あいみょんの「裸の心」#026☆③ ライブハウス
好きな曲に合わせてドラムを叩く――
そんなシンプルな楽しみを「叩いてみた」として形にしてみました。
ヤマハのEAD10で録音し、AIで元のドラムを抜いて、自分の演奏と差し替えています。思い出の曲や憧れのアーティストと“疑似セッション”しているような時間です。
もしよければ、こちらのGoogleドライブから聴いてみてください。↓
https://drive.google.com/file/d/10FijwSruxEnhGHm_PFgPNEIyIlCjHBiz/view?usp=sharing

③「ライブハウス」
照明が落ちる、あの一瞬の静けさが好きだ。
鼓動の音が、アンプの奥で鳴っている気がした。
客席は暗くて、顔はよく見えない。でも、
――今日はこの中に、彼女がいる。
ステージ袖でギターのネックを握りながら、何度も指先を確かめる。
冷えて、少し震えている。
音を外すことよりも、彼女の前で歌うことのほうが怖かった。
最初の一曲が終わる。ライトの熱で汗が滲む。
二曲目のイントロを鳴らしながら、目の前の光景がゆっくり滲んでいく。
思い出したのは、あの夜、付箋に書かれた「好き」という文字だった。
――次は、新しい曲です。
マイクに向かってそう言ったとき、客席の奥で彼女の姿が見えた気がした。白いカーディガン。手元で小さく揺れる指。
その瞬間、頭の中のすべてのノイズが消えた。
歌い出す。届かないと思っていた音が、初めて誰かに届く気がした。
最後のフレーズを弾き終えると、会場の明かりが少しずつ戻っていく。
彼女が静かに拍手をしていた。
その表情を見た途端、僕は初めて、“伝わった”と思えた。
外に出ると、夜風がやけに澄んでいた。
街灯の下で、彼女が傘をたたんで待っている。
「よかった」
そう言って笑う顔を見て、僕はやっと息を吐いた。
言葉はいらなかった。
ただ、その笑顔の中で弦の余韻を聴いていた。

ライブハウスの空気は、想像していたよりも熱かった。
湿った音と、人の呼吸と、照明の匂い。
ステージの上に彼を見つけた瞬間、胸の奥がきゅっと鳴った。
いつもと違う彼の顔。
でも、ちゃんと“彼”のままだった。
ギターを抱えて歌う姿を見ながら、ふとあの日のことを思い出す。
「音楽してるときの顔、好きだよ」
あの言葉を言ったときの自分が、今、客席に座っている。
彼は私のことを見ていないようで、たぶん気づいている。
それがわかるだけで、涙が出そうになった。
新しい曲、と彼が言ったとき、指先に力が入った。
静かなイントロが始まり、最初の歌詞が流れ出す。
――誰かを思って、音を鳴らす。
その“誰か”が、私であってほしいと思った。
曲が終わったあとも、なかなか拍手が鳴りやまなかった。
私も手を叩いた。けれど、声は出なかった。
胸の奥がいっぱいで、言葉がどこにも見つからなかった。
外に出ると、空気が冷たかった。
風が髪を揺らし、街灯の光が滲む。
彼が扉を開けて出てくる。
汗を拭いながら、少し照れたように笑う。
「よかった...」
それしか言えなかった。
でも、その一言で、彼の顔がやわらいだ。
ふたりで並んで歩く。
まだ手はつながない。
でも、肩の間に流れる空気が、少しだけ近く感じた。
あの音が、まだ耳の奥で鳴っている。
彼の声が、私の一日を包み込んでいる。
急がなくてもいい。
この距離のままでも、きっと音は届くと思えた。

②はこちら。よかったら…
