お金は、人生の主役じゃない「良いお金」を小学生でも分かるように説明します(本・書籍・洋書)
良いお金
目的のある経済的生活を築くための6つのステップ
著者 ジョン・コールマン

お金と幸せの本当の関係
皆さん、お金があればあるほど幸せになれると思いますか?
きっと多くの人が「お金はたくさんあったほうがいい。お金があれば欲しいおもちゃもゲームも買えるし、大きな家にも住めるから」と答えるでしょう。
確かに、私たちが生きていくためには、住む家、毎日食べるもの、着る服など、たくさんのものが必要であり、それらを手に入れるためにお金は絶対に欠かせないものです。
お金がないと、雨風をしのぐ安全な家がなかったり、お腹が空いてもご飯が食べられなかったり、病気になったときに病院に行って薬をもらうことができなかったりして、とても苦しく悲しい思いをすることになります。
ですから、お金は私たちが生きていくための大切な土台として非常に重要な役割を持っています。
しかし、お金がたくさんあればあるほど、どこまでも無限に幸せになれるわけではありません。
有名な経済学者や心理学者たちの長年の研究によると、人間が生きていくのに困らないくらいのお金、つまり普通の生活ができるだけのお金を持つと、それ以上いくらお金が増えても、私たちが感じる幸せの大きさはほとんど変わらなくなってしまうことがはっきりとわかっています。
例えば、宝くじに当たって突然何億円という大金を手に入れた人たちの生活を調べてみると、お金の正しい使い方がわからずに無駄遣いをして全部使ってしまったり、お金が原因で家族や友達とケンカをして一人ぼっちになってしまったりして、かえって宝くじに当たる前よりも不幸になってしまう人がたくさんいるのです。
また、マザー・テレサという世界的に有名なシスターのお話をご存知でしょうか。彼女は自分自身のためには全くお金を使わず、インドのとても貧しい人々を助けるために一生を捧げました。
彼女は決して裕福ではなく、質素な生活をしていましたが、たくさんの人々に心から愛され、ノーベル平和賞という素晴らしい賞も受け取り、とても意味のある素晴らしい人生を送りました。このことからもわかるように、私たちの人間としての価値や、人生の本当の幸せは、持っているお金の量では決して決まりません。
お金は、素晴らしい人生を送るための便利な道具にすぎないのです。
お金を一番の目的にするのではなく、家族や友達と仲良く過ごしたり、自分の得意なことを伸ばしたりする人生を豊かにするための手段として使うという考え方をしっかり持つことが、本当の幸せへの第一歩となります。
皆さんも、自分にとってどれくらいのお金があれば十分に幸せなのかを自分の頭で考え、お金に振り回されない強い心を育てていきましょう。
目的を持ってお金を稼ごう
皆さんは大人になったら、将来どんな仕事をしてお金を稼ぎたいですか?
