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田舎物件・農地付き家屋を自分で評価する:危機適応視点からの一次評価 移住ガイド②

土地は読み解くものだ。買うものではない。

— セップ・ホルツァー(Sepp Holzer)、オーストリアの農夫・パーマカルチャー実践家

水は最初に見るべきものだ。水なくして何も成り立たない。

— ベン・ファルク(Ben Falk)、サイト・アセスメント研究者

はじめに

第一稿で判断軸を転倒させた。スーパー徒歩圏ではなく井戸の有無を、主要道路への近さではなく小流域内の位置を見るべきだ、と。では、実際に物件サイトで気になる物件を見つけ、現地を訪れたとき、何を確認すればいいのか。

不動産業者は「水道完備」「南向き」「農地付き」と説明する。しかし、その水道は元の井戸を埋めた上にあるかもしれない。南向きは夏の日射過多を意味するかもしれない。農地は二十年放置で表土が流亡しているかもしれない。書類と看板の言葉と、土地と建物の実際の姿の間には、いつも距離がある。

本稿は、その距離を埋めるための観察手順を扱う。水・土・地形・建物・法的状況の五領域を順に見て、当事者自身が現場で何を読み取るかを具体化する。長靴を履き、地図を持ち、メジャーとシャベルとペンを手にして土地に立つ。一回の内見で完璧を求めず、四季を通じて重ねて見る。観察と購入は別の技能であり、観察を蓄積した上で購入判断をするという方法論そのものが、本稿の核である。

主要参照文献――現場で何を見るかを教える文献群

本稿は実務記事であり、文献は「現場で何を見るか」を教えてくれるものに絞った。第一稿で挙げた思想系文献は本稿では深追いせず、サイト評価と日本固有の制度実務に関わる文献を中心に置く。

サイト評価実務

  • ベン・ファルク『回復力のある農場と暮らし』(原題:The Resilient Farm and Homestead、2013年)――冷温帯気候下のサイト評価、水文管理、ゾーニング設計

  • ビル・モリソン(Bill Mollison)『パーマカルチャー:デザイナーズ・マニュアル』(原題:Permaculture:A Designers' Manual、1988年)――サイト評価の古典、ゾーン分析とセクター分析

  • セップ・ホルツァー『セップ・ホルツァーのパーマカルチャー』(原題:Sepp Holzer's Permaculture、2010年)――山岳・斜面地での実践、日本の中山間地に近接

  • エリオット・コールマン『ニュー・オーガニック・グロウワー』(原題:The New Organic Grower、最新版2018年)――土壌・水・日射の農的視点

  • ジョン・シーモア(John Seymour)『自給自足の生活とその方法』(原題:The Self-Sufficient Life and How to Live It、最新版2009年)――土地・建物の家計自給観点

水文・土壌の補助文献

  • ブラッド・ランカスター(Brad Lancaster)『乾燥地とその先のための雨水収穫』(原題:Rainwater Harvesting for Drylands and Beyond、2013年)――雨水・地表水管理の実務

  • ニーゲル・パーマー(Nigel Palmer)『有機栽培者の土壌改良剤マニュアル』(原題:The Regenerative Grower's Guide to Garden Amendments、2020年)――土壌診断と改良の実務

日本での実践と制度

  • 四井真治『地球に暮らす、地球と暮らす――パーマカルチャーで自給自足する』(2014年)

ホルツァーの実践拠点クラメーターホーフの斜面地農場

第一稿で示した『石油備蓄8ヶ月 vs 肥料備蓄ゼロ:ホルムズ封鎖が暴いた食料安全保障の致命的断層』の構造分析は、本稿の土壌評価の前提となる。市場で肥料が安定供給される時代の土壌評価と、その前提が崩れた時代の土壌評価は、同じ作業ではない。

1.井戸・湧水・小川――現場で水を読む

水を制する者が土地を制する。

— 乾燥地農学の格言

一言で言えば、水は最優先項目であり、他のすべてに先立って評価する。建物が傷んでいれば直せる。土壌が痩せていれば改良できる。しかし水のない土地に水を呼ぶのは、構造的に困難である。

