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イラン攻撃の裏で進行する『ニューノーマル』——オランダの政治経済学者が暴く『永久戦争』のメカニズム

どんな国であれ、攻撃されれば反体制派も旗の下に集結する。ユーゴスラヴィアでもそうだった。イランでも同じことが起きている

— キース・ファン・デル・ペイル(政治経済学者、アムステルダム大学・サセックス大学元教授)

もしこの人工的な恐怖キャンペーンで人々を従わせられないなら、本物の戦争が現実の選択肢になる。なぜなら、戦争の危険について嘘をつく必要がないからだ

— キース・ファン・デル・ペイル

イランはホルムズ海峡の通過許可を与える「友好国リスト」を公表した。パキスタン、インド、中国は含まれている。日本の名はない。日本はアメリカの戦争計画に署名した国として扱われている——オランダの政治経済学者ファン・デル・ペイルは、そう断言した。

またしても「ニューノーマル」という言葉が漂い始めている。エネルギー配給、在宅勤務の要請、EV購入の奨励。5年前と同じ空気がある。あのときはウイルスだった。今度はミサイルだ。恐怖の対象が変わっただけで、その恐怖を通じて社会を方向づけるという構造は変わっていない。問題は、この戦争がいつ終わるかではない。なぜ終わらないのか、なぜ終わらせる必要がないのかである。

ファン・デル・ペイルは、対テロ戦争の起源を2001年の9月11日ではなく1973年に置く。イスラエルが自国の戦争を米国に代行させる構造を設計した年だ。その最終段階としてイラン攻撃が遂行されている。だがイランは屈服しない。9000万の人口、自主開発の極超音速ミサイル、そしてホルムズ海峡という地政学的切り札を持つ国を、空爆で膝を折ることはできない。その代償を最も大きく払うのは、エネルギー供給をこの海峡に依存する日本と欧州である。

Strait of Hormuz  map

キース・ファン・デル・ペイルと「対テロ戦争の25年」

キース・ファン・デル・ペイル(Kees van der Pijl)はオランダの政治経済学者で、アムステルダム大学とサセックス大学で国際関係論を教えた。専門は国境を超えて活動する資本家階級(トランスナショナル資本家階級)の構造分析である。企業・軍・政治の三位一体がどのように世界秩序を形成するかを、数十年にわたって追跡してきた研究者だ。

ファン・デル・ペイル

代表作『States of Emergency: Keeping the Global Population in Check(非常事態——世界人口を管理下に置く)』(2022年)は、パンデミックを支配層による人口管理の構造的手段として分析した学術書である。筆者にとってこの本は、それまで「陰謀論」として退けていたパンデミック人口削減の仮説を、学術的根拠に基づいて真剣に再検討するきっかけとなった一冊だ。

近刊『Israel and 9/11: 25 Years of War on Terror(イスラエルと9/11——対テロ戦争の25年)』は、9/11の前史から対テロ戦争の構造を辿り、現在のイラン戦争までを一つの連続体として描く。本対談はこの新著の議論を下敷きにしている。ファン・デル・ペイルは、調査ジャーナリストのクリストファー・ボリン(Christopher Bollin)による報告をもとに、その成果を学術的な枠組みで再構成することを試みた。

対談相手のフルヴォイエ・モリッチ(Hrvoje Morić)はクロアチア出身・メキシコ在住のジャーナリストで、ポッドキャスト「Geopolitics & Empire」を運営する。帝国批判と多極化の視点から、独立系の分析者を長年にわたって紹介してきた番組である。

1. 第四次中東戦争の教訓——イスラエルが自ら戦うことをやめた年

1973年以降、イスラエルでは、今後は米国にイスラエルの戦争を戦わせるという発想が生まれた

— キース・ファン・デル・ペイル

1973年10月、エジプトとシリアがイスラエルに奇襲を仕掛けた。第四次中東戦争である。イスラエルは最終的に反撃に成功したが、初期段階で深刻な損害を被り、国家存亡の危機に直面した。この「辛勝」がもたらした教訓は、以後の中東地政学の方向を根本的に変える。イスラエル単独ではアラブ世界との全面戦争を継続できないという認識が、戦略転換の起点となった。

ファン・デル・ペイルによれば、この転換点の6年後、1979年に具体的な構想が形をとる。リクード政権下のエルサレムで開催された会議で、「対テロ戦争」という概念が提起された。骨子はこうだ。イスラエルは前線から退き、米国を中心とする「有志連合」がイスラエルの敵対国を順次攻撃する。対テロ戦争という名目で、一連の軍事作戦を正当化する枠組みを整える。

