“本物”を求め始めた市場クロカンブームと日本メーカーの「日本市場回帰」
近年、日本メーカーが再びクロカン型SUVへと舵を切り始めている。
Suzuki は Suzuki Jimny Nomade を投入し、Toyota は Toyota Land Cruiser FJ の投入が近いと噂されている。さらにモノコック系ランクル開発の話まで浮上している。
Mitsubishi Motors は Mitsubishi Pajero 復活路線が報じられ、Nissan も Nissan Patrol を含めたオフロード回帰色を強めている。
一時期、自動車業界は「都会的クロスオーバーSUV」の時代だった。
燃費重視、街乗り重視、快適性重視。
SUVというより“車高の高い乗用車”が主流になっていった。
しかし、今市場が求め始めているのはそこではない。
求められているのは、“本物感”だ。
ランクルとジムニーが証明してしまったもの
この流れを決定づけたのが、やはり Toyota Land Cruiser と Suzuki Jimny の異常な人気だろう。
ランクルは一時、納期が5年とも言われた。
もはや「注文したことを忘れた頃に来る車」という冗談すら出るレベルだった。
ジムニーもまた長期納車待ちとなり、中古価格が新車価格を超えるという異常事態まで起きた。
ここで重要なのは、“クロカンはニッチ市場”という従来の常識が崩れたことだ。
メーカーから見れば、
「需要がない」
のではなく、
「供給が足りていなかった」
という現実が見えてしまったのである。
しかもランクルもジムニーも、値引きしなくても売れる。
さらにリセールも高い。
つまりメーカーにとって非常に利益率が高い市場だった。
EV投資、ソフトウェア開発、半導体競争などでコストが膨張する今、自動車メーカーは「利益の出る車」を必要としている。
クロカン市場は、そこに綺麗にはまった。
ランクル70が示した「変わらない価値」
特に象徴的なのが Toyota Land Cruiser 70 の存在だ。
普通、自動車業界は「新しいほど優れている」という価値観で動いている。
だがランクル70は違う。
“変わらないこと”そのものが価値になっているのである。
ランクル70は現代基準で見ればかなりクラシックな設計だ。
ラダーフレーム
シンプル構造
修理性重視
過酷環境前提
という、極めて道具的な思想で作られている。
しかし世界には、
「壊れたらディーラーへ持っていく」
という前提が成立しない地域が大量に存在する。
砂漠、山岳地帯、未整備地域、紛争地帯。
そういった環境では最新性よりも、
「現地で直せる」
「雑に扱っても動く」
「長年部品が変わらない」
という信頼性こそが重要になる。
だからランクル70は、単なる古い車ではない。
“完成された工業製品”
として支持されているのである。
そして面白いのは、現代の電子制御化された車社会の中で、このシンプルさが逆に新鮮になっている点だ。
大型ディスプレイ、電子制御、安全支援、自動化。
車がどんどん“家電化”していく中で、70の持つ機械感や道具感が強烈な個性になっている。
今のランクル70人気は、単なる懐古趣味ではない。
“アナログ機械への憧れ”
でもあるのだろう。
なぜ今、“無骨さ”が求められるのか
現代の車は効率を追求した結果、どんどん似てきている。
空力重視の丸いボディ。
大型ディスプレイ。
静粛性重視。
EV化による家電化。
もちろんそれ自体は進化だ。
だが、人は合理性だけでは動かない。
だからこそ今、
四角いボディ
大径タイヤ
高い最低地上高
ラダーフレーム
背面タイヤ
といった“機械感”や“道具感”が逆に新鮮に映り始めている。
クロカン人気は単なる懐古ではない。
効率化されすぎた社会への反動でもある。
日本は「クロカン文化」と相性がいい
さらに日本特有の事情もある。
日本は災害国家だ。
豪雨、積雪、地震、土砂災害。
近年は異常気象も増えている。
その中で、
「いざという時に走れそう」
という安心感の価値が上がっている。
実際、悪路走破性は使わなくても“保険”になる。
クロカンは単なるアウトドア趣味車から、「安心を買う車」にも変わり始めているのだ。
日本メーカーが本来得意だった分野
もう一つ重要なのが、日本メーカーはこの分野に強いということだ。
特に Toyota Land Cruiser は世界中で“生存装備”扱いされている。
中東、アフリカ、オーストラリアでは、
「壊れない」
「どこでも走る」
「修理できる」
という信頼性そのものがブランドになっている。
これは簡単に真似できない。
さらに、
Mitsubishi Pajero
Nissan Patrol
も、かつて世界市場で強い存在感を持っていた。
つまり今のクロカン回帰は、単なるブーム追随ではない。
日本メーカーが「自分たちの強み」に戻り始めている側面も強いのである。
ジープ人気が示す“世界観”の価値
この流れは海外でも同じだ。
Jeep の人気は非常に象徴的である。
特に Jeep Wrangler は、
屋根が外せる
ドアが外せる
風切り音も大きい
快適性最優先ではない
にもかかわらず人気が高い。
これは性能だけで売れているのではない。
“自由”や“冒険”という世界観を売っているのである。
今のクロカン人気は、単なる移動手段としての価値ではない。
「どこへでも行けそう」
という感覚そのものに、人々が魅力を感じ始めている。
そしてクロカンは進化を始めている
興味深いのは、これが昔への単純回帰ではない点だ。
現在のクロカンは、
ハイブリッド
電動4WD
電子制御サスペンション
オフロード支援制御
など、現代技術と融合し始めている。
さらにEVは低速トルク制御に優れ、オフロードとの相性も悪くない。
つまり今後登場するのは、
“昔ながらのクロカン”
ではなく、
“現代技術で再構築されたクロカン”
なのかもしれない。
静かなのに岩場を這い上がる。
そんな新時代のクロカンが、これからのSUV市場を変えていく可能性は十分にある。