地表水と地下水の両面で見る。井戸の有無、湧水点、敷地内または敷地に接する小川や沢、近隣の水場。井戸があれば種類を確認する。

打ち抜き井戸(鉄管を地中に打ち込んで作る浅い井戸)、掘り抜き井戸(人力で掘り下げて石組みなどで囲った伝統的井戸)、深井戸(電動ポンプで深層から汲み上げる近代的井戸)。それぞれ水質、水量、停電時の運用可能性が異なる。

決定的なのは「停電時に汲めるか」である。電動ポンプ専用の深井戸は、停電すれば即座に止まる。手押しポンプ併設、もしくは釣瓶やバケツで物理的に汲み上げられる構造の井戸は、危機適応視点では別格の価値を持つ。たとえるなら、深井戸は電気自動車、手押しポンプ併設は燃料切れでも押して動かせる電動アシスト自転車のような違いだ。

日本の手押しポンプ

井戸の現役性を確認する手順は次のとおりである。

  • 井戸蓋を開けて水位を目視する。釣瓶やバケツで一杯汲んでみる

  • 冬季と夏季の両方で水位変動を確認する。井戸は季節変動が大きい

  • 近隣の井戸利用者に話を聞く。涸れた経験、水量の傾向、水質の特徴

  • 簡易キット(pH、硝酸態窒素、大腸菌)で一次評価し、本格検査は外注する

上流汚染源の確認は、登記簿の地目変遷、古地図、ハザードマップ、現地踏査の四段階で行う。半径数キロメートル以内に畜舎、産廃処分場、農薬集約地、廃鉱山、ゴルフ場、大規模太陽光発電施設がないか。これらの存在は地下水と地表水の両方に影響する。とりわけ廃鉱山は重金属汚染、ゴルフ場は農薬・除草剤の蓄積を疑う。

湧水は冬季に調査する。夏季に涸れる湧水と冬季に出る湧水があるからだ。冷気の流れと併せて観察すれば、湧水点が冷気の停滞域と重なる場合の晩霜害リスクも見える。

水利権という論点も外せない。新規移住者がもっとも見落とす点である。農業用水路の維持管理組合(水利組合)への加入義務、井戸利用に関する近隣との慣習、地下水の自由使用の限界。これらは登記簿には現れない。集落の長老や水利組合長への聞き取りで把握するしかない。井戸を所有しているからといって自由に使えるとは限らない。共同水源の場合、利用順序や水量配分の慣行が存在する。

2.耕作放棄地は何を語っているか

土壌は六インチ(約十五センチメートル)の表土と、それを失えば文明が終わる。

— FDR時代の格言

一言で言えば、見た目が同じ放棄地でも、再生に三年で済む土地と十年かかる土地がある。雑草に覆われた土地を「自然のまま残された土地」と読むか、「大量の除草剤を浴びせられた土地」と読むかで、購入後の数年が大きく変わる。

土壌の状態は表面ではほとんど判断できない。確認すべき項目は重層的である。除草剤・農薬残留、土壌流亡、酸性化、養分枯渇、放射性物質や重金属の蓄積、地下水位の変動、過去の利用履歴(果樹園、水田、畑、放牧地)。

簡易検査で当事者が確認できる範囲は限られている。

  • pH試験紙またはデジタルメーター。日本の畑作地は酸性化していることが多い

  • 簡易EC計(電気伝導度計)。塩類集積(化学肥料の蓄積)の指標

  • 有機物含量の目視評価。黒褐色で粒状構造があれば良好、灰色や黄色みが強ければ枯渇

  • 礫・砂・粘土の手触り判定。手のひらで握って固まれば粘土、ぱらぱら崩れれば砂、適度にまとまればローム(粘土と砂が混ざった栽培に適した土)

