見出し画像

"数字にできない価値"を、見えるようにするサイトを作りました

1. その会社、本当に「やさしい」ですか?

会社を選ぶとき。お店を選ぶとき。

私たちはたいてい、給料や、値段や、業績を見ますよね。

数字は、便利です。並べれば比べられるし、ひと目でわかる。

でも——こういうことは、どうでしょうか?

その会社は、働く人にやさしい? 動物や自然のことを、ちゃんと考えてる? 100年後に生きる人たちに、いいものを残そうとしてる?

これを測るモノサシは、ほとんど無いみたいなんです。

「大事だよね」と、みんなが口では言う。なのに、見えるようにはなっていない。

この「見えにくい側」を、なんとかして見えるようにできないだろうか?

——そこから始まりました。


2. 60年前、ある政治家が放った“違和感”

1968年のアメリカ。大統領を目指していた、ロバート・ケネディという政治家。彼が大学の講演で、こんなことを言いました。

当時、国の豊かさは「GNP」という数字で語られていました。GNPは、ざっくり言えば、国全体の“稼ぎ”の合計(いまの「GDP」の親戚です)。国が元気かどうかは、この数字で測るのが当たり前でした。

ケネディは講演でこう言いました。

GNPは、大気汚染も、タバコの広告も、事故を片づける救急車も、“経済活動”として数える。でも——子どもの健康も、教育の質も、遊びの喜びも、詩の美しさも、夫婦の絆も。ひとつも、数えていない。

ロバート・ケネディ カンザス大学演説(1968年3月18日)/JFK大統領図書館 https://www.jfklibrary.org/learn/about-jfk/the-kennedy-family/robert-f-kennedy/robert-f-kennedy-speeches/remarks-at-the-university-of-kansas-march-18-1968

そして、こう締めくくります。

原文:it measures everything, in short, except that which makes life worthwhile. 訳:「それは要するに、私たちの人生を“価値あるもの”にしてくれるもの以外の、すべてを測っている」

ロバート・ケネディ カンザス大学演説(1968年3月18日)/JFK大統領図書館 https://www.jfklibrary.org/learn/about-jfk/the-kennedy-family/robert-f-kennedy/robert-f-kennedy-speeches/remarks-at-the-university-of-kansas-march-18-1968

この演説は、のちに“お金の数字だけで国を測るのはやめよう”という世界的な流れ(Beyond GDP)の、出発点と言われています。


3. 「ESGがあるじゃん」——それでも、変わらない

「でも、最近はESGとかSDGsとか、お金以外も見る仕組みがあるよね?」

と思われるかもしれません。私も、期待していました。

かんたんに言うと——ESGは、会社を「環境・社会・経営の健全さ」の面からも見よう、という投資の考え方。SDGsは、国連が決めた「2030年までに世界で目指す17の目標」。

どちらも「お金だけじゃない」と言ってくれる、すばらしい試みです。

でも、うまくかみ合わない部分が、見えてきています。

ひとつめ。結局、“お金のものさし”に取り込まれた。
いつのまにか「それ、儲かるの?リスク下がるの?」で語られるように。人や自然“そのもの”の価値じゃなく、“投資家の損得”の話に、戻ってしまう。

ふたつめ。同じ会社なのに、評価がバラバラ。
ある研究では、主要なESG格付け会社どうしの一致度は、平均0.61。財務の信用格付けが0.99でほぼ一致するのに比べると、かなりバラつきます。極端な例だと、ある会社の“経営の健全さ”を、A社は「上位25%」、B社は「下位5%」と、真逆に採点したことも。……どれを信じれば、いいんでしょうか?

みっつめ。多くが、“自己申告”。
OECDの2025年の分析では、ESG評価に使う指標の約68%が、企業が自分で「こういう方針を作りました」と申告した内容ベース。実際に何が起きたか、ではなく。“チェックボックスを埋めた度合い”に、なりやすい。

もちろん、ESGもSDGsも、大事な前進です。

ただ、「お金の中の話」から、外に出られていないのが現実です。

だから私は、これを否定するんじゃなく、もう1枚だけ、別のレンズを足したいと思ったんです。「損か得か」じゃなく、「そのナラティブは、実態と食い違ってないか」を見るレンズを、です。

📎 出典:MIT Sloan「Why ESG ratings vary so widely」(2026年1月)/Alex Edmans「The Inconsistency of ESG Ratings」/OECD「Behind ESG ratings」(2025年2月)※URLは末尾にまとめて記載


4. 変えたいのは、“2つの流れ”

「見えない価値を見えるようにして、それで何がしたいの?」

答えは、とてもシンプルです。2つの“流れ”を、少しだけ変えたい。

ひとつは、お金の流れ。
私たちが、どこにお金を託すか。投資でも、買い物でも、応援でも。いまの判断材料は、「儲かるか」「安いか」「有名か」に、偏りがち。そこに「物語と実態が食い違ってないか」を一枚足せたら。お金は、静かに誠実な会社のほうへ、少しだけ流れやすくなるはず。

もうひとつは、人の流れ。
これは、私がいちばん大事にしている部分です。就職や転職のとき、私たちは給料や知名度で会社を選びがち。でも、入ってみたら——「掲げてた理念と、中身が、全然ちがう」。そんな経験、ありませんか?

