言葉がうまくない人にも言葉はあって
言葉がすこしは得意だ。
世間的になにか実績があるわけではなくて、言葉でなにかした覚えがあるかと言うと、中学校の卒業式の答辞くらいだけれど。
こんなに父兄が泣いているのははじめてだ、とお世話になった先生方に涙をこぼしながら言われた。
わたしは中学校まではその程度には真面目だったのだ。
授業中によくあみちゃんワールドに入っている、とも先生方に言われてはいたが、その悪評に負けないくらいには真面目だった。
成績も学年で1番2番であったので、進学校へと進んだ。面接だけで。
面接でもわたしは自己PRという、言葉を駆使した芸当を披露した。
そこまではよかった。
そこからがおかしい。
高校は、中退した。
その月のうちに高卒認定をとって、受験勉強をし、まあまあけっこう偏差値の高い大学へと進んだ。
大学も、中退した。
退学するまでにも、休学して働いたり、授業に出ずに映画学校に行ったりとめちゃくちゃであった。
当然ながら、就活なぞしなかった。
であるから職歴はむちゃくちゃである。
ヨガインストラクター、ボディセラピスト、果ては風俗嬢と、学歴なんて微塵も関係のない仕事たち。
合間に介護や、自然食品店や、書店など、自分の持つ資格と興味の範囲で働いてきた。
そうして困った大人になってしまい、今まともな仕事に就こうとして苦戦している。
ちなみにわたしは障害者である。
わたしがイメージするまともな仕事。
からだや心をことさら張らなくていい、オフィスで淡々とできるような仕事である。
でもわたしが今までしてきたような仕事に従事されている方たちが、まともな仕事をされていないということではない。
みなさんまともに働かれているだろう。
つまり、まともでないのはわたしである。
わたしが働くから、なにをやってもまともにならないのである。
だから、せめてまともらしさに溢れる仕事がしたい。
そう願って、主に事務の仕事にこの半年ほどアタックし続けている。
玉砕し続けている。
こんなでたらめな経歴でも書類選考を通してくださる会社があることがすごいと思う。
多くの人が知っている有名な企業も、いくつか通してくださった。
最終面接までしていただいたところもあるが、それ以外は一次面接で落ちてしまった。
わたしは正直すぎるのだ。
経歴の空白期間について尋ねられれば精神科病院に入院していたことを話してしまう。
前職をなぜ辞めたのかと聞かれれば、週7日働いていたので疲れてしまったと、小学生の作文のような受け答えをしてしまう。
採用されないのは、経歴のせいでも障害のせいでもない。
そう思う。
言葉がひらひらと宙を舞う。
わたしに使われることのない、わたしの言葉たち。
ビジネス言語が苦手だ。
でも、その土俵にちゃんと上がらなければ、わたしの言葉を使うことなんてできないのだ。
それができないから、ただ正直に、ありのままを答える馬鹿なわたしが出土し、露出する。
このままではいけないと思い、面接対策の本など読んでみるが、それ以前に就活に対する気力がなくなってしまった。
落ちても落ちても立ち上がってきたが、ぎりぎりプラスを保ってきた心のゲージが、マイナスに振り切れてしまった。
そうしてわたしが思いを馳せるのは、言葉がうまくはない、わたしの大好きな人のことだ。
下手というのではない。
むしろ、油断していると心のど真ん中を突き刺してくるような、すごい言葉の持ち主だ。
おそろしいほどまっすぐで、出会ってかかわりはじめた頃は、いつもひりひりしていた。
それなのに、やっぱり、うまくはない。
まちがった場所を串刺しにしてきたり、足を踏み外してわたしの袖をひっつかんだまま、ふたりで奈落の底に転げ落ちたりする。
大変だ。
口数は多くはなく、だからこそ、控えめに言っても大変なのだ。
わたしがとんでもない言葉の魔術師だったら、彼を見下すことも、憐れむこともできたかもしれない。
でも、わたしは言葉に毛が生えた程度の使い手である。
言葉に毛が生えた、とはおかしな表現だが、日々言葉に毛を生やしてもしゃもしゃとこねくり回しているわたしには、そんな表現がぴったりだと思う。
もしゃもしゃする程度のわたしがどうしてきたかというと、見くびりである。
的確に表現されないものはないものとおなじ、というジャイアンのような思想でもって、わたしは彼を見くびり、たくさんの言葉にならない言葉をシャットアウトしてきた。
彼はいい子だ。
年上だけど、ときに小学生男子のような目をする彼は、とてもいい子なのだ。
だから、わたしは言葉をぶん回すが、彼は言葉にぶん回されている。
ままならない言葉に、傷つき、託しては裏切られ、その結果、なにも言えなくなったりする。
言葉が不在に見える空間にも、言葉は否応なく満ち満ちている。
それをいちいち取り出してぶん回すのがわたし、それをそのままにしてぶん回されているのが彼なのだ。
彼のその、やさしさを思う。
分けられないものを分けない賢さを。
そのままにしておける強さを。
言葉がうまくない人にも言葉はあって、
言葉を取り扱いたいわたしは、まずそのことを心に刻まねばならない。
そうしてわたしがどこに行けるのか、そもそも就職できるのか。
みなさん見守っていてください。