専用キット不要でできる土壌検査

過去の利用履歴は、登記簿の地目変遷、古地図、近隣住民への聞き取り、そして敷地内の植生から読む。植生指標は意外に雄弁だ。スギナが繁茂していれば酸性傾向、ハコベが多ければ肥沃、ススキが優勢なら痩せ地で乾燥気味、ヨモギ・カラスノエンドウは中庸の肥沃度を示す。

ここで核心となるのは、シリーズで論じてきた前提である。市場で肥料が安定供給される前提が崩れた状況下では、土壌評価の中心軸そのものが変わる。化学肥料を投入すれば何でも育つ、という前提に立った土壌評価は、危機適応視点では機能しない。

つまり、評価の問いは「化学肥料を入れた時に収量が出るか」ではなく、「外部投入なしに、どこまで自前再生できるか」になる。緑肥(豆科作物などを作付けて地力を上げる)、被覆作物(土を裸にせず雑草を抑える作物)、コンポスト、堆肥、灰、これらを敷地内および集落内で循環させられる余地を評価する。

土壌は事後改善可能な項目だが、再生には時間がかかる。最低三年、場合によっては五年から十年を要する。これは購入後すぐに収量を求めるのではなく、長期的に育てていく対象として土地を見る視点を要請する。

「素人に土壌の良し悪しが分かるのか」という反応はもっともである。簡易診断で得られる情報の範囲は限定的で、農薬残留や重金属汚染の精密検査は外注以外にない。

三段階アプローチが妥当だろう。当事者の簡易診断で第一次篩い分け、購入前の本格診断(土壌分析センターで数千円から数万円)で意思決定、購入後の継続観察で再生計画を組む。耕作放棄地の再生実務については、これまで紹介してきたno-dig(不耕起)や緑肥輪作の手法が直接役立つ。

3.小流域内の位置・傾斜方向・冷気の溜まり場

土地の形は土地の運命だ。

— 地形学の格言

一言で言えば、地形を読めば災害リスクと農的可能性の両方が見える。同じ集落の中でも、尾根筋の物件と谷筋の物件では水文・微気候・災害リスクのすべてが異なる。

第一稿で示した小流域内の位置取りを、本稿ではもう一段具体化する。最上流域なら水質と水量の自律性は高いが、冷気が溜まりやすく晩霜害が遅くまで残る。中流域は栽培条件が比較的穏やかだが、上流の汚染と下流の集約のあいだに置かれる。下流域は集水量が多く農地に向くが、洪水リスクと上流からの流入物を引き受ける。

小流域内の位置と微気候の関係を示す断面図

傾斜方向と傾斜角は、住宅の燃料消費と農作物の収量に直結する。

  • 南向き斜面:日射量が最大、冬の暖房負荷が小さい。ただし夏の日射過多と乾燥にも注意

  • 西向き斜面:午後の強い日射、夏の冷房負荷が大きい。家屋には不利

  • 東向き斜面:午前の柔らかい日射、夏は涼しい。葉物野菜に向く

  • 北向き斜面:日射量が少ない、冬の暖房負荷が大きい。家屋には不利だが森林・キノコには有利

  • 傾斜角:緩やかな斜面(五度から十度程度)は排水と日射の両方が良好。急斜面は土砂崩れリスク

微気候の観察は、現地に四季を通じて立つことで初めて見える。冷気の溜まる窪地は晩霜害が起きやすく、早春の野菜が損害を受ける。霜が遅くまで残る斜面は地温が上がりにくく、生育が遅れる。夏の風通しが悪い谷筋は湿気がこもり、家屋の腐朽が進む。冬の北西風が直接当たる斜面は暖房負荷が跳ね上がる。

ハザードマップと現地観察の重ね合わせも忘れてはならない。土砂災害警戒区域、特別警戒区域、洪水浸水想定区域、急傾斜地崩壊危険区域。これらが重なる場所は、危機適応視点というより通常の安全基準で除外対象である。