世の中には数え切れないほどたくさんの仕事がありますが、ただお金をもらうためだけに毎日長い時間働くのは、実はとても辛くてつまらないことです。
私たちが人生の多くの時間を費やす仕事には、お金をもらうこと以上の働く目的ややりがいが必要不可欠なのです。
ここで、ある特別な学校のとても素晴らしいお話をしましょう。アメリカには、台風や雪などの自然災害で電線が切れて停電してしまったときに、危険な場所に行って高い鉄塔に登り、電線を直す作業員を育てる学校があります。
この学校の生徒たちは、無事に卒業するとたくさんのお金を稼げるようになりますが、学校の先生たちは決してただお金のためだけに技術を教えることはしません。
先生たちは生徒たちに向かって、「君たちの仕事は、真っ暗になって困っている人たちに光を届ける、本物のヒーローの仕事なんだよ」と熱心に教え、人々の生活を守るという大きな誇りを持たせます。
だからこそ、生徒たちは危険で厳しい訓練にも挫けずに耐え、卒業してからも大きなやりがいを持って社会のために働くことができるのです。
皆さんが将来どんな仕事に就くにしても、その仕事が誰かの役に立っていると感じられるかどうかが、毎日を生き生きと過ごすためにとても大切です。
もし、ただお給料の金額が高いからという理由だけで、自分が好きでもない嫌な仕事を毎日我慢して続けると、心も体も疲れ果ててしまいます。
でも、仕事の中に「自分はこの仕事を通じてこんな風に世の中の人を笑顔にしているんだ」という目的を見つけることができれば、毎日の仕事がとても楽しくなり、自分の才能や技術をもっと伸ばそうと自然に努力するようになります。
そして、そうやって一生懸命に働いて人々の役に立てば立つほど、あなたにお願いしたいという人が増え、結果としてお金も自然とついてくることが多いのです。
だからこそ、将来働くときには、ただもらえるお金の多さだけで仕事を選ぶのではなく、自分が心から情熱を持てることや、人の役に立てることを大切にして、しっかりとした目的を持ってお金を稼ぐようにしてください。
賢くお金を使おう
一生懸命働いてお金を稼いだら、次はそのお金をどうやって使うかがとても重要になります。皆さんは、毎月のお小遣いやお年玉をもらったら、何に使いますか?
新しいゲームソフトやかっこいいおもちゃ、流行りの服などを買いたくなるかもしれません。でも、この本は形のある物を買うよりも、思い出に残る経験にお金を使ったほうが、人はずっと長く幸せを感じることができると教えてくれています。
なぜなら、人間にはどんなに素晴らしいものを手に入れてもすぐに慣れてしまうという性質があるからです。これを少し難しい言葉で快楽のランニングマシーンと呼びます。
例えば、ずっと欲しかった最新のゲームを買ってもらった瞬間は天にも昇るような気持ちになりますが、数週間も毎日遊んでいればそれが当たり前の日常になり、また別の新しいゲームやもっとすごいものが欲しくなりますよね?
どんなに素晴らしい物を手に入れても、すぐに慣れてしまって、もっともっとと際限なく欲しくなるという、終わりのない競争のようになってしまうのです。
一方で、経験はどうでしょうか。家族と一緒に遠くへ旅行に行ってきれいな景色を見たことや、大好きな友達と遊園地で思い切り笑い合ったこと、お父さんやお母さんと一緒に大好きなスポーツの試合を夢中で応援したことなどです。
そうした素晴らしい経験は、時間がどれだけ経っても頭の中から色あせることがなく、後から思い出すたびに心が温かくなり、何度も幸せな気持ちになれます。
アップルという有名な会社を作ったスティーブ・ジョブズは、世界でも有数の大金持ちでしたが無駄な物は一切買わず、本当に家族にとって良いと思う洗濯機を一つ買うためだけに、家族全員で何週間も真剣に話し合ったそうです。
物をたくさん集めて見せびらかすことよりも、自分の体を健康に保つことや、家族や友達との深い絆を深めるためにお金を使ったりするほうが、皆さんの人生はずっと豊かで素晴らしいものになります。
そしてお金を使うときの何より大切な基本のルールは、自分が持っている以上のお金を使わない、つまり借金を絶対にしないということです。
無駄遣いを減らし、本当に自分や周りの人を笑顔にする経験のために、よく考えて賢くお金を使いましょう。
人のために気前よく分け与えよう
お金の様々な使い道の中で、最も私たちに大きな喜びと深い幸せをもたらすものは一体何だと思いますか?
