「やりたいこと」って、ないとダメですか?|Career Questions #03
Career Questionsは、一人ひとりのキャリアの転機や価値観を伺いながら、キャリアを「問い」から見つめ直すインタビューシリーズです。

石橋は、たたきまくってから渡る
——子どもの頃は、どんな子でしたか?
良くも悪くも、真面目だったと思う。
あと、要領が良いタイプではなかったかな。
小さい頃からサッカーをやっていて、一人で朝練したり頑張っていた。
努力すればなんとかなる、みたいな感覚はあったのかもしれない。
——真面目というのは、具体的には?
宿題をちゃんとやるとか、やらなきゃいけないことはやるとか。
当たり前のことを、当たり前にやる感じかな。
とにかく準備しないまま何かに挑むのが嫌だった。
テストがあるなら、ある程度は準備する。
サッカーでも、自分が変なプレーをしたらチームに迷惑がかかる。
一番になりたいというよりは、恥をかきたくないとか、周りに迷惑をかけたくないとか。自分の最低限の役割は果たしたい、という感覚だったのかな。
——準備しておこうと思うのは、どうしてですか?
基本的にはネガティブ思考なんだと思う。
「なんとかなる」と考えるより、「最悪こうなるかもしれない」が先に浮かぶ。だったら、そうならないように準備しておこう、となる。
石橋を3回以上叩いて渡るような性格だと思ってる。
近道は、なんかしっくりこない
——高校時代は、どんなふうに過ごしていましたか?
高校でもサッカーを続けていた。勉強も、すごく良い点を取りたいというより、「変な点数は取りたくない」という感じだったかな。
テストがあるなら、ある程度は準備していたし、内申点も良い方だったと思う。
——大学受験では、推薦は考えなかったんですか?
あまり考えなかったね。
成績良い方だったから推薦で行ける大学もあったけど、推薦で行くことが、自分の中ではちょっと「楽をしている」感じがしたんだよね。
もちろん、推薦で進学する人が悪いという話では全然なくて。
ただ、自分自身が推薦を使うことが、なんとなくしっくりこなかった。
受験勉強をして、一般入試で入るべきなんじゃないかって。
結果的には浪人しちゃったから、今思えば推薦を使っておけばよかったのかもしれないけど(笑)
東日本大震災、20キロ歩いてアルバイトへ
——大学時代は、どんなふうに過ごしていましたか?
大学ではサークルにも入らなかったし、基本的には大学とコンビニのアルバイトを往復する毎日だったね。たぶん、人生で一番根暗な時期だった。
東日本大震災があった日も、夕方からコンビニのシフトが入っていたんだけど、電車が全部止まっていて。
「ああ、でも今日シフト入ってるな」と思って、とりあえず歩いて行ったんだよね。3~4時間かけて、20キロくらい歩いたな(笑)
店に着いて、そのままシフトに入ったんだけど、夜勤の人が結局来られなくなったから、そのまま翌朝8時くらいまで働いたね。
——電車も止まっている中で、なぜそこまでして行こうと思ったんですか?
なんでだろうね。
もちろん、休むと言えば休めたんだと思う。
でも、簡単に「できない」と言いたくない、というのはあるのかもしれない。行けるなら、とりあえず行ってみよう、みたいな。

「なんとなく金融」で始まったキャリア
——就職活動では、どんな仕事をしたいと思っていましたか?
数学が多少好きだったから、その延長で経済学にも興味があった。
そこから金融かな、と。
当時、宅建も持っていたから不動産業界も少し見たけど、今の会社から内定をもらって、「もういいかな」と決めた。
——「絶対ここに入りたい」という感じではなかった?
全然なかったね。
決め手としては、転居を伴うような転勤がないことや、安定している印象があったことは大きかった。
振り返ると、自分は変化することが、あまり得意じゃないんだと思う。
生活環境が大きく変わらない方が、生活のイメージを持ちやすい。
——今の仕事は、「やりたい仕事」だったんでしょうか。
いや。今の仕事も、やりたくて選んだのかと言われたら、別にそうではないな。
最近になって、仕事柄、税理士や公認会計士の仕事を見ることがあって、「こういう仕事も面白かったのかもしれない」と思うことはある。
でも、当時は知らなかったからね。
出世に興味はないが、役割は果たしたい
——入社して10数年になりますが、これまでどんな仕事をしてきたんですか?
いくつかの支店で融資や渉外を経験して、今は係長として働いている。
今は自分の仕事だけじゃなくて、周りの案件を見たり、部下の仕事に関わったりすることも増えたね。
——今後、さらに出世したいという気持ちはありますか?
それは全然ない。
ただ、今いるところで求められていることは、できるようにしないとな、という義務感はある。
昔から、始業時間よりも早く会社に行くことが習慣になっている。別に誰かに言われてやっているわけではなくて、その日の仕事をちゃんと進めるために、早めに行って準備しておきたいんだと思う。
個人として評価されたいというより、支店全体の数字の足を引っ張りたくない。自分がうまくいっていなかったら、「もう少しやり方を変えないとな」と思う。
責任というと大げさかもしれないけど、自分の役割はちゃんと果たしたいんだと思う。今は自分のことだけやっていればいい立場でもないし。
——どうして仕事で頑張り続けられているんだと思いますか?
仕事が楽しいかと言われると、別に楽しくはない。
常に忍耐力を試されている感じ。
でも、辛いから簡単に辞める、という感じにもならない。
サッカーとかもそうだったけど、忍耐力を試されていることに対して、諦めたくないとか、負けたくないという気持ちは根底にあるのかもしれない。

