🌬️ あの人がいなくなって、ちょっとだけ息がしやすくなった話 ✨
社会人になって初めての職場。
そこには、どうしても苦手な先輩がいました。
質問すれば鼻で笑われ、仕事は細かく否定されて、毎日が怖くてつらかった。
でも、そんな毎日も「ずっと」は続きませんでした。
あのときの気持ちと、その先に見えた小さな光について、素直に書いてみました。
僕、新卒で会社に入ったとき、ほんとに何もかもが怖かった。
名刺交換のとき手が震えるし、電話に出るのも一苦労だったし、上司と話すときは口が乾いて、うまく声が出ないこともあった。
でも、なにより怖かったのは——
配属先のチームにいた、ひとりの女性の先輩。
名前は佐々木さん。
社歴も長くて、まわりからは“御局”みたいに扱われてた。
誰もそうは言わないけど、全員が、絶妙な距離感で「佐々木さん」って呼んでた。
少し緊張を含んだ、空気の張った呼び方だった。
ある日、お昼休みが終わるちょっと前に呼ばれた。
「ちょっといい?」
その瞬間、ドクンッと心臓が変な音を立てた。
「え、なんかした!? 怒られる!? 」って本気で思った。
でも「大丈夫です」なんて言える人間じゃないから、顔を引きつらせたまま近づいた。
佐々木さんは僕の目を見ずに言った。
「これ、ちょっとイメージ画像にしてくれない? パソコン得意でしょ?」
「えっ、あっ、はい……や、やってみます……」
パソコンはちょっと得意だったけど、そういう画像とか作る仕事じゃないし、
イラレ(Illustrator)なんて、学校でちょっとさわったくらいだった。
それでも「無理です」とか言える空気じゃなくて、震えながら席に戻った。
イラレを立ち上げて、素材を開いて、ひとまず画像をひとつ置いてみた。
「えっと……ここにロゴ……んで文字はあとで……」って、声に出してブツブツ言いながら操作してた。
ほんとうに、まだ始めたばっか。
構成とか色味とか、なにも決まってない。
とりあえず素材を並べてみて、感覚つかもうとしてただけ。
そのときだった。
「……それはないんじゃないの?」
背後から落ちてきた、その声。
ゾワッて背中が寒くなって、心臓がギュッとなった。
「えっ、あ、い、いま、素材を……」って、口が勝手に何か言ってたけど、
自分でもなに言ってるかよくわからなかった。
横目で見た佐々木さんの顔に——
“失望”って、はっきり書いてあった。
眉も動かないし、口もヘの字のまま。
目だけが、僕のモニターをじーっと見て、諦めたみたいにスーッと立ち去っていった。
その背中を見送ったあと、イラレの画面がすごく眩しくて、
僕はちょっと呼吸が浅くなった。
質問したときも、怖かった。
「す、すみません、これって……」って話しかけると、
ほんの少しだけ口元が動いて、鼻で笑う音がした。
「フッ」
それだけ。何も言わない。
それだけで、心臓がキューッと小さくなる。
「え、なに? 今、変なこと言った?」「また怒られる?」
って、自分を責め始めるスイッチが入ってしまう。
怒られる方がまだましだった。
説明される方がずっとよかった。
でも、あの失笑は……存在そのものがいらないって言われた気がして、
声を出すのがほんとうに怖くなった。
帰り道、コンビニの蛍光灯がまぶしくて、
何でもない夕焼けが、泣きそうな空に見えた日もある。
「たぶん、社会ってこういうものなんだ……」って、
勝手にあきらめてた。
ある日、上司がふと僕に言った。
「佐々木さん、今月いっぱいで退職されるって」
ぽかーんとした。
びっくりしたけど、胸のどこかがふわっと軽くなった。
「……助かった……」って思ってしまった自分に、少し罪悪感もあった。
そして退職日。フロアがなんとなくソワソワしてて、でも、佐々木さんは静かに挨拶して、静かに帰っていった。
僕は、モニターの光をただ見つめてた。
数日が過ぎて、ある朝ふとこう思った。
「……なんであんなに怖かったんだっけ?」
たしかに怖かった。つらかった。
でも、なぜか“懐かしい”みたいな感情がちょっとだけあって、
それに自分でも驚いた。
もしかしたら、ちょっとだけ、さみしかったのかもしれない。
今ならはっきり言える。
あのときの毎日は、“ずーーーっと”じゃなかった。
あのときは「これ、もう一生続くんじゃないか」って本気で思ってた。
毎朝、胃がキリキリして、玄関でため息ついて、電車のドアが閉まるたびに「このままどっか遠く行きたい……」って思ってたけど。
ちゃんと、終わった。
時間が、ゆっくりゆっくり流れて、
その人はいなくなって、空気がやわらかくなって、
僕はまた、ふつうにごはんを食べて、笑えるようになった。
もし今、職場でつらい人がいるなら、
僕は伝えたいです。
「それ、ずーーーっとは続かないから、大丈夫だよ」って。
こわい日々、苦手な人、つらい空気。
それって、ずっとじゃない。
人が去るかもしれない。自分が離れるかもしれない。
時間が、ぜんぶを流してくれるかもしれない。
いつか、あのときのことを、
「うわぁ〜〜こわかったなぁ!!」って、笑える日が来るから。
ほんとに、大丈夫。
最後まで読んでくださって、ありがとうございます。
感想や、あなたの似たような思い出があれば、気軽にコメントしてもらえたらうれしいです☺️