それは、自分自身の贅沢のためにお金を使うことではなく、他の誰かのためにお金を使うこと、つまり寄付をしたりプレゼントをしたりすることなのです。
世界中の科学者たちが行ったたくさんの研究でも、人のために自分のお金や時間を使った人の方が、自分のためだけに使った人よりもずっと強い幸せを感じ、さらには心も体も健康になって長生きすることがはっきりとわかっています。
例えば、山登りなどのアウトドア用の服や道具を作っているパタゴニアという世界的に有名な会社の創業者であるイヴォン・シュイナードという人は、会社がとても大きくなって数え切れないほどたくさんのお金を手に入れました。
しかし彼は、その莫大なお金を自分の贅沢な生活のために使うのではなく、地球の美しい自然環境を守るための活動をしている団体にすべて寄付してしまったのです。
彼は、自分だけがお金をため込むことよりも、自分が心から愛する美しい自然を守ることの方が、人生においてずっと大切で価値があることだと知っていたからです。
皆さんも、もらったお小遣いの中から少しだけ、スーパーのレジ横にある募金箱に寄付してみたり、困っている人を助けるための活動をしている団体に自分からお金を出してみたりしてください。
たとえそれが百円や二百円という少ない金額であったとしても、自分のこのお金が遠くの誰かの役に立てたんだという喜びは、あなた自身の心をとても豊かにし、誇らしい気持ちにさせてくれます。また、お金を出すことだけが寄付ではありません。
地域のゴミ拾いに参加したり、困っているお年寄りを助けたりして、自分の時間や力を使ってボランティア活動をすることも、立派な分け与え方です。寄付をするときには、このお金はどうやって使われて、誰をどうやって助けるのだろうとインターネットなどでしっかり調べて、自分の情熱が持てる問題を選ぶようにすると、より意味のある最高のお金の使い方になります。
人のために気前よく分け与えることは、お金に縛られない自由で優しい心を持つための最高のトレーニングなのです。
世界を良くするためにお金を投資しよう
皆さんはニュースなどで投資という言葉を聞いたことがありますか?
投資とは、頑張っている会社にお金を出してその会社の活動を応援し、その会社が成長してたくさんの利益を出したときに、自分が出したお金も増えて返ってくるという仕組みのことです。
投資を早くから始めて長い時間をかけると、複利というまるで雪だるまが転がって大きくなるような魔法のような力が働き、最初は少しのお金でも将来にはとても大きな金額に育ちます。
皆さんが大人になって将来の自分の生活を守るために、早くから投資について学び始めることはとても重要なことです。
しかし、投資にはただ単に自分のお金を増やすという以上の、もっと大きくて素晴らしい意味があります。それは、皆さんの投資したお金がこれからの未来の世界をどんな世界にするかを決める強い力を持っているということです。
例えば、空気を汚したり地球の環境を破壊したりする会社や、人を傷つけるような武器を作る会社には絶対にお金を出さず、代わりに、太陽の光や風の力できれいなエネルギーを作る会社や、重い病気で苦しむ人を治すための新しい薬を一生懸命開発している会社、貧しい国の人たちに素晴らしい教育を届ける会社を選んで投資したとします。
すると、皆さんの出した大切なお金が、そうした素晴らしい活動をする会社のパワーとなり、結果として世界をより良い場所に変えることができるのです。
実際に、ある投資家はアフリカの小さな農家の人たちがもっとたくさんの作物を作って豊かになれるように手助けする会社にお金を出したり、アフガニスタンという戦争があって厳しい環境の国で女性たちが安全に働けるお茶の会社にお金を出したりして、世界の貧困問題を解決しながら自分のお金も増やしています。
これをインパクト投資と呼びます。
つまり、すべてのお金の使い道には世界に対する影響があり、世界と無関係な投資というものは一つも存在しないのです。
皆さんが大人になって自分のお金を投資するときには、ただどこの会社が一番お金が儲かるかだけを考えるのではなく、この会社は世の中の人々を幸せにしているか、世界を良くしているかという視点を必ず持つようにしてください。