しかし、ハザードマップは想定降雨量に依拠した行政の計算結果であり、想定外の事象には対応しない。補完するのが地名と古地図である。「沢」「谷」「津」「潟」「池」「田」「原」――これらの地名は、その土地の地形と災害履歴の記録媒体だ。津波到達点に「津」地名が残り、土砂災害多発地に「沢」「谷」地名が残る。明治期の古地図と現代地図を重ねれば、川の流れが変わった場所、田が宅地化された場所、池が埋め立てられた場所が見える。

具体的な観察ツールとしては、国土地理院の地形図(特に色別標高図と傾斜量図)、登山地図アプリ(YAMAP、ヤマレコなど)、今昔マップon the webなどが実用的だ。雨後の現地観察は、水がどこに溜まりどこに流れるかを直接教えてくれる。早朝、特に冬季の夜明け前に現地を歩けば、冷気の停滞域が体感できる。

「ハザードマップで安全とされていれば大丈夫では」と思いがちだが、額面通りには受け取れない。地名と古地図による補完が、行政情報の限界を埋める。

4.古民家の構造体・基礎・屋根――何を素人が見て、何を専門家に任せるか

古い家は語る。耳を傾ける者にだけ。

— 民家研究家の言葉

一言で言えば、構造判定(耐震性、傾き、腐朽)は最終的に建築士の外注前提だが、当事者でも一次的に確認できる兆候は多い。一次評価が外注の質と費用を左右する。

古民家評価の主要点検項目は領域ごとに整理できる。

  • 構造体(柱、梁、土台、軒桁):材の状態、継手の健全性、腐朽の有無

  • 屋根:茅葺、瓦、トタンの種類別評価。瓦のずれや欠け、棟の歪み

  • 外壁:土壁、板張り、モルタル。クラックや剥離

  • 床下:シロアリの蟻道、湿気、土台の腐朽

  • 小屋裏:雨漏り跡、構造材の状態

  • 水回り:給排水管の老朽度、配管の取り回し

当事者一次評価の手順は具体的である。床下点検口から覗いて土台の腐朽とシロアリの蟻道を見る。天井裏点検口から覗いて雨漏り跡と構造材の状態を見る。建物の傾きは水準器、ビー玉転がし、ドアの開閉具合で確認する。基礎は石場建てなら石の状態、布基礎ならクラックと欠損を見る。

https://www.crea-home.jp/blog/column/192494

ここで本稿独自の論点を提示する。「住める家」と「自律可能な家」は別の概念である。前者は雨漏り・耐震性で評価される一般的な住居評価軸、後者は燃料・水・食料の自前確保可能性で評価される危機適応視点の評価軸だ。

自律可能な家として見るとき、確認項目はこうなる。

  • 薪ストーブまたは薪風呂の設置可能性。煙突跡、土間、囲炉裏跡があれば加点

  • 井戸との位置関係。屋内引き込みの可否

  • 母屋以外の付属建物。蔵、納屋、作業小屋、便所、風呂小屋、鶏舎跡、堆肥舎跡

  • 敷地内の樹木。果樹(柿、梅、栗、無花果など)、薪用樹種(クヌギ、ナラ、サクラなど)

  • 敷地内の栽培履歴。果樹の樹齢、菜園区画の痕跡

付属建物は隠れた資産だ。蔵や納屋は加工・保存・収納の場として再生可能で、新築するより遥かに安く、しかも構造が頑丈な場合が多い。鶏舎跡や堆肥舎跡があれば、過去にその地でその実践が成立した証拠であり、再開のハードルが下がる。

敷地内の樹木は、すでに育っている資源である。とくに果樹は植えてから収穫まで十年単位の時間を要するため、樹齢二十年の柿や梅がある物件は、その分だけ時間を節約できることになる。クヌギやナラの株があれば、薪炭林として再生する余地がある。

電気依存からの離脱可能性も評価する。プロパンガス、薪、太陽光、太陽熱温水、雨水利用への改修余地。新築や大規模改修ではなく、既存建物の構造を活かした漸進的改修を志向する読者を想定したい。一気に完成形を作るのではなく、可能なところから改修していく。

