抗がん剤なのに、不妊治療に使う?〜レトロゾールがPCOS・排卵誘発・生殖補助医療で使われる理由〜
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【目次】
1. レトロゾールは「がんを直接たたく薬」ではない
2. 乳癌での目的は、エストロゲンの燃料を減らすこと
3. PCOS・排卵誘発での目的は、卵胞を育てること
4. 生殖補助医療では、調節卵巣刺激に使う
5. 同じ作用なのに、なぜ使い道が変わるのか
6. 薬局で見るときのポイント
7. まとめ
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1. レトロゾールは「がんを直接たたく薬」ではない
レトロゾールと聞くと、まず思い浮かぶのはフェマーラ錠。
もともとは閉経後乳癌に使われる薬です。
そのため、
「抗がん剤なのに、なぜPCOSや排卵誘発に使うのか」
「なぜ生殖補助医療で使うのか」
と感じるかもしれません。
ただし、レトロゾールはいわゆる細胞障害性抗がん薬ではありません。
正確には、アロマターゼ阻害薬です。
アロマターゼとは、アンドロゲンからエストロゲンを作る酵素です。
レトロゾールはこの酵素を阻害し、エストロゲン産生を低下させます。
つまり、レトロゾールの本質は、
「エストロゲンを下げる薬」
です。
この同じ作用が、乳癌ではがんの増殖刺激を減らす方向に働き、不妊治療では卵胞発育を促す方向に利用されます。
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2. 乳癌での目的は、エストロゲンの燃料を減らすこと
閉経後乳癌の中には、エストロゲンを増殖刺激として利用するタイプがあります。
エストロゲン受容体陽性乳癌では、エストロゲンががん細胞に作用し、増殖のシグナルになります。
閉経後は卵巣からのエストロゲン産生は大きく低下しています。
しかし、脂肪組織などの末梢組織では、アロマターゼによってアンドロゲンからエストロゲンが作られます。
そこでレトロゾールを使います。
レトロゾール
↓
アロマターゼ阻害
↓
エストロゲン産生低下
↓
ホルモン依存性乳癌への刺激が減る
乳癌治療での目的は、がんを直接破壊することではありません。
がんが利用しているエストロゲンという燃料を減らすことです。

レトロゾール → アロマターゼ阻害 → エストロゲン低下 → 乳癌細胞への増殖刺激低下
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3. PCOS・排卵誘発での目的は、卵胞を育てること
一方、PCOSでレトロゾールを使う目的は、排卵誘発です。
PCOSは、多嚢胞性卵巣症候群のことです。
卵巣に小さな卵胞が多く見える一方で、卵胞がうまく成熟せず、排卵まで進みにくいことがあります。
つまり、PCOSで問題になるのは、
卵胞がないことではなく、
卵胞が選ばれて育ち、排卵する流れが乱れることです。
そこで、レトロゾールを月経周期の初期に短期間使います。
レトロゾール
↓
アロマターゼ阻害
↓
エストロゲンが一時的に低下
↓
視床下部・下垂体へのネガティブフィードバックが弱まる
↓
FSHが上がる
↓
卵胞が育つ
↓
排卵へ向かう
PCOSに対するレトロゾールは、PCOSそのものを根本的に治す薬というより、
PCOSによる排卵障害に対して、排卵を起こすための薬
と考えるとわかりやすいです。
承認上の効能も、
「多嚢胞性卵巣症候群における排卵誘発」
です。

レトロゾール → 一時的にエストロゲン低下 → FSH上昇 → 卵胞発育 → 排卵
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4. 生殖補助医療では、調節卵巣刺激に使う
レトロゾールは、PCOSの排卵誘発だけではありません。
生殖補助医療における調節卵巣刺激にも使われます。
生殖補助医療とは、体外受精や顕微授精などを含む治療です。
この領域では、採卵に向けて卵胞を育てる必要があります。
そのために卵巣を刺激し、卵胞発育をコントロールします。
レトロゾールは、エストロゲンを一時的に下げることでFSHの分泌を促し、卵胞発育を助けます。
また、治療設計によっては、過度なエストロゲン上昇を抑えながら卵胞発育を進めたい場面でも使われます。
つまり、生殖補助医療でのレトロゾールは、
排卵させるためだけでなく、
採卵に向けて卵胞を育てるための薬
として使われます。
承認上も、
「生殖補助医療における調節卵巣刺激」
が効能として追加されています。

