Gz-028:安順裹巻│ウラマキ
夕暮れ。
貴州省安順。
通りの店の老婆の手つきは、速度を超えている。
熟練の職人だけが行えるワークフローは、
肉体のスペックを超えて速い。
指先は年齢相応の硬さでぎこちないが、
全体の動きは熟練のバイオリニストの左手のようでもある。
冷たいガラスの上に、
極薄のライスシートが張り付き、
そのうえで、
ゆでたてのモヤシが、
甘辛い豚ロースが、
そして貴州省の魂たちが巻き込まれていく。
小ぶりな春巻き。
プリン、シャキ、ジュワァ。
真夏の涼風が舌を包むかのような、
そんな一品。
大人の夜の始まりを静かに告げる、
美しき前菜「安順裹巻」をどうぞ。
というわけで、今回は安順裏巻。
現地では「安順裹巻」とも書かれます。
正式には「裏(うら)」ではなく「裹(こう:包む)」なのですが、二つの漢字が似すぎていて、裏の方が定着してしまいました。これだけ似ているとさもありなんといった形。
台湾で生活していると郵便局で見かける字ですね。「包裹」でゆうパックのアレです。


ベトナム料理などで見る春巻きよりもかなり小さく、この直径10cmほどの四角い米皮の上に、糟辣椒や黄色い唐辛子(黄椒醤)の特製ダレを塗り、茹でたもやし、千切りのキュウリ、高菜漬け、そしてスライスして香ばしく炒めた豚ロース肉(裏脊肉)などをのせて、コンパクトに巻き上げた一口サイズ。餃子くらいのサイズ感です。
料理名としては「裏巻」で定着してしまい、貴州省以外の人はこう書きますが、やはり現地では「裹巻(グオジュアン)」と呼びたい所。
しかもメイン素材の豚ロースを現地で「裏肉」と呼ぶのも勘違いに拍車をかけました。裏肉を包むんだから裏巻だろ?というこじつけも成立してしまうのです。
これだけ説明しても、筆者はウラマキと呼んでしまう気がします。日本語だとそちらの方が語感が良いですしね。というわけで和名はウラマキにしました。現地ではゴウチュエンと正しく読んでください。
さて、この料理の成立にも明代の「調北征南」が関係しています。
現在の安順市周辺に築かれた大規模な軍事開拓集落群「安順屯堡(あんじゅんとんぽう)」。安順へは江南地方(現在の江蘇・浙江一帯)からこの辺境へ集団移住してきた兵士とその家族たち(屯堡人)は、故郷の春の行事や祝祭で食べた「春巻き(春巻)」の味を強く懐かしみました。
ですが、この地域で小麦は超高級品。現地で何とか手に入ったインディカ米(秈米)を使って春巻きの再現に挑戦し、この「裹巻」が生まれました。
サイズが小さいのは…、貧しかったからでしょうか。このサイズ感で作らないと、家族や友人分が作れなかったからなのかもしれません。
ぜひ、きれいな皿に乗った春巻きではなく、裸電球の下、屋台の主人に味付けを細かくオーダーし、手づかみで、二口ほどで頬張って食べる、そんな食べ方で楽しんでください。
そうそう、貴州の省都、貴陽から安順まで、2026年6月26日に拡張スマート高速道路が正式に開通したそうで、移動時間が20分短縮されました。ついでに、この時期は連日の豪雨によって現地の観光地の一つである「黄果樹大瀑布」が記録的な増水を見せ、その大迫力の映像は日本のメディアでも紹介されたようです。
ずっと貧しかった貴州省。「橋梁と高速道路の奇跡」とも呼ばれるインフラ整備によって奇跡的な経済成長を遂げましたが、同時に巨額のインフラ建設債務を抱えています。
おそらく現地に送り込まれた工事人員らも、故郷の味を懐かしんで「裹巻」のような現地の味の再現に腐心したのかもしれません。
彼らに、そして過去の人々に敬意をこめ、この小さな春巻きを味わいましょう。
それではレシピ行ってみましょう。
【初級編】ライスペーパーで作る簡易裹巻

難易度:☆
調理時間:15分以内
材料
ライスペーパー(生春巻きの皮):4枚
豚ロース薄切り肉:100g
もやし:50g
キュウリ(細切り):1/2本
焼肉のタレ(甘口):大さじ1
スイートチリソース(またはチリソース+酢):大さじ1
サラダ油:小さじ1
調理方法
フライパンにサラダ油を熱し、豚ロース肉を炒め、焼肉のタレで味付けして取り出します。
もやしはさっと茹でて冷まし、水気をしっかり切っておきます。
ライスペーパーをぬるま湯にさっと潜らせて戻し、平らな皿に広げます。
皮の中央にチリソースを薄く塗り、もやし、キュウリ、炒めた豚肉をのせます。
左右を内側に折り、手前からくるくると固めに巻き上げて完成です。
注意点
蒸したての米皮の代わりに、日本のスーパーで手に入る乾燥「ライスペーパー」を使用した時短アレンジレシピです。ライスペーパーは戻しすぎると破れやすいため、少し硬めの状態で具をのせて巻くと、巻いている間に程よく柔らかくなります。
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【中級編】糟辣椒で作る安順裹巻