入る前に「この会社の“掲げているもの”は、本物?」を確かめられたら。人は、自分が納得できる場所を、選びやすくなる。

お金と、人。この2つが「よいナラティブ(物語とかストーリーとか)を生み出している組織」へ少しずつ向かえば、社会全体の“ものさし”が、じわりと変わっていく。

派手な革命じゃなくて、水の流れを少し変えるような話です。それが、このサイトをはじめた理由です。


ずっと、もやもやしていました。

この問題意識は、ずっと前から抱えていました。でも、動けなかった。

世の中の何千社もの情報を読んで、理念と、判決や実績を照らし合わせる。気が、遠くなります。

だから、アイデアだけがずっと引き出しの中で眠っていました。

そこに、賢いAIがやってきた。

「調べ方のルール」さえきちんと決めて渡せば、あの気の遠くなる下調べが、現実的な手間でこなせる。

——ただ、AIは、万能じゃありません。

平気で事実を取り違えるし、情報が少ない相手はまるで苦手。だからAIに任せるのは、“下調べ”まで。最後は人が確かめて、確かな大元の情報だけを採る。あやしければ、「わからない」と正直に手を止める。(この慎重なやり方は、あとでちゃんと書きます。)

つまり——ずっと消えなかった「もやもや」と、AIという新しい道具。 この2つが噛み合って、ようやく「作れるかもしれない」と、思えたのです。


5. だから、作りました

——見えない価値を、見えるようにする無料のデータベースサイト。『ナラティブバリュー』を作りました!

やってることは、ひとつです。

ある組織が、「人・動物・自然・未来世代」に対して、プラスに働いているか、マイナスに働いているか。それを見る。

この4つは、お金のものさしが、見落としてきてしまった“相手”。

ここで、とても大事なことをひとつ。

「儲かってるか」「大きいか」「成長してるか」は、いっさい見ません。

規模が大きくなると、お客さんやベンダーさん、様々なステークホルダーの顔が見なくなっていく。規模が大きくなると、既得権益ができて、それを守るための力学が強くなってしまう。成長イコール、必ずしも「良」ではないと考えています。

売上が10倍でも、株価が上がっても——それは“お金のものさし”の話。ここでは、規模や成長を「良いこと」として数えない。見るのは、作用の“向き”と“中身”だけ。


6. これは“評価”ではなく「距離」です

結果は、A〜Gの記号で表します。

……こう言うと、学校の成績表を思い浮かべますよね。でも。

これは“優劣”じゃありません。「距離」です。

何の距離か。「人・自然・動物・未来世代へのプラスの作用」と、「確かめられる実態」の、あいだの距離です。

大きなことは言わないけど、静かにいいことをしている小さな組織は、“距離が近い”。立派な理念を高々と掲げて、中身が伴わない大企業は、“距離が遠い”。

A〜Gは、その「距離」のものさしということです。

なぜ「採点」じゃなく「距離」なのか

いま世界では、〈ソーシャルインパクト〉や〈将来の成長性〉が、新しい評価の基準になりつつあります。インパクト投資は、約1.57兆ドル規模まで育ち。企業に長期の価値を語らせる国際ルール(ISSB)も、約40の国・地域(世界GDPの約6割)へ広がっています。

でも、ここに落とし穴があります。

〈本当のインパクト〉や〈遠い未来〉は、そもそも、正確には測れないし、予測できない。「その変化は、本当にその会社のおかげ?」「もし、その会社が無かったら、どうなってた?」——誰にも、確定できません。

なのに、スコアだけが、付いていく。それって、予測したふりになりかねない。

だから、ナラティブバリューは。未来を、予測しません。優劣を、採点もしません。

やっているのは、未来を占うことじゃなくて。理想と現実の距離を映すこと。

「結局、格付けでしょ?」について

「実名にA〜Gが付いてたら、やっぱり格付けだ」というご意見もあるかと思います。

ここは、見方”の問題(コンセンサス)なんだと思います。世の中が「A=優秀、G=ダメ」という見方に慣れているから、そう見える。だから私は、その見方そのものを、少しずつ変えていきたい。

「A〜Gは、成績じゃなく、距離」。この読み方が広がれば、これは順位表じゃなく、会社が自分を映して“問い直す”ための、鏡になります。

低い記号は、「ダメな会社」という烙印じゃない。「掲げた物語と実態が、いま、離れていますよ」という——気づきのサインなんです。

【どうやって決めるの?(かんたんな補足)】
ざっくり言うと、確定したマイナス(判決・規制当局の処分・本人が認めた事実など)が、“到達できる上限(天井)”を決めます。そして独立に裏づいたプラスが、その天井の中での位置を決める。プラスは、マイナスを打ち消しません。確かな材料が乏しい会社は、無理に決めず「判定保留」に。そもそも中身が違法な組織(犯罪組織など)は、はしごの“外”=「圏外」として扱います。