皆さんの大切なお金が、素晴らしい未来を作るための心強い応援団になるのです。
引退するためではなく、自由になるためにお金を貯めよう
大人の人たちの中には、若いうちから一生懸命頑張ってお金をたくさん貯めて、なるべく早く仕事を辞めて、あとは毎日遊んでのんびり暮らしたいと考えている人がたくさんいます。
確かに、朝早く起きる嫌な仕事から解放されて、毎日自分の好きなことだけをして自由にのんびり過ごすのは、とても素晴らしい夢のように聞こえるかもしれません。
しかし、実際のところはどうなのでしょうか。様々な研究によると、仕事を完全に辞めてしまって毎日何もしなくなった人たちは、最初のうちは喜んでいても、しばらくすると運動不足で健康を崩しやすくなったり、毎日の生きがいをなくして心が沈んでしまったりすることが非常に多いそうです。
人間は、自分の行動が何かの役に立っていると感じたり、人とのつながりを持って会話を楽しんだりすることで生きる喜びと幸せを感じる生き物です。
ですから、仕事を通じた社会との関わりが完全になくなってしまうと、かえって不幸になりやすいのです。
リック・ウールワースという素晴らしい人物は、仕事を辞めるのに十分な大金を持った後でも、ただ遊ぶだけの生活は選ばず、若い人たちに人生の知恵を教えるという新しい活動を始めて、多くの人から感謝される最高に充実した日々を送りました。
つまり、お金を貯める本当の目的は、二度と働かなくていいようにするためではなく、自分の好きなように人生を選べる自由を手に入れるためなのです。
もし、万が一大きな病気になっても困らないくらいの十分な貯金があり、毎月の生活費の心配が全くなくなれば、私たちは給料の金額に関係なく、本当に自分が心からやりたい仕事や、人の役に立つ大好きな仕事を選ぶことができます。
家族との時間をもっと増やしたいと思えば、働く時間を減らして自分の時間を増やすことも簡単にできます。
これを経済的な自由と呼びます。皆さんも将来大人になってお金を貯めるときは、ただ仕事を辞めて何もしない生活を目指すのではなく、自分らしく、そして社会に役立つ素晴らしい働き方を自分で選べる自由な切符を手に入れるために貯金をするのだという考え方を強く持ってください。
家族でお金について話し合おう
さて、ここまでお金との上手な付き合い方について詳しくお話ししてきましたが、これらの素晴らしい習慣は一日や二日で簡単に身につくものではありません。
皆さんが子供のころから、家族と一緒にお金について真剣に考え、何度も話し合い、実際に練習することがとても大切なのです。
多くの親は、子供にはお金の心配をさせたくないと考えてお金の話を避けてしまいますが、本当は子供の頃からお金の仕組みや正しい使い方の大切さを学ぶことが、将来の皆さんの人生を大きく助けることになるのです。
まずは、お家の中で家族会議を開いてみてください。私たちの家族は、どんなことを大切にして生きていくのかをみんなで話し合うのです。例えば困っている人に優しくする、どんな困難にも勇敢に立ち向かう、常に感謝の気持ちを忘れないなどです。
そして、お風呂掃除や犬の散歩、食器洗いなどのお手伝いをしっかりとしてお小遣いをもらうことで、お金は誰かの役に立つことで初めて得られる大切なものだということを体で体験してください。
もらったお小遣いは、欲しいものを買って全部使ってしまうのではなく、使うお金、貯めるお金、寄付するお金の3つの瓶や貯金箱に分けて管理する練習をするととても良いでしょう。
お金を我慢して貯めることで将来本当に欲しい大きな買い物ができるようになり、寄付をすることで人を助ける素晴らしい喜びを知ることができます。
また、お父さんやお母さんがどんな仕事をして家族のためにお金を稼いでいるのか、スーパーで買い物をするときにどんな風に無駄遣いをしないように気をつけているのかをよく観察して、どうしてこれを買うのとたくさん質問してみてください。
もしお小遣いの使い道で失敗してしまったとしても、子供のころの小さな失敗は大人になってからの大きな財産になります。お金は決して皆さんの人生のゴールではなく、皆さんの人生をより豊かで幸せなものにし、周りの人たちを助けるための素晴らしい道具です。
