不機嫌には老師
料理が嫌いなわたしとは対照的に夫は料理好きであり、もちろん料理が得意である。
したがって、台所に立つ機会も多い。
平日の晩ごはんはわたしが担当しているけれども、休日はご免こうむりたく、わたしが何も用意しなくても自分でせっせと何やらつくって食べてくれる点は非常にありがたい。
が、しかし。
ほとんど毎回やりっぱなしである点は困りものだ。
シンクにも調理台にもコンロにも、食器や調理器具、フライパンなどが使用済のまま放置されている。
いったい何をどう炒めたらそうなるのか、コンロや壁には油やソースが飛び散っている。
わたしが料理を好まない理由のひとつに、後片づけの面倒くささがある。
家に帰るまでが遠足、水を流すまでがトイレ、洗いものと掃除までが料理。
トイレはレバーをひねれば水が流れるが、洗いものと掃除はそうお手軽でない。
休日にわたしが台所を使おうとするとき、だいたいは洗いものから始めねばならない。
さすがに勘弁してほしく、せめて洗いものだけでもすませておいてくれるようお願いしている。かなしいかな、あまり実行はされないが。
ところが先週のお昼、お皿洗いをすませたと思われる夫がコンロを拭き掃除していた。
わたしは感動し、感謝の言葉を述べた。「ありがとう、助かるわ」と。
その返事が衝撃的だった。
「汚したままにしとくとぶちぶち言うやん」
わたしってそんなに口うるさい存在なのかとショックを受けた。
言う側と言われる側ではこんなにも感じ方が違うことにも。
シンクに放置された食器をみたとき、わたしはひと言お伝えしたい気持ちを20回に19回はぐっとこらえている。
夫は反対に、20回に19回ぐらいの頻度でわたしから「文句」を言われている感覚なんだろう。
わたしだって、言わずにすむなら言いたくない。
言えば、「分かっとる!」「あとでやる!」「・・・(ため息)」などと、まるで反抗期の中学生のようなリアクションが待ち構えているからだ。
相手が反抗期の中学生なら、こちらは肝っ玉母ちゃんになるしかない。
反抗期の中学生に対して、つい同じように反抗期の中学生の立場をとってしまうからいけない。
わたしが思う肝っ玉母ちゃんとは、「あらあらそんなにキレちらかしてまあ元気だこと」と、子どもから放たれる無数の矢を涼しい顔でかわす超人技の持ち主である。
相手の機嫌をとるわけでも甘やかすわけでもなく、かといって不機嫌な相手に影響されない、まるで武道の老師のような存在だ。
したがって、わたしはしばらく老師を目指して精進したいと思う。
勇者への道ではなく、老師への道。
老師RPG。
ステータスは「スルースキル」に全振り。
第一の村は週末の台所である。
昔からRPGのレベル上げはわりと嫌いじゃなかったのだ。
経験値を積んで、自分の老師レベルも上げていこう。
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