7. 声の大きさで、動かしたくない

ものさしは、誰かの声が大きいだけで、動いちゃいけない。 ここは、いちばんこだわった部分です。

① 炎上や叩きの“大きさ”では、動かしません

ネットで叩かれている。報道が多い。SNSで燃えている。——それ自体は、マイナスに数えません。

「言われている量」ではなく、「確定した事実」だけを見ます。

マイナスに数えるのは、判決・規制当局の処分・本人が認めた事実といった、独立に確定したものだけ。噂や、係争中の話は、注視はしていても、算定根拠には入れない。

なぜか?もし、SNSの声の大きさや、メディアの圧力で、距離が動くなら、それは「いちばん大きな声」に、乗っ取られる道具になってしまう。

誹謗中傷や、意図的な攻撃の“燃料”に、なってはいけない。だから、声の大きさからは、意図的に距離を取っています。

② 「自分で言ってること」より、「第三者が確かめたこと」

プラスの側も同じです。

会社が自社サイトで「私たちは環境にやさしい」と言っている——これだけでは、プラスにカウントしません。

自己申告(自社PR)は、そのままでは、根拠にしない。

受賞、主要メディアの取材、学術的な調査、連携している団体の記録。そういう、第三者の・独立した裏づけがあって、はじめて数えます。

そして、できるかぎり一次情報(公式発表・規制当局の決定・判決など、大元の資料)を優先する。又聞きや要約じゃなく、大元にあたる。

地味ですが、これが背骨になります。


8. これは、まだ実験です。そして、これから。

ナラティブバリューは、所詮、私個人で考えたものだから、粗削りだし、間違いも、混じります。だから、「これはおかしい」と思ったら、遠慮なく教えてください。訂正の窓口も、用意しています。

そのうえで。いまの“できていないこと”と、これから目指す形を書いておきます。

① いまは「ある情報」を、確かめているだけ。
今は、すでに公開されている情報をもとに見ています。裏を返すと——情報が少ない組織は、うまく扱えない。(その場合は無理に判定せず「判定保留」に。)でも、本当は。無名でも誠実にいいことをしている組織にこそ、光を当てたい。だから将来は、足りない情報を“こちらから調べに行く”仕組みを、作れたらと思っています。

② いまは「匿名の個人」が、運営しています。
今の運営は、匿名の個人です。信頼されにくさも、続けられるかという不安も、限界があると、自分でも思っています。だから理想は——いつか、きちんとした組織(法人)が、運営の担い手になること

③ でも、絶対に手放さない“芯”が、ひとつ。
運営者が誰であっても。権威は「肩書き」じゃなく、「方法」から生まれるべきだと、思っています。

誰でも中身をのぞけて、同じ手順をなぞれば、同じ結論にたどり着ける。そんな、オープンでフラットな方法論こそが、いちばん強いよりどころだと。

だから、基準もやり方も、ぜんぶ公開します。そして——その方法論を、みんなで叩いて、磨いていくコミュニティを作れたら、面白い。

これは「私ひとりのものさし」じゃなく、「みんなで育てるものさし」にしていきたい。

最後に、ひとつだけ。

これは「唯一の正解」でも、「今ある指標を置きかえるもの」でも、ありません。

お金のものさしがこぼしてきた景色に、もう1枚だけレンズを足す、ひとつの提案”です。

なので、その景色を一緒に見て、おかしいところを一緒に直してくれたら、とてもうれしいです。

👉 ナラティブバリュー:https://narrativevalue.org/


出典・参考(公開日)

  • ロバート・F・ケネディ「Remarks at the University of Kansas, March 18, 1968」/JFK Presidential Library https://www.jfklibrary.org/learn/about-jfk/the-kennedy-family/robert-f-kennedy/robert-f-kennedy-speeches/remarks-at-the-university-of-kansas-march-18-1968

  • MIT Sloan「Why ESG ratings vary so widely (and what you can do about it)」(2026年1月更新) https://mitsloan.mit.edu/ideas-made-to-matter/why-esg-ratings-vary-so-widely-and-what-you-can-do-about-it

  • Alex Edmans「The Inconsistency of ESG Ratings: Implications for Investors」 https://alexedmans.com/the-inconsistency-of-esg-ratings-implications-for-investors/

  • OECD「Behind ESG ratings: Unpacking sustainability metrics」(2025年2月) https://www.oecd.org/content/dam/oecd/en/publications/reports/2025/02/behind-esg-ratings_4591b8bb/3f055f0c-en.pdf

  • GIIN「Sizing the Impact Investing Market 2024」(2024年10月) https://thegiin.org/publication/research/sizing-the-impact-investing-market-2024/

  • IFRS Foundation「IFRS Sustainability Symposium 2025—Key takeaways」(2025年11月) https://www.ifrs.org/news-and-events/news/2025/11/sustainability-symposium-2025-key-takeaways/

  • Persefoni「International Sustainability Standards Board (ISSB), Explained」(2025年11月) https://www.persefoni.com/blog/issb


この記事は『ナラティブバリュー』運営者本人が書いています。ご意見・訂正はサイトのお問い合わせフォームからどうぞ。

いいなと思ったら応援しよう!