彼女はタップを踏み続けている。教室ではかつて一緒に働いた同僚に偶然再会し、新しい友達もできた。かくして仲良し3人組は誕生したのである。
「マダムをしごいてたね」と教室の仲間に茶化されるくらい、発表会直前の練習にはつい熱が入ってしまう。
しかしマダムたちは、私の暑苦しい指導に真剣に向き合ってくれて、本番後には「しっかり教えてくれたからよく踊れたわ」と笑ってくれる。
体を動かす。仲間と笑い合う。ドキドキすることに挑む。何歳でもやりたいことをやる。愛すべきマダムたちは、100年にも届くその人生を健やかに歩み続けている。
その健やかさの一端に関われているのなら、私にも「教える」資格や意味があるのではないか。
マダムの笑顔は、私にそう思わせてくれる。
人生100年のこの時代に、彼女たちのような、軽やかでしなやかで、力強い足音を奏でる人を増やしたい。もちろん、私自身も含めてだ。
今と未来のマダムのために、私はこれからもタップを踏み、教え続けていく。