この本で学んだことを胸に深く刻み、これからの長い人生で、お金を最高の味方につけて、自分も周りも幸せになる最高の人生を歩んでいってください。
★付録★音声考察

目的のある経済生活の構築――「良いお金」という考え方について
はじめに
お金は、生きるために欠かせないものです。食べ物、住まい、衣服、教育、医療など、人が安心して暮らすためにはお金が必要です。そのため、多くの人は「お金は多いほどよい」と考えがちです。しかし、本書が示しているのは、それほど単純ではないということです。お金は不足すれば人を苦しめますが、増えれば自動的に幸せになれるわけでもありません。むしろ、お金に対する考え方や使い方を誤ると、人は不安や比較、孤独、見せかけの成功に縛られてしまいます。つまり、お金はそれ自体が善でも悪でもなく、どのように向き合うかによって、人の人生を支える力にも、損なう力にもなりうるのです。
本書の中心にある考えは、「良いお金」とは、人生を豊かにする手段として使われるお金である、というものです。ここでいう豊かさとは、単に高級品を持つことや資産を増やすことではありません。人とのつながり、意味のある仕事、心身の健康、他者への思いやり、自分らしく生きる自由など、人が本当に大切にしたいものが満たされている状態です。本書は、こうした人生を支えるために、お金とどう向き合えばよいかを考えています。
第一章 良い人生とお金の位置づけ
本書はまず、「良い人生とは何か」という問いから出発します。世の中で本当に満ち足りて生きている人を思い浮かべるとき、多くの場合、その人の豊かな人間関係、周囲への思いやり、意味ある仕事、地域や家族への貢献などが語られます。豪華な持ち物や高い年収が中心に語られることはほとんどありません。ここからわかるのは、人が深く満たされる人生において、お金は中心ではなく、土台を支える要素であるということです。
本書はこの点を説明するために、人間の幸福や充実を研究してきた考え方を紹介しています。一つは、前向きな感情、何かに打ち込むこと、よい人間関係、意味や目的、達成感といった要素が人生の充実を形づくるという考えです。もう一つは、幸福感、心身の健康、意味と目的、人格や徳、人との親しいつながりが重要であるという見方です。どちらの考え方にも共通しているのは、お金が人生の最終目標ではないという点です。お金は、食事や住まいのような基本的な安定を支えるためには重要ですが、それ自体が人間の充実そのものではありません。
このことは、日常感覚ともよく合います。生活が苦しいときには、少しのお金でも安心をもたらします。しかし、ある程度の安定が得られたあとでは、さらにお金が増えたからといって、それだけで人間関係が深まったり、人生の意味が見つかったりするわけではありません。むしろ、お金を目的にしすぎると、何のために働いているのか、自分は何を大切にしたいのかが見えにくくなります。そのため本書は、お金を「目的」ではなく「手段」として正しい場所に置き直す必要があると述べています。
第二章 お金についての考え方を整える必要性
本書がとくに重視しているのは、具体的な節約術や投資術の前に、お金に対する考え方を整えることです。人は、自分がどのような思い込みを持っているかによって、行動が大きく変わります。もし「お金がない自分には価値がない」と思い込めば、見栄や焦りに振り回されやすくなります。逆に、「お金は大切だが、それは人生を支えるための道具だ」と理解していれば、落ち着いて判断しやすくなります。
現代社会には、お金に関するゆがんだメッセージがあふれています。お金持ちであることが人間として優れている証拠であるかのように見せる発信、豪華な家や車を成功の象徴とする文化、他人より上に立つために消費する姿勢などは、その代表です。こうした情報に繰り返し触れていると、人は知らないうちに「もっと持たなければならない」「足りない自分は遅れている」と感じるようになります。本書は、そのような考え方こそが、人生を不自由にすると指摘します。