難易度:☆☆
調理時間:40分以内
材料
うるち米粉(上新粉):100g
タピオカ粉(または片栗粉):20g
水:240ml
塩:ひとつまみ
豚ロース肉(しゃぶしゃぶ用):150g
もやし:100g
キュウリ:1/2本
高菜漬け(細かく刻んだもの):大さじ1
糟辣椒(貴州発酵唐辛子):大さじ2
サラダ油:大さじ1
調理方法
【米皮の作成】ボウルに米粉、タピオカ粉、塩、水を入れ、泡立て器でダマがなくなるまでよく混ぜます。
フライパン(フッ素樹脂加工)に薄くサラダ油を引き、生地を薄く流し入れ、蓋をして弱火で1分間蒸し焼きにし、半透明になったら引き上げて冷まします(4枚作成)。
豚ロース肉は細切りにし、フライパンで香ばしく炒め、塩少々(分量外)で味を調えます。もやしは下茹でして水気を切り、キュウリは細切りにします。
平らな台に米皮を広げ、糟辣椒を薄く塗ります。
もやし、キュウリ、高菜漬け、炒めた豚肉をのせて、コンパクトな筒状に巻いて完成です。
注意点
米粉に少しタピオカ粉を加えることで、家庭のフライパンでも破れにくく、本場の「裹巻」に近いモチモチとしたコシのある皮が作れます。具材の水分はしっかりと切ることが、皮がふやけて破れるのを防ぐためのポイントです。
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【上級編】安順裏巻~インディカ米の蒸米皮と三色ソース仕込み

難易度:☆☆☆
調理時間:2時間以上(※米の浸水時間は除く)
材料
【極薄米皮(伝統蒸気ゲル)】
秈米(インディカ米、なければコシヒカリ等のうるち米):150g(一晩水に浸けたもの)
タピオカ澱粉(木薯粉):15g
水:300ml
サラダ油:極少量(型塗り用)
【具材】
o 豚裏脊肉(極上ロース肉):150g(極細切り)
o 新鮮な緑豆もやし(根を取り除いたもの):150g
o キュウリ(芯を除いた極細切り):1本分
o 自家製酸菜(からし菜の乳酸発酵漬け・極細切り):大さじ2
【三色伝統ソース】
o 赤ソース(糟辣椒タレ):糟辣椒大さじ2 + 酢小さじ1 + 砂糖小さじ1/4
o 黄ソース(黄椒醤):黄色唐辛子ペースト大さじ1 + 蒜水小さじ1
o 黒ソース(甜醤タレ):中国甘味噌(甜麺醤)大さじ1 + 芝麻醤(胡麻ペースト)小さじ1/2
調理方法
【極薄米皮の製造】浸水した米の水を切り、ミキサーに米、タピオカ澱粉、水300mlを入れ、摩擦熱を与えないように細かく粉砕して、非常に滑らかな米漿(米ミルク)を作ります。
蒸し器をセットし、強火で沸騰させます。蒸し器に入るフラットな型(ステンレストレイや丸型ケーキ皿)の底に、サラダ油をごく薄く塗ります。
型に米漿を大さじ3ほど流し入れ、トレイを傾けて均一な極薄の膜を作ります。
型を蒸し器に投入し、最大強火で蓋をして1分間蒸します(生地が膨らんで半透明になるまで)。
トレイを取り出し、即座に冷水の入ったボウルの底にトレイごと浸して急冷します(でん粉の再結晶化)。
スパチュラ等を用いて、トレイから極薄の米皮をつるんと剥がし、湿らせたキッチンペーパーの上に重ねておきます(これを繰り返して約8枚作成)。
【具材の準備】豚ロースの細切りを、極少量のラード(分量外)と塩でカリカリになるまで香ばしく炒め(肉の旨味凝縮)、余分な油を切ります。もやしは沸騰した湯で15秒間だけ茹でて冷水に放ち、遠心力等で水分を完璧に脱水します。
【組み立て】平らなまな板の上に極薄米皮を広げ、表面全体にハケで赤ソース(糟辣椒タレ)を極薄く塗ります。さらに中心線に沿って黄ソースと黒ソースを細く一線引きます(味のレイヤード)。
米皮の中央に、脱水したもやし、キュウリ、酸菜、炒めた豚肉の細切りを並べます。
左右の皮を内側に折り込み、手前からしっかりと力を入れて巻き上げ、端が下になるように盛り付けて即座に供します。
注意点
米皮をトレイから剥がす際、「蒸し上がった直後に冷水でトレイごと冷やす」プロセスがポイントです。急冷によってでん粉の網目構造が引き締まり、破れずに綺麗に剥がすことが可能になります。
もやしはよく水を切ってください。水分が残っていると、せっかくの美しい三色ソースが水に溶けて混ざり合い、美しいレイヤードの風味が崩れます。
インディカ米は、うるち米に比べてアミロース含有量が高く、極薄でも破れない強靭な引張強度を持ちます。
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コーヒーが好きだ。とくにミルクコーヒー。外出の予定がない時は、これにハチミツ酒をひとさじ加えて飲む。これがまたすこぶるいい。それぞれの銘柄を変えると、がらりと味が変わる。どうだい?一杯おごってはくれないか?