第四次中東戦争(ヨム・キプル戦争)の戦場写真

この構想は、2001年9月11日以降に一気に実行段階に移された。元NATO欧州連合軍最高司令官のウェズリー・クラーク(Wesley Clark)将軍が証言した「7カ国5年計画」——イラク、シリア、レバノン、リビア、ソマリア、スーダン、そしてイランを順次攻撃するというリストは、この文脈と重なる。計画は当初の想定より大幅に遅延した。だが構造そのものは維持され、リストの最終項目であるイランへの攻撃が今まさに進行している。

注目すべきは時間軸の設定である。多くの人は「対テロ戦争」を2001年の同時多発テロに始まるものとして記憶している。しかしファン・デル・ペイルの分析では、その起源は1979年——つまり9/11の22年前にすでに設計されていた。対テロ戦争とは自然発生的な安全保障上の対応ではなく、長期的に構想された戦略プログラムであるという視点だ。

クラーク将軍が7カ国計画を証言するインタビュー映像

「これは陰謀論ではないか」という疑問は当然あるだろう。しかしファン・デル・ペイルが依拠しているのは、公開された会議記録、当事者の証言、そして検証可能な政策文書である。秘密の地下室で練られた陰謀ではなく、公然と議論された戦略構想であるという点は、区別する必要がある。

2. 1991年以降、欧州はなぜ「不要」になったのか

欧州はもはやソ連の脅威を止める必要がないため、大西洋関係における役割を失った。その座をシオニストの接続が占めた

— キース・ファン・デル・ペイル

冷戦期、欧州はアメリカにとって不可欠な存在だった。ソ連に対する地理的緩衝地帯であり、NATOという軍事同盟の物理的基盤だった。ジャン・モネ(Jean Monnet)らが構想した欧州統合は、大西洋を挟んだ対等なパートナーシップとして機能していた。少なくとも表面上は。

1991年のソ連崩壊が、この方程式を根本から変えた。ファン・デル・ペイルの分析では、欧州の戦略的価値は急落し、大西洋関係の中核はワシントンとテルアビブを結ぶ軸へと移行した。彼はこれを「ユーロ・アトランティック」から「アトランティック・シオニスト」への構造転換と呼ぶ。

NATOの東方拡大を示す時系列地図

この転換を可能にしたのは、90年代に進行したイスラエル系IT企業の米国への大規模進出だった。詳細は次のセクションで述べるが、情報技術を通じた米国の公共部門と軍事部門への浸透が、政治的・戦略的な影響力の基盤となった。

欧州が最後に独自の意志を示したのは2003年だった。イラク侵攻に対し、フランスのシラク大統領とベルギーが反対を表明した。ロシアのプーチン、中国、ブラジルも抗議に加わった。しかしこれが「欧州の抵抗の最終幕」だったとファン・デル・ペイルは見る。以後、欧州の指導層は急速に「戯画化」した。彼が引き合いに出すのは、EUの外交安全保障上級代表カヤ・カラス(Kaja Kallas)である。笑うべきではなく、むしろその人選自体が欧州の国際的地位の低下を映し出していると彼は指摘する。

この構造は日本の読者にとって他人事ではない。冷戦期、日本は「対ソ封じ込め」の極東における要石だった。現在は「対中封じ込め」の前線として機能している。しかし自律的な外交的地位という観点で見れば、欧州と同型の従属構造に組み込まれている。ノルドストリーム・パイプラインの破壊が欧州のエネルギー自立を絶ったように、ホルムズ海峡の危機は日本のエネルギー自立を脅かす。「同盟国」であることが、帝国の戦略に伴うコストの負担者にされることと同義になる構造である。

欧州はイラン戦争における最大のエネルギーコスト負担者になるとファン・デル・ペイルは予測する。しかし日本もまた、イランが「友好国」に含めなかった国として、同じリスクを共有している。

3. 90年代に完成した三角形——情報・メディア・ITと資本主義の方向

現代の資本主義を方向づけているのは、情報機関・メディア・IT産業の三角形だ

— キース・ファン・デル・ペイル

1950年代、資本主義の方向を定めていたのは自動車・鉄鋼・家電といった大量生産工業だった。フォードやGMが経済の中心にあり、その成長が社会全体の形を規定した。ファン・デル・ペイルは、それと同じ「指導的分派」としての役割を、現在は情報機関・メディア・IT産業の三角形が担っていると論じる。