また、貧しさから生まれる不安も、人の判断をゆがめます。必要なものが足りない状態では、目の前の不安に意識が奪われ、長い目で見た判断がしにくくなります。一方で、お金を持つこともまた別の落とし穴を生みます。資産が増えると、自分は何でも正しいと錯覚したり、自分の価値を財産と結びつけたりしやすくなります。つまり、欠乏も過剰も、考え方を誤れば人を不自由にするのです。そのため本書は、まず心の土台を整えることを出発点にしています。
第三章 お金では幸福を買えないという理解
本書の重要な主張の一つは、「お金だけでは幸福は買えない」という点です。もちろん、生活が不安定な段階では、お金は安心や安全をもたらします。家賃を払えること、十分に食べられること、必要な医療を受けられることは、人間らしく生きるために欠かせません。しかし、その段階を超えたあとに求められるのは、さらに高い収入ではなく、自分にとって何が大切かを見きわめる力です。
人はしばしば、「あと少し増えれば満足できる」と考えます。ところが、その「あと少し」はいつまでも先へ逃げていきます。年収が上がれば生活水準も上がり、前には十分だと思っていたものが当たり前になります。そして、さらに上の暮らしを見て、自分にはまだ足りないと感じてしまいます。本書は、この終わりのない追いかけっこが、人を疲れさせると見ています。
ここで大切なのは、「どこまであれば十分か」を自分で考えることです。他人と比べて決めるのではなく、自分と家族にとって必要な暮らしを考え、その範囲を見定めることです。そうすることで、お金のために生きるのではなく、より大事なもののためにお金を使う視点が生まれます。本書はこれを、人生の中での「お金の終着点」を決めることだと考えています。終着点がないと、どれだけ手にしても満足できず、常に次を求め続けるからです。
第四章 六つの実践原則
本書は、良いお金との関係を築くために、六つの柱を示しています。それは、考え方を整えること、目的をもって稼ぐこと、賢く使うこと、気前よく与えること、よい影響のために投資すること、そして引退のためではなく自由のために備えることです。これらは別々の技術ではなく、一つの人生観としてつながっています。
第一に、考え方を整えることです。お金を自分の価値と結びつけないこと、お金は幸福そのものではないと理解すること、そして必要以上の比較に巻き込まれないことが基本になります。お金を正しい位置に置くことで、心の落ち着きが生まれます。
第二に、目的をもって稼ぐことです。本書は、仕事をただお金を得る手段として見るのではなく、意味を見いだせる営みとして考えるべきだと述べます。人は人生の多くの時間を働くことに使います。その時間が苦痛だけでできていれば、どれほど収入があっても満たされにくくなります。もちろん、生活のために今すぐ収入が必要な場合もあります。その場合でも、自分の仕事が誰の役に立っているか、どんな価値を生み出しているかを考えることで、働く意味は育てられます。よりよい人間関係、よい使命、裁量のある環境、自分らしさを発揮できる働き方は、少し高い給料以上の価値を持つことがあるのです。
第三に、賢く使うことです。本書は、見栄のための消費や、他人との比較から生まれる消費を強く警戒しています。高級品そのものが悪いのではありません。しかし、それが自分の価値を示す道具になった瞬間、消費は人生を豊かにするどころか、むしろ不安や嫉妬を強めます。その一方で、体験への支出、人と一緒に過ごす時間を増やす支出、健康や学びにつながる支出は、人生を深く豊かにしやすいと本書は考えます。たとえば、より高価な物を買うよりも、大切な人と旅行に行くこと、長い通勤を減らすこと、心身の健康を守ることにお金を使う方が、満足につながりやすいのです。
第四に、気前よく与えることです。本書は、与えることは受け取る側だけでなく、与える側の人生も豊かにすると述べています。他者に役立つためにお金を使うことは、意味や喜び、人とのつながりを強めます。寄付だけでなく、困っている人を助けること、食事をごちそうすること、日常の中で親切にお金を使うことも含まれます。ただし、本書は「よく与える」ことも重視しています。善意だけでは十分ではなく、本当に相手の役に立つか、長い目で見てよい結果を生むかを考える必要があるからです。