生殖補助医療 → 採卵に向けて卵胞を育てる → レトロゾールで調節卵巣刺激
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5. 同じ作用なのに、なぜ使い道が変わるのか
乳癌では、エストロゲンを下げ続けることが目的です。
ホルモン依存性乳癌では、エストロゲンが増殖の燃料になるため、その燃料を減らします。
一方、不妊治療では、エストロゲンを一時的に下げることが目的です。
エストロゲンが一時的に下がると、脳は「卵胞刺激が足りない」と判断し、FSH分泌が促されます。
そのFSHによって卵胞発育が進みます。
同じ「エストロゲンを下げる作用」でも、目的が違います。
乳癌では、
エストロゲンを下げて、がんの刺激を減らす。
PCOS・排卵誘発では、
エストロゲンを一時的に下げて、FSHを出させる。
生殖補助医療では、
採卵に向けて卵胞発育を調節する。
ここがレトロゾールの面白いところです。
「抗がん剤なのに不妊治療に使う」
というより、
ホルモンを動かす薬だから、目的に応じて使い道が変わる
と見ると整理しやすくなります。
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6. 薬局で見るときのポイント
薬局でレトロゾールを見るときは、用法を見ると目的がかなり見えます。
閉経後乳癌では、
通常、1日1回2.5mgを継続して服用します。
一方、不妊治療では、
通常、1日1回2.5mgを月経周期3日目から5日間服用します。
十分な効果が得られない場合は、次周期以降に1回5mgへ増量されることがあります。
つまり、
「レトロゾール 5日分」
という処方を見たときに、
乳癌治療ではなく、不妊治療目的の排卵誘発や調節卵巣刺激かもしれないと考える必要があります。
確認したいポイントは以下です。
・月経周期に合わせた服用開始日か
・5日間投与か
・PCOS、原因不明不妊、生殖補助医療の文脈か
・妊娠していないことが確認されているか
・不妊治療に十分な知識と経験のある医師の管理下か
・卵巣過剰刺激症候群、多胎妊娠などの説明がされているか
レトロゾールは「抗がん剤だから不妊治療におかしい」と見る薬ではありません。
エストロゲンを下げる作用を、治療目的に合わせて利用している薬です。
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7. まとめ
レトロゾールは、アロマターゼ阻害薬です。
乳癌では、エストロゲンを下げることで、ホルモン依存性乳癌の増殖刺激を減らします。
PCOSや原因不明不妊の排卵誘発では、エストロゲンを一時的に下げることで、FSH分泌を促し、卵胞発育と排卵を助けます。
生殖補助医療では、採卵に向けた調節卵巣刺激として使われます。
同じ作用でも、使う目的が違います。
閉経後乳癌では、がんの燃料を減らす薬。
PCOS・排卵誘発では、排卵のスイッチを入れる薬。
生殖補助医療では、卵胞発育を調節する薬。
「抗がん剤なのに不妊治療」
ではなく、
「エストロゲンを下げる薬だから、乳癌にも排卵誘発にも生殖補助医療にも応用できる」
これが、レトロゾールの臨床での見方です。
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参考文献
・PMDA フェマーラ錠2.5mg 審査報告書
https://www.pmda.go.jp/drugs/2022/P20220913001/300242000_21800AMY10006_A100_1.pdf
・PMDA 公知申請品目の審査報告書及び事前評価報告書
https://www.pmda.go.jp/review-services/drug-reviews/review-information/p-drugs/0038.html
・厚生労働省 医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議
レトロゾール 多嚢胞性卵巣症候群の排卵誘発 公知申請への該当性に係る報告書
https://www.mhlw.go.jp/content/11120000/000891512.pdf
・レトロゾール錠 添付文書
https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuSearch/