その結節点として彼が挙げるのが、In-Q-Tel(インキューテル)である。CIAが1999年に設立したベンチャーキャピタルで、目的は情報機関が常に最先端技術にアクセスできる体制を確保することだった。設立の中心人物はアルヴィン・クロンガード(Alvin Krongard)。CIA第三位の幹部であると同時に、有力な投資銀行家でもあった人物だ。

https://markosun.wordpress.com/2016/11/18/c-i-a-s-venture-capital-arm-in-q-tel/

ファン・デル・ペイルによれば、In-Q-Telはイスラエル軍の精鋭情報部隊「Unit 8200」との合弁として機能した。Unit 8200はイスラエルの信号諜報(通信傍受・暗号解読)を担う部隊であり、同時にイスラエルのハイテク産業の人材供給源でもある。この部隊出身者が設立した企業群が、90年代から2000年代にかけて米国の公共サービスや軍事システムにソフトウェアを提供した。

問題の核心は、これらのソフトウェアにバックドア(裏口)が組み込まれていた可能性である。公共インフラの深部に食い込んだ情報技術を通じて、情報機関が「見えない占領」とも呼べる状態を構築したとファン・デル・ペイルは論じる。調査ジャーナリストのホイットニー・ウェブ(Whitney Webb)は著書『One Nation Under Blackmail(脅迫に支配される国家)』(2022年)で、この情報機関=テック産業複合体の系譜を詳細に追跡している。

対談相手のモリッチも、ブレンダン・オコネル(Brendan O'Connell)というジャーナリストがこの問題を17年間追跡してきたことに言及している。Unit 8200出身の企業群が世界のソフトウェアと電子的な要衝(チョークポイント)をどこまで掌握しているかという問題だ。

この構造は日本にとっても無縁ではない。日本のデジタルインフラは、この三角形から派生した米国系テクノロジーに深く依存している。マイナンバー制度やデジタル庁の構築が、どのような技術的基盤の上に成り立っているかを問うことは、認識の自律性を守るための基本的な作業である。

4. 9000万人の国を爆撃で屈服させることはできない

反体制派がどれだけ存在しようと、その国が攻撃されれば、人々は祖国を守るために団結する

— キース・ファン・デル・ペイル

ファン・デル・ペイルは、イランが軍事的に屈服しない理由を複数の次元で説明する。第一に、9000万人という人口規模。イラク(侵攻時約2500万人)やリビア(約600万人)とは桁が違う。地上の構造物の多くは破壊されるだろうが、この規模の国家を空爆だけで降伏させることは歴史的にも前例がない。

第二に、イランの自主的なミサイル生産能力である。ファン・デル・ペイルが言及する最新の極超音速ミサイルはマッハ15(時速約1万8000キロ)で飛翔し、不規則な軌道変更を行う。迎撃システムが着弾点を予測できない。ペルシャ湾岸側にあった米軍のレーダー施設が破壊されたことで、イスラエルの防空能力はさらに低下した。イスラエルは事実上「盲目」の状態にあるとファン・デル・ペイルは表現する。

イランの極超音速ミサイル発射実験映像

第三に、具体的な軍事的成果が出ている。ディモナ核研究施設への直撃、テルアビブとベングリオン空港への被害が報告されている。対談時点では、ネタニヤフ首相をはじめ複数のイスラエル高官の安否が確認できないとされた。AI生成とみられる演説映像で「手の指が6本」あったという不気味なエピソードも語られた。ただしこれらは対談時点でのSNS上の未確認情報であり、確定した事実ではない。

第四に、「旗の下への結集」効果である。外部から攻撃された国では、国内の反体制派も政府を支持する方向に動く。1999年のユーゴスラヴィアでは、ミロシェヴィッチ政権に対する強い国内反対派が存在していたが、NATOの空爆が始まると反対派は祖国防衛のために政権を支持した。同じ構造がイランでも起きているとファン・デル・ペイルは指摘する。イラン国内の反政府デモ参加者たちが、爆撃開始後に政権支持に転じた。

https://x.com/Tasnimarabic/status/2033925489765560518

イランの要求は最大主義的である。米軍の中東からの完全撤退、5000億ドル(約75兆円)の賠償、そしてアラビア半島南半部の勢力圏確保を通じたイエメンのフーシ派との陸路連結。ファン・デル・ペイルは、この要求の強硬さ自体が、イランが降伏する意思を持っていないことの証左だと見る。

米国のリンジー・グラハム上院議員が「イランが始めた」と1980年代に言及を遡らせたことに対し、モリッチは「1953年のモサデグ政権転覆まで遡るべきだ」と反論した。ファン・デル・ペイルも同意する。民族主義的で民主的なモサデグ政権を米英が転覆させ、パフラヴィー朝の独裁を据え、その反動としてイスラム革命が起き、その反動として現在の体制がある。「常に前の極端への反動」という振り子が、70年以上にわたって揺れ続けている。