外注すべき項目は、耐震診断、シロアリ被害の精密検査、屋根の構造的健全性、給排水管の漏水検査である。費用感は数万円から数十万円、物件価格と対比して判断する。

「古民家は維持費がかかりすぎる」という不安はもっともである。しかし全面リフォームではなく、漸進的改修と自前作業可能範囲の拡張、付属建物の活用で対応可能なケースも多い。維持費の問題は「家のサイズ」と「自分でやる範囲」の二軸で大きく変わる。

5.農地法・水利権・入会権――登記に現れない慣習的権利

契約は書面に書かれていることだけではない。書かれていないことのほうが多い。

— 民法実務家の格言

一言で言えば、書類で確認できる範囲と確認できない範囲を明確に区別することが、移住後の紛争を防ぐ。

登記書類は基本中の基本である。法務局・自治体・農業委員会で取得できる。

  • 登記簿(土地・建物):所有者、地目、面積、過去の所有者変遷

  • 公図:土地の形状と位置関係

  • 地積測量図:境界線の位置

  • 固定資産税評価証明:評価額と地目

  • 農地基本台帳:農業委員会で確認、農地法の適用関係

確認すべき具体項目は、境界の確定状況、隣地との越境、地役権、私道負担、共有状態、未登記建物などである。境界が不明確な場合は土地家屋調査士に依頼するが、購入前に売主負担で確定させるのが筋である。

農地は普通の土地と扱いが違う。農地法という別系統の制約が乗る。

つまり、農地を買うには農業委員会の許可が要る。農地法三条が農地の権利移動、四条が自己農地の転用、五条が権利移動を伴う転用を扱う。許可基準は地域により異なる。下限面積要件(一定面積以上を耕作することが取得の条件)も自治体によって違い、50アール(5,000m²)以下に緩和されている地域もあれば、空き家バンク経由で要件が事実上緩和される地域もある。

農地転用許可手続きの流れ 神奈川県

農業振興地域・農用地区域に指定されている農地は、転用がさらに厳しい。「農地付き古民家」と謳われていても、その農地が農用地区域内であれば、自由には使えないことになる。

ここからが核心である。慣習的権利は登記には現れない。集落の口伝で維持されている。具体的には次のような権利と義務が並存する。

  • 水利権:農業用水路の維持管理組合(水利組合)への加入義務、賦課金、年数回の共同作業(江浚い、水路掃除)

  • 入会権:共有林・共有地の利用慣行。薪・山菜・木材の採取権

  • 林野の慣習的利用権:薪炭山の慣行

  • 神社・寺の祭礼への参加義務:実質的な金銭・労務負担を伴う

これらを集落の長老や自治会長への聞き取りで把握しなければ、移住後に「聞いていない」と言うことになる。事前確認の手順は具体的だ。

  • 自治会長を訪ねて自治会・町内会の組織と賦課金を聞く

  • 水利組合の有無、加入条件、賦課金、共同作業義務を確認する

  • 入会権・林野慣習利用権の有無を集落の長老に聞く

  • 神社の氏子範囲と祭礼への参加期待を確認する

空き家バンクと一般不動産仲介の違いも整理しておきたい。空き家バンクは自治体が運営する物件情報集約システムで、移住者向け補助金と紐付くことが多い。利点は物件価格が安く、自治体が一定の介在をしてくれること。欠点は情報量が限定的で、専門業者が介在しないため買主の自己責任が大きく、用途指定や転売制限が付帯する場合があること。

主流ガイドが暗黙に前提する「自由に使える土地」「自由に使える建物」という観念は、慣習的権利が機能している集落では成立しない。これは負担として扱うこともできるが、別の見方も可能である。

並行社会論の観点から見れば、慣習的権利は集落自治の証拠であり、それ自体が並行的な秩序として機能している。新規参入者は慣習に従うことで集落自治に組み込まれていく。「慣習的権利は時代遅れでは」という反応は、これらを集落自治の機能として再評価する視点と対立する。この論点は第三稿で詳述する。

