光であることの暴力——『虎に翼』と“恵まれる人”の無自覚という罪
「努力すれば人は輝ける」──その言葉は、本当だろうか。
NHKの『虎に翼』を見ながら、「恵まれること」と「無自覚であること」の残酷さについて、考えずにはいられなかった。
恵まれた側の人間が、知らず知らずのうちに他人を抑圧しているかもしれないという不安。
光が影を生む構造と、その中にいる私自身のことを、少しだけ言葉にしてみた。
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1. 「誰に共感した?」という問いに、私はのどかを選ぶ
NHKの朝ドラ『虎に翼』は、多くの視聴者を惹きつけた大ヒット作品である。戦前・戦後を生き抜いた実在の女性法律家をモデルに、多様な女性たちの人生が丁寧に描かれ、女性の誰もが一人は「これは自分だ」と感じるキャラクターに出会うだろう。
私にとってその人物は、主人公の友人・星家の娘、のどかであった。名家の子女として何不自由ない環境に育ち、自分では懸命に生きているつもりでも、周囲から見れば「ワガママなお嬢さん」に映る。彼女が主人公の寅子や、庶民出身の優未を何度も突き放す姿に、苛立ちを感じた視聴者も多かったのではないか。
けれど、「光」があれば「影」が生まれる。のどかのような名家の「普通の」娘は、家の格式や親の名声に照らされ、自身の存在を影として感じながら苦しんでいたのかもしれない。優秀で期待をされている兄と比較して悩んだかもしれない。ドラマではのどかのキャラクターは比較的深くは描かれていなかったが、だからこそのどかに潜むであろう影を想像して勝手に共感をした。
「光と影」の構図は、のどかだけに限らない。例えば、寅子の義姉・花江や義母の百合も、彼女のまばゆい活躍の裏で、家を支える存在として描かれている。ドラマの中では、二人は「自分の人生を生きている」と肯定的に描かれているが、もしこれが現実だったらどうだろう。家庭を預かり、家事を一手に引き受ける彼女たちは、寅子の輝きを心から祝福できただろうか。実際に、私の祖母は多方面で活躍する女性だったのだが、嫁である母は家事を全て押し付けられ、輝く祖母のことを深く憎んでいた。
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2. 「恵まれる人」は、なぜ光になるのか
たしかに、努力によって成功をつかむ人はいる。けれど、努力の前提には「環境」がある。家庭、親の理解、経済的な基盤、健康、能力──それらはすべて、自分では選べない要素だ。
人生は「選べなかったもの」の影響を強く受ける。だから、何かを成し遂げた人が「努力すれば誰でもできる」と語るとき、そこには無意識の傲慢さが潜んでいるかもしれない。
寅子が「光の人」になれたのは、彼女自身の努力もさることながら、優れた頭脳、支援を惜しまない親、家の経済力といった「恵まれた条件」が揃っていたからだ。一方で、同じ夢を抱きながらも、環境の制約から道を断たれた人々──たとえば梅子──もまた、たくさん存在していた。これは、寅子が「頑張ったから」ではなく、「恵まれていたから」なのだ。
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3. 光が生む影と、見えない暴力
私自身も時折、「恵まれているね」と言われる。その言葉には、褒め言葉のようでありながら、ときに嫌味や皮肉が含まれていると感じることがある。ちなみに、恵まれている要素というのは、祖父の時代に郊外に買った現在の実家が、たまたまた開発されて今では人気のエリアになったというラッキーパンチである。
言っている側に悪気がないとしても、実家の場所、家族の背景といった「自分では選ばなかった要素」で評価され、時に棘のある言葉を向けられるのは、正直なところ受け止めづらい。
その棘のある言葉によって長い間、「私は恵まれているのだから、申し訳ない」と、根拠のない罪悪感を抱えてきた。でも、この感覚を理解してくれる人にはなかなか出会えなかった。あるとき、似た境遇の従兄弟に聞いてみたところ、彼は「ラッキーとしか思わない」と笑っていた。私のモヤモヤは、ずっと解消されないままだった。
そんなとき、『虎に翼』の脚本家・吉田恵里香さんのインタビューで目にした言葉が、胸に刺さった。LGBTQに関する話の中で、彼女は「マジョリティは、存在しているだけでマイノリティを苦しめることがある」と語っていたのだ。
その言葉に、私は長年の疑問の答えを見た気がした。存在するだけで誰かを苦しめることがある、という視点は他にも当てはまる。「恵まれていること」とは、時に、それだけで誰かを苦しめてしまう構造の一部になることなのだ。
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4. 恵まれた人に求められるまなざし
自分の光が、誰かにとっては痛みの始まりになるかもしれない──そう思うたびに、胸の奥がひりつく。私の存在が、誰かの自尊心を削ってしまっていたかもしれない。それは私が悪いのではない、でも、だからといって何も感じないわけにはいかない。
この痛みを、忘れずにいたい。それが、「恵まれた側」に課された、最初の責任だ。
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