1956年8月4日、反逆罪の容疑で3年間の収監を経て、テヘラン北部のガッサー兵舎から釈放されたモサデク(左)[写真:AP]

5. オーウェルの洞察——戦争の目的は敵の征服ではなく自国社会の統制

もしこの人工的な恐怖が人々を従わせられないなら、本物の戦争が選択肢になる

— キース・ファン・デル・ペイル

ジョージ・オーウェルは『1984年』で、戦争の目的が敵国の征服ではなく自国社会の統制にあるという逆説を描いた。ファン・デル・ペイルはこの認識をCOVIDからイラン戦争への連続性に適用する。

彼の推論はこうだ。パンデミック期に構築された恐怖管理の体制は、一定の効果を上げた。しかし「人工的に生成された恐怖キャンペーン」には限界がある。インフルエンサーや専門家に「異国の物語」を紡がせ続けなければならないからだ。これに対して、本物の戦争は嘘をつく必要がない。ミサイルが飛んでくれば、恐怖は自然に発生する。核兵器の使用可能性が語られれば、誰もが身構える。

モリッチは対談中に具体的な事例を挙げた。ベトナム、タイ、デンマーク、英国が国民に在宅勤務やエネルギー配給を指示し始めている。ニュージーランドではエネルギー危機を受けて電気自動車の購入が急増した。Financial Timesは「ニューノーマル」という言葉を使い始めた。5年前、この言葉がどのような文脈で使われたか、覚えている読者は少なくないだろう。

ここに一つのパターンが浮かび上がる。「危機→統制→新常態」の反復である。

パンデミックでは、ウイルスの恐怖→行動制限→「ニューノーマル」(マスク、リモートワーク、ワクチンパスポート)

米イラン戦争では、戦争の恐怖→エネルギー配給→「ニューノーマル」(EV移行、デジタル管理、移動制限)。

モリッチはこの並行構造を「まさに5年前に起きたことそのものだ」と指摘した。「エンジニアード・クライシス(意図的に設計された危機)」という言葉が、今度は感染症ではなくエネルギーの文脈で再登場している。Financial Timesが「ニューノーマル」と書いた瞬間、多くの読者の脳裏にCOVID期の記憶が蘇ったはずだ。

しかし話はここで終わらない。モリッチはさらに踏み込む。この危機を通じてデジタル統制システムへの移行が加速されているのではないか、と。彼は自身が住むメキシコの事例を挙げた。携帯電話の登録義務化、生体認証、国民デジタルID、移動の管理、金融取引の追跡——イランでも、米国でも、同じシステムが導入されている。つまり表面上は敵対している国々が、自国民に対しては同型の技術的統制インフラを構築しているのだ。

この観察は不気味な問いを投げかける。国家間の軍事衝突と、各国内でのデジタル管理体制の構築は、矛盾するのではなく相互に強化しあっているのではないか。危機が統制を正当化し、統制がさらなる危機への「備え」として恒常化する。危機の内容は変わるが、統制の方向は収斂する。デジタル管理システムへの依存を深め、個人の自律的行動の範囲を狭める方向だ。

日本の読者にとって、この既視感は具体的である。COVID期の「ニューノーマル」言説、緊急事態宣言、行動制限の記憶はまだ新しい。そしてエネルギー価格の上昇は、すでに日常の買い物のたびに実感される現実だ。問題は、この「危機→統制」の回路が、意図的に設計されているのか、それとも構造的な帰結なのかという点にある。おそらく両方だ。権力の上位設計層において構造に意図を重ね合わせることは常套手段だ。

6. 20%の覚醒した層は、60%の中間層を動かせるか

オランダでかつて数十万人を街頭に動員した平和運動は、もはや存在しない。その社会が消滅したからだ

— キース・ファン・デル・ペイル

ファン・デル・ペイルは社会を三つの層に分ける。上位20%はグローバルパワーエリートの立場を積極的に支持する層——専門家、技術者、管理職など、現行システムから高い報酬を得ている人々。下位20%は構造的な問題を認識し、抵抗する意志を持つ層。そして中間の60%は、自分の生活を維持することに精一杯で、どちらにも積極的には傾かない層だ。

この三層モデルで言えば、政治的闘争の本質はつねに中間60%の争奪戦である。この60%がエリート層の物語を受け入れれば体制は安定する。逆に抵抗的20%の主張に耳を傾け始めれば、変化の可能性が開ける。