『これは「衰退」ではなく「崩壊」だ――ハドソンが読む食料危機と日本の最脆弱性』で論じた市場経済前提の構造的破綻は、農地法・農業委員会制度のような戦後的な制度設計とも無関係ではない。市場経済が機能している前提で組まれた制度は、その前提が揺らげば別の意味を帯びはじめる。

6.優先順位――水と地形が最優先、土壌と建物は事後改善余地あり

急いで買う者は、長く後悔する。

— 不動産取引の格言

一言で言えば、物件評価は一回の内見では完結しない。最低三回、できれば四季を通じての訪問が必要である。

理由は単純で、物件と土地は季節によって違う顔を見せるからだ。冬至前後の日射の南限、梅雨期の排水状況、台風後の被害履歴、夏至前後の日射過多、これらは別々の季節にしか観察できない。

季節別の観察項目を整理する。

  • 冬至前後:日射の南限、冷気の溜まり、暖房負荷、凍結

  • 春(早春から遅霜期):晩霜害の有無、湧水量、雪解け水の流れ

  • 梅雨期:排水状況、雨漏り、湿気、水路の挙動

  • 夏至前後:日射過多、風通し、冷房負荷、夏野菜の生育条件

  • 台風期:風の通り道、被害履歴、避難経路

  • 冬期降雪期:積雪状況、除雪負担、屋根荷重

ここで読者の負担感に応える優先順位の階層を提示しておきたい。本稿で挙げた項目をすべて完璧に確認しないと買えない、と読まれては本意ではない。階層化することで、限られた時間と資源を最重要項目に振り向けることが可能になる。

第一階層(事前確認必須・改善困難):

  • 水(井戸の有無、水質、水利権)

  • 地形(土砂災害・洪水リスク、小流域内位置)

  • 法的状況(登記、農地法、慣習的権利)

第二階層(事前確認推奨・購入後改善可能):

  • 土壌(簡易診断で篩い分け、本格診断で意思決定)

  • 建物(漸進的改修で対応)

  • 微気候への適応

第三階層(購入後の継続観察項目):

  • 植生

  • 近隣関係

  • 季節変動

具体的な観察計画は、たとえば次のように組める。

  • 第一回(春・初夏):基本確認、書類取得、近隣挨拶、自治会長・水利組合長への訪問

  • 第二回(梅雨期または夏):排水・湿気・日射過多、雨漏り

  • 第三回(秋・冬):日射量、暖房負荷、積雪、冷気の流れ

  • 第四回(必要に応じて):建築士・土地家屋調査士・水質検査業者の同行

専門家外注の判断基準も整理しておく。建築士は耐震診断と構造評価、土地家屋調査士は境界確定、司法書士は登記、土壌診断業者は土壌分析、水質検査業者は水質精密検査。費用感は十万円から五十万円程度を目安に、物件価格との対比で判断する。

「そんなに時間をかけられない」という反応はもっともだ。ここで第一稿で予告した複数戦略が効いてくる。賃貸物件の併用、二地域居住、お試し移住制度、いずれも時間軸を伸ばす手段である。一回きりの不可逆な決断として購入を扱うのではなく、判断材料を段階的に蓄積していく構えが、危機適応的にも合理的だろう。

外注の前に当事者一次評価を行うこと、これが最終的に外注の質を決定する。建築士に「全部見てください」と丸投げするのと、「ここの土台の腐朽が気になる、この梁の歪みを確認してほしい」と具体的に依頼するのとでは、結果がまったく違う。

近隣住民への挨拶と聞き取りは、法的状況の確認以上に重要である。「どんな人が住んでいたか」「どんな水の使い方をしていたか」「集落で何が問題になっているか」、これらは書類のどこにも書かれていないが、購入後の生活を決める情報だ。これは第三稿で展開するコミュニティ章への自然な橋渡しとなる。