ゴールではなく、「今」を見る
——この先、仕事で目指しているものはありますか?
いや、それは全然分からない。
今いるところで、今の役割を全うできたらそれでも良いのかもしれない。
将来、万が一にでも降格するようなことがあったとしても、そこで腐らずにやり続けられるか。
最悪を想定してそれを避けることのほうが、自分にとっては大事なテーマかもしれない。
——「今の役割を全うする」って、終わりがないですよね。
そうですね。だから、それをやり続けるということなのかな。
定年までの長いスパンでというよりは、1年とか、3年とか、5年とか。
そのくらいの単位で、「どう頑張ってみるか」を考えている。
最初からあと20年以上働くと思ったら、多分やっていけないからね。
——仕事に限らず、この先「こうなっていたい」というものはありますか?
こういう記事に載せられるような言葉は出てこないよ(笑)
別に生活レベルを上げたいわけでもないし、今の生活に満足している。
強いて言うなら、何かをしたいと思った時に、お金が理由で躊躇するような状態にはなりたくない。
だから「こうなりたい」というより、まず今をちゃんと維持する。その上で、家族のことで何か必要になった時に、ちゃんと動けるようにしておきたいと思ってる。
——今の生活を続けていくうえで、大切にしたいことはありますか?
一緒に働いている人とは、ちゃんとうまくやっていきたい。
もちろん褒められたら嬉しいけど、他の人から評価されたいという気持ちはそんなにないかな。
それよりも、自分が多少なりとも役に立っていると思い続けていたい。
仕事でも、家庭でも。
ずっと変わらない、自分の根っこ
——ここまでの人生に点数をつけるとしたら、100点満点で何点くらいですか?
70点くらいかな。
もちろん、後悔がないわけではない。
サッカーの頑張り方をもう少し考えればよかったとか、
大学でもっと人と関わっていればよかったとか。
でも、親にはやりたいことをやらせてもらって、大学まで行かせてもらった。今も大切な家族と一緒に、生活に困ることなく暮らせている。
そういう意味では、すごく恵まれていたし、ありがたいと思ってる。
——人生の中で、考え方や価値観が変わったことはありますか?
それが、あんまりないんだよね。
子どもの頃から、根本的なところはそんなに変わっていない気がする。
自分が、自分が、というよりは、周りに合わせたり、周りを優先したりする方が強い。何か大きな出来事があって考え方が変わったというより、昔からそういうところはあったんだと思う。
真面目さとか、忍耐力とか、我慢強さとか。
環境や立場は変わってきたけど、結局そういうところに支えられて、ここまでやってきたのかもしれない。
これから先も、今までと同じように、その時その時でやるべきことをちゃんとやっていけたら、それで十分幸せなのかもしれないね。
■最後に:聞き手のひとりごと
インタビューを終えて、少し不思議な感覚が残った。
30年以上にわたる出来事や、そのときどきの感情について話を聞いた。
それでも、「これがやりたい」という言葉は、ほとんど出てこなかった。
明確なキャリアビジョンがあるわけでもない。
出世したいわけでもない。
仕事が大好きなわけでもない。
キャリアインタビューというと、つい「転機」や「変化」を探したくなる。
でも今回、見えてきたのはむしろ、ずっと変わらずにあるものだった。
子どもの頃から、準備を怠らない。
周りに迷惑をかけないよう、自分の役割を果たそうとする。
社会人になった今も、「今いる場所で求められることは、できるようにしたい」と話す。
根っこにあるのは、
「一度引き受けたことは、簡単には投げ出さない」
という姿勢だった。
キャリアを考えるとき、つい「何がしたい?」と問いかけられることが多い。でも今回ペレさんの話を聞いて、キャリアは「やりたいこと」だけでつくられるものではないと、教えてもらった気がした。
やりたいことが先にあって、そこへ向かって進む人もいる。
目の前のことに向き合い続けて、振り返ったときに道ができている人もいる。どちらも、その人なりのキャリアのつくり方なのだと思う。