1980年代初頭のオランダでは、NATOの新戦略に反対する平和運動が数十万人を街頭に動員した。それは組織された労働者階級が存在し、共通の言語と歴史を持つ社会だったから可能だった。ファン・デル・ペイルが痛恨の思いで語るのは、その社会的基盤がもはや存在しないという事実である。

1980年代オランダの反核平和運動の写真

何が基盤を破壊したのか。脱工業化による労働者階級の組織力の喪失。産業のアジア移転。そして——ファン・デル・ペイルが慎重に、しかし率直に語る——移民政策による社会的凝集力の希釈だ。彼自身が「元共産主義者として国際主義の理想を手放したくない」と留保していることは、ここで書き添える必要がある。彼の論点は排外主義ではない。支配階級が意図的に社会の凝集力を解体する手段として移民を道具化しているという構造的分析である。共通の言語も歴史も持たない人々の間では、組織的な抵抗は極めて困難になる。

もう一つの障壁がある。「インターネット戦士」問題だ。オンラインでの署名や抗議投稿が、街頭行動の代替として機能してしまう構造。クリックで完了する「抵抗」は、心理的な満足感を与える一方で、権力構造に対する実質的な圧力にはならない。スラクティヴィズム(slacktivism:怠惰な行動主義)という言葉が、この現象を的確に捉えている。

日本においてこの構造は、さらに顕著だ。組織された労働組合はほぼ機能停止し、平和運動の社会的基盤は縮小を続けている。SNS上の「いいね」や拡散が行動の代替となり、街頭に出る動機を吸収する。

しかしファン・デル・ペイルは希望も語る。中間60%を動かす条件は、抽象的な政治理念ではなく、生活の直接的な苦痛だという。エネルギー価格の高騰、生活水準の目に見える低下——それが60%の層を「話を聞いてみようか」という姿勢に転じさせる契機になりうる。そしてアフリカのサヘル地域(マリ、ブルキナファソ、ニジェール)やセネガルが、外国企業の資産を国有化し、自立への道を歩み始めている事実を、彼は対比的に提示する。世界のすべての場所で抵抗が消えたわけではないのだ。

勝利なき戦争の目的は何か

現代の戦争は敵を倒し、その領土を征服するためではなく、社会を統制し、既存の秩序を維持するために行われる

— ジョージ・オーウェル(ファン・デル・ペイルが引用した趣旨)

パリの学術会議でBRICSの役割を議論した際、あるポーランド人研究者がこう述べた。「アメリカは長期的には衰退しているが、短期的にはなお非常に強力だ。それが現在の状況をこれほど危険にしている」。ファン・デル・ペイルは、この認識を引き継いだ。

衰退する帝国の最も危険な瞬間を、今われわれは生きている。米イスラエル連合はイランに軍事的に「勝つ」ことはできない。9000万人の国を占領する地上兵力はなく、極超音速ミサイルへの有効な防御手段もない。他方、イランもイスラエルを消滅させる意思も能力も(核兵器を除けば)持っていない。そして米国には、「戦争に勝つこと」よりも「戦争状態を維持すること」に構造的な利益がある。

オーウェルが『1984年』で描いた永久戦争の機能は、まさにここにある。戦争は敵を打倒するためではなく、自国の社会秩序を維持するために遂行される。エネルギー危機を通じた経済的従属の深化、恐怖による合意の調達、批判者の「非国民」化。これらはすべて、戦争状態が持続することで自動的に供給される。

この逆説に気づくことが、恐怖の管理から一歩離れるための出発点になる。戦争が「勝利」を目指していないと認識した瞬間、「いつ終わるのか」という問いは「なぜ終わらせないのか」に変わる。そして「なぜ終わらせないのか」を問い始めたとき、われわれは中間60%から一歩踏み出している。

ファン・デル・ペイルの三層モデルに立ち返れば、抵抗の条件は「正しい理論」を持つことではない。生活の苦痛が認識の転換を強制する瞬間を、どう組織化するかだ。正面衝突でも完全な離脱でもなく、既存システムの横に、自律的なネットワークを一つずつ構築していくこと。分散型の知識インフラ、相互扶助の回路、情報の独立した流通経路——そうした実践の積み重ねだけが、恐怖を通じた統治の回路を迂回する手段となる。

ホルムズ海峡の「友好国リスト」に日本の名前がないという事実は、日本がこの戦争の構造的な当事者であることを意味している。エネルギー価格の上昇を嘆くだけでなく、なぜその上昇が起きているのか、誰がその構造から利益を得ているのか。そこに目を向けることが、「勝利なき戦争」の外側に立つための第一歩である。

🔗 対談元リンク:Geopolitics & Empire — Kees van der Pijl

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