物件は読み解いてから買う

土地に住むということは、土地を理解することから始まる。

— ウェンデル・ベリー(Wendell Berry)、農夫・詩人

本稿で提示した三十項目は、すべてを完璧に満たす物件は存在しないという前提で読まれるべきである。完璧な物件など存在しない。あるのは、自分の状況・予算・能力・優先順位に対して相対的に「ましな物件」だけだ。

優先順位の階層を再確認しておく。
第一階層は事前確認必須かつ改善困難な項目で、水・地形・法的状況がここに入る。これらは妥協できない。
第二階層は事前確認推奨だが購入後改善可能な項目で、土壌・建物・微気候への適応がここに入る。完璧でなくても再生計画があれば良い。
第三階層は購入後の継続観察項目で、植生・近隣関係・季節変動がここに入る。これらは入居後に育てていく対象である。

観察と購入は別の技能である。観察は土地と建物を読み解く受動的・分析的な営み、購入は現実の制約のなかで意思決定を下す能動的・選択的な営みだ。両者を混同すると、観察が不十分なまま購入を急ぐか、観察に没頭して購入機会を逃すかのどちらかになる。

観察を蓄積した上で、ある時点で「この物件で行く」と決める。決める時には完璧な情報はないが、決めなければ次に進めない。この緊張関係を引き受ける覚悟が、当事者性の核心である。

イリイチが論じた「素人の本来的能力」の回復は、本稿のような実務記事の地下水脈にある。専門家に丸投げするのでも、自分一人で全部抱えるのでもない。外注すべきものは外注し、自分で観察すべきものは自分で観察する。その境界を当事者の判断で引く力こそ、危機適応視点の核心である。

ところで、ここまで書類で確認できる項目を中心に扱ってきたが、書類で確認できないものをどう確認するか、という問いが残されている。慣習的権利は登記書類に現れない。水利組合の実情、入会権の慣行、神社の氏子範囲、これらを読むには書類ではなく、人と話すしかない。

つまり、登記書類と慣習的権利の二層構造は、物件評価の境界を越えてコミュニティ問題に直結する。慣習的権利は集落自治の証拠であり、それを読むには集落の人々と関係を結ぶしかない。書類確認で完結する物件評価から、関係構築を含む立地選定へと、問いはここで拡張される。

物件は購入の瞬間に手に入る。土地もそうだ。書類上の権利もそうだ。だが、慣習的権利を含む集落の生きた秩序、そのなかで自分が占めうる位置、これらは買えない。第三稿で扱うのは、この「買えないもの」の領域である。家はその第一歩であり、最後の到達点ではない。

参考資料

  • ベン・ファルク『回復力のある農場と暮らし』(原題:The Resilient Farm and Homestead:An Innovative Permaculture and Whole Systems Design Approach、2013年)

  • ビル・モリソン『パーマカルチャー:デザイナーズ・マニュアル』(原題:Permaculture:A Designers' Manual、1988年)

  • セップ・ホルツァー『セップ・ホルツァーのパーマカルチャー』(原題:Sepp Holzer's Permaculture:A Practical Guide to Small-Scale, Integrative Farming and Gardening、2010年)

  • エリオット・コールマン『ニュー・オーガニック・グロウワー』(原題:The New Organic Grower:A Master's Manual of Tools and Techniques for the Home and Market Gardener、最新版2018年)

  • ジョン・シーモア『自給自足の生活とその方法』(原題:The Self-Sufficient Life and How to Live It、最新版2009年、邦訳:『完全版 自給自足の本』スタジオ・タック・クリエイティブ)

  • ブラッド・ランカスター『乾燥地とその先のための雨水収穫』(原題:Rainwater Harvesting for Drylands and Beyond、2013年)

  • ニーゲル・パーマー『有機栽培者の土壌改良剤マニュアル』(原題:The Regenerative Grower's Guide to Garden Amendments、2020年)

  • 四井真治『地球に暮らす、地球と暮らす――パーマカルチャーで自給自足する』(2014年)

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