第五に、よい影響のために投資することです。本書では、貯金をただ眠らせるのではなく、将来のために働かせるお金として考えています。早くから少しずつでも投資を続けることは、経済的な安定に大きく役立ちます。しかしそれだけではなく、自分の価値観に合う形でお金を使うことも重要だとされます。社会や環境、人々の暮らしにどのような影響を与えるかを考えて投資することは、お金を通して社会と関わる一つの方法です。つまり投資は、自分だけが増えればよいという考えではなく、どんな世界を支えたいかという問いにつながります。
第六に、引退のためではなく自由のために備えることです。本書は、従来の「できるだけ早く仕事をやめること」を目標にする考え方に疑問を投げかけます。人は働くことそのものから意味やつながりを得ることが多く、それを完全に失うと、かえって生きがいや活力を失うことがあります。そのため目指すべきなのは、何もしない老後ではなく、自分が望む形で働いたり、学んだり、奉仕したりできる自由です。十分な備えがあれば、収入だけを理由に合わない仕事を続ける必要がなくなります。好きな仕事に移る、働く時間を減らす、地域活動に力を注ぐといった選択ができるようになります。本書は、そのような自由こそが、お金の大きな価値だと見ています。
第五章 比較と執着から離れることの重要性
本書は、良いお金の実践を妨げる最大の敵として、比較と執着を挙げています。人は他人と比べることで、自分の立ち位置を測ろうとします。しかし、比較を続ける限り、満足にはたどり着けません。より高い時計、より大きい家、より高い年収を持つ人は常に存在するからです。比較を基準にしてしまうと、自分の暮らしの十分さが見えなくなります。
また、何かを手に入れたときの喜びは、思ったほど長く続きません。新しい物や高い地位に慣れてしまうと、また次の刺激を求めるようになります。本書は、この性質を理解しないまま生きると、終わりのない欲望に引きずられると考えています。だからこそ、自分にとって本当に必要なものを見きわめ、そこから先は執着しない姿勢が大切になります。これは我慢だけを意味するのではありません。むしろ、不要な競争から降りて、本当に大切なことに時間と心を使えるようになる、という意味での自由です。
第六章 子どもと次の世代への課題
本書は最後に、お金の考え方を次の世代へどう伝えるかという問題にも触れています。親は多くの場合、自分よりよい生活を子どもに与えたいと願います。しかし、その願いが行き過ぎると、子どもから努力する機会や感謝する心を奪ってしまうことがあります。とくに、苦労せずに与えられた豊かさは、価値観が伴わないと、人を弱くすることがあります。
そのため重要なのは、単にお金を残すことではなく、お金をどう考え、どう使うかという姿勢を伝えることです。働くことの意味、人を助ける喜び、物より関係や経験を大切にする姿勢、自分の生活を自分で整える力などを教えることが、本当の意味での財産になります。本書は、子どもに多くを与えることよりも、よい価値観を渡すことの方が、はるかに重要だと考えています。
結論
本書が伝えようとしているのは、お金を否定することではありません。お金は必要であり、正しく用いれば人生を支える大きな力になります。しかし、それはあくまで手段です。人が本当に求めているのは、より多く持つことではなく、より深く生きることです。意味のある仕事、信頼できる人間関係、心身の健康、他者への貢献、自分らしい自由な生き方。こうしたものこそが、人生の中心であるべきです。
その意味で、「良いお金」とは、人生の中心に立つものではなく、人生の中心にある大切なものを支えるお金です。目的を見失って稼ぎ、比較に追われて使い、ただ増やすために蓄えるのではなく、自分の価値観に沿って稼ぎ、使い、与え、育てることが求められます。本書の六つの柱は、そのための道しるべです。お金を人生の主人にするのではなく、人生をよりよく生きるための道具にできるかどうか。そこに、本書のもっとも大きな問いがあります。そしてその答えは、特別な富豪だけでなく、これから働き始める若い人にも、家族を支える人にも、人生の後半を考える人にも共通しているのです。お金を正しい場所に置くことができれば、人はより自由に、より意味深く、より人間らしく生きることができるのです。

