【信州暮らし15 /飛べ!梅ヶ枝餅】 2026.6.20 梅子黄
梅の実が青色から黄色くなる季節である。梅が青色の時期には、スーパーツルヤにも梅酒を作るための材料や容器が置かれているコーナーができていた。見ていると、結構買う人がいた。お酒の売り場では梅酒メーカーの作った梅酒が売られているものの、やはり家族好みの梅酒作りをする人がいるのである。青い梅で作るか黄色い梅で作るかによって味が変わるらしいが、女性にも飲みやすいフルーティーな風味は黄色い梅だという。我が家では作っていないけれど、ずいぶん昔、子供の頃に母が作っていた記憶が微かにある。子供が抱えるには大きな瓶に梅酒が保存されていたのを覚えている。押入れの奥にあって何か秘密の飲み物のように見えたものである。1962年(昭和37年)の酒税法改正までは、一般家庭で梅酒を作ることは禁じられていたというから、母が押入れに隠すように梅酒の瓶を置いていたのは密造酒だということを知っていたからなのだろうか。母のために弁明しておくと、多くの家庭で自分たちが飲む梅酒を作るのは当たり前の時代だったのである。一定の条件下で梅酒づくりが認められたのは、法律が現実を理解し追認したということだったのだろう。
法律の話はさておき、福岡太宰府天満宮には空を飛んだ珍しい梅の木がある。太宰府に左遷された菅原道真を慕って、京都の屋敷から太宰府に飛んできたという梅である。飛梅という。道真と梅を強く結び付ける飛梅伝説は道真の有名な和歌「東風吹かば 匂いおこせよ 梅の花 主なしとて 春な忘れそ」と共によく知られている。この飛梅にも実がなる。これをお守りにしたのが飛梅御守で初穂料は10万円だそうである。京都から太宰府へ一夜で飛んできた梅の木に成った実なのでそれなりの値段になるのはやむを得ない。もちろんご利益をもたらす御守には気を引かれるが、この辺りで売っている梅ヶ枝餅にはもっと気を引かれる。平らになった饅頭で表面に梅鉢の模様が付いている。昔、仕事で福岡へ行くことがあったが、その度に太宰府に行くわけにはいかないので、福岡空港の某航空会社のラウンジで口にしたことを思い出す。ラウンジには、ソフトドリンクだけでなくビール、ウィスキー、簡単なおつまみも置いてあって、飛行機に乗る前の時間をゆっくりと過ごせるのだが、温かいプレートの上には梅ヶ枝餅も置いてあったのである。航空会社の人が「飛梅が太宰府に飛んできた時に、当社をご利用いただいたご縁があって置かせていただいております。」と話してくれたら面白いなと馬鹿なことを思いつつ、ハイボールを2杯ほど飲んだあとふわりと温かい梅ヶ枝餅を2個食べるのが楽しみだった。遅い時間に行くと無くなっている日もあったので人気があったのではないだろうか。饅頭の中には粒餡が入っているのだが、疲れた体に優しい甘さがなんとも言えずに美味しかった。「ラウンジ内でお召し上がりください。」の注意書きを見ながら、もう2個ほどバッグに忍ばせたことをこの場を借りてお詫びをしなければならない。誠に申し訳ありませんでした。
天満宮は全国におよそ12,000社あって、各地で天神様のご利益をいただくことができる。もちろん信州にもある。有名どころでいえば松本にある深志神社である。やはり境内には梅の木がある。その梅の実を使って梅酒を作り7月25日の天神祭にお供えをしているそうだが、残念ながら梅ヶ枝餅は売っていないという。甘さ控えめの餡が入った太宰府の梅ヶ枝餅をまた食べたくなってきたので、道真になったつもりで「西風吹かば 思いおこせよ 梅の枝 餡の入りし 餅な忘れそ」と詠んでみた。太宰府から吹く西風に乗って梅ヶ枝餅が信州へ飛んできてくれるとありがたい。
