見出し画像

セルフヘアスタイリストの推し活

割引あり


 龍二がリーゼントを崩すのは、月に一度か二度のことだ。

 それ以外の日は完璧だった。前に向かって怒鳴りつけるような、天に向かってそそり立つリーゼント。地元の中学三年生で、あの髪型を知らない者はいない。駅前のコンビニで屯していれば後輩が道を開ける。近所の小学生は「龍二先輩」と呼んで遠巻きに尊敬する。中学の廊下を歩くと、教師でさえ少しだけ目を逸らす。

 龍二はその扱いを気に入っていたし、それに値するだけの威圧感が自分にあることも分かっていた。

 ただ、月に一度か二度だけ、彼は別人になった。

    *

 地下鉄の車内で、龍二はシートに座ってポーチを開けた。

 コームを取り出し、あの高くそびえるリーゼントをほどく。ポマードで固められた髪は、崩れることに少し抵抗を見せたが、コームを何度か入れれば従う。前に流れていたものを左右に分けていく。センター分け。自分の顔には似合わないと最初は思ったが、もう慣れた。

 次に、折り畳んで持ってきた赤い鉢巻きを取り出す。おでこのど真ん中に巻いて、後ろで結ぶ。鉢巻きの端が耳の後ろに垂れる。

 隣の席のサラリーマンがちらりとこちらを見たが、龍二は気にしない。

 鞄の底から、サイリウムを二本取り出す。薄緑と薄緑。みきの推しカラーだ。

 ライブハウスまで、あと四駅。


ここから先は

3,677字 / 6画像

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?